第390話 ルルル・ホーリー・ヴェルベットの告白
「――思い出しました。私はあの時、和成様と出逢ったその時から、既に一目惚れしていたのです」
「和成様の心の世界を、初めて会った瞬間この目で覗きました。持ち帰れないほどの情報を秘めた、秩序だった混沌の世界。様々な興味と知識であふれた、ひっくり返ったおもちゃ箱のようなわくわくの世界。その魅力に、私は無意識下で最初から惹かれていた」
「この世界で遊びたい。もっと堪能したい。和成様の世界を体験した短くも濃密な時間の中で、私はそんな思いを抱いたのです。そのことを思い出せました」
「多様なものを受け入れる騒がしくも楽しい豊かな世界。私の視界ではこの世界が、強く無意識に焼き付いていた。初めて出会い、この見通す目に寄り添っていただき、共に笑ったあの日々から。ずっと、ずっと和成様に焦がれていたのです」
「たとえあなた様が元の世界に帰られるとしても、せめて子どもだけでも。そう考えるぐらいには、私はあなた様をお慕い申しております」
「――ええ、分かっております。あなた様はそのような誘いを受け入れないと」
「“自分の子は自分で育てる、でないと意味がない”ぐらいのことは言ってのけると、分かっておりますとも。短い付き合いではありません。分かっているつもりです」
「だからこそ、です。和成様の、そういうところが私は大好きですよ」
「あなた様は共に愛し、共に育て、共に命をかけて守ってくれるお方。そう自然と理解していたからこそ、私はそこに恋をしました」
「あの時、純水温泉で私は和成様に言いました。せめて私だからこその唯一無二な理由で断られたいと。でないと、この恋心に決着はつかないと」
「ですが違うのです。本当は少し違うのです」
「唯一無二であればどのような理由でもいい、というのは間違いでした。もしも私が、女神様を理由に拒絶されるのであれば」
「信仰を理由に拒絶されるのであれば」
「それでも私の恋に決着はつかなかった」
「ですがそうはならなかった。それを理由に私を拒絶しない度量の深さが和成様にはあった」
「信仰する神がいたとして、それがたとえどのような存在であったとしても、その神を礎に真っ当に生きる姿は尊ぶ。そんなあなた様の人生哲学は、私にとって目もくらむような眩しさだったのです」
「あの時、裸のおつきあいをした純水温泉で、私は和成様に惚れ直したのです」
「そして、それだけではなかった」
「悪魔の大群を退け、オークションによって復興費用を確保し、音楽祭によってエウレカを励ますことで苦境に抗う意思を示した」
「死霊伯爵の手で人生を終えると、そう覚悟できずに恐怖していた私を、駆けつけ助けてくださった」
「魔獣に食べられ人助けを後悔していた私を、口の中に飛び込んでまで助け慰めてくれた」
「何度も何度も、惚れ直す瞬間は片手では足りません。和成様の行動に魅せられる度、私の胸がどれだけ締め付けられたことか」
「わずか一年、されど一年。その長くも短い間に――私は何度も、あなた様ただ一人に恋に落ちた」
「その度量に、行動に、在り方に。どうしようもなく惹かれてしまったのです」
「だから和成様」
「好きです。焦がれるほどに愛しています。どうにかなりそうなほどに求めています」
「――私はあなたの世界の一員になりたい。叶うのならば、その中でも特に重要な……あなたの世界の一部になりたい」
 




