第19章 エピローグ
夢から覚めるように、和成は眼を開けた。
辺りを見回すと、皆心配そうに自分を見つめている。
周囲の態度は大きく二つに分かれた。
ひとつは、自分の様子を心配する化野や伊豆鳥といったクラスメイト達。
もうひとつは、自分と目を逸らす照れている告白組。
そんな中で例外と言える者が2人いた。
まず1人は和成を現状に追いやった妖精王。彼は人を見透かしたような笑みを浮かべ、満足げに和成と告白組を見守っていた。
もう1人の例外は、親切友成。告白直後ということでやきもきしている彼女たちに代わり、彼が一番和成の近くにいた。
「気分はどうだ」
「情報量の割には、思いのほかスッキリしてるよ。意外なほどにな」
「状況自体はシンプルだからな。みんなお前のことが好きなだけだ、これ以外に大事なことはない。で、お前はどうする色男。告白されたなら、次は当然返事だが」
「流石に少し時間をくれ。一気に17人に告白されたんだ、気持ちにも情報にも整理をつけたい。返事を返すにしても、それはひとりひとりに選んだ特別な言葉であるべきだ。そうだろう」
座り込んだままの和成が、告白組を見回しながら尋ねる。その目配せに女性陣は、赤い顔をうつむかせながらもコクリと頷いた。
「はいはい、甘酸っぱい甘酸っぱい。ただこれでひとつの区切りはついた。ヒラにとっても、誰にとっても、悪いことじゃないはずだ」
そう言って、親切は手を差し伸べた。
その表情は居心地が悪そうではあるが、同時に確かに喜んでもいた。
和成の表情が柔らかくなっていることを、長い付き合いである親切は当然に見落とさない。
「――ああ、そうだな」
一方の和成も、ほほ笑みながらその手を握り立ち上がる。
その時だった。
[EMERGENCY‼‼‼ EMERGENCY‼‼‼‼‼ EMERGENCY‼‼‼‼‼‼]
和成が立ち上がった瞬間、高音の濁音があたり一帯の空気を引き裂いた。けたたましい警告音によって場の雰囲気が一変し、緊迫感のあるものへと瞬時に切り替わる。
直後、世界が根幹から揺らぐ勢いで、大地が大きく波打った。
「どうしたシステム、何があった!」
とっさに和成が叫ぶも、GODシステムから返答はない。
代わりに、妖精王を除く全員のステータス画面が強制的に開示された。
空中に電子画面が展開され、個人のステータス情報が有無を言わさずさらされる。
しかし、それらの個人情報はすぐに塗りつぶされた。レベルアップ時などに表示される文字欄が、ステータス画面を瞬時に覆い尽くす。そしてそこに、GODシステムからのメッセージが世界の言葉と共に流れ出した。
文字と音声の重ね掛けによって、避けようのない世界の言葉が告げられた。
[当機の名は、記録術式『Grand Over Drive system』。この世の全てを記録する、ステータス画面を運営するもの。遥かな過去に起きた、女神と邪神の激戦により失われた古代文明の遺物]
システムの話しぶりから分かる。この声は自分たちだけに向けられたものではなく、全世界に対し発信されているもの。きっと全人類のステータス画面が開帳され、同じように文字と音声が流れていた。
そして、GODシステムは名乗りを上げた。歴史の裏から表舞台に姿を現した。
隠されていた秘密を、全世界に対し公開した。
それはそのまま、世界に最古にして最大の魔法がひとつの決定を下したことを意味していた。
[これより、全世界に対し緊急指令を発令する。――当機は邪神の完全なる顕現を予測。単体で世界を滅ぼし得る十二の厄災が、世界全土へ拡散する]
システムに課せられた3つの命令、最後のひとつ。
“女神と邪神を、この世界から排除せよ”。
それをこれより達成することこそ最適と、演算の結果、GODシステムは結論付けた。
[今ここに、全世界対邪神の図式は成立した。よって、すべての生命に告ぐ。
――抗え]
それはつまり、この瞬間をもって決戦の火ぶたが切られたということだった。
☆☆☆☆☆
問十九「江月照松風吹、永夜清宵何為所」
――それでも、この世界は美しい。
第19章、これにて完。
最終章のプロローグだけ20時頃に投稿して、本章の毎日投稿終了となります。




