第396話 ハピネス・クイン・エルドランドの告白
「好きです、和成さま。あなたと楽しく言葉を交わす内に、いつしかこの恋心を抱きました。お慕い申しております。わたくしにとってこの感情は、疑いようのない初恋なのです」
「きっかけはそう、和成さまとの出会いからあまりに多くを学んだこと」
「わたくしたちの世界と、和成さまの世界。前提からして異なる世界であっても、同じように文明が築かれ歴史が紡がれた。そのことをわたくしは、あなたと過ごした日々から学んだのです」
「和成さまはおっしゃいました。女神は嫌いだと。召喚なんてふざけていると。その上で、この世界そのものは嫌いじゃないと」
「この世界に生きる我々を、この世界で我々が築いたものを、和成さまは確かに愛してくださった。歴史というたどった道筋を肯定し、理解に努め、尊重の意を示してくれた。そんな和成さまから多くを学んだからこそ、わたくしには王女としての自覚が芽生えたのです」
「この世界について褒められてうれしかった。認めてもらえるのが喜びだった。理解を示してもらえて楽しかった」
「理不尽に巻き込まれてなお公正に評価しようと心掛けたその誠意が、わたくしの胸に突き刺さりました。良い所は良いと認め、理解できない所は理解できないなりに否定しない。その尊重に、わたくしは憧れた」
「――そして和成さまは、この世界を守る過程で幾度となく傷ついた。何度死ぬほどの傷を受けたか分からない。それでもなお和成さまは、王族で、レベルもステータスも高いわたくしまでも守ろうとしてくれた」
「その度に、あなたに惹かれていく胸の高鳴りと、あなたをこの世界に巻き込んでしまった罪悪感で、わたくしの胸は張り裂けそうになりました」
「ならば、その献身と自己犠牲に報わねばと。この世界を、わたくしの国を、あなた様にそうされるに足る素晴らしいものであると示したいと――心からそう思っていたのです」
「わたくしたちの世界は、わたくしたち自身の手で守る。自分たちの世界は自分たちで守れるのだと示す。そうすることで、こちらの価値を証明できると思っていました」
「……故郷が、お姉さまが和成さまを裏切ろうと、この決意はまだ心に残り続けています。わたくしがわたくしであるために、この初志は手放せない」
「わたくしは和成さまに尊ばれるような自分でありたいのです」
「誰かがやらなければならないことを、誰もやりたがらないのであれば、――わたくしがやる。やってやる。そう啖呵を切れる自分でありたい」
「高いステータスをもつ者として、常に戦場で先陣を切る自分でありたい。何不自由なく過ごせて来た者として、上に立つ者としての責務を全うできる自分でありたい」
「もしも和成さまの心が傷ついたならばこれを癒し、もしも和成さまが帰れないのであれば、コチラに引き込んだ立場として責任を取りたい。手を差し伸べ、それを握りしめてもらえる淑女になりたい」
「ですので、和成さま。わたくしのことを、選んでください。あなたのことが好きです。大好きです。愛しています。大好きな人ひとり救い上げられない者が、どうして他者を救えましょうか。世界に対し責任を果たせるでしょうか」
「たとえわたくしが信用に値しないとしても、あなたは救われるべきだと叫んだ、ここまで来たこの世界の人々を、わたくし以外の皆さまだけでもどうか――お選びください」




