第3話 王
扉の先に会ったのは応接間だった。
そこには大きな会議用の円卓が置かれており、周囲には鎧を纏った騎士達が控えている。
そして上座の玉座には、側に文官らしき者達を控えさせた、童話の表紙からそのまま具現化したかのような王様が座っていた。
「私こそ『エルドランド王国』国王、『キングス』である」
思わず身がすくむ重厚な言葉を発して、国王キングスは玉座から歩を進める。
和成たちクラスメイトは、王様の指示に従って部屋の中央に置かれた大きな円卓の席に着き話を聞くことになった。円卓はとても大きく、40人のクラスメイトが全員座っても所々空席があるほどだ。
和成も取り敢えず近くにあった適当な席につき、その隣に慈、親切、化野も座っていく。
数分後、クラスメイト達全員が着席した事を確認し、キングス王は話を始めた。
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曰く、この世界には、私たち『人族』、『獣人族』、『竜人族』、『妖精族』、そして、人族を滅さんとする『魔人族』の5つの種族が存在する。
実に何百年もの間、人族と魔人族は幾度となく戦争を繰り返し、十年前にも大きな戦いがあった。それは何とか人族の勝利で終わったが、それは人族と魔人族共に大きな被害を出し、痛み分けという形でしかなかった。
そしてそれから十年後、現時点から見て半年前のこと。
魔人族は、人族に対して再び宣戦布告を行った。
普通なら十年での戦後復興は不可能に近い。
事実人族では、戦火を受けた地域は未だ復興途中でいる。
にも関わらず戦線布告を行ったということは、それはつまり、魔人族はすでに復興を終え戦力を整えているということ。
そんな事はありえない。十年前の戦火が齎した被害は、たかだか十年で回復させられるような被害ではない。
しかし、それはあくまで正攻法を使用した場合。
どの様な手段で復興を終えたのか。
その答えは、女神様が神託で教えてくださった。
『魔神が力の一部を魔王に与え、異界より808の悪魔を召喚し、彼らを隷属させることで復興を終わらせました。そしてその悪魔達を戦力に加え、人族を滅ぼそうとしています。』
それを聞いて、人族は大混乱に陥った。
多くの戦士・英雄が倒れて日が浅いうちに戦争が始まる。相手はすでに準備を整えており、そこに808の悪魔が加わる。
つまり、魔人族と人族の間には大きな戦力差が存在するということ。
しかし、他の種族からの助力は期待できない。
国を持たない獣人族。
中立の立場から静観する竜人族。
国交の樹立に不安が残る妖精族。
個人間はともかく、国家単位での足並みはそろっていない。
このままでは、人類が魔人族に滅ぼされてしまう可能性すらある。
各国の王が集まり知恵を絞ろうとも、現状を打開できる方法は生まれなかった。
女神様より再び神託が下ったのは、そんな時だった。
『異界の勇者を召喚せよ』
「こうして我が国が主導となり、勇者召喚の儀を行い、貴女様方を召喚させていただきました」
☆☆☆☆☆
(それってつまり、俺たちに戦争に参加しろと言ってるって事だよな。)
王から概要を説明されて、和成の心は悪感情に満ちていた。
(ーーーー異世界から召喚した人間を、無理矢理戦争へ駆り出させる。右も左もわからないこっちには選択の余地がほとんどなく、この取引は召喚された時点であちらに分がある。正直考えるだけでも憂鬱だ。ーーーー話を聞く限り、自分たちが理不尽に俺たちを召喚したということをちゃんと理解していて、ちゃんと罪悪感を感じているように見えるのは少し同情するが・・・・・・けどなぁ・・・嫌だなぁ・・・。戦いは嫌いだ。争いなんて馬鹿馬鹿しい。嗚呼、今すぐ日本へ帰りたい)
和成は冷静に考える。そして、自分が最も重視していることは何かを頭に刻む。
(ーーー戦いたくない。殺すのも殺されるのも、絶ッッッ対に嫌だ)
吐き気がしそうな程の嫌悪感が顔に出ないように、和成は気を付けた。
「勇者様方。図々しい願いであることは重々承知の上で御座います」
話の概要を述べた王様が和成たちクラスメイトの前に立ち、頭を下げる。それは、「異世界の勇者たち」と「王」の立場を明確に示すため。
さらにもう一つ。威厳あふれる王様が、その威厳はそのままに謙ったのだ。
「どうか、人族が生きて行くためにお力添えをお願い致します」
その上、静かにしかしハッキリと重みのある言葉で懇願しながら、王はそのまま土下座した。
その瞬間、王様の謙った言葉によって変わっていた場の空気がさらに変わり、場の主導権が完全にキングスに奪われた。
「お任せください!!」
「「「「「おお!!」」」」
『すごい王様が自分の力を必要としている』
『自分は異世界に召喚された特別な勇者』
非日常を感じキングスの重い言葉を受けたクラスメイト達は、反応してしまった天城を皮切りに了承の雄叫びを上げる。
中には話の展開についていけなかったり、ちゃんと話を聞かなかった者もいたが、そんな一部の例外以外のクラスメイト達は言質を取られた。そしてそれに反論の声を挙げなかった以上(あげられるような状況ではないが)、他のクラスメイト達も言質を取られたようなものだ。
和成もまた、『一国の王に頭を下げられているという事実』に思考も体も硬直していた。
「それでは、皆様のステータスを確認させてくれないでしょうか?」
(ーーーーああ、そういう感じの世界観ね)
王様が話を終えた後に従者が待っていたかのように放った言葉が、硬直していた和成の体を動かせる。
(強いのであれば、帰るためや生活の為の交渉のテーブルにつくことができる。
弱いのであれば、異世界のお偉いさんの加護がなければ生きていけなくなる。
これは結構重要だぞ。一応は弱くても、役立たずとしてあっさり返してくれるかもしれないけど、・・・・・・希望的な観測な上に、一人だけで帰っても意味ないしな・・・・・・)
「クライン、説明を」
王様の指示で、控えていた文官の一人が一歩前へ出る。
「『ステータス』を確認するには、ステータスと唱えるだけで大丈夫です。そうすれば目の前にステータス画面が表示されます。あるいは、頭の中に画面が浮かんできます」
そう言うとクラインと呼ばれた従者は手をかざし、
「ステータス」
と唱えた。
すると、クラインの手を中心にして人の上半身を覆い隠すほどの立体映像のようなパネルが出現した。
いかにも異世界と言える光景を見た和成たちからは、思わず感嘆の息が漏れる。
更に天井からは黒板ほどの大きなパネルが落ちてきて・・・そのパネルはクラインの横に浮かんだまま停止した。
「この魔道具を使用することにより、ステータス画面をこのパネルに映す事できるのです
ーーーーそれでは異世界の勇者様方。皆様の力を、ステータスを、私達に示してください」