プロローグ 問十五「あなたの好きな食べ物は?」
それでは投稿を再開します。
今回は、毎日、朝8時と夕方6時の毎日2回投稿!
太く短く駆け抜けます!!
ソウルイーター・キメラを討伐し、スタンピードを収束させた『哲学者』にはしばしの余暇が与えられた。だが和成は、それを無為に消費することを選ばない。
「サファイアさん。今の俺がどれだけか、ステータスの実際値で出していただけませんか」
和成は今までの積み重ねから、多種多様な力を手に入れた。それは戦闘スタイルだったり新た装備であったりだが、これから先も勝たねばならぬ以上、それらは全て自分の力にしてみせねばならないもの。
だからこそ『哲学者』はサファイア研究員に頼み込み、自身がどれほどステータスを有するのか、それを検証することにした。
「即興魔法、『炎』」
そして開けた場所にて。
和成の手のひらに魔法陣が浮かび、見た目だけは立派な炎が放たれる。それはゴーレムに当たって爆散、しかし何の衝撃も伴うことなく、音と煙だけが拡がった。
「計測完了、データの基準値とほぼ同じ。
つまりは和成氏が魔術巻物を用いてエウレカで放ったものと、大して変わらない威力なのだよ」
ステータス現象の恩恵を全く受けていない、まっさらな和成の筋力値や魔法攻撃能力を参照して他者のステータスを計測するのがサファイアの発明品だ。
すなわち『ステータス計測ゴーレム』とは、○○の攻撃は和成の攻撃の何百倍である、という形で答えを導き出す装置と言える。なので単位にはLVではなくkzが使われている。
だからこそデータの基準値とは、ステータスが1である和成が起こせる現象そのもの。それと変わらないということはつまり、和成の『魔法による攻撃力』は低いままということだ。
「やっぱり、魔法増強のアイテムが無い状態ではこんなもんですか。『黒竜装甲』がない状態では、即興魔法は攻撃にならない」
なので次は、竜人族と『職人』城造から送られた黒竜装甲を『装備』して同じ魔法を使用する。
「即興魔法『炎』、黒竜装甲版」
和成のステータスは召喚直後から変わらず1のまま。あくまで戦えてるのは、ブラディクスの攻撃補正と不死性が大前提である。
よってただ攻撃するだけなら、ブラディクスでした方が効果が高い――を通り越して、ブラディクスを起点にした攻撃でないと和成の『攻撃力』はカスのままなのだ。魔剣を使った攻撃でなければ、一定以上の敵には傷一つ付けられない。
「うむ、kzの値はレベル40相当。及第点を余裕で超える中級並みの威力である」
「逆に言うと、上位層には届かないレベルってことでもありますがね。なら、ブラディクスの斬撃の方は――」
「吾輩のゴーレムが破壊されるため検証不可能である。レベル70相当超え、上級下位。英雄譚で語られ始める、人族全体でみれば上澄みに入る戦闘能力であるな」
「結局、ブラディクスを使うのが一番手っ取り早いんですよね。どうしても即興魔法は補助的な位置づけになってしまう。――では、これが最後の確認です」
そして昨日メルトメタルから託されたばかりの、千変万化のナノマシーン。青銀色の液体金属という新たな武装。
今までの計測はあくまで前座、本題はそれの使用感を確かめることにある。
「『液体操作』、応用編」
流動する液体金属がブラディクスから溢れる中、それを和成は左手にまとわせ刃に変える。肉体はブラディクスが、ナノマシーンは『液体操作』の要領で和成が操る形だ。
そのまま彼は斬撃を放ち、そしてそれをサファイアが生み出した『ステータス計測ゴーレム』が受け止める。
なお、傷は一切ついていなかった。
「硬いな」
(「やはり無機物は、儂らにとって相性の悪い相手よの」)
そのまま流れるようにブラディクスに任せ、一閃二閃と斬撃を斬り込んでいく。
ただやはり、計測のため頑丈さを追求したゴーレムに傷をつけるには至らなかった。
そしてピ・ピ・ピ……と、ゴーレムの機体から計測完了を告げる機械音が鳴る。
同時にこれは、サファイアの端末へ情報が送られている駆動音でもあった。
「疑似ステータス値、計算終了。今の攻撃の実数値は――およそ35レベル相当! だいたい中堅一歩手前ぐらいなのだよ」
「……使いこなしているとは口が裂けても言えませんね。どうやら、まだまだ力を引き出すには時間が掛かりそうです」
残念ながら、流石に初日。おまけにブラディクスの補正が乗らないこともあって、その『攻撃力』はお世辞にも高いとは言えなかった。
「やはり『液体操作魔法』とも血の刃とも使い勝手が異なりますね。液体金属だけあって、重い。そしてだからこそノロい。今までの要領で操作すると、動きにズレが出てどうにも力が乗り切らない。重さに振り回されている。手数やスピード、操作性においては血の刃の方が上ですね」
「なら下位互換という訳かね?」
「……いえ、多分こんな感じにやってみると――」
サファイアの疑問を受けて、和成はもう一度ゴーレムに斬りにかかる。
ただし、今度は放出した液体金属をブラディクスの刀身にまとわせた、重量を活かした一撃である。よってそれは斬撃と言うより、ハンマーによる打撃に近かった。
流動するナノマシーンは金属の重さを持つため、血液と比べれば遥かに遅い。しかし重いからこそ、流動の勢い・質量というエネルギーは液体金属が上。よって金属が流れ移ろう勢いと、攻撃の瞬間を合わせれば――
メゴス。
直撃したゴーレムの機体が凹んだ。まとわせた液体金属によって肥大した、ブラディクスの刀身を使ったみね打ちを受け、わずかではあるが破壊に成功する。
「およそ65レベル相当、中堅冒険者越えクラスなのだよ。なるほど、魔剣と合わせ重さを活かしてぶっ叩くわけか。……なんとなくだが、アイアン皇太子が君にそれを託した理由が分かったのだよ」
「サファイアさんも気づきましたか」
何度も戦場に立ち、自身の弱点を常に意識していた和成は、アイアンから託されたナノマシーンで何を補えるかは直ぐに分かった。おそらく彼女は和成の弱点を埋めるために流体金属を譲ったのだ。
しかし、サファイアは戦士ではなく研究員。戦場ではなく後方に立ち、戦うことなく支援することが主だ。戦いは専門ではない。
――だからそんな彼女が、この短時間でそれを見抜けた理由は和成と同じ。
サファイアが和成の弱点を、常に意識していたからに他ならなかった。
「戦闘における君の強みとは、”生物に対する圧倒的な優位性“である。特に血液で動く相手であれば、吸血奇剣ブラディクスによる吸血の呪いで、かすり傷がそのまま致命傷になるのだからね。
血の一滴一滴を即死技に変えられる奴が、不死性と共に無限の体力で戦い続けるのだ。ステータス差があろうと、それをひっくり返すことは不可能ではない。
なら逆に、弱点は何かというと――」
そして彼女は、自身の研究成果であるゴーレムを示すように叩く。
「無機物がそれに当たるだろう。ゴーレムのような、硬すぎて表面しか削れない上に、吸える血液がない相手の場合、和成氏では『攻撃力』が足りず詰みになる。倒されはしなくとも、逆に倒すことも出来ない。吾輩のステータス計測ゴーレムであれば壊せるだろうが――魔王軍のみならず、人族連合の最高峰のゴーレムであれば、きっと君たちでは壊せない」
「ええ、おそらくそうでしょう。大正解です」
かつてエルフの森にて、和成とブラディクスは『ミスリル・カブト』に襲われた。あのときは中に操縦者がいたため、それを偶然とは言え突いたことで勝利できた。
それは逆に言うと、『収納』のスキルを悪用した反則技以外に破壊する手段がなかったということでもある。
「俺のステータスが低いこともあって、ブラディクスにはパワーがない。結局この魔剣はスピードとテクニックで攻めるタイプです。切れ味が抜群な上『吸血の呪い』がある以上、生物が相手ならあまり気にしなくていいのですが……一切傷が付かないほどの『防御力』がある相手は苦手なんですよ」
「そりゃそうだろうよ、ダメージを与えられない相手に有利なやつがいるものかよ。というかその言い方、まるで傷つけられない程に『防御力』が高い相手に打ち勝ったかのような物言いだが?」
「アハハハハハハ」
エルフの森で戦った赤竜族の戦士、レッド・ダイナマイトの双子の妹、バッド・ダイナマイトを和成は思い出しつつ、ごまかすように笑った。
「まったく君は、色んな所でいろんな活躍をして……。その労力に対する正当な報酬は受け取っているのかね? 少なくとも人族連合が用意している君用の報酬や、名あり賞金首の賞金は貯まる一方なのだよ?
ちょうどいい節目がないのは分かるが、正直とっとと受け取って消費してもらわないと澱みが生じるというか……」
「申し訳ありませんが、俺は殺傷で報酬を得たいとは思いませんので」
「……そうか」
「あと強いてブラディクスの弱点を挙げるなら――同系統の敵。吸血能力を持つ相手に『血刃』を無力化されるのはキツイはず」
そして丁度、サファイアの脳内視界の中で、ステータスの『世界時計』が終了を指し示した。
ジリリリリリと、時報付き砂時計のベルが鳴る。
「――む」
「どうやら、しばしの余暇は終わったみたいですね」
「ああ、では――」
「スペル先生や姫宮さんたちと、新しく確認された魔王軍七大将への作戦会議です」
☆☆☆☆☆
『和成くん!? ホントにいた、無事だ!死んでない! 良かったー!!』
開口一番、通信直後。
鉄の国ソード帝国の文明の利器、通信の魔道具の液晶画面に姫宮のどアップが映し出された。
自分を心配していたがゆえの行動に、文句をつける気は和成にはない。
ただそれはそれとして、TPOがあるんだよという話ではある。
なにせ今は会議中。人の目が他に多くあるのだから。
「連絡が数ヶ月も遅れて申し訳ない、どうにもいろんなことに巻き込まれていてな」
『いいんだよ、無事だったら! とりあえず無事だったんだから良かったよかった――! まぁ、便りがないのは良い知らせとも言うしね!』
姫宮の後ろには、彼女の親友たちである『姫騎士』の一党の面々がいる。
そんな彼女たちを姫宮が押しのけている形だ。
だからこそ議長を務める、人族連合総司令官の1人。
超『賢者』スペルが誰よりも早く、軌道の修正を行った。
『姫騎士殿、今は――』
『ああはいゴメンナサイ! それで、ええと、私がここにいるのは――』
そして当然、司令官が彼女を呼んだ以上、そこには必ず意味がある。
『……私達が逃げるしかなかった、魔王軍七大将について話すためだよ』
 




