第357話 VS邪神の端末① 暴れる左腕
高く高く、空の上にまで伸びていく邪神の左腕。
その巨大な柱の如き腕は、ハピネスによって真ん中から両断された。波及する斬撃は邪神の本体にまで届き、これにより邪神は魔界へと押し戻される。
だが、それはあくまで両断された左腕の下半分の話。両断された左腕の上半分は、天へと伸びていく勢いのまま上昇を続けていた。
もちろん、邪神が魔界へ押し戻された以上、それが天まで昇り切ることはない。どれほどの勢いがあろうとも、やがて左腕の上昇は止まり、うごめきながら落ちてくる。
――左腕が天空から地上に落ちてくる頃には、すでにそれは三つ目のドクロの魔王城へとその姿を変えていた。
右腕の欠けた、人のシルエットをもつ歪んだ黒い巨人は、まるで即身仏を水で戻したかのよう。その巨体は、その姿を目撃した人族連合に対し生理的な嫌悪感を強く与えた。
あれは敵であると、理屈を飛ばして結論に至れる異様だった。
邪神の左腕は王城を超える巨体を動かし、小さな邪神として活動を開始する。
☆☆☆☆☆
「和成君。あれが邪神の姿、ってことでいいんだよね」
その様子を離れた場所で見ながら、唯一邪神の輪郭を把握している和成に対し、慈が尋ねた。
活動を開始する邪神の左腕と、新たに発生した魔王城と戦うため動く人族連合。
両者の動きが見て取れる少し離れた高台に、彼ら彼女らは集結している。
「実際の邪神は、アレよりはるかにデカかったがな。そもそもアレではない魔王城が、コチラに残った邪神の一部に過ぎないわけだ。だから同じく邪神の一部である左腕だけであっても、十分に魔王城サイズとなる」
「つまり、もう一回邪神を倒さないといけないんだね」
『姫騎士』姫宮、『聖女』慈。
『ヒーロー』雄山、『魔法少女』法華院。
『処刑人』裁、『侍』剣藤。
そして、『哲学者』和成と『最上位魔導騎士』ハピネス。
ただしこのメンバーのうち、和成とハピネスは明確に戦線離脱だった。
未だ体が四分の一の和成と、腹部の両断が癒えたばかりのハピネス。
どちらも戦える状態ではない。
「我々の中で戦力として数えられるのは、和成とハピネスを除いた6人――いや、姫宮も除いた5人か」
和成を抱きかかえたまま、誰にも渡さずに剣藤は指折り数える。
この時ちらりと姫宮の様子を見て、彼女はそう判断した。
「私まだ頑張れるよ!? 慈ちゃんに回復してもらったし!」
和成を代わりに持とうと(受け取ろうと)差し出した手をスルーされた慈を余所に、姫宮は抗議の声を上げる。その声を遮るように、慈と剣藤の余計な攻防を遮るように、割って入った裁が告げた。
「……無理はするな。魔王を倒し、邪神の復活を阻止し、世界に開いた穴を閉じた。お前たちはすでに十分役割を果たしている」
「けど、じゃあ誰があの邪神の一部を倒すの!? 言っちゃなんだけど、裁くんと剣藤ちゃんは――」
「……そうだな。『処刑人』のスキルは人が人を裁くためのもの。俺の能力は対人が前提で、人外である邪神とは相性が悪い。剣藤の刀も、ハピネス王女の斬撃が効かないような再生能力持ちでは相性が悪いだろう」
「だったら――」
「なぁに心配するな姫宮! まだ俺達がいる!」
「その通り! 相手は邪神、世界の敵! だったらここは、『魔法少女』と『ヒーロー』の出番! でしょ!」
「うん、2人の『天職』とステータスは信用してるよ。フリーダムさは信用してないけどね!」
姫宮に殴られたタンコブを、慈に治してもらえなかった自由人2人。その力量は信じているが、妙な方向にやたら思い切りの良いところは一切信じていないと姫宮は一喝する。
そして、それを気にするような2人ではなかった。
「なぁに、大丈夫だ! けっして策がない訳ではない! なにせ平賀屋が頑張ってくれたおかけで、ライデン=シャウトとの戦いでも『スペシャル技』を温存できた」
「これは魔王戦、邪神戦でも同じ! これにより私たちは――7日間も『スペシャル技』を溜め込むことができた」
「けど『スペシャル技』のゲージって溜めきったらそこで終わり。別に明日に持ち越せたりしな――まさか」
「そう、俺たちはレベルの上昇に伴い、本来であれば保持し続けられない『スペシャル技』の使用権を7日分まで貯め込れるようになった」
「厳密には、今で6日と23時間59分50秒分! つまりあと10、9、8で――貯まりきったよ7日分!」
直後、『ヒーロー』と『魔法少女』の体が黄金に輝き始めた。
雄山のベルト、法華院のブレスレット。2人の変身アイテムに7つの輝きが走る。
「俺たちには即興魔法がないから、湧き上がる魂のエネルギーを和成ほど好き勝手には使えない。強力ではあるが、便利でも万能でもない」
「燃費だってあんまりよくない。貯めるのに時間がかかる割にすぐ使い切っちゃうし、3日目あたりで小出しに発動することもできない」
「けど、今この瞬間なら!」
「きっと誰よりも、邪神と戦うのにふさわしい!」
そして2人は構えた。
イメージするのはいつだって、最強の自分。
勇気を持って立ち向かえる、そんな存在。
「光の巨人、電光の超人、悪より生じた正義の仮面」
「日常の守り手たる伝説の戦士。愛と勇気の月の使者」
「あるいは、音なき世界の悪なき怪物。希望の光り輝く命の星」
「または、赤い仮面に隠されし正義の心。無個性ゆえのヒーロー」
2人は口にする。
かつて見た憧れ、そこに抱いた感動、今なお色あせない尊い何かを。
「理想はここにある」
「空想はここにある」
そのようにありたいと、理想を空想に託し宣言する。
「正義はここにある」
「希望はここにある」
それは今ここにあると。
我々こそがそれであると。
「「だからこそ、いくぞ! これが俺たちの――」」
そして2人は、同時に握った自らの拳を、誇らしげに高く突き上げた。
「「『今週のスペシャル必殺技』だーっ!!」」
瞬間、大地から現れた巨大な機械の手が2人をそれぞれ掴んだかと思うと、まばゆい光を放つ巨人が下からせり上がるように姿を表した。
黄金の光、魂の輝きが晴れたとき、その中から全貌が明らかとなる。
「爆誕! 『英雄将機デッカダイオー』!」
「超誕! 『魔法将機マミカーロボ』!」
太い腕に、短い足。ずんぐりむっくりしたその造形は、いわゆるスマートやスタイリッシュといったものではない。
ディフォルメの強い、頭身の低い姿。
威圧感よりも親しみを他者に与える、頑丈そうな分厚い機体だった。
「うわぁ巨大ロボだぁ!!」
驚きながらも目を輝かせる姫宮。
「異世界に来た時点で何が起きても不思議はないが……」
「あらためてこう見せられると、――ぶっとんでるね」
唖然とする剣藤と慈。
「……質量には質量をぶつける。実に合理的だ」
フォローにぬかりのない裁。
「いいじゃん。かっこいいじゃん」
剣藤に抱えられた四分の一のまま、親指を上げて称える和成。
それぞれ異なるリアクションを見せながらも、最後のそれは一致していた。駆動を開始した二機と、それに乗る『ヒーロー』と『魔法少女』に全員が声援を送る。
「「「「「――がんばれ!!!」」」」」
「「がんばる!!」
それがきっと、いちばん大事なものだった。
☆☆☆☆☆
遠く遠く、離れた場所。人族連合本部。
しかし、邪神の左腕と二機のロボの激闘を思えば、戦地と本部の距離は近いといった方が適切だった。戦いの被害と余波を思えば、この距離では近すぎる。
ダンジョンでも災禍獣でもない、この世界の常識には存在しない巨大な存在が戦う光景。それはまさに、戦いの規模からして違った。
その光景を見つめながら、超『賢者』スペルは通信の魔道具で連絡を取る。
「応答願う」
『……コチラ、『処刑人』裁 伴樹。無事に先行隊と合流完了』
魔王城ごと強襲を仕掛けた、魔王の暗殺と探りをスペルは和成に依頼した。
この時、目的の比重としては後者の方が大きかった。
敵は魔王。ならば相応の高ステータスが予想され、暗殺が成功する確率は低い。
よって仕留められるのならそれでよし。仕留められなくてもそれでよし。
確実な殺害ではなく、確実な情報の入手を目的に、情報の伝達と不死性による帰還に長けた和成を送り込んだ。
そして戦場が激化するにつれ、巨大な魔王城自体が暴れ出した。
こうなればのんびり構えている余裕はない。
連合本部は追加戦力として、和成と相性の良い高ステータス者を送り込んだ。
まずは同郷の『姫騎士』と『勇者』。そして戦場に無理やり余裕を生み出しながら、『聖女』『ヒーロー』『魔法少女』、『裁判官』『侍』と順次追加していく。
その最中、突如として魔王城は停止した。
和成たちが魔王の討伐に成功したのか否か、状況の推移に備える。
三つ目のドクロの魔王城の、頭部が爆散したのはそんな時だった。
発生した衝撃波が周囲一帯に破壊をもたらし、設備・魔導具・建物は壊滅。
特に通信の魔導具の大半が故障したことが手痛く、対処に追われる中、壊れかけの魔導具が最後に“世界に穴が開いた”と観測結果を出力した。
時空の歪みにより、指揮系統は更なる混乱を見せる。
連合はこの状態で、衝撃波による被害からの立て直しと、魔王軍軍勢への対処を行わねばならなくなる。
そして今、空間の歪みはなくなったが、新たな魔王城、邪神と思わしき黒い巨人が参戦。これの対処に『ヒーロー』と『魔法少女』が当たっていた。
超『賢者』スペルは尋ねる。
「コチラ人族連合本部、報告願う。――そちらの状況を伝えられたし」




