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第391話 レディ・ローズの告白


「かつて何度も口にしたことじゃが、今ここに再び明言しよう。わらわは、そなた様を愛しておる。そなた様のみが番いの相手と認定しておる」


「そしてこれは、王族としての言葉である」


「この決定は覆らない。この前提は覆らない。人魚族の執念にかけて、わらわは決してそなた様を逃さぬと決めた」


「故にこそ、わらわは妖精でありその半分は自然現象。この世界に入って知った、そなた様の知識に基づくならば、あやかしや物の怪の類いである」


「そなた様の知識を借りるのならば、濡れ女、或いはやんでれというヤツよ。我欲のためならば他者をも貶め、男ひとり手中に収めんがため凶行にも手を染める」


「そなた様の心の奥底、隠しておった暗部に触れた以上こちらも晒さねばなるまい。それこそがわらわの本質なのじゃ」


「ああ、まっこと卑しきかな。わらわは真に、生臭き磯の女怪である。この腹は深海のように真っ黒だ。そういう性を持って産まれてしもうた」


「じゃがな、そんな暗い海の底に。音のない深海に、届いた光明と歌声があった」


「それがそなた様じゃ、平賀屋和成」


「死ぬほど誰かに惚れることは不幸ではない。真の不幸とは、死ぬほど惚れた相手がそこまで惚れる価値のない相手であることを言う」


「すなわち、わらわは不幸の対極にいる」


「欲しい」


「そなた様が欲しい」


「寄り添って欲しい。連れ添って欲しい」


「子をなした後は男と離れ、稚魚の我が子を連れ海遊とともに一族で子を育てる。そんな人魚の在り方に逆らってでも、わらわはそなた様とともに歩みたいと思った」


「そして、そなた様は女妖じみたわらわを恐れなんだ。拭えない執念を抱えるわらわを否定はしても拒絶はしなんだ。一歩の違いで他の女を水に沈めるわらわを、一線の前でとどまるならばと受け入れた」


「とどませるために、心を砕き魂の言葉を用いた。――わざわざ魂の言葉を用いて、わらわに間違いは起こすなと、それをしたなら関係は決裂すると訴えた」


「愛の名のもとに凶行に及ぶことは否定しても、凶行に及ばせるほどの愛を拒絶はしなんだ」


「そして、わらわは見たぞ。隠された暗部と異なる、心の奥底に秘められたそなた様の本心。深海の暗闇で輝く真珠の美しさ」


「もし、自分が死ぬほど惚れられたのなら、死ぬほど惚れる価値のない自分に成り下がるのはかっこ悪い。惚れられた自分に、ふさわしい自分でありたい」


「そう願う矜恃」


「当たり前のようにそう思えるその魂の輝きを、そなた様は誇るべきじゃった」


「故にこそ、わらわは何度でも繰り返す」


「この人魚姫レディローズが。否、レッドローズが、死ぬほど惚れる価値のある男こそ、そなた様だ」


「愛しておるぞ、どうしようもなく。色のない心臓が、心の形をしていると気づかせたそなた様を探し続けるように」


「たとえ音も光もない深海であっても、あのとき聞いた世界を励ます輝きを頼りに、そなた様を見つけられると言い切るほどに」


「愛しておるのだ、平賀屋和成。ただひたすらに」


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