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第339話 授与式にて送られし『王国の一撃』


 とうとう開催された賞与授与式には、惜しみない手間と費用が注がれていた。

 まず授与式の会場は、ダンジョン産の希少なアイテムや、それ以上に手に入らない古代遺物オーパーツが建材として使用されている。

 これにより守りは万全、『女神の結界』が持つ権能の1つが擬似再現され、あたり一帯では人族以外のステータスが強制的に半減されていた。


 この場に集結した賞与を授与される者たち――名の知れた高ステータスの英雄たち――が会場の防衛機能と共に戦えば、魔王軍七大将を同時に複数人迎え打てるほどになっている。

 古代遺物オーパーツの数々が長時間の使用に耐え切れたなら、この会場は会場としてではなく兵器として使用されていたほどだ。


 そこまでして、戦争の最中に人族連合は合同の賞与授与式を行った。

 その目的は大きく二つ。


 一つは士気向上のため。異界より召喚されしクラスメイトらが、魔王軍の高ステータス者を次々と討伐していった。これにより戦争は佳境に入り、魔王城への攻撃が視野に入った。つまりは長きにわたり攻め入ってくる魔人族の侵攻に終止符を打つため、人族の戦力を敵の本拠地に送り込むということだ。

 それができる戦力が人族にはあると、大々的に訴えかける。これだけの褒賞を送られるにふさわしい英雄が、人族には多くいる。この賞与授与式には、そのことを広く周知させる目的があった。


 そしてもう一つが、戦力の増強のため。


 黒竜装甲『ユートピア・ビギニング』を『装備』し、白鞘に収められたブラディクスを腰に携え、キングス王の前に立つ和成。


「アンデッドキラー、邪竜殺し、七大将最多討伐者タイトルホルダー。そうそうたる二つ名で呼ばれし大英雄、平賀屋和成殿」


 前口上と共にキングス王が手を伸ばし、空間にステータス画面を展開した時。


「エルドランド王国は汝の功績に対し、『王国の一撃(キングダム・アーツ)』を授ける」


 キングス王の言葉が式場にどよめきを広げた。


「『王国の一撃』を?」

「邪剣の担い手にそこまで与えるのか?」

「しかしその功績を思えば、あながち不適切でもないか……」


 静粛が絶対であるはずの、雑談など持っても他な式典の場。

 王の言葉がもたらした衝撃は、参列する他国の貴族・役人たちが思わず言葉を漏らす出来事だった。


(「おい所有者殿、それほどまでの代物なのか? 『王国の一撃』とやらは」)


 動揺を隠し、佇まいを変えない和成に、魂のつながりを通じてブラディクスが尋ねる。


(らしいな。この世界は日本以上の災害大国で、アメリカ以上の銃国家。魔獣発生スタンピードやダンジョン化現象が多発し、ステータス現象により身分差を問わず平等に強者が生まれる世界。誰もが暴力を有しうる世界。

 だからこそ、公共の福祉に反しない範囲内という前提のもと、災害に対抗するため武力を持つことが“個人の当然の権利”として人権に組み込まれている)


(「よくもまぁ、それで社会秩序が維持できるものじゃ。誰もが暴力を有せる社会なぞ、誰が誰に殺されてもおかしくない社会じゃろうに。カッとなった勢いで街1つが消し飛ぶ。ステータス現象とはそういうものじゃろ」)


(そうなった国から滅び、そうならなかった国が残ってるからな。感情と密接な関係にあるステータス現象において、カッとなっても『技』をぶっぱしなかった理性的な人々。信頼によって団結できた者たち。驚異に満ちたこの世界では、そういった者たちが生き残りそうでない者たちから淘汰されていった。結果この世界の知的生命体は、進化の過程で必然的に理性的な傾向になった)


 この時、和成は召喚初日のことを思い返していた。

 本音を引き出すためとは言えアンドレ王女に対し無礼を働き、親衛隊の怒りを買ったあの行為。

 あれはそもそも、高ステータス者である連中を仮に激怒させたとしても、最終的には理性によるブレーキがかかると見越した上での行動だった。

 殺されるまでは行かないと見越した上での挑発だった。


(だから俺はあの時、王女にケンカを売れたんだ)

(「普通に嫌な奴じゃな」)


 その計算尽くの所業に呆れの感情をいだきながら、改めてブラディクスが尋ねる。


(「つまりは『王国の一撃』を、一国に伝わる強力な『攻撃技』を授けるということは――」)


(国家が個人に対し軍艦の所有を許可したも同然。そしてこれは、同時に国家が個人に対し送る最大限の信頼でもある。この者は『王国の一撃』を悪用しない、人族の敵とならない。世界の脅威を退けるため、その力を我々のために使ってくれる。授与式でこれを送られるということは、公的にそう認定されたということだ)


(「儂の所有者殿にその『技』を与えるとは、人族も中々思い切ったものよな」)


(良くも悪くも、どんな力であれ外敵を滅ぼすなら良い力、味方を傷つけるなら悪い力って割り切ってるんだろうな。感情論ではない理性的な計算に基づいて判断している)


 一人と一本はそんな会話を続けながらも、耳は外部に向けて音を拾い続けている。

 やがてキングス王の祝辞の言葉が終わり、『技』の授与の時間が来た。


「――では英雄どの。ステータス画面に手を」


 預金を引き落とす際、タッチパネルに触れるように触れただけ。

 ステータス画面から行う『技』のやり取りは、普段ステータス画面を通して行う(金銭)のやり取りと何も変わらなかった。

 それほどまでにアッサリと、『王国の一撃』は和成に与えられた。


 実感はあまりない。

 そんな和成に実感をもたらしたのは、自身のステータス画面から確認できる『王国の一撃』の性能だった。


(流石に強い。低コストで高火力で連射が可能。これだけで大体の勝負を決められる力がある)


 そしてそれ以上に、周囲から送られた万雷の拍手だった。

 何百人もの人々が、てんでバラバラに手をたたくことで生まれる音の波。

 空間が割れるほどの喝采。

 それらに対し和成は奇妙な高揚を感じていた。


 世界に対し不信感しかなかった召喚直後は、式典など周りが勝手に行うものでしかなかった。それ故に重要視することなく、優先順位が低いままに行動していた。


 だが、今は違う。この世界で暮らし、社会を知り、この式典という場にいる貴族・役員が、いかにして社会を支えているかを知った。

 街頭、道路、家の壁。水道、食べ物、テレポーテーションサークル。

 社会の全ては、誰かが仕事で作ったもの。それはこの世界でも変わらないことを、この世界で暮らして和成は実感した。


 厳しくも、だからこそ根底に優しさが根ざすこの世界。

 そこに生き、そんな世界を維持しようとする大人たちに対する畏敬の念が、たしかに和成には芽生えていた。


(社会を作る大人たちが、強く拍手するだけのものを俺は受け取った)


 振り向けば広がっているのは、技術の粋が集められた式場と大勢の人々。

 授けられた『王国の一撃』をどう使うか。その1つを自身への問いかけとしながら、『哲学者』は壇上から降りるのだった。



 ☆☆☆☆☆



 その後、最後に『勇者』天城も『王国の一撃』を受け取り、無事に式は終了した。

 授与式にて送られるものは金銭だけではない。国が保管している『技』、『装備』、『魔法』、『スキル』。個人に与えるには強力すぎる、国家が管理しなければならない危険なものも賞与の対象となっている。


 普段の人となりや社会への貢献、ステータスやスキル等の戦闘力。これら複数の要素を精査した上で、公的な場で大々的にこの者は信用できると暴力を託す。

 これこそが賞与授与式がもつ、もう一つの戦力増強という目的である。


 その後、貴重な古代遺物を多く使われた式場は、専門家の手で丁寧に解体されていた。


 耐久性さえ足りていれば、重要な兵器として使われていた古代遺物オーパーツたち。その古さ故に、負荷をかければ簡単に壊れる貴重品たち。


 だからこそ古代遺物が使われた式場の解体時には、魔王軍に動きがないこともあって、『勇者』を筆頭に多くの英雄たちが護衛についていた。


 ――最後の魔王軍七大将がそこに攻撃を加えたのは、まさにその時。

 式場の解体が半分終わり、『女神の結界』のステータス半減効果が消滅した時だった。


「和成さま!!」


 離れた場所で生命感知を活かし、魔王軍の探知を行っていた和成は即座に呼び戻される。『瞬間移動』で辛くも離脱した、負傷したハピネスから話を聞き、新たな戦場へと飛び出した。

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