プロローグ 十二の厄災
大陸を二分する中間領域の中央部。そこはかつて、龍世界と妖精界と繋がる始まりの穴が開いた場所。その異次元の穴から持ち込まれた属性によって、この世界は生み出された。
つまりその場所こそ、『世界核』に最も近い世界の中心であった。
そこに空と大陸を貫くか巨大な柱が顕現した。
それは全ての有機物と無機物を原料とするもの。この世の何もかもを有しているが故に、この世の何もかもから外れた歪な存在だった。
醜悪にして害悪。不要にして邪魔者。――すなわち邪神。
かつて古代文明が『不必要』と呼称した存在だった。
その肉体から生まれるマナは『邪悪』属性、性質は『不純化』。
余計なもの、要らないもの、邪魔なものを発生させる、不純物を生み出す力。
この世で最も害悪な、最悪の創造力だった。
そんな性質を持つ魔力が、邪神の体を原料とした世界を貫く柱を通して全世界に注がれた時。世界中で不純物が発生した。
邪神の口から呪文が唱えられる。
「これなるは暗黒の日時計」
柱からは、13の手が生えていた。
その最上段の手の内で、『邪悪』属性の魔力から巨大な球状をした暗黒物質が生成される。それはまるで暗黒の太陽のよう。その球体は邪神の手の内で、目もくらむドス黒い輝きを放っていた。
「魔の時刻を告げる影の時間」
邪神の手の内で暗黒の太陽の輝きが増し、邪神の体そのものである世界を貫く柱を強く照らす。
そうして生まれた影が一瞬で伸び、世界を一筋飲みこんだ。
やがて太陽は順に下の手へと渡されて行き、邪神の体から生まれた影が世界をぐるりと一周していく。だが、移動した後も影が消えない。柱の影は残り続け、暗黒の太陽の移動に合わせて世界を覆っていく。
そうして影に覆われた暗い場所から、最悪の不純物が発生した。
「全世界に告げる。此よりは終末。世界最後の日」
それは、女神による異世界召喚という一点の穴。
世界の綻びを起点に行われた干渉だった。
邪神によって、GODシステムに保存されているはずの記録が流出。『邪悪』なる瘴気と混ざり合い、不純化の力によって実体を得てしまう。
「時の流れに消え去りし反逆に抗え」
つまりは、あってはならないもの。
今この瞬間において何処にも存在しないはずの異物。
「――ここに、世界の敵がいるぞ!」
すなわち、過去が不純物として現在へ侵攻を開始した。
「あらゆる抵抗を認めよう。だが、邪神以外を見る自由は認めない。仲間割れなど許さない。同士討ちなどさせはしない。あまねく命どもよ、ただこの邪神にNOを突き付けるがため動くがよい。我を、不必要とせよ。無関心であることは許さない」
☆
邪神の影が世界の12分の1を覆った時。中間領域に脈絡なく駆除により半壊していた『門魔ゲーティア』が復活。
808匹、全員が揃うままに魔界と繋がる穴が展開され、悪魔軍団の侵攻が開始される。
――更にこの時、一体一体が魔王を優に超える、単騎で世界を滅ぼしうる邪神の三本の右腕。悪魔の中の悪魔、魔王を越えた魔王。
三位一体の悪魔王、『絶』『滅』『亡』が降臨しようとしていた。
☆
邪神の影が世界の11分の1を覆った時。空がヒビ割れ落ちてきたかと思うと、中間領域の空に穴が開いたような夜が広がっていた。
同時に大地からは森のように『カズィクル・ペイル・キャッスル』が乱立。しかし、それらを支配する真祖の吸血鬼は、コウモリの黒翼を持つ女性だった。
☆
邪神の影が世界の10分の1を覆った時。妖精族が住まう山脈内部に巨大な心臓が次々と発生。それらは邪悪なる創造の力が注がれた結果、コアへと進化を果たす。
それはつまり、山脈の山々1つ1つが別個の災禍獣、ないしは動く迷宮へと変貌したことを意味していた。
雪山の災禍獣は汚染雪男族へ。
火山の災禍獣は汚染火精族へ。
森山の災禍獣は汚染森人族へ。
鉱山の災禍獣は汚染鉱人族へ。
災禍獣ないし迷宮は、自然と生きる妖精を汚染し配下として引き連れる。
目的地は――妖精王のいるエルフの森だった。
☆
邪神の影が世界の9分の1を覆った時。ゴーストシップの船団が虚空より出没。
船団は西の空から侵攻を開始し、あらゆる生命の魂を狩り始めた。人や獣の区別なく、犠牲者たちの魂が船団に呪縛される。これでもう降りられない。
そして淡々と飛び続けるゴーストシップの甲板には、『死霊伯爵』、『ゾンビパラディン』、そして『ゴースト・キング』の姿があった。
☆
邪神の影が世界の8分の1を覆った時。とある海の底の底で突如として魔獣大量発生が勃発。そこに一匹だけソウルイーター・キメラが紛れていたことで、スタンピードの魔獣は人知れず食い尽くされた。
急成長を遂げたキメラは、偶々近海にいた軍艦ヤドカリを狙い『人魚の国』へ襲撃を開始。これにより、水中都市『サンゴ宮コーラル殿』は緊急浮上を余儀なくされる。
更にこの時、一際大きな生命の脈動を感じ取った古代文明の遺物、殲滅戦艦『ノア』が起動を開始した。
☆
邪神の影が世界の7分の1を覆った時。宙の果てから隕石が降り注ぎ、文明なき宇宙人が来訪。
彼らが乗るメテオが地表に着弾し、外宇宙の侵略が始めるまで、あと30分。
☆
邪神の影が世界の6分の1を覆った時。天使族が住まう『白雲のダンジョン』が魔界の瘴気で濁り出し、雲の大地が質量を持つ。
虹のダンジョン、雷のダンジョン、雨雲のダンジョン。
空に浮かぶ全てのダンジョンで同様の事象が多発し、その重みにより各地で墜落を開始した。
☆
邪神の影が世界の5分の1を覆った時。
エルフの森にて打ち捨てられていた『ミスリル・カブト』が、邪神の力を受け膨張とともに暴走。炎龍の娘バッド・ダイナマイトを炉心として取り込んだことで、真なる銀の巨躯を持つ竜人として進行を始めた。
融解と膨張を繰り返すボディからは灼熱の銀が溶け落ち、エルフの森を焼いていった。
更には大地に染み込んでいた粘液の女、コアク・スライム・アンドロメダまでもが復活。『混沌原理/誕生の海』に生み出された万本触手と融合した結果、増殖する触手を持つ怪物、『クトゥルフ・スライム』として進行を始めた。
その触手はうごめくだけで森を捕食していった。
やがて2種の怪獣は互いを脅威と認識し、排除のため同時に森の中心へ向けて進撃。森を焼く『巨人』と森を食らう『粘塊』が衝突し、辺り一帯を吹き飛ばす水蒸気爆発が起こるまで、あと10分。
それで奴らが消えてくれる保証はない。
☆
邪神の影が世界の4分の1を覆った時。前触れ無く『学術都市』の上空に百を超える『悪魔召喚の本』が出現。開かれたすべてのページから大量の悪魔が湧いて出た。
同時に全く同じタイミングで、何の予兆もなく都市の地下空間に新たなるダンジョンが発生。ダンジョンの侵食により、学術都市を守る大結界が半壊した。
☆
邪神の影が世界の3分の1を覆った時。飲み込まれた竜神列島全土にて食龍植物の群れが大量発生。同様に『ギガプラント・樹羅』もまた、『万竜羅』と共に復活を果たした。
更には、かつてディストピア・エヴァーが起こした事件までもが再現され、若き日の邪竜が唐突に首都に出現。白龍天帝の居住域に対し、攻撃を開始した。
☆
邪神の影が世界の2分の1を覆った時。レッドパウダー地帯上空に、突如いわし雲のようにアンデッドフェアリーが多数出現。無数の『黒雪の魔女』が一斉に羽ばたくと、黒い吹雪がレッドパウダー全域に吹き荒れた。
太陽光が昏き雲毛に遮られ、環境が灰色の雪で塗りつぶされたことで氷河期が到来。レッドパウダー地帯に住まう99%の獣人族に絶滅の危機が迫っていた。
☆
邪神の影が世界の全てを覆った時。各地に異世界召喚の魔法陣が見境なく展開され、地球のアカシックレコードと次元結合。
アカシックレコードに記録されていた地球の歴史が魔法陣から召喚され、世界に満ちるマナによって実体を得てしまう。
聖剣エクスカリバー、狂剣ダンスレイブ、国産みの槍天沼矛。
存在するはずのない空想の武器が、世界全土にバラ撒かれた。
☆
そして、役目を終えた太陽を最後の手が世界に落とした時。着弾地点より世界を真に貫く大穴が開き、深淵の最奥より邪神の魂が顕現した。
その衝撃で人族の結界が破壊され、これを受けて女神もまた世界に顕現。
神代の大戦争、邪神と女神の決戦。すなわち神魔大戦が再開された。




