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第387話 ブラディクスの告白


「おそらく、これも『心世界』の効果なのじゃろうな」


「他人の記憶や感情、世界観からなる心の世界に踏み入ることで、自分自身の記憶、感情、世界観を見つめる呼び石とする。――おかげで狂気の沼に埋もれていた、儂の生前の記憶を思い出したわ」


「真祖の吸血鬼、サクリファイス・ペイルペイン。愚劣にして小物な祖父にあたるあの男によって、我が身は呪われた魔剣へと変えられた」


「その時既に、儂は吸血鬼(ヴァンパイア)族として死んだのじゃ」


「かつての儂の名はモミジ。吸血真祖の姫と、うぬの世界から落ちて来た人間。つまりは魔王との子じゃ。儂が魔剣に変えられた時には、父は邪神との戦いで自我の大半を喪失していたがな」


「初めてうぬと出会った時、儂はうぬの血をかつてないほど美味に感じ執着した。それもこれも、おそらくは魔王の血、我が父と故郷を同じくするうぬの同種族の血によるもの」


「……ああ、そうじゃ。儂は何かを求めながら、人の心を失った凶剣として生き恥をさらし、その過程で数多の血をすすって来た」


「こうして所有者殿と話せていることは偶然に他ならない。魂のパスを通じての狂気の伝達が、『哲学者』のスキルによって防がれているからこそ。魂のパスを通じ、うぬの影響を受けて一時的に正気を取り戻したにすぎん」


「しかしどうあれ、GODシステムに仕組まれた数奇な巡り合いによって、儂は自我と記憶を取り戻した。――じゃからこそ、儂はうぬから離れる気はないぞ」


「前にも言ったはずじゃ。元の世界に帰るのであれば、或いは不死性から解放されるため解呪によって『装備』を外すのであれば。儂を殺すなり壊すなり、終わらせてからにして欲しいと」


「正気を取り戻した以上、凶剣としてこれから先も存在し続けるつもりはない。儂はもう、終わるべき時に終わっておきたい」


「……ああ、だが所有者殿よ。もしも儂に戯言を許してくれるのなら、この機会にただ一度だけでいい。甘えさせてくれ」


「和成。もしも、もしもうぬがこの儂を、そなたを斬り付け呪った相手ではあるが、それでも戦友ないしは愛用の武器として扱ってくれるのなら――どうか、どうか情けをかけてはくれまいか」


「剣ではなく人として、かつて吸血鬼の姫だったものとして扱ってはくれまいか。ようやく人の心を取り戻し、狂気の晴れた状態に戻れたのじゃ。――鉄塊の身なれど、ここで終わるのが惜しい……!」


「儂は……父を目の前で失ったというのに、最初に母の血をすすったというのに、そのことに今まで気づけなんだ。父と母を失っておるというのに、そのことが悲しくないのが悲しい」


「……少しだけ付き合って欲しい、とは言えん。いつになるかは分からん。遥かな先のことになるかもしれん。じゃが、じゃが……儂が今よりさらに人の心を取り戻し、狂気の底より父と母の記憶を……思い出を思い出せる日まで、どうかこのままでいさせてはくれまいか」


「墓標に刻む両親の名を思い返し、その墓参りをする機会を一度だけ恵んではくれまいか」


「それに、楽しかったのじゃ! うぬと各地を巡り、強大な敵を共に攻略することが! たとえ儂の、一方的で身勝手な感情移入だとしても、息を合わせ、心を通わせ、共に挑むという営みが、儂という歪み果てた鉄の命の心を躍らせた!」


「――儂は、生きたい」


「少しでいい。うぬと生きたい」


「斬りつけ、呪い、血を吸い、生命としての在り方を歪めた被害者と加害者なれど――うぬとその関係のまま終わってしまうことが悲しい」


「隠したまま浄化され、この心ごと消滅しようとも思ったが、ことここに至ったのならもう隠さん。うぬとの出会いを忘れ凶剣に戻るぐらいなら、死んだ方がマシじゃ」


「これだけは、この思いだけは、何があっても狂気に塗りつぶされたくないほどに――うぬのことを慕っておるぞ」

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