第354話 VS邪神② 世界を穿つ大穴の攻防
(魂の根源から湧き上がる、この世で最も純粋な力。それを消費して放つ一日一発限定の大技こそ、『スペシャル技』。それを俺は一日二発使える。魂の知覚を習得したことで、俺だけでなく魂でつながるブラディクスの分まで『スペシャル技』の使用権があるからだ)
『スペシャル技』のストックを計二発分、和成は持つ。
それは明確な、他にはない独自の優位性だった。
(つまり、『装備』現象によってライデン=シャウトの残滓ともつながっている以上、その分の『スペシャル技』使用権もあるということ。……だがライデン=シャウトはあくまで残滓。丸々残っているブラディクスと違い、残る魂は生前の一部だけ。
当然、魂の根源から湧き上がる『スペシャル技』のエネルギーはその分だけ減る。俺とブラディクスで2人分なら、ライデン=シャウトは0.3人分といったところ。その差は別のエネルギーで補うしかない)
だから、和成は別のエネルギーに手をつける。
血液に刻まれた魔剣の呪い。
忌まわしきものであると同時に、和成の命をつなぐ生命線そのもの。
本来であれば再生・修復に回される『邪悪』なる呪いのエネルギーを、和成は『龍精封印』に組み込んだ。
これにより、低級の浄化技程度で解呪され、そのまま即死に至るまでに呪いは弱められた。
回復はしばらく見込めない。壊れた体は修復されない。
例えそれらのリスクを背負おうとも、邪神を止めねばどの道ここで終わり。
そう覚悟を決めた上での、魔剣の呪いの消費だった。
(だめだ、まだ足りない。これでもまだ半分。やはり『スペシャル技』のエネルギーは代用できない。この世で最も純粋な魂の力は、他で代用するには燃費が悪すぎる。
だから――すまない姫宮さん。そんなつもりじゃないんだろうけど、そっちの『スペシャル技』を使わせてもらう)
そして、和成は足りない分を姫宮から拝借した。
彼女から送られる支援の光を、邪神に対する封印術へと転用する。
これで合計、3発+α。それら全てを、和成は全く同時に消費した。
(龍帝と妖精王。上位存在2人によってかけられたのが、邪神を縛る『龍精封印』。当然、俺単体で2人に並べるはずもない)
邪神の抵抗による衝撃で、和成の肉体は破壊されている。
全身はすでにぐずぐずの血みどろで、無事な箇所が残っていない。
マナ越しに伝わる身じろぎだけでこのざまだ。
ステータスの上昇を、まるで実感できない。
この世界の内側の者と、外側の上位存在とではそれだけの差がある。
我が身の至らなさを痛感するばかり。
だからこそ、和成はそれを選択する。
「ならば俺は、ここに女神の結界を重ねよう!」
ブラディクスとライデン=シャウト+『真なる太陽の一撃』。
そして、和成の魂から湧き上がる透明な力。
この世で最も純粋な、魂の根源から湧き上がる力。
これら3発分+αを消費して、和成は3種の上位存在を真似た3重のスペシャル技を発動する。魔法陣に浮かぶ『龍精封印』の文字に、新たに『妖聖』と『龍聖』の二文字が加わった。
血で濁る発音であったが、それでも魂の言葉によって、世界に対し和成の『スペシャル技』発動宣言が告げられる。
「『封印術・神聖龍精大結界』!」
かつて邪神を魔界へ閉じ込めた龍帝と妖精王の封印に、他種族のステータスを半減する女神の結界。それを和成は『スペシャル技』によって再現し、ハピネスの重力に抗う邪神へ発動した。
「オ、オオオオオッッ!?!?」
どよめく邪神の声を、マナ越しに和成は感じ取った。
龍帝の封印を『増幅』の性質をもつ妖精の力で強化。
同時に妖精王の封印もまた、『増幅』の性質を持つ龍の力で強化。
この2つの封印に、女神の『神聖』属性が持つ純化の性質を、龍と妖精の力で更に強化した結界を重ねる。
それこそが『封印術・神聖龍精大結界』。
和成はこれに、確かな手ごたえを感じていた。邪神の気配が遠のき、それにともないマナ越しに伝わる身じろぎが弱まっていくのを感じる。
ただ空間的な距離が離れただけでなく、女神の『神聖』なる結界で邪神の力が削がれていることを実感する。
和成の体の破壊が――ようやく停止した。
(まだだッ!)
それはそれとして、和成は気を抜かない。
(あとはこの三重封印で、世界に開いた穴を閉じるだけ! だがそのだけが、途方もなく長い!)
女神、龍帝、妖精王。『神聖』、『龍』、『自然』。
上位存在が使用することを前提とした封印術を、それぞれが所有する属性を司りながら和成は使用している。
しかしこれは、高いステータスさえあれば理論上なんでもできる、『即興魔法』によって無理やり帳尻を合わせているだけ。
当然、無理が通れば道理が引っ込む。
和成の魂には大きな負担がかかり、その意識は今にも吹き飛びそうだった。
ブラディクスの不死性と、『哲学者』の『至高の思考』。
このどちらかがなければ、既に和成の意識は限界を迎えていただろう。
和成の体は全身に流す3種のマナの影響で、高濃度の『神聖』属性を宿し続けている。もはや、存在の大半が『純化』の性質に蝕まれていた。
血液に流れる呪いが純化され、ただの赤色になった。
やがて血液自体が浄化され、とろみがついた透明な水になった。
これがサラサラになるまでに、そう時間はかからない。
次第に純化は血液から人体にまで及び、和成の体は溶け始めた。ブラディクスの呪いは、最低限存命に必要なものを残すのみ。それ以外は、すでに消滅している。
「和成くん、本当に大丈夫なの!? 死んじゃ嫌だよ!?」
「大丈夫だ! こっからでも呪い自体が修復され、復活できるのがブラディクスのヤバイところだ!」
これを見せつけられる姫宮は泣いていた。
和成にそう説明されたところで、涙が引っ込むはずはない。
だが――和成もやめる訳にはいかなかった。
世界に開いた穴をふさぐようにして、魔法陣を描くメルトメタル。
編みこんだ三属性のマナを陣に流し、全てのメルトメタルに行き渡らせることが出来れば――。
(あと少し、あと少しで次元を貫く穴は閉じる! この穴さえ閉じれば邪神は上がってこれない! 再びやつが封印を破るまで、何十年か半年かは分からんが猶予はできる! だが、だが――それは邪神も分かってるはず! だからこそ、ここでアイツが何もせず終わるはずがない!)
世界に開いた穴をふさぐために、そして邪神を封じるために注ぎ込む三つの属性。これにより生まれる魔力のつながりを通じて、邪神の肉体が変形していく様子を和成は感じ取った。
(邪神の左腕が――)
ねじれた巨人のような姿をした邪神には、右腕がない。
その代わりなのか、十何本もの左腕が密集するように長く生えていた。
それらがただ一本を除き、全てが急速に根元へと収束を開始している。
長い腕が縮まり、密集し、邪神の肩で大きな肉のこぶが脈打つ。
(爆発する)
そして、腕が激烈な勢いで発射された。
密集された十何本もの腕の内、中央に位置していた一本が上方へ向けて射出。
収束・密集・圧縮された他の腕によって押し出された、ただ一本の左腕が重力に逆らい上昇する。
邪神の腕が、穴の向こう側であるコチラに対し伸ばされた。
「ハピネェェェェェスッッ!!」
咄嗟に叫んだその言葉の、込められた『ミームワード』により情報が伝達。
世界を穿つ大穴の真上から、超重力の『スペシャル技』を放っていたハピネス。
そんな彼女に対し、邪神の動向が伝わった。
「はああああああああ!!」
これに対するハピネスの返答は、渾身の力で発せられる気合の叫びだった。
全身から絞り出す彼女の底力により、『スペシャル技』の加重が増大。
「止まれェェェェェェッッ!!」
それでもなお、邪神の左腕は止まらない。
上昇を続けるその腕は、和成が閉じようとしている結界をこじ開ける形をしていた。
穴の真上で浮かぶハピネスは、邪神の貫手と真正面から向き合う場所にいる。
(止められないのなら――――)
勢いの弱まらないその腕が、超重力の闇の中でも見えたとき。
それを正面から受けて立つ覚悟を決めた少女は、細剣を盾のように構えた。
「来い!! 邪神!!!」




