第381話 山井療子の告白
「平賀屋。私は――好きよ、アナタのこと」
「……こんなこと、私に言う資格なんてあるのかと、ずっと思ってる」
「私はずっとアナタに敵意を向けていた。一方的かつ理不尽に、私の都合でアナタを嫌っていた。そこにアナタの非は一切ない」
「それはこの世界に召喚されてからも変わらなかった。けどまさか、召喚と『天職』をきっかけにアナタの手で救われるなんて思ってなかった」
「道に迷っていた私に、道を示してくれたのはアナタ。曇っていた私の眼を、晴らしてくれたのもアナタ。コネクションを使って、『国境なき医師団』設立を薦めてくれたのもアナタ」
「今の私は――全部アナタがいなければありえない」
「だから当然……惹かれていった。強いと思った。すごいと思った。敵わないと思った」
「だから――釣り合わないと思ってた」
「そもそも私はどこまで行っても凡人、国境なき医師団を設立したはいいものの、限界は近い。私なんかが国境をまたぐ組織を運営できるはずがなく、今のところは異界から召喚された勇者ってことで、名目上のトップにいるだけ。ただのお飾り」
「いずれ有能な誰かに任せるしかないけれど、その時点で国境なき医師団は国境に縛られる。どこかの国に属する組織になる。だから私は、どこかのタイミングで医師団から離れることになる」
「けれど、そこで積み上げた出会いも別れも経験も、決して無駄ではなかったわ。たくさん死んだ、たくさん見送った、たくさん助けられた。どれも紛れもない真実」
「アナタからしてみれば、それは認識矯正がもたらしたものかもしれないけれど、それでもこれは紛れもない私の選択なの」
「アナタからアドバイスを受けて、自分で動いて頑張ったの。受験勉強のように、頑張るべき時に頑張り切ったの。たとえ結末がどうなろうと、その過程は決して無駄じゃない」
「アナタが教えてくれたことよ」
「人が死ぬ瞬間に、命が失われる瞬間に極端に弱いアナタ。小人族の隠れ里で子どもを取り上げた後、失敗のプレッシャーから限界まで憔悴していたアナタ。冷や汗にまみれたまま、冷えた指先を振るえさせていたアナタ」
「私はアナタにいちご味の鎮静剤を処方したことを今でも思い出せる。その時に分かった、私でもアナタを支えられるんだって」
「私には出来ないことがアナタにはできる。アナタに出来ないことが私にはできる」
「きっとそれが、一番大事なこと。私が間違えていた時、アナタが正してくれた。それと同じように、もしもアナタが傷ついたのなら、私がそれを癒したい。心が折れ膝をついたのなら、もう一度立ち上がれるまで側にいたい」
「そういう関係に、私はなりたい」
「だから言うわ。例え資格がなくとも、我を通して言わせてもらうわ」
「好きよ、和成。アナタのことが」
「たとえどんなことがあったとしても、もしも傷ついているのなら――何をしてでも癒してあげたいぐらいに」
 




