表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/420

第18話 平賀屋和成の考えごと

 

(・・・おかしいよな・・・)


 ゴゥゴゥと音を立てて流れる川。それによって隔たれた、彼方側と此方側を繋ぐ橋。その入り口を通りながら、声には決して出さずに心の中で呟く。橋の両端にはそれぞれに関所があり、門番と警備を兼ねる騎士が日本における駐在さんの如く常駐している。子どもや非戦闘員を濫りに町を取り囲む壁の外に出さないように、また森のモンスターが町に侵入しないように、日々門前に直立し見張るのがお仕事だ。

 二年一組のクラスメイトが乗って来た『空飛ぶ船』と『飛空艇』は、『はじまりの森』の最寄りの町の町外れにある広く空いた土地に着陸している。その場所を中心にクラスメイトたちは各々のパーティで自由に散開しており、和成が戦闘を行った場所は町には近かったが、実は着陸場所からはそこそこ遠出していた。


(ーーー何故誰も、モンスターを殺すことを何とも思わない?)


 盾を装着したままの左手に残る、キキ・ラットを打ち据えた時の感覚。跳ね返った衝突の反作用。そして、体毛の長い獣の皮が、盾の角が振り払われた際に頭骨の上をズルリと滑る感覚。

 すべて残ったままだ。

 鉈の、骨の隙間を縫うように腹を叩きつけた、肉袋を断ち切り柔らかい何かを潰した感覚。手に付着した血の臭いと赤。

 慈の『洗浄技ウォッシュ』で完全に洗い流されたが、記憶の中に残ったままだ。


 色も臭いも消滅したが、脳髄の認識が覆らない。

 それはつまり、あるも同然ということだ。


 チラチラ視界に入る指には、赤いものを幻視した。

 鼻腔にはまだ、極小の血の粒子が漂っている気がした。


(慈さんはあれで結構胆力があるし、強い。

 トモは割とゲーム脳でドライで。そもそも割と容赦のない腹黒だ。

 化野さんは合理的なマッドサイエンティスト気質。

 あの三人が平気なのは、納得出来ないことはない。

 剣藤さんはこうと決めたら迷わずに貫き通しそうなタイプで、やるべきことをやる時のメンタルが強そうな人だとは思う。

 裁はそこまで内面をハッキリ知っている訳じゃないが、天職(ジョブ)は精神面が反映されてそうな感じがあるから、『処刑人』が天職であった裁は殺傷に耐性があるタチなのかもしれないーーーと、考えられなくもない。


 断言は出来ないし、こじつけ臭いが、一応全員が全員、モンスターを殺すことや殺した後の血に対して特に動じていない理由はある。

 あるんだが・・・・・・やっぱり、普通の日本人が生き物を殺すことに全く忌避感を抱かないのは違和感がある。

 俺は一応例外だ。見分を深めるために害獣駆除に立ち会ったこともあるし、食育として手塩に美味しくなぁれと育てた鶏を自分で絞めたことだってある。無意味無益な殺生は嫌いだし、たとえ有意義であっても人死には嫌だけど、経済動物の屠殺や害獣駆除で傷つくメンタルはしてない。

 食わなきゃ死ぬ、だから食う。食う為には殺さなきゃならないから殺す。生物としてそんな事を悩んでどうする。ステータスという概念が存在するこの世界では、レベルを上げるためにモンスターを仕留めることは、食事をとるのに等しい生きるために必要な行為だ。

 生きることは食べることで、食べることは殺すこと。つまり、生きることは殺すこと)


 

 そんなことをつらつらとわざわざ考える和成が、屠殺や害獣駆除で傷つくメンタルをしていないとはとても言えないと思うが、和成は自己をそのように分析していない。

 


(生き続けるための命のやり取りに貴賤を求めることに意味は無い。

 納得はしている。思うところがないでもないが、殺すことを受け入れることは出来る。

 ーーーしかし、そんな俺みたいな奴が多数派を占めるとは思ってない。クラスメイト40人中6人が・・・・いや、それぞれのパーティに支給された緊急連絡用の魔導具が使われてないことから察するに、おそらく40人全員が動じていないんだ。


 ・・・・()()()()()()()()()()?俺が人生で収集した常識と齟齬がある。あくまで確率の、相当低いものの一つとして、四分の一や半分ぐらいなら平気な奴がいるかもしれないとは考えていた。ひょっとすると取り乱す側がマイノリティ側かもしれないとも思っていた。


 しかし、一人もいないとは考えてなかった。


 ーーーーいや、俺の常識が実は間違っていた可能性はある。俺は自分が体験したことは少数派だと思っていたが、実際は皆んなやったことがあるのかもしれない。皆んな田舎のお盆で鶏の首を切り落として血抜きした事があるのかもしれない。それか経験の有無にかかわらず、人間は案外そういう状況に置かれれば普通に生き物を殺せるのかもしれない。ヒトは所詮、動物だ。


 或いは、「ゲームの世界に召喚された」現実感の無さが影響しているのかもしれない。モンスターを殺すことを、ゲームと捉えて現実だと思っていない。


 ただ、可能性について考えるなら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。能力を授ける時に精神に干渉するとか。

 ーーー尤も、それで答えを出すのは無理だ。女神様に何が出来るのか知らないし、仮に俺の仮定が正解だったとしても、それが正解だと確信出来る根拠を見つけられない。そして、確信した所でどうしようもない。


【何故モンスターの殺生に皆んなは平気な顔をしているのか】

 仮定その一。偶々偶然にも元々みんなが平気な性格だった。

 仮定その二。そもそも、モンスターを殺す事でトラウマになるという前提が違う。動物がほかの動物を殺して食べることは当たり前の事であり、人間も動物の内である以上、いざという時は案外簡単に殺せるものだったりするだけ。

 仮定その三。モンスターを殺す事をゲームだと認識していて、現実だと思ってない。

 仮定その四。女神様(誰か)に何かされた。


 大雑把にまとめるとこんな所か。

 ーーーー正直言って、直ぐに答えを出すのは無理がある。情報が少な過ぎる。まずは集める必要がある)


 そこまで考えて、一旦和成は思考を止めた。

 渡っている橋が終わりに近づき、同時に再び電子音が響いたからだ。


 [ピコーン]

 [スキル『思考』のランクが、2から3に上がりました]

 より長く体感時間が引き伸ばされ、思考の時間がより増える。

 和成はそのまま村の入り口である門をくぐり、思考を再開しながら歩みを進めた。


(まぁ、だから今は傍に置いておく。そもそも俺がモンスターを平気で殺すクラスメイトに違和感を持ったのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それは、今後の活動を左右する基準になる。

 だから、「何故モンスターの殺生に皆んなは平気な顔をしているのか」は今はいい。

 ステータスは高いけど、()()()()()()()()()()戦えない人から情報を集めるだけだ)


 そんな事を考えた和成が眼前に捉えたのは、戦闘技も支援技も持たない、完全に後方支援型の非戦闘系の()()()()()を持つクラスメイトが待機している、騎士駐屯所であった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 字の上の・が多すぎて読みづらい。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ