第395話 ライデン=シャウトの告白
「もしかしてなのだが、例えば君をここでさらってしまえば――激怒した他の強者たちとやり合えるのではないかね?」
「クッカカカ。無論、冗談だとも。本気ではあるが、実行に移す気はない。ぼくはあくまでライデン=シャウトの残滓。『麒麟の槍』に焼き付いた魂の欠片に、記憶と人格がわずかにへばりついてるだけの存在。『死霊』ではなく『雷』属性なだけの、幽霊みたいなものだ」
「全盛期ならばともかく、今の状態で喧嘩など売らないとも。つまらん。どうせ全力では戦えないのだ」
「そして、それに不満がある訳でもない。ぼくは既に、きみとの生涯最高の死闘を堪能した後だ。本当に何もかも、ぼく好みの戦いだったよ。死闘の最中に口説かれてたのかと思うぐらいさ」
「む、アレはわざと? ぼくをきみに釘付けにして、他に被害が行かないようにするため? じゃあやっぱり口説かれてたんじゃん。男の子から口説かれるのはアレが最初で最後だ」
「なんて、冗談だよ、冗談」
「本気だけど」
「そう、ぼくはこんな奴。価値観も自意識もふわふわしてる道楽者だ。周りからは武人扱いされるけども、それは単に武道という道楽を選んだだけ」
「ぼくに過去はない。要らない。全部不要と、切り捨てた。だからぼくが君に対し語るようなことは何もない。ただそれだと寂しいし、他の娘の告白をただ見て終わりはちょっと癪だから、おしゃべりぐらいはしとこうじゃないか」
「恋愛とか結婚に興味なんてないし、何かを残したいという願望なんて全くないけれど。きみの子供だったら産んでもいいとあの死闘の中で思ってたんだよ、コレでも」
「ぼくはそもそも雷のように終わりたかった。ぱっと光って、後からゴロゴロと音が鳴るが、その後はなし。その生涯を、一瞬とのその余韻だけで完結したかった」
「そんなライデン=シャウトの、残滓でしかないもの。つまり残りカスが今のぼくだ。よって欲しいものはちょっと思い浮かばない」
「けど、きみの特別でありたいとは思ってる。きみが欲しい訳ではないけれど、きみに凡庸な扱いをされてはたまらない。きみという存在は、既にライデン=シャウトの魂に刻み込まれた。だからこそ、ぼくは残滓という形で今も現世にしがみついている」
「――ここまで誰かのことを考えたことなど、今までなかった」
「故に、友達、家族、味方。そういったきみの側にたくさんいるものじゃなくて、唯一無二の存在……たとえば敵なんかでいたい」
「だからここは、他の誰も言わなそうなことを言っておこう」
「――戦え。ぼくに勝ったんだから戦え。生きる限り続く戦いから降りるな。最後に終わる瞬間まで、戦い続けろ」
「戦い続ける限り、その傍にぼくという武器はあり続ける。他の誰もがきみの側から離れ、何も残らなかったとしても」
「戦い続ける限り、ぼくだけは武器として側にいる」




