第347話 VS魔王戦目前 新たな装備
連合の本拠地を壊滅させる勢いで振り下ろされた邪神の左腕。
そんな大質量による暴力を防いだのは、ホーリー神国の防御結界だった。
邪神の腕と聖なる結界。
2つが激突したことで、夜空で火花が散り放電が駆け巡る。
そして最終的に、ホーリー神国の結界は邪神の腕を弾き飛ばした。
歓声が周囲から上がる中、和成と慈はギルドへ向かう速度を早める。
「す、すごい……!」
「全くもって同感だ。けど――もしかすると長くは保たないかも」
結界の耐久に不安を抱きながら、2人はギルドへ急ぐのだった。
☆☆☆☆☆
「魔王城の眼窩のひとつ、王室らしき場所を『千里』眼で覗きました。そこには推定魔王とされる人物が!」
「うむ」
「すぐに気づかれ抵抗されましたが、代わりに戦場を俯瞰で見続けていました。戦況は概ね把握しているつもりです」
「うむ」
和成の『ミームワード』で伝えられた情報に、スペルはただ一言うなずいた。
つまり補足の説明はなく、和成の今の分析のままで問題ないということ。
「また道中、『千里』眼で魔王城内部の間取りも覗いておきました。『図』」
「和成君そんなことしてたの!?」
すでに魔王城の地図作りを終えていた和成に、慈が普段はしない大きなリアクションをとる。
ステータスの上昇により、複数の『千里』眼を負荷なく展開できた結果だった。
収集した情報を、和成の手のうちで統合して出力。即興魔法により一枚の地図が生み出される。そこに魔王城の内部が記されていた。
「コチラが魔王城の地図になります。確認をよろしくお願いします」
「――うむ」
手渡された地図に目を通しつつ、魔法で生み出されたそれをスペルはコピーした。
魔力で生成した紙に、糸のように高密度な魔力を通すことで、魔法陣を描くように新たな地図を生み出したのだ。
その複製品を部下に手渡しつつ、更に増やすよう告げてから改めてスペルは和成に向き合った。
「さて和成殿。……君には少々、死地に飛び込んでもらわねばならない。了承してくれるかね」
「無論です、アナタのご指示なら」
和成はスペルを信頼している。
自分に命令を出す存在として、この人の言うことなら反論はない。
これが時間の余裕があるのなら、幾らかの質問はしただろう。
だが今は時間がない。
ならば即断即決、信頼できる頭の指示に従う。
結局のところ、これが一番早い。
信頼・団結・協力。
これらは、円滑かつ効率的に物事を進められる最上の手段である。
(すまんな、また君に危険を背負わせてしまう)
「――生きて帰って来るんじゃぞ。サファイアのためにも」
(何をおっしゃる、頭にかかる負担が一番大きいでしょうに)
「スペル先生こそ、どうかお体を大切に。ご無理なさらぬよう」
☆☆☆☆☆
魔王城への突入。そして、魔王の討伐。
それが和成に託された依頼だった。
この依頼最大の特徴は、和成が単身で乗り込むという点だろう。
「……本当に、和成君がやらないとダメ、なのかな。たったひとりで突入なんて」
「とは言え、あくまで俺の役目は斥候だ。『神出鬼没』で魔王の玉座に飛んで、戦いながらの試金石。魔王を消耗させつつ、そのスキルや戦い方に関し情報収集を行う」
「危険、だよね」
「だな。だが、一番危険じゃないのも俺だ。即興魔法による対応力、ブラディクスの不死性、『千里』眼での情報収集、『ミームワード』による情報の伝達。最悪の場合でも、『神出鬼没』によって帰って来れる。
これに加えて、レベルアップでステータスも上がったんだ。より多くの情報を引き出して帰還することにかけて、俺以上の存在はない。そうスペル先生は判断なされた」
「だけど――相手は魔王」
「ああ、だから絶対はない。たとえ誰が挑もうとも。だからこうして、超特急で突入準備を整えている。なぁ、城造」
そうして和成が視線を向ける先では、『職人』城造が作業に没頭していた。
ここは『工房』、高位の『職人』だけがスキルで生み出せる作業用の亜空間。
城造は現在、和成の『武器』を爆速で鍛え上げていた。
「お前の『武器』は全部で4つ。『吸血奇剣ブラディクス』、『黒龍装甲ユートピア・ビギニング』、『流体金属メルトメタル』、『セイントモミの白鞘』。
そこに5つ目として加わったのが、ライデン=シャウトの『麒麟の槍』。この内、黒龍装甲と白鞘は今までは格下にしか通用しなかった」
「格上相手だと白鞘は壊されるし、黒龍装甲は拘束具になるからな。防御力が低すぎるせいで俺の耐久は泥人形並み、鎧の強度もステータスの共有によってペラペラだ。装甲越しでも、殴られるだけで拳が体を貫通する以上、どうしても邪魔になる」
「結局、黒竜装甲は邪竜討伐に対する勲章以上の意味合いが薄かったからな。お前のバトルスタイルにあっていたとは言えない。――だが、ステータスが上がった今なら違う。黒竜装甲も白鞘も、身を守る『装備』として十分なものになったはずだ。そこに『麒麟の槍』の効果により、『敏捷値』も上昇する」
「だが……槍と魔剣の二刀流は現実的でない。利き手にブラディクス、左手に長槍じゃあバランスが悪い。戦いにくくてしょうがない」
「だからこうして、俺が槍を新しい武器に加工しているわけだ」
そう言って『職人』城造が『麒麟の槍』に金鎚を振り下ろす度、稲妻のようなノコギリ状の刃先へと集中するかのように、槍の柄が短くなっていく。
「ライデン=シャウトの槍の本体は、穂先に加工された角そのものだ。ここに幻獣、『麒麟(仮称)』の魂の欠片が宿っている。そして、柄の部分は角から発生する『雷』のマナが物質化したもの。だからお前がこの武器を両断した時、槍の柄は『雷』のマナがほとばしるだけで復活した。そしてこの時、柄の方にもわずかに魂の欠片は存在する」
「ああ、なるほど。つまりその武器は、膨大な『雷』属性さえ注ぎ込めば、角の穂先すら復元できるわけか。2つに両断したこの槍を、あの時俺とライデン=シャウトは両方とも『装備』していた。条件さえ整えば量産もできる特殊な『武器』」
「その分ステータスは分散して性能が落ちるがな。ともあれ、『麒麟(仮称)』から採れた素材はかなり優秀だな。加工がしやす過ぎて、コレならどんな武器にもできちまう。見てみろよ」
そう語る城造の手の内で、みるみる内に角は姿を変えていく。
まる宝石のような結晶へ、雷の角が圧縮されていった。
「膨大なマナを秘めてるのにめちゃくちゃ安定している。まるで粘土なみに楽々加工できるぜ」
「『観察』た感じ、性質としてはダンジョン・コアに近いな。いや、だが安定してるということは、扱いやすさはコチラが段違いか」
「だな。そのせいで――もうできた」
加工し終えた『麒麟の槍』は、もはや槍ではなく宝石だった。
柄は穂先に飲み込まれ、穂先はぶ厚い雷状の結晶へと姿を変えている。
その結晶を、『職人』は白鞘と黒竜装甲に組み込んだ。
「お前の『白鞘』には、もともと黒竜装甲と同じ邪竜の鱗を装飾させていた。『白鞘』を黒いトゲの鱗の鞘で更に覆ってるようなものだったが、その切れ味は武器として使えるほど。魔剣と鞘とで二刀流ができるほどだ。
今回はそこに、メル卜メタルと麒麟の角を組み込んだ。角の電力を動力とし、流体金属を接着剤代わりにしている。お前の魔力操作があれば、電流を掌握しメルトメタルを自在に操作できるだろう。つまりは邪竜のウロコを好きに組み換え、鞘の装飾を変形できるということだ」
そう言って城造は和成に鞘を投げ渡した。
元の木鞘に鱗とメルトメタルの装飾が加わったため、結構な重量が増している。
刺々しい鱗もあって、持ちにくさは相当なものだろう。
だが、組み込まれた麒麟の角の雷がある。
投げ渡された新たな鞘は、和成が手をかざせば魔力操作ひとつで電磁浮遊。
直接触れる必要なく受け止められた。
「なるほど、コレは色々と使えそうだ」
「麒麟の角を加工したものは、白鞘と黒竜装甲の両方に埋め込んである。2つは互いに電磁で引き合うし、いざとなれば放電での攻撃も可能。ブラディクスの血の刃も、メルトメタルも電撃には耐性がある。つまりはどちらも『雷』属性を付与して戦えるというわけだ」
「――ありがとよ、城造。これはお礼だ、受け取ってくれ」
和成が城造に差し出したのは、『王国の一撃』と一緒に与えられた褒賞金。
それと、人魚姫レディ・ローズから受け取った海鮮の骨や殻だった。人魚族から送られた海鮮は、中身を食べ終えたあとの残りすらも薬や武器となる。
無口な『職人』は、それを無言で受け取った。仕事が終わった以上、彼はこれ以上喋らない。だが今回ばかりは珍しく、城造は最後に一つだけ言い残した。
「……お前は死なないだろうが、死ぬなよ」
「――ああ」
そして、待機していた『聖女』慈の支援魔法が完了し次第、和成は『神出鬼没』を発動。邪神の骸の魔王城『ドクロガベス』の最上階、『魔王の間』へモヤのように移動したのだった。




