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第17話 レベル上げ実践(和成以外)


 その後、和成が抜けた一行は、運良く二種類のモンスターの群れとエンカウントしていた。


「『ポイズン・ボール』!」 

 うっそうと木々が生い茂る深い森。

 それとは恐ろしいほどに似合わない、学者の白衣に身を包んだ化野学は技名を叫ぶ。

 頭の中で技の発動を思い浮かべても発動せず、叫んでようやく発動するのだから、叫ばなくてはしょうがない。


「ったく、これはどういう理屈がはたらいてんだ?」

 突き出した掌を中心として、空中に毒々しい紫色の液体が生まれバレーボール大の球体に変形する。

 分かりやすい毒液の塊だ。何度見ても訳が分からない。

 そのまま化野の投げつける動きと共に毒玉は敵の方向へ飛んでいき、炎を纏った豚型モンスター『火ー豚(ヒートン)』に命中する。

 訳が分からない。


 ブギィィィィィィィィィ!!!!


 けたたましい絶叫を上げながら、ヒートンの体は毒に侵され青ざめていく。足元がおぼつかなく成り、炎を纏った体は凍えているかのように小刻みに震え出す。


 ポンポンポポポンポーン!!


 しかし油断は禁物。間抜けな音と共に、大玉ころがしの赤玉と白玉を半々ずつくっつけたかのような人面巨大キノコが、パーティに襲いかかる。

『ヒートン』と共生関係にあるお化けキノコ(マタンゴ)、『ポンポン茸』だ。

 ゴムまりのような体で弾むようにして、化野へと襲いかかる。


「『聖壁』!!」

 しかし隙はない。

 油断と隙をカバーし合ってこそのパーティである。

 『聖女』慈の防御技により発生した光る透明のバリアに阻まれ、ポンポン茸はその弾力性に富んだ体が仇となりあらぬ方向に飛んでいく。これを生身のまま受けていれば、衝撃によって吹き出るポンポン茸の胞子を全身に浴びていただろう。しかもこの胞子には『毒』『痺れ』『眠り』『くしゃみ』『視界不良』の状態異常のどれかをランダムで発生させるオマケつきだ。

 慈が状態異常耐性を持っているので被ったところで何もないのだが、それでも頭から毒胞子を被るのは嫌だろう。

 その胞子も、慈のもつ『清潔』のスキルによって時間経過で綺麗サッパリなくなるのだが。


 そしてそのままパーティを取り囲む何体かの『ポンポン茸』と『ヒートン』の群れに突っ込み、一体のヒートンに激突して火が燃え移る。

 ーーーーーーーーーーーー!!!!!


 傘に浮かんだ人面を歪めながら、ポンポン茸が焼けていき、辺りには香ばしい香りが漂ってきた。


「ダメだ慈さん!ポンポン茸とヒートンをぶつけちゃ!!」

「あ!そうだった!!」

 親切の絶叫に、慈は頭を抱えた。


 ポーーーーーーーーーン!!!


 燃えるポンポン茸は、起爆性の胞子を全身から吹き出した。


 ポンポンポンポンポンポンポンポンポン!!

 ポンポンポンポンポンポンポンポンポン!!


 爆竹のような、癇癪玉のような破裂音が辺りに鳴り響く。爆発の威力そのものは決して大きくないのだが、光と煙によって周囲を取り囲むヒートンとポンポン茸の姿が搔き消え、音と煙の臭いで気配が分かり辛くなる。

 この二種類のモンスターたちは、『はじまりの森』に出現するモンスターの中で上位に位置するモンスターだ。

 片や火を纏っているために物理攻撃を仕掛け辛く、丈夫な皮と分厚い脂肪によって槍や剣の攻撃では致命傷を与え難い。更に多少の切り傷は炎で傷口を焼く荒療治で無理やり治してしまう刃物では倒し辛いモンスター。

 片や触れれば状態異常を引き起こす胞子をばら撒く性質と、弾む体の所為で打撃の使用がほぼ無意味。しかも敏捷は低いくせに、スーパーボールのように木々にぶつかり反射することで俊敏な動きを見せてくる。更にその過程でもポンポンポンポン毒胞子をばら撒くという鬱陶しさ。

 この二種類を相手取る場合は、通常何らかの遠距離攻撃手段が攻略に必須となる。

 そしてこの共生関係にある二種類は、相性の良さという強力な武器を持つ。

 ヒートンに効果が高い技の大半はポンポン茸には効果が薄く、ポンポン茸に効果が抜群な技の大半がヒートンに対して効果がいまひとつなのである。

 剣や槍、棍棒といった駆け出しが使う武器が共に効きづらく、基本的に魔法の習得が必要であること。その厄介さから、討伐に経験と知識と技術が必要なこと。

 そして何より、積極的に人を襲おうとしない臆病な性格(逃げようとすれば見逃してくれる)から、駆け出しと中級を分けるテストのような扱いを受けるモンスターでもある。


「『シールド・アックス』」

 迫り来る爆風と熱風と衝撃を、化野と隣に立つ親切の前に出て裁が立ち、大斧を構えて叫ぶ。

 そして裁が持つ大斧『断罪斧』に透明なバリアが纏われ、それが前方を覆うように広がった。

 結果、燃え果てるポンポン茸の最後の攻撃で一行に傷を負わせることはできなかった。

 しかし。

「なぁ、彼氏。あたしにはあの音が仲間を呼んでるように聞こえるんだが」

 森中に響く破裂音。化野にはそれが、まるで威力よりも音の大きさを優先しているかのように聞こえた。

「正解だよ!ゲームでもせっかく追い詰めたのに、こんな感じでミスってワラワラ仲間来て、クエストを何回クリアし損ねたことか!」

 声に私怨をふんだんに含ませた状態で、化野の問いかけに親切が答える。

 彼はそこそこ根深いプレイヤーである。

「・・・・・・親切、お前から見て、アイツらがこれ以上増えても対処可能か?」


 ーー「FMSというゲームは深追いし過ぎた場合、即ゲームオーバーに繋がる。頃合いを見計らって逃げなければ負ける類いの相手が少なくない」ーー


 戦闘を開始する少し前、そもそもFMSというゲームの深淵をよく知らない和成たちへの説明として飛び出た、『空飛ぶ海賊船』での親切の言葉だ。

 一行の中ではモンスターの全種類と特徴を覚えていたのが親切しかいなかった。 


 ――「なら、モンスターとエンカウントとした時の逃走手段は幾つも用意しておいた方がいいかもね」――

 それを受けての和成の言葉だ。

 臆病で用心深い。それが平賀屋和成だ。

 ――「此処が地球とは別の法則が働く異世界なのか、それともゲームの世界なのかはわからないけど、どちらにせよ死んでいい理由はない」――

 ――「生き残らなくちゃね」――


 ならばそれは、俺たちも同じ。生きねばならぬ。死んではならぬ。


「・・・・・・死ぬ訳にはいかない」

 裁の微かな声は、かろうじて背後の親切に届いた。

「可能だ。そもそもあいつらは僕らの技術が伴ってないから苦戦してるってだけで、連携が稚拙だから苦戦してるってだけで、僕のステータスなら余裕で楽勝な相手だ。Lvが違う。戦闘技術の学習より火力でのゴリ押しを選べば、数が十倍以上になったとしても僕単体で対処可能だ」

「・・・・・・なら、もう少し戦闘を続けるべき、だな。経験値を積んで俺たちのステータスが上がれば、平賀屋のサポートもやり易くなる。・・・・・・世の中助け合いだ」

「―――だがなぁ、それはそれとして余り焦ってもしょうがねぇんじゃねぇか。実際に武器もって技使ってモンスターと戦うなんて、当たり前だが初体験なんだ。あたしなんか、ここの訳分からねぇ法則を体験してるだけで頭が痛いんだ。ステータス画面とは関係なしに疲れは溜まる。一度休憩を挟んだ方が良いと思うぜ」

「・・・フム・・・」

「そうだな・・・」

 化野の提示した理由に、裁、親切は顎に手をあてて思案する。


「結論は出たのか!」

 相談する三人に、前に出て戦っていた剣藤が近付き尋ねる。


 前衛は二人、攻撃役の剣藤と盾役の裁。


 後衛は二人、攻撃役の親切と妨害役の化野。


 そして、遠距離攻撃も近接格闘も回復も防御もこなせる慈が、自由に動いて全体の安定性を高めている。


「なら、戦闘続行するが、討伐は現在遭遇している奴らのみ。キリのいいタイミングで一旦休憩に入り、その為にも仲間が寄ってくる前に終わらせる・・・っていうのはどうだ?」

「・・・そんな所だろうな。これが終われば休憩を挟もう」

「ンなトコだろうな」

 親切が出した結論に裁が賛成し化野が頷く。


「了解!」

 それを聞いた剣藤も声を張り上げる。

「戦闘は続行!ただし討伐は現在遭遇している奴らのみ!キリのいいタイミングで一旦休憩に入る!そして、仲間が寄ってくる前に終わらせる!」


「分かった!じゃあ一気に片付けるよ!『レイン・レーザー』!!」


 剣藤の指示を受けて、偶々、或いはヒートンとポンポン茸の作戦で必然的に一団から少し離れていた(聖女)が動く。


「同じく、『レイン・レーザー』!!」


 慈と親切の手に握り締められた、それぞれ形の異なる二本の杖から光球が幾つも飛び出して、そこから一斉にレーザー光線が発射され全てのヒートンを撃ち抜く。

 ヒートンがやられれば、後に残るのは金属製の武器に弱いポンポン茸だけ。

 つまりは、『侍』と『処刑人』の独壇場。

 ポンポン茸の胞子は面による『打撃』に反応して放出されるため、相応の鋭さは要求されるが、線による『斬撃』では放出されない。


「『疾風怒刀』!」


 一気に距離を詰めるのは、フットワークが軽く機動力に長けた剣藤(侍)だ。残像が生まれるているかのようなエフェクトと共に放たれる捌き切れない数の連続切りに、ポンポン茸が一体なます切りにされる。

 そんな剣藤に二体のポンポン茸が襲いかかるも、移動速度が根本的に違う。まるで追いついていない。

 防御用武器『盾』や『大楯』に一部を除いて『鎧』等の防具を装備出来ない代わりに、高い機動力を持つ。

 回避と攻撃を組み合わせたヒットアンドアウェイで戦場を縦横無尽に駆け巡る高速アタッカー。

 それこそが剣藤の天職『侍』の真骨頂。


「『アックス・ブレイド』!」


 そしてそんな剣藤を見失って隙を作った二体のポンポン茸に、静かな轟音と共に裁の手に長く握られた処刑人専用装備『断罪斧』が振るわれた。攻撃が命中するまでは無音だったが、命中した途端に爆音が響く。

 巨大な刃を持つ断罪斧の一撃は、金属に触れているだけで腐る体を持つポンポン茸を数体まとめて容易く切り裂き、簡単に仕留めた。

 『侍』とは対照的に、機動力が低い代わりに高い攻撃力とタフネスを持つ重量型アタッカー。

 それが裁の天職『処刑人』の真骨頂。


「『疾風刃雷』!!」

 そして最後に、裁を狙って攻撃を仕掛けたポンポン茸を剣藤が俊敏な動きで切り裂いたことで、この場にいる全てのモンスターは生き絶えた。


「よし、撤収!」


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