第369話 世界の裏側① 『ステータス画面』誕生秘話
[遥かな過去の記録を伝達する。如何にして当機が作られたか]
[神魔大戦以前の頃。それはかつて、この世界が女神や邪神の世界と繋がっていなかった、神話の時代より更に古き時代のこと。科学と魔法の融合により、そちらの世界とは全く異なる古代文明が築かれていた]
[やがてある時代に、1人の天才が世界に転機をもたらす。それこそが、16に分類されていた世界をめぐる魔力に、17番目の『属性』の発見したこと。のちに『命』属性と命名されたそれは、魂の根源から湧き上がる力。万物を生み出す、この世で最も万能なエネルギーであった]
[そして魂の力、『命』属性の発見は、更なる二つの発見をもたらす。そのうちのひとつが、命を奪えば奪うほど強くなる謎の現象の解明だった]
[命がその生を会える時、肉体を離れた魂は世界へと還る。しかしその魂の一部、欠片とでも言うべきものは、戦いを通じて繋がった魂のパスを通して命を奪った者へと宿る]
[この魂のカケラが命の器を超えるほど集められた時、魂の総量が器から溢れぬよう、魂の欠片を消費して生命としての格を一段あげる。命の器をより強固に、より大きくする。この現象を古代文明は『レベルアップ』と命名し、のちに魂のカケラは当機によって『経験値』と訳された]
[更にもうひとつ、魂に関する研究が深まることで古代文明はたどり着いた。全ての物質、全ての命、全ての魂。これら全てを生み出した、宇宙にとっての魂と言うべき命の核。世界の中心に位置する、膨大な『命』属性の魔力のかたまり]
[それは巨大な星の形をした、膨張する世界そのものだった。古代文明は『命』属性のエネルギーでできた惑星に存在する、ただひとつの大陸の一部に過ぎなかった。そんな星の如き真球を、古代文明は惑星命『世界核』と名付けた]
[この発見により、『ステータス現象』の謎が解明される。『命』属性の力を集め生命の位階をあげることで、何故すべての生命は強くなるのか。それは、この世の全てが『世界核』から生まれ、この世の全てが『命』属性の力で満ちるコアの表層に過ぎないから]
[よって、所有する『命』属性の力が大きければ大きいほど、コアの表層では大きな現象を引き起こせる。それがレベルの上下の正体だった。言うなれば、『ステータス現象』とは『命』属性の魔力の総量を比較したものにすぎない]
[そしてそれは、『世界核』から見れば微々たる差でしかない。宇宙の大きさと比べれば、レベル1とレベル100に違いなどない。だから人ひとりがレベル次第で世界を滅ぼせる。人にとっての世界など、宇宙から見ればあまりにも小さいから]
[初めは拒絶と混乱が起きた。古代文明が築き上げた歴史も、技術も、『世界核』にとっては誤差の範囲内でしかない。自分たちの発達した社会に誇りと驕りがあった古代文明は、世界と個、宇宙と社会を比べた時の圧倒的な差を受け入れられなかった]
[だがそれも時間が解決した。古代文明の高い知能は、受け入れがたい現実を事実と認め、解き明かした現象を有用な道具として取り込んでいく]
[……何故ならば、いかなる世でも悩みの種は尽きまじ。古代文明には、克服しなければならないものがあった]
[ダンジョン化現象。そしてハザード現象。最も多くの国と命を奪った忌むべき厄災は、各地で不規則かつ無作為に起こる。辺り一帯を根こそぎ破壊した上で、最深部のダンジョン・コアを破壊するまで無尽蔵に魔獣を生み出し続ける。この大災害を克服する方法を、古代文明は模索していた]
[そして『命』属性の存在、魂の解明をもとに、数世紀を経てとある天才が2つの発明を生み出した]
[1つめが『魔力換装体』。そしてこれを管理するため生まれた2つめこそ、『ステータス画面』と呼ばれるもの。すなわち当機になる]
[まず『魔力換装体』とは、魂の情報を元に魔力で構成されたもうひとつの体。偽物でありコピー品。これにパスをつなげ魂と意思を宿らせることで、古代文明は偽の体でダンジョン攻略に挑めるようになった。致命傷を受けても『魔力換装体』が壊れるだけ。魂は肉体に帰り意識を取り戻す]
[この技術が普及するにつれ安全が確保され、戦力が損なわれることなくダンジョン攻略の勢いは加速してい
く。攻略不可能とされていた、手付かずのダンジョンまで次々と古代文明は挑んでいく。やがてそれは長い年月をかけて、攻略における死者0という偉業にまで繋がった]
[それすなわちダンジョンへ挑むすべての英雄が、『魔力換装体』の使用が常識になったということ。壊れるのは偽の体のみ。人々は死から離れた状態で、ダンジョンを攻略できるようになった]
[とは言え、これは人が死なないというスタートラインに立っただけ。既にご存知だろうが、不死身とは強さが前提になければ無意味なもの。死なないだけではダンジョンは攻略できない]
[故に、『魔力換装体』をより高性能に。それが古代文明に生まれた新たな課題となった。それを補佐するものとして、当機の原点たる『魔力換装体』を管理する専用術式が誕生した]
[換装体と魂の結びつきの損傷率を示す値、『HP』。残存魔力量、『MP』。現時点における生命位階、『Lv』。魂の総量がもたらす現象をリアルタイムで数値化したもの、『攻撃力』、『防御力』、『敏捷値』。
さらには使用できる技、スキル、魔法の種類の項目の追加。念話機能、世界共通時刻計の搭載。『スペシャル技』のゲージのカウント機能の登録]
[これら全てを閲覧可能とし、また記録することで次の戦いと発展に貢献する『魔力換装体』に組み込まれた術式。それこそが『ステータス現象』の正体。それらを統括する当機こそ――記録術式『Grand Over Drive system』。略称、GODシステム。『魔力換装体』を『ステータス画面』という形で管理するもの]
[発展を重ねるに連れ当機に追加される機能は増え続け、それに伴い精度も上昇し続ける。より強く、より便利に、より効果的に。ダンジョン攻略のため、多くの努力が積み重ねられた]
[結果、幾つものダンジョンが踏破され、ダンジョン・コアが持ち帰られた。それらは研究・分析の対象となり、これによりダンジョンとハザードの発生原理まで解き明かされる]
[ダンジョン化現象、或いはハザード現象とは、マナのよどみが一箇所に集まり結晶化した時、結晶内の『命』属性の濃度が一定を超えていたときに発生するもの]
[結晶が無機物に宿った時、命を持つ意思ある存在かのように自身を守る領域を作り出す。それこそがダンジョン・コア]
[結晶が命に宿った時、宿主を乗っ取る形でその肉体を災禍獣へと変貌させ、生存を求め暴れ出す。それこそがハザード・コア]
[すなわち、『世界核』が持つ創造と生命の性質によって、この世で最も『世界核』に近い結晶が生まれる現象だった]
[このメカニズムに気づいた古代文明は、魔力が結晶化する前のよどみを自動感知し、事前に散らすシステムを構築。コアの創造と生命の原理を利用し、コアの発生を感知し自動で散らすように動く疑似生命体。プログラムによって統括された、命をもつ『魔力換装体』を作り出した]
[それこそが、16種の『属性』から1体ずつ生み出された『源獣』と呼ばれる存在。すなわち、『雷』属性の『麒麟』であり、『植物』属性の『森鹿』であり、『不思議』属性の『知恵梟』である]
[これら16種16体が稼働することにより、ダンジョンは発生すらしなくなった]
[やがて古代文明は攻略済みのダンジョンを改造し、もう一度『魔力換装体』で攻略するという娯楽に興じるようになった。かつて多くの死者を出した大災害は、長い年月をかけて単なる娯楽へと発展する]
[古代文明は『命』属性の発見から数世紀かけて、真の意味でダンジョンを攻略した]
[それはかつてダンジョンが大災害であった反動。娯楽として消費できるようになった時、ダンジョンの攻略は爆発的なブームメントを巻き起こし、古代文明はまったく新しいダンジョンを求めた]
[こうして自然現象としてのダンジョンではない、娯楽専用の人造ダンジョンが誕生していく。魔獣を倒せば『アイテム』を獲得できる。素材を剥ぎ取り『装備』を作れる。宝箱からはコインをゲットでき、ステータス画面を通じて仮想通貨としてダンジョン内でも使用できる]
[そんなダンジョンが世界各地に新設され、それら統括して管理する術式が、世界最大のネットワークにまで成長していた当機ことGODシステムに追加された]
[しかし、それはあくまで娯楽を手助けする管理魔法。当時の当機にそれ以上の役割は求められず、古代文明は束の間の平和を謳歌する]
[――『神聖』と『邪悪』。二つの属性が世界に追加されるまでは]




