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第36話 面倒ごとの始まり

先日よりアルファポリスでも外部URLを登録する形で投稿しています。

報告を忘れてしまい、申し訳ございません。


 歩き出した一行は、まず慈と久留米のペアと合流することにした。慈には久留米を抱えて屋根へと飛び上がることは出来なかったので、やむを得ず複雑な路地を使って現場へーー和成たちのもとへーー向かっている。万が一に備えて久留米と和成は発信機を持たされているので、それを使えば簡単に合流できる。

 現在、その発信機の位置情報を受け取る魔道具を持つメルが先頭を歩き、その隣で初めて見る魔道具に興味津々な様子の甲冑少女が覗き込んでいる。甲冑でその表情を伺うことは出来ないが。

 そしてそれは、ちょうど姫宮に和成と話ができるタイミングが訪れたということである。


「ちょっと和也くん。展開が早くて私、あんまりついていけてないんだけど(小声)」

 そう言う姫宮の顔は、幼子が親に見せるような頬を膨らました不満顔だ。

「そんなこといわれてもなぁ・・・・姫宮さんは何が不満なんだ(小声)?」

「言わなくても、察しのいい和成くんならわかってるんじゃないのー(小声)」

 ツーン。

 姫宮は程よく高い鼻をそっぽに向けながら意地悪に答える。

 そもそも姫宮自身、何がそんなに不満なのか分からない。猫を守るためにチンピラからかばった少女が道に迷っているのなら、助けを惜しもうとは思わない。手を差し伸べることに不満はない。

 なら何故こうも、釈然としないのか。


「ひょっとして、メルさんと俺が共通認識を持ってることに疎外感でも持ってるのか?(小声)」

「そうそれ!そんな感じ!(小声)」

 そんな分からなかった疑問にすぐ答えが出た。和成があっさり言い当てた。

「そうだよ!まさにそれなんだよ!私を置いてけぼりにして話がどんどん進むから、不満で不安で不快なんだよ!(小声)」

「一応、説明できなかったのには理由があるんだけどな・・・・(小声)」

「何さ。一体どんな理由があったって言うのさ(小声)」


「そうだな・・・・なぁ姫宮さん、あの子はどういう立場の子だと思う?(小声)」


「どういう立場って・・・あの子はただの、甲冑を被った女の子じゃないの?(小声)」


「じゃあ更に質問だ。甲冑を被った()()()()()()って何だよ(小声)」


「ーーーあ」

 そう言われてみると、確かにおかしい。

 モンスターの脅威が身近にあり、この世界では子供でも簡単に武器を買えることと、街中でも甲冑や鎧を着て普通に出歩いている冒険者がいることから見逃していた。

「確かに、なんであの子は甲冑を着ているの?あんなの重いし暑いし、動き辛いだけじゃない・・・・(小声)」

 しかし当の甲冑少女は、まるでケロッとしていて甲冑を負担に感じている様子がない。ずれかけた西洋風仮面を座りの悪い帽子を被りなおすかのように調節し、フルプレートの金属鎧を普段着のように着こなしている。


 天を仰げば傾く西日はまぶしく、歩く石畳は堅い。

 風の吹いていない今日は、少し運動すれば汗ばんでくる。先ほどの全力疾走で自分も普段着の下で汗をかいている。

 そんな姫宮の頭に疑問符が湧く。


「これが大人なら『戦闘職』ってこともあるだろうから、別段おかしなとこはない。けど少女の場合は違う。あの子は鎧で体格が増して見えるから正確には判別できないが、だいたい小学校高学年から中学1年生辺りだろう。なのに何故、甲冑を着て平然としている(小声)?」

「鋼野くんみたいにスキルを持っていれば、負担なんかは軽減されると思うけど・・・(小声)」

「しかしそれは同時に、何故そんなスキルを持っているのかという点に繋がる。()()()()()()()()()()()()()()、平然と鎧を着ているんだ。それと同等に鎧を着こなすのに必要な、補正をかけるスキルを持つのはーーー騎士団や冒険者などの戦闘を主に仕事とする職業に就く人の中でも、最低でも中堅上位に位置する人たちだ。精々あの子は高く見積もっても十代前半。甲冑を着て日常生を平然とすごせるスキルは通常、十代前半の少女が持てるスキルではない(小声)」

「つまりあの子は、普通じゃない(小声)」

「更にここで、何故あの子は甲冑で全身すっぽりと覆っているのかという疑問を持ち出すとーーーー(小声)」

「ーーーー正体を隠したかったから、素顔を見せたくなかったから・・・(小声)」

 普通でないこと。素顔を見せたくないこと。

 その二つの条件から、ようやく姫宮はメルと和成がなぜ自分に碌に説明をしなかったのか理解できた。


「あの子は、何か特別なーーー例えば貴族とかの、やんごとなき身分の子ってことか・・・(小声)」


「その可能性が高い。【有事の際に積極的に前線に立ち戦う義務のある貴族たちは、高ステータスの子が生まれるように相手を選んで結婚し、子孫を残す傾向にある】と、読んだ本に書いてあった。裏付けも取ってある(小声)」


「そしてそれを口に出して、身分素性を隠したがっているあの子に聞かれればーーー(小声)」


「逃げられる可能性が高い。そして土地勘のない此処で高いステータスにまかせて逃げられれば、そのまま逃げられてしまう可能性が高い。『甲冑を着る際に負担を軽減するスキル』だけが突出している可能性もなくはないけど、そんな極端なステータスの持ち主は少数派だ(小声)」


「だから、あの子が離れるまで説明してくれなかったのか・・・(小声)」


「そういうことだ。こうして偶然とはいえ関わった以上、見なかったフリは出来ないしな。姫宮さんだってしないだろう(小声)」


「・・・ハァ~~~」


「どうした、姫宮さん(小声)」


 結論が纏められた途端、肩を落とした『姫騎士』の口から深く深くため息が飛び出た。


「だって・・・説明されたら、そんなの当たり前じゃんていう結論が出てきて・・・けどそれに、私は全く気づけなかったわけでしょ・・・それがね・・・(小声)」


「その辺りは巻き込まれた俺と、召喚された姫宮さんとの違いだと思うけどね。

 俺にとってこの世界は現実だ。学校で本を読んでいたと思ったら召喚されていた。女神様との会話で非現実を体験してから召喚され、現実と虚構が断絶した状態でゲームの世界にいる皆んなとは違う。日常と地続きのまま何時の間にか別世界に召喚された。

 だから姫宮さんは、この世界に感じる違和感を「虚構ゲームだから」と処理して、そこで立ち止まってしまう。けど俺にとってこの世界はあくまで現実。不思議なことをゲームだからと納得するんじゃなくて、元の世界にいた時と同じように考える。「世は全て不思議なり。ーーーーよって世に不思議なし」ってね。

 違和感が目について受け流せないから一歩踏み込んで考えられる俺と、違和感が目につかず、目についても受け流せて一歩踏み込めることを見落としてしまうみんな。

 王城にいる人たちの人間臭い行動とかから俺は、この世界を日本と大して変わらない現実であると判断していたけど、もしも彼ら彼女たちがゲームのNPCのような存在だったとしても、俺はこの世界を日本と大して変わらない現実だと判断していたと思うぜ。少なくとも、その認識を塗り替えるのに数週間はかかっていただろうな。

 それだけの違いで、特に優劣はないと思うけどね(小声)」


「・・・つまり、和成くんが気づけなくて、逆に私が気付ける何かがあるかもしれないってこと?(小声)」


「そういうことだ。俺の見ている世界と姫宮さんが見ている世界は違う。当たり前のことだ。

 だからまぁ、気にすることはない(小声)」


「ーーーん、分かった。もう気にしないよ」


☆☆☆☆☆


「ただそれはそれとして話は変わるけど、メルさんってクールビューティに見えるけど実は意外と天然なのかな?(小声)」

「どうした急に噂好きなおばちゃんの顔をして(小声)」

「比喩が酷いな!・・・・いやだって、澄ました顔して和成くんをお姫様抱っこしたり、現場に連れてきちゃったりしてたじゃない(小声)」


「ああ、あれはまぁ・・・()()したからね(小声)」


「ーーーえ」



()()()()()()()()()()()()鹿()()鹿()()()。一触即発な感じだったから、滑稽さ(ギャグ)を演出して場の空気を白けさせたのさ。死傷者が出ることなく向こうが逃げてくれたから、穏便に済んでよかったよかった(小声)」



「ーーーあれ、演技だったんだ」



☆☆☆☆☆



「ーーーと、云うことがあったわけだ」

 ひと先ず無事に、和成たちは慈と久留米に合流できた。甲冑の少女を姫宮とメルに任せて、自分たちの話を聞かれて逃げられないようにしてから二人に事情を説明する。簡潔に要点をまとめ話がわき道にそれないうちに語りきる。そのため、姫宮との会話は省略された。


「唐突と言うかなんと言うか・・・私達が偶然街を視察している時に、偶然やんごとなき身分の子が家を抜け出していて、そんな二組が偶然出会うなんてーーー」

「そんなこと、普通あるー?」

「俺も無いとは思うが・・・しかし、可能性自体はゼロじゃないんだ。起きうる出来事が起きただけと、言えなくもないだろう」

「和成君、それは本当に言えなくもないってだけでしょ。それ以上でもそれ以下でもないじゃない」

「はっはっはー」

 和成は雑に誤魔化した。和成自身、こんなことがそうそう起きてたまるかと思っている。


「まぁ起きてしまったものは仕方ない。それとも、あの幼稚な演技で誤魔化せてると思ってる世間知らずなお嬢さんを放っておくか?」

「それは・・・確かに放っておく訳にはいかないと思うけどさ・・・」

「あの子をどうするのー?どうするつもりなのー?」

「この国における警察と同じ役割を持つ、騎士団に預けるのが一番無難だろうな。今すぐ連れて行こうとしたら逃げられそうだから、多少遊びに付き合って楽しませて満足させてから、騙して連れてって退路を絶ってから、騎士団に保護してもらおう」

「そうだね。多分それでいいと思うよ」

「無難過ぎて反論のしようがないからねー」

 一番良いのは今すぐにでも連れて行くことだろうが、それを無理に実行しようとして逃げられては意味がない。『哲学者』和成と『料理人』久留米は当然として、甲冑少女のステータスは、未だ成長途中である『聖女』慈と『姫騎士』姫宮のステータスを上回っている可能性もある以上、逃げ切られる可能性もある。そうなればまた別のトラブルの元となるだろう。


「あ、あの・・・・大通りまで案内してくれて、感謝するのである」

 そんな渦中の少女の喋り口調は、始めは少女らしくおずおずとしたものであった。しかし口にした途中からその口調ではキャラ設定に合わないと思い至ったのか、最終的には尊大な物言いに変わっていった。

 ガバガバ過ぎる演技だ。

「なぁに、さっきも言った通り袖振り合うも多生の縁。気にしない気にしない」

 

 尚、補足ではあるが『意思疎通』のスキルは意思を基に翻訳するスキルである。そのため例えば諺などは、「覆水盆に返らず」が英語で"There is no use crying over spilt milk."(こぼれたミルクを嘆いてもしょうがない)と翻訳されるように、その地域に存在する別の諺に置き換えられて伝わる。同じような意味の諺が存在しない、又は知らない場合は、「一度起きてしまったことは二度と元には戻らない」という意味が直接伝わる。

 少しずつであるが和成は、主にメルとの会話から『意思疎通』のスキルによる翻訳の法則を調べていた。

「そうでしょ・・・そうであるか・・・」

 それはそれとして甲冑の奥から響く声は所々素の口調に戻り、それは慌てて修正されていた。

 中の人間の性格が、おそらく演技というものに根本的に向いていないからだろう。


「ーーーして、そなたらは夫婦であるのか?」

 そして爆弾発言がぶつけられた。姫宮などは少女のつたない態度から完全に油断していたので、心臓が飛び跳ねたかと思った。嘘や演技が苦手なのは彼女も同じだ。

 しかし少女のそれは当然の疑問である。この世界では和成達と同年代で結婚している者は珍しくない上に、一夫多妻制なので男一人女四人の組み合わせは何もおかしくない。

 そもそも和成達が時間に余裕のある裁を連れてこなかったのは、男二人に女四人の組み合わせが男一人に女四人の組み合わせより珍しいからである。ーーすでに起きた上に現在進行形で首を突っ込んでいるがーー和成たちはそもそもトラブルを最小限に抑えようと、市街の空気に溶け込む目立たない格好と組み合わせでここにいる。


「そうだよー」

 しれっ。

 だから、和成が口から出まかせを即座に返したのも、本来の目的を思えば当然のことである。


 (オーイ!!)と、心の中でツッコむ姫宮。

 (すごい。息を吐くように嘘吐いた)と、妙なところを感心する久留米。

 (和成君ならそう返すだろうなとは思ってた・・・・)と、呆れる慈。

 (当然の行動ですね)と、冷静かつ合理的に判断するメル。


「ご家族で王都の観光であるか?」

「そうなるな。俺はこれでも愛妻家で通ってるんだ。夫婦円満の秘訣はやっぱり家族サービスだしな」

「戦争が近いやもしれぬのにか?」

「だからこそだ。考えたくねぇが、戦争が起きちまえば家族サービスをやる余裕はないだろうからな」

「・・・・なるほど・・・・そなたの名前は?」

「俺か?俺の名前はーーーーデカルト・ハイデガーだ」


 (よくもまあ、あんなに無いこと無いこと口に出せるなぁ・・・・)

 (平賀屋君、詐欺師の才能でもあるのかなー)

 デカルト。

 ハイエガー。

 共に著名な哲学者の名前である。

 つまり、適当にその場の思い付きで作ったそれっぽいだけの偽名である。


「デカルト・ハイデガー・・・・変わった名前であるな」

 しかしここは、別にヒラガヤカズナリでも大して変わらなかったかもしれない。

 一応和成は、調べておいたこの国における一般的な名前から不自然ではなさそうな偽名を作ったのだが、世間知らずらしいお嬢さんには無意味だったようだ。

「よく言われるよ。ただ、俺たちの故郷じゃあ当たり前過ぎるくらいに当たり前な名前だがね」

「・・・・そうなのであるか」

 そしてそこは勢いで乗り切る。

 結果納得させられたので、やはりヒラガヤカズナリでも大差なかった可能性が高い。


「ーーーで、君の名前は?」

「・・・・・・・・・・・・」

 ーーーそこで黙ったらダメでしょ。


 返された質問に答えられずに窮する少女に抱いた、五人の感想をを意訳して総括すれば、大体そんなところだろう。

 自分から積極的に墓穴を掘るスタイル。相当な世間知らずか、よほど嘘を吐くのが下手なのか。

 おそらくはその両方である。


「お、俺の名前はナイツ・ルーン・・・・だぜ!」

 一人称も語尾も先ほどのものから変化していたが、空気を読んで誰も何も言わなかった。


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