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第363話 決別の時 前編

 

 和成とハピネス。泣き疲れた2人は、顔を洗ってから部隊と合流した。

 和成と剣藤を迎えに、ハピネスとルルルが引き連れて来た人族連合、その一個大隊。その人数が――倍以上に増えている。

 更には、授与式で見かけた英雄たちの姿もちらほら見えた。

 王女アンドレが率いる大隊が、追加されている。


「……お姉、さま?」


「ハピネス」


 妹を見る姉の目は厳しい。

 ハピネスの泣き疲れた腫れぼったい目、赤らんだ顔。

 それを見て、みっともないと言わんばかりの表情をアンドレは見せた。


「どうなさいましたか? お姉さまにコチラに来る予定はなかったはず――」


 そう、ハピネスがアンドレに歩み寄った、正にその時だった。

 和成がアンドレに尋ねる。


「――アンドレ王女。()()()()()()()()?」


「お先に帰られましたよ」


 この時すでに、和成は臨戦態勢に入っていた。


「『転移の魔法陣』によって」


 突如、大地に魔力が通され準備されていた魔法陣が起動。

 強制転移が発動した。


「しゃらくさい!」


 これを和成は、踏みつけひとつで破棄する。

 足の裏から叩きつけるように注ぎ込む、『邪悪』属性の不純化。これにより魔力の純度を下げ、魔法をかき散らす対抗魔法アンチ・マジック

 魔王との戦いで学習した、新しい『邪悪』属性の使い方だった。


「和成様!? ハピネス様!? いったいどういうおつもりですか、アンドレ王女!」


 大隊と英雄たちに囲まれた2人のもとに、狼狽したルルルが駆けつける。

 これに対するアンドレの返答は、どこまでも冷徹だった。


「訂正なさい、ホーリー神国『姫巫女』ルルル殿。キングス王亡き今、この身は既にアンドレ王女にあらず。――アンドレ女王。天職名『女王』を有する、エルドランド王国の正式な代表。すなわち、アンドレ・クイーン・エルドランドですよ」


「ッ! ……かしこまりました。不敬をお許しください、アンドレ女王陛下。ですが、ですがどうかお聞かせ願いたい。何故、剣藤様のみならず和成様とハピネス様に対しても強制転移を!? 是非その真意をお聞かせください!」


 体面を取り繕いながらも、狼狽を隠せずにルルルがアンドレを問いただす。これに対し、女王はどこまでも冷静に返答した。


「異界より召喚されし勇者、『哲学者』平賀屋和成。かの者は外患誘致の罪状をもって、名有り(ネームド)の『賞金首』として認定されました。そして我がエルドランド王国は、女神様のご加護を賜る大国として義務を果たすことを決定いたしました。すなわち、対象の討伐になります」


「ふざけないでください! 『賞金首』制度とは、国家が個人に対し行う人権の剥奪! 決して軽々しく行てはならない、高ステータス者に社会を荒らされないための苦肉の策です! それをつい先日、邪神を封印した英雄に対し使用するなど前代未聞! そしてそれは、信頼に値するとして和成様に『王国の一撃(キングダム・アーツ)』を与えたキングス王に泥を塗る行為! どうかお考え直しを!」


「あいにくと、此度の事例に関して再考の余地などございません。理由は言わずとも察せられましょう、ホーリー神国『姫巫女』ルルル・ホーリー・ヴェルベット。――それが分からぬほど愚かでないはず」


 そして、女王アンドレは告げる。

 和成、ハピネス、ルルルたちに向けて。

 それ以上に周囲に待機する兵士たちに向けて、神託の内容を。


「王の立場から、その言葉を代弁します。――女神様はおっしゃられました。

“邪神に与する『哲学者』を討伐せよ”と」


「ありえません! 和成さまが邪神と繋がってたなんて、あるはずない!」


 これを反射的に否定したのはハピネスだった。

 それも当然だろう。共に邪神に挑み、死力を尽くして封印に成功した。

 この時の和成の献身を思えば、女王と言えどアンドレの言葉は侮辱に等しい。

 そして和成の奮闘は、召喚されてからずっと続いたものだ。

 姉の言葉は、彼を召喚しコチラに引き込んだ側が言っていいものではない。


 しかしアンドレ女王は、ハピネスの言葉につらつらと反論を繰り返すだけだった。まるで妹のことなど最初から眼中になく、その想定通りの反論を説き伏せることで、周囲の兵士に対し自らの正当性を訴えることが目的であるかのように。


「そうでしょうか? 私からしてみれば、『哲学者』様は何もかもが不自然に過ぎます。女神様の召喚において、アナタは物の数に入っていなかった。事前が聞かされていた人数に、+1された状態で召喚された。そんなイレギュラーが、都合よく魔王軍七大将全員を撃破した。その様に、私は裏を感じずにはいられません。邪神が裏から手を回し、女神様の召喚に細工をしたと言われれば容易く信じてしまえるほどに」


「でしたら、『ミームワード』が! 『ミームワード』があります! あらゆる情報を、意思や感情、経験までも伝えられる『哲学者』の言葉! それがあれば身の潔白を証明することなど簡単です! そうでしょう、お姉さま!?」


()()()()()。邪神に与する者だと? ()()()()()()()()()()


 何とか弁明しようとするハピネスに応じ、和成は『ミームワード』を発動する。

 だがそれを、アンドレ女王は即座に無意味と斬り捨てた。


「言葉に込める情報を自由により分けられる時点で、潔白の証明になるはずがないでしょう」


「……ッ、和成様!」


「まぁ、これが『ミームワード』の弱点だよな。『ミームワード』はあくまで伝えるだけの能力。伝えたあとの相手をコントロールできる訳では無い。誘導がせいぜいで、リアクションを予想して上手く使うしかない。どんな情報を伝えようと、それを無視して冷徹に動かれると無力化されるものだ」


 和成は――落ち着いていた。

 ハピネスからしてみれば理解できないほどに淡々としていた。

 それはまるで、自分が超える姿が想像できない姉の鏡写しのよう。


 2人はこの勝負の焦点を、舌戦の展開を、お互いに理解しているかのようであり、同時にどのように終わりを迎えるのかを、互いに分かり切っているかのようだった。


「こんな、こんなことをすれば――モウカリマッカ商会と竜人列島が黙ってませんよ! 和成様は依然、邪竜ディストピア・エヴァーを討伐した大英雄! それに、他のクラスメイトの方々だって! 超『賢者』様だって! こんなことは人族連合を不利にするだけです!」


 ハピネスが言葉を失うと、代わりにルルルが矢面に立つ。

 疑いをかけられた当人である、和成の弁明に意義は薄い。

 故にホーリー神国法皇の孫である自分がとばかりに、ルルルは和成を擁護する。


 だがその擁護を、アンドレ女王は当然のように押さえ込んだ。


「それらに関しては何ら問題などございませんよ。魔王討伐がなされた以上、竜人族との同盟は既に終結が約束されています。再び緊張状態が続く、かつての大戦以前の関係に戻るだけです。たとえ国交が悪化しようと、大海を挟んで女神の結界が健在である以上、仮に竜人族に侵攻されようと驚異に値しない。竜人族との敵対は、邪神の間者を刈り取るメリットを消し去るほどのデメリットになり得ない。モウカリマッカ商会に関しても、裏切者の後ろ盾となるような商会など、人族領には不要でしょう?」


「……ッ」

 ルルルには、咄嗟に反論することもできなかった。


「そして他の異界より召喚されし勇者様方に関しても――ええ、問題はございませんとも。アナタのような邪神の間者とは違うのです。彼ら彼女らは我々の味方、人族を決して裏切らない」


「……」


 ハピネスに至っては、一言口にすることもできなかった。


「最後に、超『賢者』様と学術都市エウレカですが――これも問題ありません。スペル・デル・ワードマン氏が()寿()()()()()()()()時点で、エウレカが邪神の間者を庇い立てるはずがない。そのような愚行に及ぶはずがないでしょう」


 そして、トドメとばかりに放たれた言葉が、呪文のように少女らの口を縛った。

 テレポーテーションを活用した魔導インフラの確立と、そこから生まれる巨額の富を用いた『学術都市』の設立。超『賢者』スペルは、富豪や天才の域を超えた、千年語られる偉人だ。

 少女2人が産まれる前から多くの伝説を残し、産まれてからも多くの功績を生み出した巨星。それが落ちた。失われた。


「そんな……」

「スペル様が……!」

 

 この事実に、2人はただ息を飲むことしか出来ない。

 一方で和成は――


「やっぱりか」


 その事実すらも、受け入れていた。


「でなければこんなことになるはずがない。スペル先生がご存命であるのなら、俺を討伐するにしてももっと別の方法を選んだはずだ。俺を裏切者と認めず討伐自体を妨害するか、或いは認めるための裏取りを徹底するか、認めないまでも大っぴらに討伐するために証拠を捏造するか。いずれにせよ、このタイミングでは仕掛けに来ない。ここまで荒っぽくことを進めるはずがない。――お前らがここに来た時点で、スペル先生が亡くなられたのだろうと予想はつくさ」


 女王アンドレは宣言する。ここで舌戦は終わりだと、勝敗は既についたと言わんばかりに、周囲の兵士たちに向け王としての絶対命令を。

 これ以上、和成に喋らせはしないとばかりに、勝負を打ち切りにかかる。


 その行動の前に、和成の『ミームワード』が発動した。


「ひとつ聞かせてくれ、アンドレ女王。()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


 その一言で、全てがひっくり返った。

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