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第81話 魔術特訓初日

 本日は説明回になります。


 ここで一度、和成が学術都市エウレカへ移住した理由をまとめよう。

 そのためにはまずこの世界の魔法について知る必要がある。


 なので先に魔法についておさらいしよう。


 魔法の発動に必要なものは、初めに魔力。魔法を発動するためのエネルギーであり、魔法を構成するエネルギーでもある。地球に於いて赤い炎と白い炎では通常後者の方が高温であるが、魔法で生み出された場合は前者が高温であることが多い。

 それは魔法で生み出された炎が、魔力によって構成されているためである。


 次に媒体。魔法陣・詠唱・踊りといった、自分の意思を伝えるための媒体が必要となる。組み合わせによって省略することは出来ても、魔法陣(文字)・詠唱(言葉)・踊り(ボディランゲージ)の全てを一切使わずに魔法を発動することは出来ない。何かしらは必要となる。


 最後に意思。“この魔法を発動するのだ”という意思が大前提として必要となる。発動したい魔法と媒体――魔法陣・詠唱・舞――にバラバラがあった場合、魔法は正しく発動しない。炎の魔法を発動しようという意思の下、吹雪の魔法の詠唱を行っても発動するはずがない。


 これが魔法発動に必要な三大要素であり、魔法言語マジカルコミュニケーション説の根幹となる根拠である。この世には魔法の発動を判定する存在Xが存在するという仮説だ。

 魔法が発動する条件に魔力・発動媒体・意思の三つが必要であることから着想を得られ、それがまるで言葉によって意思を伝達する言語コミュニケーションの様であることからその名がつけられた。以降、語感が良いためそのままその名称が使われている。


 つまり、魔法が人の意思によって発動する現象である理由は、その意思を読み取る何者かがいるからではないのか――という考え方である。

 そして魔法言語説を唱える第一人者、超賢者スペルは考えた。

 “その意思を読み取る何者かへ意思を伝えることさえ出来れば、魔法発動媒体は必要ないのではないか?”

 それを可能とする可能性があるスキルがひとつ存在した。

 そして最近になって二つに増えた。

 言葉に情報を込めて伝達する『哲学者』の固有能力、『ミームワード』。

 そして異界より召喚されし者たちのみが持つ、意思を伝える翻訳のスキル『意思疎通』。


 そこで超賢者スペルは、スキルの効果は重複するという特性から、その二つをもつ和成なら存在Xへ自らの意思を伝え現象として発現できるのではないか、と考えた。例えば魔法の威力を上げるスキルと炎の魔法の威力を上げるスキルがあれば、その二つ分、炎の魔法の威力は増大する。


 つまり、その2つのスキルを持つ和成が描いた魔法陣なら、和成が唱えた詠唱なら、それがどんなものであれ世界の方(ステータス画面)が和成の意思を読み取り、勝手に翻訳し、魔法として現象を伴うのではないか――ということ。


 それは和成には自分の思うがままに魔法を使用できるかもしれない可能性を示唆していた。


 しかし和成の保有魔力は2pしかない。

 また『魔法使い』ではないので、魔力を操作して魔法陣を作ることも、魔法陣に魔力を込めることもできない。



 それらを攻略する修行のため、和成はエウレカへ移住した。



☆☆☆☆☆


「さて、和成クン。それでは早速、魔法習得の特訓を開始しようか」

「よろしくお願いします、ナイン先生」

「先生はよしてくれ。ワタシのような若輩者がスペルお祖父じい様と同じ呼ばれ方をされるのは、ちょっと問題なんでね」

「じゃあナインセンセイ」

「まぁそれならいいか。イントネーション違うし」


 時刻は昼。場所はエウレカの研究機関各所に設けられた、実験用の広場のひとつにて。和成は動きやすい服装へ着替え、その一画で指南役のナインと向かい合っていた。その側ではメルが見守っている。


「魔法とは世界へ意思を伝達する言語の一種である、とお祖父様は主張している。魔法陣を魔力によって描き、そこに魔力を通すことで魔法陣に対応した魔法が発動する。そして言語と呼ばれている以上、そこには文法や単語と言えるものが存在している」

 そう言ってナインは魔法使いの杖を振り、空中にさっと魔法陣を作り出した。

「ひとつの魔法陣の中には、実は複数の魔法陣が組み込まれているわけ。大きな全体の魔法陣が文で、小さな細かい魔法陣が単語と言ってもいい。そしてどの位置に魔法陣を置くのかによっても、発動される魔法は変化する。まぁ言語だから、変化しないこともあるんだけどね」


 ここで、はきものを脱ぎなさい。ここでは、きものを脱ぎなさい。

 この二つの文の意味は異なる。

 しかし、

 はきものをここで脱ぎなさい。

 脱ぎなさい。ここで、はきものを。

 これなら意味は変わらない。

 この世界における魔法もそうだ。魔法陣の細かい位置は、重要であったりなかったりする。


「また、込める魔力によって発動する魔法が変わる場合がある。今ワタシが作った魔法陣の場合―――」

 更にナインはもう一つ、先に出していたものの横に並べる形で魔法陣を生み出した。

 全く同じ図形である。判で押したように同じだ。

「右に『炎』属性の、左に『凍』属性の魔力を流す」

 右の魔方陣が赤い炎色に染まり、中央から炎の矢が噴き出した。

 そのまま木に命中し、燃やし始める。

 左の魔方陣は青白い雪色に染まり、中央から揺らめく青い矢が噴き出した。

 そのまま燃える木に命中し、炎を消してしまう。


「今のは流した魔力に対応するエレメントを矢状にして発射する魔法陣だ。このように、流す魔力によって同じ魔法陣でも効果が異なる場合がある。尤もその時も、意志や意図が伴っていないと魔法は発動しない。そしてどの属性の魔力を使いこなせるかは個人の適性によって変わる。自分はどの属性の魔法を使えるのか――というのは重要だよね。なのでまずは、君の体内にどの属性のエネルギーが流れているかを確かめることにします。属性の種類と性質については理解しているかい?」


「固体・液体・気体を司る『土』『水』『風』の魔力。それらに変化をもたらすエネルギーである『炎』『雷』『凍』の魔力。

 物質の創造を司る『鉱物』『毒物』『金属』『植物』。

 非物質の力である『光』と『闇』。空間や時間に作用する『不思議』。

 龍脈を流れる『竜』(ドラゴン)のエネルギー。妖精族が司る『自然ナチュラル』パワー。

 そして、アンデッドが持つ魂の灰、『死霊』の力。

 最後に女神様の力である『神聖』属性。

 おまけで、邪神の力である『邪悪』属性」


「はい正解。取り敢えずそれが、今のところ確認されている全ての属性だね」

 何度思い返してもややこしいと和成は思う。


「そして君の『属性適性』を判別する道具がこれだ」

 そう言ってナインは懐から一枚の紙を取り出した。飴色になめされた革に、18角形の魔法陣が刻まれている。

 その革をナインは和成の右腕に巻きつけた。


「はーい、ちょっとだけチクっとするよー」

「あばばばば」

 そして和成は、腕に刺された針から体のエネルギーを根こそぎ持っていかれるような感覚を味わう羽目になる。しかしメルが動かないということはこれが予定調和であるということ。おそらく、自分の『属性適性』を知る者はみなこれを行なったのだろうと、足腰から力が抜けるを感じながら和成は思考する。


 ひゅるるるるる・・・・

 グウぅぅぅぅう・・・・


 そして直後に、腹の底に穴でも空いたのかと思うような、猛烈な虚脱感と空腹に襲われる。

 下半身が透けて、胃の中身が内臓ごと地面に落ちていったのかと思った。

 そこまで腹が減ったのは生まれて初めてだった。


「は、腹が・・・・」

 立っていられなくなった和成を、音も立てずに背後へ移動していたメルが支え受け止める。そんな和成に、魔法陣が刻まれた革の紙を巻きながら収納するナインが解説を行った。

「魔力の消費に伴うエネルギーの枯渇状態だ。気にすることはない。魔法使いなら誰しもが必ず通る道だからね」

「・・・・なんとなく、魔法使いらしき人たちがみんなスタイルがいい理由が分かりました」

「魔法の使用はカロリーを消耗するからね。使えば使うほどごりごり痩せていく」

 この世界においては、ダイエットは魔法が使えればある意味簡単である。ただ魔法を限界まで打ち続ければいい。一週間毎日行えば勝手に痩せている。


「特にMPがゼロになるまで使用した状態は、全身がエネルギー補給のため食事を欲する。だから昼前に修行を開始した訳だ」

「みんな属性適性を調べると、こうなるんですか・・・・?」

 グウぅぅぅぅう。

 息をする度に腹が鳴る気がした。

 もはや、食べ物の咀嚼以外で口を動かしたくない気分である。喋るのも嫌だ。


「いや、この検査は魔力を数p(ポイント)しか必要としないんだけど・・・・君の場合は2pしか内在魔力がないからね。このままだと使用者の魔力を消費するタイプの魔道具は、和成クンには使えないだろうね。ちなみにこの属性適性検査、結果が出るのは一週間後になる」

「・・・・了解です」

 グウぅぅぅぅう。


「そして今日の授業はこれでお終い。魔力が空だと操るも何もないから、回復するまで修行はお預け。昼と夜にちゃんと食べて早めに寝れば2pぐらいすぐ回復するから。食堂のおばちゃんには特別メニューを出すように頼んであるので、残さず全部食べるように。じゃあもう行っていいよ。ワタシは自分の研究をしてくるから」


 こうして、和成の初日の授業は10分で終わった。

 そしてこの瞬間に和成は、まずは魔力が無ければどうにもならないということを嫌というほど味わったということだ。魔力の完全消耗によるエネルギーの枯渇は、まるで飢餓地獄の中にいるかのような感覚である。


「一週間後にまた会おう」

 しれっと立ち去るナインのすまし顔が、無性に腹立たしかった。

 空腹時、和成は少し短気になる。


 ☆☆☆☆☆


 そして、メルに運ばれて食堂。本日のメニューは、昨夜と同じく魔力培養によって生み出された食品の数々だ。


 まずは主食。弱冠黄色みがかかった有機的な白色の穀物団子である。食感は粒のないモチモチのお握りで、味は味付けのなされていないポップコーンだ。故に何かオカズと共に食す。

 そのオカズ、つまり主菜は、山と盛られた焼肉である。脂が多めで濃い味付けがなされたそれで、弾力のある穀物団子をくるんで食べると美味い。

 副菜はバランスの良い香の物である。カリポリ音を立ててさっぱりといただける。これを焼肉でくるんで食べても美味い。

 最後に汁物も美味い。穀物団子を浸して食べると、まるでお雑煮のようになる。気分だけだが、久しぶりに餅を食べた気分になれた。和成が召喚されたのが10月上旬で、それから2ヶ月と数週間が過ぎている。季節の感覚としてはこの世界がまだ春なため誤魔化されているが、日本にいればそろそろクリスマスや正月が近づいている頃だ。

 しかしこの世界にクリスマスケーキやおせちは存在しない。もち米は今探し回っている最中だ。


 啜るお雑煮もどきは、塩気が強めの米の飯が進みそうな味だ。

 こういったしみじみとした懐かしさは重要である。

 こういったメンタルの自己ケアは重要である。

 例えそれが自己暗示に近くとも。


 そしてたっぷり1時間弱かけて、和成は食べ続けた。

 焼肉の穀物団子巻き。焼肉の香の物巻き。穀物団子の香の物くるみ。穀物団子のなんちゃってお雑煮。

 全てにそれぞれ良さがあり、差別化された味があった。

 つまりは、また調子に乗って食べ過ぎたということである。


「腹が苦しい・・・・」

「あればあるだけ食べてしまうのは、平賀屋様の悪い癖であると考えます」

 呆れて苦言を呈するメルからしてみれば、それは世界会議のパーティー期間中に親の顔より見た光景である。つまりほぼ毎日見た。

「残すのはもったいないでふからうぇっぷ」

「培養食品は時間経過で魔力に還るだけだと説明されたでしょうに」

 器用にもメルは、無表情のまま呆れた表情を見せる。彼女は無表情というだけで無感情ではない。その様子を見る和成にはむしろ、メルは分かりやすい分類の人間であるように思えた。

 それはそれとして腹が苦しかったが。


 魔力さえあれば無限に生み出せるこの食品が、世界に普及していない理由のひとつがそれである。アシが早い上に、食べて消化して吸収するなりしない限り、時間経過で自然消滅してしまうのだ。

 おまけに作り出す機械を動かすのに膨大な魔力を必要とする。動かせさえすれば大量の食品を作り出せるのだが、一般的な個人ではそれだけの魔力を用意出来ない。そしてその結果生み出せる大量の食品を消費しきれない。

 また機械自体も巨大で持ち運びはできず、瞬間移動の魔法でも壊れてしまうほどに繊細だ。おまけに維持にも製作にも特別な知識と技術が必要となる。

 この都市でしか使えない食べられない。それが魔力培養食品だった。


 分かる人には分かるかもしれませんが、私が本作のゲームシステム(もどき)を考える際に参考にしているのはポケモンです。嫌いな人はゴメンナサイ。

 ただ、ポケモン要素がこれから先に出ることはあまりありませんので、裏話として読み流す程度で大丈夫です。

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