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第69話 「ゲームの世界」を楽しんでいる連中の話・急

 

「―――ここでいいのかな?」

 後衛兼地図係を任された『吟遊詩人』音羽が、ランプの灯りを頼りに地図と状況を照らし合わせる。

 その地図には扉や周囲の地形などの細かい特徴がメモとして書き込まれてれており、特別絵が上手いわけではないがとても丁寧で見やすく出来ていた。

「確かそのはずです」

 その地図を書いた当の本人である少年もまた、念のために覗き込んで確認する。

「かわいいねーかわいいねー。君かわいいねー」

 そして小柄で声変わりもしていない少年のその行動に、自由人の法華院魔美華が目尻を下げる。

 それどころか中ボス戦を直前に控えて、少年を愛で始める。

 具体的にはかいぐりかいぐりした後で、頭を撫で匂いを嗅ぎ始めた。

 完全に幼児扱いしている。


「あの・・・・・・」

 ここで無理に反発するのは無礼に当たるのではと悩んでいそうな少年と、お前は一体何やってんだという感じの法華院に、少女の方が戸惑いながらパーティリーダー矢田の方へ目配せした。

 目が合えば彼女が言いたいことは大体伝わる。

 主力があんな感じで大丈夫なんですか?


「いいの。スキルの関係で魔美華あれ雄山それは、多少のびのびさせといた方がいいの。やり過ぎたら止めるけど」

 そう返答しながらも、手際よく装備の確認をしていく。中ボスの間に――それも救助のために――入るのだから、回復薬ポーション類で万全の状態を整えなければ。

「取り敢えず問題はなし、ね」

 全員のステータス画面を確認しあい、不備がないことを確認する。


「『スペシャル技』を使ったのが魔美華、音羽、永井の3人もいるのが、少し不安ではあるけどね」

 矢田が言う『スペシャル技』とは、その名の通りスペシャルで強力な技である。

 1日1回限定で、習得している『技』を強化して放つ――強化の内容はそれぞれ異なる――ことができる切り札。『職業』が戦闘職でありそれが『天職』である場合にしか使えない、一度使えばステータス画面の時計で24時間のカウントダウンが終わらないと使えない、といった制約があるが、その分強力な手札の一つ。

 効果も威力もそれ相応。

 だから時間節約のため、難所を強引に突破する際に何度か使ってしまった。


「しょうがないよ、時間との勝負だった訳だし」

「ぼくたちからしてみると、全員が『天職』持ちで『スペシャル技』を使えるパーティなんて早々いないんですけど・・・・」

 音羽のフォローに、少年が年不相応な乾いた笑みで呟いた。彼らのパーティで『スペシャル技』を使えるのはリーダーの少女だけだ。

 なお、『吟遊詩人』は戦闘職である。そうステータス画面に設定されているのだからそうなのだ。


「――――――よし、問題はなし。2人とも!気を引き締めなさい!」

「「合点!」」

 返答の選択チョイスが独特ではあるが、法華院は少年を愛でるのをやめ、雄山は両拳を体の正面で打ち合わせた。

 表情は引き締まり、真剣なものに変わる。

 自由過ぎるぐらいに自由人なこの2人だが、何だかんだ言いながらも矢田は2人を信用している。

 良くも悪くも、考える前に体が動く。

 しかし考えなしでも、中々な結果をもたらすことが多い。

 2人とも普段の態度からはそうは見えないが、意外とハイスペックなのだ。


「中ボスモンスターは俺たちに任せろ。2人は仲間を助けたらすぐに逃げればいい」

「華麗にぶっ飛ばして終わらせちゃう!」


 そうして6人と2人は隊列を整え、中ボスが待ち構える部屋の扉を開けた。


 ☆☆☆☆☆


 広大な砂のフィールド。天井には外の景色と変わらない青空が広がっている。

 その光景に矢田が反応した。

「何ここ?まるで浜辺というか、ビーチみたいな・・・・・」

 見回してみるが、しかし目に見える範囲に海はなくモンスターはいない。

「あ、あれ・・・・?」

「なんで!?」

 戸惑う少年少女の反応は、今の状況が前回とは異なることを示していた。


「永井、モンスターは!?」

「今探している!」

 警戒にあたる永井が『狩人』のスキルで耳をすますが、地上からは何の音も聞こえない。ただ、ステータスに記されたスキルによって強化された感覚が、足の裏から微弱な振動を感じ取っていた。

「―――下だ!」


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・

 広大に広がる砂の下。

 深い地下より這い出るような鈍い振動音が響き、一行の足元が陥没する。

 地下に潜んでいたモンスターが動いたことが原因か、砂の内部の隙間に出来た空間に大量の砂が流れこんでいるようだ。つまりは流砂である。川のようになだれ込み音と共に、全員の膝下が砂のフィールドへ沈んでいく。

「ちょっとこれ、このままいったらヤバくない!?」

「ヤバいぞ!この下にモンスターの音が聞こえてくる!落ちた所を狙われたら大ピンチだ!!」

 その時その判断を矢田が下したのは、咄嗟の決断であった。


「『ヒーロー』!『スペシャル技』を打ち込め!!」


了解ラジャー!」

 雄山の手がベルトの宝石に重ねられ、変身の掛け声と共に彼の全身が光の中に包まれた。

 同時に指示を受ける前に法華院も右手のブレスレットに重ね、変身の掛け声と共に彼女の全身もまた光の中に包まれる。

 戦闘が終わる度に変身が強制解除され、再び戦う度に変身しなければならないのが『ヒーロー』と『魔法少女』の弱点である。当然、変身した状態でなければ全力を出すことはできない。一応変身にかかる時間は一瞬ではあるが。


「あの、ヒーローさんが落ちていってるんですけど、大丈夫でしょうかっ!?」

「―――多分大丈夫。アイツ、あれで意外と根性あるし」

 『スペシャル技』は発動に数秒の「溜め」が必要な場合が多く、必ず前口上の詠唱が入るために文言によっては十秒弱の時間がかかる。強力であることは間違いないが、いつでも、どのタイミングでも使えるというわけではない。

 それを知る少女が心配するが、矢田は雄山のことを知っているため心配はしなかった。


()()()()()()()()()()()宿()()!『アグレッシブ、ザ・ヒート・ビート』!!」

 赤い全身から噴き出した炎により矢田たちが吹き飛ばされ、流砂の穴から強制的に押し出される。味方を傷つけない性質を持つ『ヒーロー』の情熱の炎だ。ステータスの解説文にそう書いてある。


「アイツは強い。フィジカルもメンタルも」

 爆炎が凝縮された右拳が、砂の向こうから迫り上がるモンスターの体の一部とぶつかり合う。


「あれです!あれがぼくたちが戦ったモンスターの――鬼のツノです!!」


 その『ヒーロー』の燃え盛る紅蓮の一撃は、瞬間的に爆炎で作り上げたかのようなそのツノより大きい巨拳と化し、体格に勝る中ボスモンスターを砂底へ押し返した。

 砂のフィールドに開いた穴の端からその光景を見て、2人は度肝を抜かれる。



「「えええええええ!!!」」

 そしてその反動を利用して、雄山は一党パーティの元へ帰ってきた。



「『スペシャル技』って、あんなに強力なんだ・・・・」

「2人はまず、仲間との合流を!」

 仲間のリーダーが使うものとは威力が違うそれを見て、茫然とする少年少女に矢田が発破を飛ばす。慌てて2人は周囲を見回した。

「えっと、確か部屋の隅に隠れているはずです・・・・」


 しかしその声は周りに届かなかった。


 ザッバァァァァァァァ、、、、


 砂をまといながら地上へ上がらんとする、モンスターが起こす轟音にかき消されたからだ。

「先にアイツを倒さないと無理みたいだね」

「というか、今ので倒せなかったんだ」

 一般人男子2人が、クロスボウと笛、『狩人』と『吟遊詩人』それぞれの武器を構えた。『弓使い』と『祈祷師』も弓矢と杖を相手に向け、『ヒーロー』と『魔法少女』も決めポーズを決める。

 少年少女の2人も、魔法発動の触媒である杖を交差させた。


 そして中ボスモンスターの全容が明らかになる。

 天を指す二本のツノ。

 オーガの生首のような容姿。

 顔の中心から生える、歪な足のような関節を持つ牙。

 そして生物の弱点であるその頭部は、全体が鎧によって守られている。


 それが、少年少女から予め教えられていたモンスターの特徴。


「「「「「蟹じゃねーか!」」」」」


 その姿は、日本人から見れば既知のものであった。

 顔の中心から生える足のような関節を持つ牙は、牙のような足とでも言うべき甲殻に覆われた蟹の脚だ。

 天を指す二本のツノは、蟹の特徴である大鋏ツメだ。

 守る鎧もなんてことはない。脚と同じ、単なる甲殻だ。


「あ、あのモンスターを知っているんですか!?」

「いや2人はあれ知らないの―――って、ああ、そう言えばこの国って内陸国だっけ。海って知ってる?」

 音羽の質問に2人は首を傾げ、それをもって答えた。

 モンスター蔓延るこの世界では、旅行というものは余程の金持ちか相応のステータスを持つ者でないと行えない。故に、海を知らない者は少なくない。内陸国の辺境の孤児院で暮らしてきた少年少女が知らなくとも、無理はなかった。

「名前を付けるなら鬼大蟹オニオオガニ―――いや、鬼大蟹オーガザミってところか!」

「言ってる場合か」

 前衛で騒ぐ『ヒーロー』雄山に『弓使い』矢田がツッコミを入れる。

 個人的にはいいネーミングだと思ったのは内緒だ。

 今はそんなことをしている場合ではない。


 ガァァァァァアァア、ニィィィィイぃい!!

 甲殻の隙間から、砂を巻き上げ吹き飛ばす雄叫びが上がる。『ヒーロー』のスペシャル技の一撃を警戒しているのか向かってこないが、戦闘の本格的な開始はそう遠くないだろう。


「蟹って、カニーって鳴く生き物だったっけ?」

「来るぞ、法華院!」

 やはり知性なき蟹。虫の一種。業を煮やしたのかその巨体に任せて突っ込んで来た。

 能天気な『魔法少女』に永井が緊迫した声を出すが、2人の態度は余裕綽々。

 両方の鋏のツメを闘牛の角のように構えて突進する鬼大蟹オーガザミを、談笑しながら待ち構える。


「ねぇねぇ『ヒーロー』、蟹は横歩きと相場が決まってると思うんだけどー」

「いやいや『魔法少女』、蟹の中には前後に歩けるやつも多いって図鑑に書いてあった」

「なるほどー」

「さしぶりにカニ鍋を食いたい気分にもなってきたが―――」

 猛牛の角では比べ物にならない迫力で、鬼大蟹オーガザミの両のツメが直前に向かう。高速道路の10tトラックよりも恐ろしいかもしれない。


「しかし残念なことに、ダンジョンのモンスターは倒しても肉が残らない」

 そのツメを2人が拳で殴りつけることで受け止めたのは、余裕な雄山の言葉が言い終わるのとほぼ同時だった。

 右のツメを雄山が。左のツメを法華院が。

 左右の二つの点を基点に、二つの衝撃波と衝撃音が轟く。

 それはスペシャル技の一撃で多少脆くなっていたオーガザミの甲殻に、ヒビが入るほどの衝撃であった。

 そしてその衝撃を全身で受け止めても、オーガザミの巨体を食い止める2人には一切の傷がつかなかった。


 少年と少女の、開いた口が塞がらない。

「ホントあの2人、訳がわからんほどに訳がわからん」

「ただ、問題はここの足場が砂ってことなんだよな」

 あまりに目の前に広がる光景がぶっ飛んでいるからか、それを見る日本人たちは冷静だった。特にこの現象を起こしているのが自由人二人なので、驚嘆と賞賛よりも呆れの感情が先に出る。

 それと同時に永井は状況を分析し、踏ん張りの効かない砂地の所為でずりずりと2人がオーガザミに押されていることを懸念する。

 更に言うなら、確かに肉体の甲殻にはヒビが入っているが、2人が抑えるそのツメ自体には一切の傷がついていない。『ヒーロー』の炎の一撃とぶつかり合い押された方のツメは、未だに武器としての機能を失っていない。


「―――――――なら、」

「うわビックリした!」

 そこで戸村井が珍しく口を挟だ。

 それに矢田が機敏に反応するが、対する戸村井はマイペースに矢筒から矢を二本、勝手に抜いただけである。

 そして掴んだその二本に『祈祷師』は呪いを込める。

「『鬼火よ鬼火、漂う鬼火。宿り、燃え移り、敵を焼け』」

 するとメラメラと青白い炎が戸村井の周囲に浮かび上がり、そのまま蠢いて二本の矢のそれぞれのやじりに宿った。


「―――『悪霊の火よ灯れ燃えろウィルオウィスプエンチャント』」

 

 しかしその炎が矢の柄や矢羽に燃え移る事はない。

 これは鬼火だ。生物のみを燃やす特殊な火である。付与された鏃もまた、燃えていない。

 そして戸村井が選択した作戦は、蟹という生物を知る日本人と、知らないエルドランド人の違いを如実に表している。

 その根幹は実に単純。

 性質を知っていれば弱点を射抜くことも出来る、というだけのこと。

 小足しょうあし八足はっそく大足だいそく二足にそく。横行自在にして目は天を指す。

「リーダーの『スペシャル技』だ。目を潰せ」

「―――ああ、なるほどね」

 往々にして、眼球というものは生物にとっては重大な弱点である。

 目を潰された時点で戦意を失い、抵抗も生きることも諦める生物がいるほどに。


 キリキリキリと、矢田アーチャーの手により矢が引かれる。

 二本の矢は器用に指の間に挟んで構えられていた。

 そしてその口から、『スペシャル技』発動のための前口上が述べられていた。


()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()

 矢田の体とその武器から、不気味な一塊のオーラが溢れ出す。

 黒と紫が入り混じった、実に禍々しいエフェクトだ。

 同時にそれはその『スペシャル技』の本質を表す姿でもある。

 武器がまるで彼女の体の一部であるかのように。

 弓から矢、そして彼女の体に至るまで、全てを統合して一つであるかのように。

 一塊のオーラの全てが、『弓使い(アーチャー)』の全身を包み込んだ。


 その技名には、悪魔の力が込められた否外(はずれず)の呪いが冠せられている。


「―――()()()。『魔弾の射手』」

 絶対に果たされる命令と共に、彼女の手が矢尻から離れた。『弓使い』から、矢が放たれた。


 狙いはオーガザミの両眼。

 しかし蟹の視界は広い。ほぼ360°を見渡せる。

 さらに蟹の視力は弱いが、トンボ類と同じ複眼のおかげで動体視力が優れている。

 飛来する矢を、飛び出た目を動かして躱すことは簡単だった。

 そして躱した矢は明後日の方向へ飛んでいき、明らかに不自然な曲がり方をして帰ってくる。

 再び躱す。

 また向かう。

 躱す。

 向かう。

 躱す。

 向かう。

 何度避けても止まらない。


 これこそが『魔弾の射手』の効果。『次に放つ矢が必中する』未来を作り出す力。


 ならばとオーガザミは矢を叩き落とそうとするも、それが出来る自分の鋏は押さえ込まれている。『ヒーロー』と『魔法少女』の怪力によって。

 オーガザミは反射的に何度も回避を繰り返す。

 その度に向かって来る矢を避けきれなくなるのに、そう時間はかからなかった。

 生物である以上、体の可動域にはどうしても限界があるのだ。

 眼球が貫かれ、付与エンチャントされたウィルオウィスプが燃え移る。

 生物のみを燃やす鬼火に包まれたオーガザミの目は、茹でられた後の蟹の目のように白く染まっていった。


 ニィィィィイぃい!!


 声なのか判然としない断末魔の叫びが、甲殻の隙間から漏れ出す。同時に腹から泡が溢れるが、それではウィルオウィスプは消火できない。聖水などの特別な水でなければ消せない。だからこその鬼火である。

 みるみるうちにその全身へ青白い鬼火が広がり、加熱によってオーガザミの体が茹でガニのように赤く染まっていった。周囲には蟹の汁が茹で上がる時のような、日本人からしてみれば懐かしい香りが漂い始める


「なんか腹が減って来たな」

「アレを食べるんですか!?」

 永井の呟きに少女が反応したのも無理はないだろう。蟹がいないためこの辺りには蟹を食べる文化がない。更に、今のオーガザミは不気味な青白い鬼火に包まれており、その赤く染まった甲殻と白色化した眼球もあって地獄の赤鬼のようにも見える。

 それは人を威圧する光景だ。

 ただ、その容姿に反比例して巨体から発揮される怪力は弱まっていった。

 雄山と法華院の手に感じる手ごたえも力強さが抜けていっている。


「あ、あの、このままでは抑えているお二人にも燃え移ると思うんですけど」

「ああ大丈夫。あの二人、変身している時はあらゆる状態異常を跳ね除けるから」

 やがて沸騰した体内の水分が、甲殻の関節から蟹の泡とは別に漏れ出し、一度赤く染まっていた殻が灰のように白く染まる。

 甲殻のカルシウムが炭化しているのだろうか。

 そんな日本人独特の感想を、その光景を見た矢田は抱いた。

「ほほう!どうやらこのモンスター、一定以上炎属性の攻撃を受けると防御力が低下するようだ!」

 そう言う『ヒーロー』雄山が強めに握るだけで、先ほどまで握りつぶせなかったツメの外殻が崩れていく。


「よし決めるぞ、『魔法少女』!」

「了解『ヒーロー』!」

 全身の筋肉が鬼火に焼かれ機動力を失った巨大蟹。その中身を硬度の落ちた外殻ごと砕くことは、二人には簡単すぎるくらいに簡単なことだった。


 つまり体の中央に同時に放たれた『ヒーロー』と『魔法少女』の一撃で、オーガザミの断末魔すら上がることなく勝敗は決したということだ。

 オーガザミの体がドロップアイテムだけを残しダンジョンへ溶けていく。


 ダンジョンにて遭遇エンカウントするモンスターは、ダンジョン・コアが生み出した、ダンジョンから出ることもできないダンジョンを守るだけの存在だ。

 死亡した場合は一部を残して肉体がエネルギーに戻り、ダンジョン・コアへと還元されていく存在だ。

 死体を残さない、地球の常識で考えれば生物として扱うべきか悩ましい存在だ。

 これがあるから罪悪感も実感も残らない。


 その後、中ボスを仕留めた一行は少年少女のパーティの無事を確認してから、ドロップアイテムを回収する。

 冒険者とダンジョンのモンスターとの関係は、それで終わりだ。


☆☆☆☆☆


 そして負傷した者たちも、ポーションを使うことで回復に成功した。

 現在矢田たちは、そんな祝福し合う6人をほっとした目で見守っている。その結果に思うところがあったのか、生物の雑学に詳しい『狩人』永井が解説を述べた。


「蟹の目は複眼で、動体視力はいいけど視力は悪い。だから動くものを見るのは得意だけど、止まっているものを見るのは苦手だったはずだ。あとは空気とか地面の振動を感じるぐらいしかない」

「――つまり、ジッと仲間が助けに来るのを待ってたから、あの6人は助かったってことか」

 それに対して矢田が総括を述べる。

 その結論は実に、6人の好みのものであった。

「これにて、一件落着ぅ!」

「まったくだね、まったくだね!」


 やはり人助けは良いことだと、変身を解除した『ヒーロー』と『魔法少女』は大きく頷く。

 変身の有無と、ヒーローであるか否か、魔法少女であるか否かは関係ない。

 この心根の気持ち良さが、自由人二人の行動に呆れながらも矢田たちが同じパーティを組んでいる理由である。そして雄山の言う通り、日本人パーティ6人には、確かな達成感と充実感があった。








「―――いや、まだ帰り道があるからな!?」

 ただそれはそれとして、忘れてはいけないものは忘れてはいけない。

 行って、帰るまでが迷宮の冒険(ダンジョンアタック)である。


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