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プロローグ 問い四「男とは何か。女とは何か」

 

「男とか女とか関係なしに、クラスに所属する生徒には性格の分類カテゴリが存在していると思っている。ザックリ分けて五種類」

 世界会議のパーティー。時刻は深夜近く。

 その料理をズラリと並べたテーブルについた歓談の中、和成はそんな前置きを置いて、慈や姫宮たちへ自論を展開していた。


「運動部の部活と学業を両立できる“クラスの中心”。学校行事にも積極的に参加してクラスを引っ張っていく、リーダーシップに溢れる中心人物たち。天城のグループ3人組とか、姫宮さんたち仲良し5人組がそう。

 次に、クラスの最大勢力をほこる“一般人”。最大勢力をほこっている以外には、特に言うことはない集団だな。当然だけど、クラスの大多数が属するのはこれ。

 あとは“孤高”、あるいは“ぼっち”。これは分けずに一緒でいいだろう。単なるコミュ障と人付き合いを敢えて拒む奴は区別がしづらいが、四谷さんや、俺たちがいない場合の化野さんが当てはまるかな。あとは山井さんも片足を突っ込んでると思う。

 更に“自由人”。マイペースに己の道を行く我の強い奴ら。これはこれで“孤高”とか“ぼっち”の連中と区別がつけづらいけど、これは分けといた方が正解だと思う。

 んで、最後に“無法者気取り(アウトロー)”。クラス行事に素直に参加しなかったり、今やってるパーティーでも反社会的な反抗心から酒を飲んだりするやんちゃたち。尤も、俺たちのクラスのやんちゃする連中は、やんちゃって言ってもその程度を超えないけどな」

 

 この場にいる和成の持論へ耳を傾けるメンバーは、親切のパーティメンバーである和成、慈、裁に、姫宮ら仲良し五人組を加えた八人である。

 親切と化野は此処にはいない。カップルで何処かで何かをしているだろう。何をしているのかまでは知らないが。

 また剣藤もいない。生真面目な彼女は召喚された今でも、規則正しい生活を貫き早寝早起きを徹底している。夜更かしはしない。

 姫宮パーティの1人である四谷もこの場にはいない。彼女は騒がしい場所も、人と積極的に話さなければならない場所も苦手だ。来ても隅の方で本を読むだけだったので、その内に参加することはなくなった。


「なるほどねー。ただ、私は正直、私たちがクラスの中心って言われてもピンとこないんだけど」

「はっはっはー。姫宮さんには、自分から敢えて進んで一人になろうとする人や、人とコミュニケーションを取るのが苦手な人の気持ちは中々分からないだろうねー。孤高やぼっちの対極にいる人だし」

「むー、褒めてないな?てか、確かに学校行事とかじゃ私たちの発言が通ることが多いけどさ、それって他のみんなが全然発言しないだけじゃん。自分の意見を通したいんなら口に出さないと駄目でしょー」

「はっはっはー。平気でそう言える時点で、四谷さんや化野さんの価値観は、姫宮さんのそれと全く違うということだ」

「ふーん・・・・」

 そう言われても、姫宮にはピンとこない。ただ、姫宮の提案にYES以外の答えを返さない――返せない――おどおどした四谷の態度から判断するに、和成の言葉の方が正しそうではある。


「じゃあ、和成くんはどのカテゴリーに入るわけ?」

「そりゃあ平凡に、一番無難な“一般人“だろう。大多数のクラスメイトが属してるし」

「「「「「「「それはない」」」」」」」

 和成の私見は満場一致で否定された。


「やっぱり“自由人”なんじゃないの?クラスだと一人で本ばっかり読んでることの方が多いけど、愛美ちゃんとか親切くんとか、この世界に来てそうじゃないって分かったし」

「むしろ喋りなら天城より上なんじゃないか?引き出しが多いと言うか饒舌と言うか」

「“自由人”と“クラスの中心”と“孤高”のカテゴリの境界を、好き勝手に行ったり来たりしてる感じだよね。全部のカテゴリーの人の気持ちが何となく分かるというか。分からないのは、“無法者気取り”な人のぐらいじゃないかな?」

「けど、完全に理解することは出来ない」

「境界をうろちょろしてるだけで完全にカテゴリーの中に入ることはない」

「つまり中途半端ってことか!」

 アハハハハハハ。

 場に女性特有の甲高く姦しい笑い声が満ちた。

 和成も一緒に乾いた笑みで笑っている。


 ☆☆☆☆☆


(・・・・・・平賀屋は何故、女子に囲まれてでこうも自然でいられるのか?)

 親切は化野と(おそらく)いちゃいちゃしていて此処にはいない。

 城造はそもそもパーティーに参加していない。これほどまでに女子が多い空間に来るはずもない。

 だからこの歓談の中にいる男子は、和成と自分の2人しかいない。


 そんな状況にさらされた男子の片割れであるところの裁は、女子集団の話のペースと内容についていけず、1人喋ることなく話と関係の無いところへ思いを馳せていた。

 有り体に言えば、緊張して話が進まないでいるのだ。裁はあまり人と積極的に話す性格でなく、特に女子の集団の中で話す機会などそうはない。


「おいタッチー、もっと話しなよー」

「・・・・・・伊豆鳥、取り敢えずフォークをこちらに向けるのをやめてくれ」

「おかたーい」

 (・・・・・・こういう空気は苦手だ)


 伊豆鳥いずとりまい。“自由人”と“クラスの中心”の境界にいる『踊り子(ダンサー)』の彼女は、真面目で堅物な“一般人”であるところの裁からしてみれば天敵と言ってもいい。今だって裁には、彼女が水着か下着のように露出の多い服装で、衆人環境の中でいられる理由が分からない。

 いや、理由そのものはあるのだ。

 このパーティーは召喚初日の歓待パーティーと同じように、異界より召喚されし救世の勇者たちを大きくアピールする場でもある。そのため、分かりやすく自分の『天職』を知らしめる格好を全員がしているのだ。『哲学者』である和成は特に衣装のようなものがないので、いつもの学生服を正装にしているが。

 だから、裁が軽快な雑談の中でも背中に処刑斧を背負った重々しい『処刑人』の格好で居続けているのと同じで、『踊り子』の伊豆鳥が踊り子の格好をしていることは当然ともいえる。


 ただ、羞恥心はないのかと思う。

 繰り返すが、下着と対して変わらない格好でいるのだ。露出が多く目の毒で直視できないでいる。そして彼女はそんな自分を、からかうように見せつけようとするから対処に困る。おまけに口にする言葉が、逆の立場なら色々と問題なセクハラと下ネタのオンパレード。

 一体どうすればいいのか。どうしろと言うのか。


 その旨を平賀屋に相談してみると、

「いやらしいと思うからいやらしいのさ。いやらしいと思わなければ、この世にいやらしいものなどない。この世の全ては塵の集合に過ぎず、女体は肉、服は布でしかない」

 だそうだ。

 (なんの参考にもならない。自分は修行僧ではないのだ)

 返答を受けて真っ先にそんな感想が浮かんだ。和成は少々仏教から与えられた影響が、大き過ぎるのではないかと思う。

 同時に、平賀屋は男女の区別がかなり雑なのだろうとも思う。おそらくあまり意識していないだろう。だから女子の集団の中でも男子と接する感覚で接している。

 

 そんな気がしたので、取り敢えず結論を出した。


(・・・・・・)

 そしてその取り敢えずの範疇を超えることはなかった。

 平賀屋もまた、人伝に聞いた説得内容を聞く限りかなりの葛藤を抱えているのだろうが―――よく分からない。


(男と女。・・・・・・難しいな、まったく)

 裁は楽しげな和成たちの端で、

「ちらっ。ちらちらっ」

 と胸元をふざけて見せつけてくる伊豆鳥に対して

「はしたない!」

 と叱りつけても事態が好転しないことを予感しながら、目を固くつむり眉間に皺を寄せた。

 どう窘めれば揶揄われずに済むのか。

 その答えが出る気は、先ほどの思考以上に全くしなかった。


 本章は別名が『男と女』編であり、『哲学者』平賀屋和成の“男とは何か、女とは何か”といった持論の一端が飛び出します。そのため、人によって好みが分かれると思います。

 万人に受け入れられる哲学なんてものは無いので、しょうがないですね。

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