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第340話 急襲、最後の魔王軍七大将

 

 会場の解体が半分を超えた時、他種族のステータスを半減する『女神の結界』の疑似再現を維持できなくなる瞬間が必ず来る。


 その大きな隙を魔王軍に突かれないためにも、人族連合は和成のような探知能力持ちを各所に待機させていた。警戒を怠ってはいない。女神の結界とはまた別に、攻撃を防御する結界や『瞬間移動』による侵入を封じる結界も張られてあった。


 少なくとも、これで有象無象の魔王軍では通れない。

 だからこれを突破できるとすれば、七大将のような限られた強者だけ。

 そんな外敵に対処するため、『勇者』を筆頭に国家より技を授けられた英雄たちが、多く警備を行っていた。


 この戦争でレベルを何十も上げたハピネスもそんな一人。少女はこの状況で、自身の細剣を抜いたまま待機していた。

 金の髪をまとめ、鎧装束に身を包み、青い瞳はまばたきもしない。張り詰めた糸のように、彼女の警戒はギリギリまで高められている。


 詠唱はすでに唱え済み。加重による拘束・圧殺、空間を裂く斬撃、瞬間移動。

 敵に応じ、なんでも、いつでも発動できる。


(女神様の結界の模倣が解除されるまで、あと5秒、4、3、――)


 何もなければそれでよし。しかし、もしも何かが起こったら。

 そんな事情もあって、この場に集結した英傑の警戒が上昇していく。

 彼らに油断はない。あるはずがない。

 だからこそ、その瞬間を迎えた時、会場の警戒は最大値を突破した。


(2、1、0)


 天候はくもり空。

 薄暗くはあるが、雨が降るには黒さが足りない。雲の密度が足りない。

 灰色の雲は、豪雨や雷をともなうほどでは、確かになかった。


 ――そんな天災とは無縁なくもり空を、女神の結界が解除されたまさにその瞬間、百近い雷が同時に駆け巡った。


 直後、雷轟直下。

 防御の結界を貫通する形で、光の柱のような極雷が天空から突き刺さった。


(来た!)


 その一撃で、まず大地が割れた。解体が半分終わっていた会場は完全に消し飛び、貴重な古代遺物が失われてしまう。雷光が周囲を塗りつぶし、ほとばしる電流が周囲一帯に無差別な破壊をもたらしていく。


 ――そんな兵器並みの強襲の中を、数々の英雄たちは乗り越えて進む。解体を行っていた作業者たちの救助を並行しながら。


 遠距離から雑に極大魔法を打ち込んで死ぬのは雑兵まで。一騎当千の英傑ならば、その程度では取り逃がしてしまうもの。


 だからこそ剣と魔法の世界では、魔法のあとは剣の出番。

 レベルの高いものが接近し、直接心臓に刃を突き立てる。

 結局これが一番確実で、範囲攻撃は高ステータス者を取り逃すリスクが高い。

 だから今回、最後の魔王軍七大将は、王道にのっとり直接敵陣に突貫した。


 この強襲に対し英傑が果敢に飛び込むのは、突き刺さった極雷の中心である爆心地。魔王軍を討ち取ろうと、各々が武器に『技』をまとわせ立ち向かう。


 そんな未だ雷の閃光が止まない中で、()が叫んだ。


「我が名は魔王軍七大将最後の一人! 鬼人族の『神槍マスターオブランサー』!

 名を『ライデン=シャウト』! いざ尋常に――」


 雷の槍を携えた、額から一本角をはやす鬼女。

 筋肉質な恵体の彼女こそが、最後の魔王軍七大将だった。


「勝負!!」


 稲妻状の刃を持つ、振りかぶられた雷の槍。

 それと最初に打ち合ったのは、誰よりも早くその場に辿り着いた『勇者』だった。『勇者』天城の剣と『神槍』ライデン=シャウトの槍が激突する。


(加勢するぞ天城!)

(名乗りをあげられないと、なんか調子出ないけどね!)


 直後、『ヒーロー』雄山と『魔法少女』法華院、追いついた2人が追撃を加えた。


(『翔けつける黄色い閃光! 稲妻イナズマの四号、イエローモード』見参!)

(『翔けつける天使の翼! 浄化形態、エンジェルモード』見参!)


 心の中での口上が終わり、戦いが始まった時点で戦闘は音速を超えた。

 言葉を口にする余裕すらない1対3の戦いが繰り広げられる。


 そして戦いの際中、2人はあることに真っ先に気づいた。

 そのことに天城が気づかないことを不思議に思いながら。


((この槍、まさか――ワタシたちをふっ飛ばした『麒麟(仮称)』の角!?))


 突如として現れ、いななきひとつでクラスメイト達を吹き飛ばした幻獣。

 その特徴から和成が『麒麟』と呼び、結果そう仮称することにした、倒せないままに逃がした災害のような獣。

 その角が素材として、彼女の『槍』という『武器』に使われている。

 ということは――。


(もしかしてコイツ!)

(あいつを倒しちゃったの!?)


 まだレベルが低く戦闘経験も浅かったとはいえ、何度でも立ち上がるこの2人が一撃で倒されたのは、後にも先にもあの一回のみ。

 それほどの強者である『麒麟(仮称)』を、最後の魔王軍七大将は討ち取り『装備』をこしらえた。


 その事実は自由人2人を柄にもなく委縮させた。

 時間にして半秒もなく、委縮といっても筋肉が僅かな強ばりを見せただけ。

 その“だけ”が、『神槍』である彼女の前では極めて大きかった。


 まずは先手必勝。

 雷の速度から放たれる槍の先制攻撃が、避ける間も無く2人の急所に命中した。

 回避に成功したのは『勇者』天城ただ一人。

 『ヒーロー』のスーツも『魔法少女』のドレスも、専用装備であるため貫かれはしない――が、それはつまりそうでなかった場合、この時点で2人は心臓を貫かれ勝負が決まっていたということだ。


 雷をまとうライデン=シャウトの槍は、触れるだけで相手を感電スタンさせるだけでなく、雷熱による燃焼で体を焼く。

 異常なまでの防御性能を持つ、状態異常を無効化する『ヒーロー』と『魔法少女』の専用装備がなければ、そもそも勝負の土俵に立てていなかっただろう。


(『イナズマ・パンチ』!)

(『フェザー・ステッキ』!)


 自身の『装備』の防御性能に任せ、『ヒーロー』雄山と『魔法少女』法華院は反撃する。間合いを詰めての接近戦を試みる。

 しかし、巧みな槍さばきに全て絡め取られた。


 川のせせらぎのような、静かで優美な槍の舞。その穂先が流れるままに、『ヒーロー』の雷速の拳はいなされ、『魔法少女』の翼渦巻く嵐をまとったステッキも受け止められた。


 これぞ、後手必殺。そこからライデン=シャウトが繰り出したのは、轟音をともなう槍柄での殴打であった。雷が爆発した勢いで繰り出されたそれは、2人を当たり前のように吹き飛ばした。


(――ああ、そうか)

(切ったり貫いたりだけじゃなく、ぶっ叩くこともできるんだ……!)


 速いからこそ、先制攻撃をいくらでも決められる。その時点で、いつ勝負が決まってもおかしくない。

 故に、先手必勝。


 例えこれを乗り越えようと、槍さばきの巧みさから簡単に対応されてしまう。その隙をつかれ、次なる雷が襲いかかる。

 故に、後手必殺。


 それだけ彼女の槍には隙がなかった。

 先手必勝と後手必殺の融合。


 それが雷神の槍だった。


(これが、最後の魔王軍七大将……!)

(ものすごく強い!!)


 魔王軍七大将、最後の1人。

 鬼人族の『神槍マスターオブ・ランサー』、ライデン=シャウト。

 今まで戦った中で彼女が一番強いと、2人が結論付けるのに10秒もいらなかった。


「ふふ! ふふふ! ふふふふふふ!!」


 ライデン=シャウトの動きに雷速で動けることへの慢心はない。

 英傑の集団相手に、相手が自分の速度についてこれる前提で動いている。油断なく槍から技を繰り出している。


 相手を軽んずることなく、自身の研鑚を誇るように見せつける。それが彼女の戦い方で、彼女にとっての真剣勝負。

 だからこそ、2人はふっ飛ばされる中で、笑いながら戦う彼女の姿をどこか美しいと思ってしまった。


 そしてライデン=シャウトが笑った時、次の瞬間を待つまでもなく、雷速の『神槍』は残る天城を余所に消えていた。

 次に彼女が出現したのは、まったく別の場所。

 最初の雷撃がまだ一帯に迸るのが終わっていない中、他の英雄相手に一騎打ちを挑んでいた。


 彼女は単なる超高速移動をもって、瞬間移動のようにひと足飛びに場所を変えただけだった。


 ただし、この時一騎打ち気分でいるのはライデン=シャウトだけ。

 最後の七大将を確実に倒すため、他の英雄たちは複数人がかりで攻めることを忘れない。


 しかし、あまりにもライデン=シャウトが速すぎるせいで、多対一が一対一にしかならなかった。


 とある六人一組パーティが、英雄相応の連携でまったく同時に加えようとはした。6つの方向から同時に飛んでくる別々の攻撃。

 ライデン=シャウトはこれらに対し、個別に対応できるほどの速度があった。


 しなやかな『槍使い』を素の技量で叩き伏せた。

 重厚な『斧使い』を斧より速く貫いた。

 四刀流の『剣士』の剣をさばいて斬った。

 異様に素早い『重戦士』の防御を上から乗り超えた。

 双璧の『守護者』の盾による打撃を盾ごと粉砕した。

 気配なき『暗殺者』の気配を逃がさず仕留め切った。


 同時に来る6人の内の1人を倒してから、次の1人を倒せる。

 これを繰り返して他の全員を順番に倒せる。

 相手が1動く間に、彼女は10も20も動けた。


 人族トップ層の英傑集団を相手にして、それほどまでの『敏捷値』を備えているのがライデン=シャウトだった。


(わたくしの剣が、果たして届く相手なのでしょうか)


 その様子を見ながら、ハピネスは逡巡していた。

 恐怖から逃げ腰になっていた――訳では無い。

 ただ攻撃を当てる瞬間を狙い定めていた。


 エルドランド王国王女、ハピネス・クイン・エルドランドは強い。

 その強さを一言で表すならば、「物理にて最強」。

 空間干渉に長けた彼女の得意技は『次元を裂く絶対の剣』。

 空間自体を斬っているため、対象の強度も『防御力』も関係なく斬り裂ける凶悪な技である。


 そんな攻撃が、『瞬間移動』に乗って放たれる。

 レベルの上昇にともない上がった、高い『敏捷』値と共に。

 つまりは必中の即死技が先制攻撃で放たれるも同然で、たいていの相手なら瞬殺できる攻撃だった。


 物理的に死ぬ相手なら、攻撃を当てれば勝てる。

 仮にステータスが遥か格上でも。

 それがハピネスだ。その事実こそが、10代の少女であるハピネスを世界最強の一角に押し上げていた。


 だからこそ、少女は空間を雷速で飛び回るライデン=シャウトに対し、攻撃を当てられる一瞬を待ち構えていた。

 技量もレベルもステータスも負けていることは、見れば分かる。つまりは不意打ちで一発当てられるかどうか、それで仕留めきれるかどうかだ。

 きっと二度目はない。


(――『次元斬り』、『連続空間跳躍(テレポート)』……同時使用!)


 そこまで考えてハピネスは覚悟を決め、空間を跳躍した。他に注意を向けているライデン=シャウトが、味方を巻き込まない位置に移動した好機を狙う。


 次元を裂く斬撃を振りかぶりながらの、小刻みな『連続空間跳躍(テレポート)』によるフェイントを交えた不意打ちは――すれ違う一瞬を利用して鮮やかな回転切りという形で振り切られる。


 少女の細剣は、ライデン=シャウトを腹から2つに斬り裂いた。


 その瞬間、ハピネスの全身が雷に打たれたかのように痺れてしまう。


「見事!」


 見ればライデン=シャウトの切られた傷口から血が流れることはなく、肉の断面が見えることもない。代わりに放電という形で電気があふれていた。


 雷速で動くライデン=シャウトの体は、その全てが物理の枷から解き放たれていた。つまりは、電気というエネルギー体。その断面は、人肉色ではなく輝く雷光色だった。


(ア、ぐ……ッ! 感電スタンッ……!)


 だからこそ、雷の体に触れてしまったハピネスは全身が痺れてしまう。視界にチカチカと閃光が走り、思考が真っ白に消し飛びそうになる。


 そんな彼女に平然と目を合わせてきた最後の七大将相手に対し、ハピネスが即座に浮かべたのは撤退の二文字だった。


(高ステータス、異常な『敏捷』に加えて、斬っても死なない物理耐性。――この相手は無理。和成さま)


 倒すには和成が必要。

 刹那の一瞬に導き出された答えが、少女を反射的に動かした。


「『武雷貫(ぶらいかん)』!」


 すれ違いざまの『連続空間跳躍(テレポート)』を、途切れることなくそのまま敢行。ライデン=シャウトの反撃が届く一瞬前に、少女は戦線離脱に成功した。



 ☆☆☆☆☆



「――和成さまっ! がフッ」


 口の端から黒煙を立ち上らせる、雷に打たれたかのようなハピネス。その全身に焦げと火傷があった。

 勝負の土俵には『敏捷』が高くなければ立てないが、ただ速いだけでは『防御』のステータスが足りない。『勇者』や『ヒーロー』、『魔法少女』のように全てのステータスが高いことが大前提。


 それが最後の魔王軍七大将であると、息も絶え絶えにハピネスは和成に伝えた。


「これを……」


 そしてハピネスが和成に手渡したのは、先日返したばかりの『死霊伯爵のペンダント』。空間を無視してどこまでも追ってくる、死霊伯爵(ゴースト)のスキルを再現する『装備品』。

 すぐさま和成はこれを受け取って、戦場に向けて移動する。


「スキル名、『神出鬼没』――発動」

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