表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/420

第88話 エウレカでの日常


 その後の和成の修行は、ルーティーンが大方決まってきていた。

 まずは2pしかない内在魔力量を増やさなければならないため、早朝に瞑想を繰り返し少しずつ体外のマナを体内の魔力へ吸収していく。ただしこれは一歩間違えれば死に直結する方法であるため専門家ナインの監視の下でしか行えない。

 体外のマナを許容量以上に過剰に取り込めば精神や肉体に障害が残る。逆に体内の魔力を全て外に持っていかれてしまえば、エネルギーの枯渇で死に至る。どちらも即死はしないため、事故後に専門家の適切な処置があれば何とかなるが。

 

「今のところは問題ないけどね。一度も危うい状態になったことはない」


 そうナインは褒めてくれるが、しかし和成には専門家がいない状態で修行を行える気はない。そのつもりもない。生兵法は大怪我の基。深い瞑想とは本来危険なもので、気楽にやるようなものではない。


 そして和成が瞑想を行っている間、その全身には様々な魔導器具が取り付けられている。

 人体の構造と機能に関する研究を行う『賢者』が生み出した、魔法によって肉体の情報を記録する装置だ。回数を重ねれば筋肉の状態から生成される物質に至るまで読み取ることの出来る、魔法テクノロジーの産物である。

 また、サファイアの研究の一端に置いても重要な位置を占める道具だ。

 これがなければ和成がエウレカへ重要な研究対象として招かれることもなかったかもしれない。それほどまでの一級品だ。既に和成の身体情報は筋肉量から体重、骨格まで記録されている。

 また和成から研究者へ遺伝子などの知識を伝えた際には、これで持論をより強固に出来るかもしれないと喜ばれた。


「―――ふぅ」

「お疲れ様です。平賀屋様」

 修行終わりにはメルが乾燥したタオルを渡してくれる。滝の冷水を浴びた後では、そのぬくもりがありがたかった。その後は瞑想のせいで固まった関節をぐきぐきとほぐし、朝食のため食堂へ向かう。


 瞑想の時間が短くなり、また体も慣れたのだろう。裸に剥かれ浴場でシャワーをかけてもらうのも、回数を重ねることで必要なくなった。

  

 それがこの一週間で確立された和成の朝の日課である。

 内在魔力を拡張するには、まず器の方を少しづつ大きくしてから体外のマナを取り込み、その上で定着させなければならない。

 かなり時間がかかるが、まずはその段階をクリアしなければ次へ進めない。

 和成の自力で好きに使える魔力は、まだ10pを超えていないのだから。


☆☆☆☆☆


「もっと効率のいい方法はないものか」

「……まだ君がエウレカに来て一カ月も経っていないのに既に魔力拡張の段階へ進めてる時点で、相当早いと思うのだがね」

 ずるずると魔力培養食品の麺料理を啜る和成のボヤキに、研究者サファイアは素っ気なく答える。

 彼女は放っておくと栄養剤で食事を済ませようとするズボラ女なので、度々和成が引きずり出して一緒に食事をとっていた。

 受けている厚遇に報いようとすれば、和成にとって共同研究者である彼女を気遣うことなど大した苦痛ではない。何せエウレカの『賢者』から直接魔法を教えてもらえるという、本来なら和成が大金を払わなければならない状況であるにもかかわらず、師と尊敬するスペルの好意により、研究への協力という名目で衣食住の保証と毎日のお給金がついているのだから。


「しかし、例えば最大内在魔力量を上げるタイプの『装備品』はある訳じゃないですか。それを使うわけにはいかないのかなーと思いまして」

 確かに順調であることは間違いない。

 しかし同時に、スタートライン手前で足踏みしている状態でもあるのだ。

 早く次の段階へ――と和成が思うのも無理はないだろう。


「できなくはない。マナが詰まった鉱石を使用した指輪とかのアクセサリーには、最大魔力値が+10とかされるものは確かに存在する。ものによっては+1000へ届くような高級品もある。人の手では作れない物も含めれば、内在魔力量を二倍三倍とする凄まじいアイテムもあるだろう。

 ただ和成氏の魔力不足を解決するレベルの『装備品』となると……それを所有することで、戦争に参加する義務が生じることは避けられないのである」

「ううん……」


「しかも、君に強力な装備品を持たせるのは全くもって宝の持ち腐れである。もっとふさわしい持ち主が必ず他にいる」

「確かに、俺みたいなザコステータスがどんな武器を装備したところで、大したことにはならんでしょうね」

SSSトリプルエスランクやSSダブルエスランクの武器が手に入れば希望はあるかもしれないがね」

「それって神器級の武器か国宝級の武器でしょ。どちらにせよ値段がつけられない程に貴重なやつじゃないですか」


「うむ。だから諦めろ。というか君の場合に問題なのは、すぐ魔力がゼロになることそのものより、―いやそれも問題だが―エネルギーの枯渇による飢餓状態の方なのだからね。そういった外部装置で最大魔力量を増やすアイテムは、基本的には単に減ったエネルギーを外から補給させるだけでしかない」

「いわばコップの水が半分に消費された際に、速やかにつぎ足すことで魔力量を増やしているのがアクセサリーの効果だ、と確かに説明されましたよ。ナインセンセイに。だから2pしかない俺ではつぎ足す速度が魔力枯渇の速度に追いつかない。そう言われましたよ。今はまだ無駄だ、と」


「そうであろうな。兄者はそのあたりちゃんとしている。本来なら半分だか4分の3だか減ったところで、アクセサリーの魔力をつぎ足せば問題ない。一般的な魔力総量があれば、その程度でエネルギーの枯渇による飢餓状態にはならない。魔力は5pも残っていれば無理をしなければ普通に動ける。ただ君はそれがそもそも少ない。2pしかないから、1p消費するだけで動けない。動き回る戦闘は無理だ」

 そこが和成が魔法習得する上での壁だった。


 そして食堂には、サファイアがサラダの葉野菜を嫌そうに咀嚼する音が響く。

 早朝なため人はまばらで静かだ。その中でその音はよく聞こえた。


「――レベルを上げることが出来れば、話は早いんですけどね」

 この世界では筋トレよりも瞑想よりも、経験値を稼ぎレベルを上げることこそが最も手っ取り早く強くなれる手段である。筋力ならレベルアップに伴う攻撃力の上昇で勝手に上がる。内在魔力量もレベルアップさえすれば普通に上がる。

 言ってしまえば和成の朝の日課は、その手段がとれないがための苦肉の策だ。


「それはそうである。だが君の場合『百万倍の努力(ミリオン)』のバッドステータスがある以上、現実的ではない。LvUPに必要な経験値が100万倍になる上に、一定量のダメージを与えてトドメを刺した場合のみ経験値を得られるから、パーティで経験値を稼ぐことも出来ない」

「戦闘以外で経験値を稼ぐ手段はないんですかね」

「あることにはある。ドラゴンがその代表だが、その身からとれる肉に経験値をため込むモンスターがいる。その肉を食べればいい。経験値とは魂の欠片。世界に満ちるマナとは異なる、世界を巡りゆくエネルギーだ。それを取り込むことであらゆる生物は――いや、それが物質であっても強くなる。内包するエネルギーが増えるのだから当然である。そのエネルギーが死後も残りやすいのがドラゴン類なのだよ。だいたい一食で100から10程度、経験値が上がるはずである」

「俺がLv2になるのに必要な経験値は、あと799万p以上もありますけどね」

 和成がレベルを一つ上げるには、少なくとも大体8万食が必要になる計算だ。


「無理ですね」

「無理であるな。それに最近は戦争が近いということでそういった肉は高騰しているのである。イイトコの子息たちに食わせて、少しでも戦争で生き残らせようとしているのだろうよ。そして元々ドラゴンの肉は高級品だ。単純に美味い」

「美味いんですか。何となくなくそんな気はしてましたが、同時にドラゴンの肉はかなり硬そうなイメージもあるんですよね。あの巨体を支えるには相当筋肉がガッチガチでないと無理でしょ。それにドラゴンと言えば怪力と相場が決まってます」


「レベルが低いドラゴンはそうだな。生まれたばかりの幼体のでもないかぎり肉は硬い。しかし、レベルが高いドラゴンの肉は美味いぞ。この世のものとは思えないほどだ。吾輩も一度しか食べたことはないが、あの味は生涯忘れることはないだろう。一定レベル以上のドラゴン肉は、国によっては法で国内に持ち込むことすら禁止されている。美味すぎてそれしか食べられなくなるのだよ」

「怖っ!半分麻薬と同じじゃないですか」

「麻薬ほど簡単に手に入るものではないがね。それに食物連鎖の頂点たるドラゴンは簡単に乱獲できるものでない。だからこそ大型のドラゴンを討伐すれば一財産を築き一生遊んで暮らせるのだよ」

「成る程。――しかし、何故レベルが高くなるとドラゴンの味が良くなるのか」

 魔力培養食品の麺料理に少しだけ入っていた、うどんの蒲鉾ほどの肉片を食しながら和成は呟く。


「別にドラゴンだけではない。よりレベルの高い強力なモンスターから得た素材で作る方が、性能のいい武器が作れるのと同じことである。レベルが高いほどモンスターの肉は美味くなる。当たり前のことである。そしてそれは、理論上は人族でも同じである。おそらく吾輩と和成氏とでは吾輩の方がたぶん美味い」

「危ない冗句を言いますね。相当にブラックですよ、それ」

 何故よりにもよって1つしかない肉を口にしている時にそれを言うのか。

 その気まずさを誤魔化すために、和成は麺を全て一気にすすり、スープまで全て飲み干した。

 時を同じくして、サファイアの食事が終了する。


「では、今日もまた吾輩の研究に協力してもらおうか」


☆☆☆☆☆


 その後、一日サファイアの研究に協力し、和成の一日は終わる。

 ジェニーと待ち合わせがある日は昼に仮眠を取っておいてから夜に民間街の酒場へ向かい、深夜か明け方に帰る。

 そして朝には再び朝の瞑想を行うのが和成の日常である。

 その後、和成が次の段階へ進み結果そのルーティーンが崩れるには、魔力が拡張されるまでの一カ月を待たなければならなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ