第7話 御披露目会兼歓迎会
そして今彼らの眼前にある扉は開かれ、堂々たる足取りで40人の少年少女が現れた。
その空間に立ち入ることを許されるということは、一部の例外はあれど召喚されし40人の勇者たちは、人族における一級を超えている者、あるいは超える可能性のある者と判断されているということでもある。
もっとも和成が立ち合いを許されたのは、彼だけを外せば他のクラスメイトから顰蹙を買うからという、打算ありきの側面が強かったが。
☆☆☆☆☆
「あー、息が詰まる」
扉が開かれて数分後。
王宮の廊下にて、和成はそう溜息を吐いていた。
扉が開いた直後。異界の勇者たちが『歓迎の間』に足を踏み入れた瞬間、周囲からは歓声が上がり拍手喝采が起きた。
くすぐったそうにする者。
何処か嬉しそうな者。
誇らしそうにする者。
戸惑っている者。
クラスメイトたちの反応は十人十色。
その中で『勇者』天城正義が手を挙げると、歓声と喝采は一際大きくなり、貴族の淑女たちから黄色い悲鳴が聞こえてきた。
その直後には、別の扉からキングス王、アンドレ王女、そして少女が一人が現れる。
その扉は王族のみが通ることを許される特別な扉である事を、和成たちは秘書から簡単な今後の予定と共に聞いていた。
途端に場が静まり返り、王女たちを連れたキングス王が勇者たちを歓迎する旨、この会を開くことの意義、そして開会を宣言する。
このその場にいた全員の注目が一点に集まっている隙に、和成は『歓迎の間』を抜け出していた。
『勇者』や『姫騎士』、王達へと注目が集まっていたこと。
そんな彼らをライトアップするため、周囲が薄暗かったこと。
着ている学生服が黒く、その中では目立たなかったこと。
女神様が召喚した異界の勇者たちを一目見ようと、門番たちも気を取られていたこと。
それらの要素がかみ合って抜け出すことは実に簡単だった。
和成は打算によって参加を許された興味もないパーティーに参加する気はさらさらない。
かといって揉め事を起こす気もない。
だから建前上だけは参加してあげることにした。
速攻で抜け出し、閉会のころにこっそり戻る予定だ。
「さて、と」
ムシャムシャと、廊下を歩きながら和成は今後の予定を考え、手に持っていたサンドイッチを咀嚼する。会場を抜け出す際にちゃっかりテーブルに盛られているのを拝借してきたものだ。
和成たちが召喚されたのは、朝の8時20分前のこと。ホームルームが始まる前だ。
その時に召喚され、異世界側では時刻は昼であった。そして今は夕方だ。
つまりは既に数時間という、和成の胃を空にするには十分な時間が経過していた。
ガブリュ。モグモグモグ。
右手のサンドイッチの次は、左手の骨つきチキン。
クリスマスパーティにでも出てきそうな、食いでのあるやつにかぶりつく。
「うめぇ」
そしてマイペースにそう呟きながら、一人淡々と廊下を歩く。
(――召喚された時の部屋にでも行くか)
彼は無言でそう決めて、「召喚の間」へと右手のサンドイッチと左手の骨つきチキンを食べながら歩き出した。パーティを抜け出している都合上、座り込んで食べている時間などないのだ。
端的に言って行儀が悪いのは間違いないが。
そして数分後、和成は「召喚の間」に辿り着いていた。
(やっぱ道順を覚えておいてよっかたな)
モグモグモグモグモグモグ
肉を咀嚼することを忘れずに、時間をかけて部屋を見渡す。
『召喚の間』は非常に簡素な造りをしている。
広さは体育館ほど。ただし、天井は体育館のそれより遥かに高い。
そして中央は台形状に盛り上がっており、そこには魔法陣が刻まれている。その魔法陣の上に、和成たちは召喚された。
改めてよく見ると、先程は気づかなかった壁や床ーーー距離と薄暗さのせいで視認出来ないがおそらく天井にもーーー無数の模様が刻まれているのが確認できる。そしてその部屋いっぱいの模様は、台形の上の魔法陣を中心にして全体へ伸びている。
(魔術的な意味合いを持つ模様……かな? 文字のようにも見えるけど、『意思疎通』のスキルで翻訳されないところを見ると単なる図形の可能性が高そうだし……)
上下左右。視界に入る全てを、ジッと注視していく。
そして、それに気を取られている和成の後ろに黒い影が迫っていた。
第一章終了までは毎日2話、投稿します。
ひとまず100話までは書き溜めていますので、そこまでは必ず投稿します。