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第15話 レベル上げ(準備と道中)


 朝食後、和成たちは城の官僚らしき男に連れられて王城の宝物庫を訪れていた。

 この場で武器を借り、ステータスの底上げをしてからレベル上げに挑もうというわけだ。

 ステータス画面からも、ボーナスポイントを消費すれば最高ランクの強力な武器を得ることはできる。

 しかし、ボーナスポイントにはそれ以外にも

 ・ステータスに割り振って上昇させる。

 ・スキルを習得する。

 ・スキルの熟練度を上げランクUPさせる。

 ・技の熟練度を上げ技レベルをUPさせる。

 など多様な使い道がある。

 その為、クラスメイトは全員ボーナスポイントをほとんど消費していない。

 消費して得るべきは通常なら手に入れられないものであるべきで、何らかの形で手に入れられるものにボーナス・ポイントを消費するべきではない。ボーナス・ポイントは通常なら『職業』を設定した際とレベルUP時にしか得られない貴重なもので、一度使用したボーナス・ポイントが返ってくることはない。

 そんな訳で本来なら門外不出の一品が多数収められたエルドランド王国宝物庫が開放され、クラスメイトたちは各々が自由に自分に合った武器を探していた。


(やっぱり、何人か不満そうなのがいるな)


 ただし、自由といってもクラスメイトたちには暗黙の了解が自然と生まれており、欲しい武器が被った場合はステータスが高い者に譲らなければならない空気ができていた。即戦力を欲しがる国の者たちも、明言はしていないが態度からはそちらの方を好ましく思っているのが察せられる。

 当然、ステータスが最低値の和成には選択の権利はないも同然であり、そもそも武器を使用可能とするステータスもスキルも筋力も技術もない。

 武器にはそれぞれゲームシステム上の『重さ』が存在し、職業や攻撃力パワーによってはそもそも装備すら出来ない武器がある。


(ゲームとは違い、着たり手に持つだけなら一応は出来るんだよな。動けなくなるし、まともに扱えないけど)

 試しに親切から借りた剣を腰に携えてみたものの、重心はブレて満足に歩けず真っ直ぐに構えることも出来なかった。

 これには和成が『スキル』を持っていないことも関係している。

 武器を扱えるようになる『剣術』や『槍術』といった戦闘補助系の『スキル』か、ステータス画面の『職業』の項目にある『職業ボーナス』がなければ、行動の際にマイナスの補正がかかってしまうのだ。

 例えば、ゲームを日本でやり込んでいた親切は『最上級魔術師』であるが『剣術』の『技能』を持つので『剣』のカテゴリに入る武器をプラスの補正と共に扱える。

 例えば、『重戦士』の鋼野はその『職業ボーナス』により地球のそれとは厚みが違う極めて重いフルプレートの鎧を平気で着込んでおり、『守護人』の守村は『勇者』の天城ですら二つ同時に『装備』することは出来ない、『大楯』のカテゴリに入る武器を両手に構えている。


(俺が『装備』出来るのは、『重さ』が軽い鎧と『武器ランク』が低い量産品の『攻撃用武器』ぐらいしかない)


『武器ランク』は『武器』に存在するゲーム要素であり、上から順に


 SSSトリプルエスランク

 神器級の武器。値段がつけられない程に貴重で、その数は世界中のものを合計しても二桁に届かない。天城が持つ『勇者の剣』と姫宮が持つ聖剣『シャイン』がこれ。共通して、『破壊不可能』の効果を持つ。意思を持ち、所有者を選ぶ場合がある。

 SSダブルエスランク

 国宝級の武器。国の象徴でもある場合が多いため、SSSランクの武器とは別の意味で値段がつけられない貴重なもの。一般人からすれば雲の上の武器。

 Sエスランク

 国宝級の武器の中でも、限られた立場の者であれば辛うじて手が届く武器。やはり値段がつけられないものが多い。

 Aランク

 業物級の武器。技術によって量産可能な武器の最高峰。値段は一般的に日本通貨で数百万円から数億円前後。

 値段の幅が最も広い。

 Bランク

 一級と呼ばれる武器。特殊効果があるものが多い。値段は基本的に数万円から数百万円前後。性能の落差が最も大きい。

 Cランク

 量産品。普通の武器。

 Dランク

 粗悪品。或いは鍬や鉈などの戦闘用ではない武器全般が含まれる。

 Eランク

 ゴミ。


 が存在する。Aランクから上はランク7以上の専用スキル(最高ランクは10)が必要で、SSランクから上は上級職クラスの『職業ボーナス』が必要なため、和成はBランク以下の武器しか『装備』出来ない。

 また、Bランクの武器はその『重さ』により一定の物理攻撃力(筋力とも解釈できる)を超えている必要があるため、実際のところはCランク以下の武器しか『装備』出来ない。

 試しに親切から借りたBランクの剣を軽く振ったところ、マイナス補正により手を滑らせて刃が足の甲に突き刺さってしまったりした。傷自体は(聖女)回復技ヒールで治ったのだが、結局エルドランド王国の宝物庫に和成が使える武器はなかった。

 現在の和成の装備は、全て親切たちからの借り物だ。


 この世界において、人が装備することでその恩恵を得られる『装備』の数は、頭に被る帽子や兜などが一つ。上半身と下半身に、装着する鎧や服などが一つずつ。更に、指輪、腕輪、髪飾り、首飾り、などのアクセサリーが三つと決まっている。それ以上はどれだけ身につけようがステータスに補正がかかることはなく、どの装備の恩恵を受けるかはステータス画面から選択できる。

 そして、『武器』の場合は職業によって装着出来る数と種類が変化する。

 非戦闘系天職『哲学者』である和成や『錬金術師』である化野などは、剣や槍などの攻撃用武器と盾などの防御用武器を一つずつ。これが最も一般的かつ基本的な装備形態であり、一応二刀流も出来なくはない。

『侍』である剣藤は『刀』『太刀』『小刀』といった分類の武器限定で同時に四つまで装備可能だが、『盾』や『鎧』を装備することは不可能。ただし、例外的に『甲冑』や『鎧兜』のような「『侍』にも装備可能」な効果をもつ『防具』はある。

『守護人』の守村は『盾』『大楯』以外の武器を一切装備出来ないが、唯一『大楯』を両手に装備可能。

『処刑人』裁伴樹や『重戦士』鋼野鉄雄が持つ『大斧』や、『大鎚』などは両手持ちの武器なため、一つしか装備出来ない。両手に持ってもたところで、その武器のステータス上の恩恵を得られるのは一つだけだ。


 現在和成が装備している『防具』は上から順に、『木のヘルメット』『上質な革の鎧』。

 『アクセサリー』は『物理防御強化の腕輪Ⅴ』、『魔法防御強化の腕輪Ⅴ』、『敏捷強化の腕輪Ⅴ』。

 『武器』は『軽くて堅い木の盾』、『鉈』。

 結果、装備を整えた和成のステータスはこうなった。


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 名前「平賀屋 和也・ひらがや かずなり」

 年齢 17歳

 種族「異界の者」

 Lv 1

 職業 哲学者

 ボーナス・ポイント 0p

 HP : 2

 MP : 2

 SP : 2

 ST : 2

 ATK : 1+3

 DEF : 1+30

 MATK : 1

 MDEF : 1+30

 SPEED : 1+30

 技能

『意思疎通』

『収納 小』

『鑑定』

『思考』


 所有技

 なし


 ???

『ミリオン』

(LvUPに必要な経験値が100万倍になる)


 次のLvUPまでに必要な経験値

 800万p

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 ちなみに、クラスにおいて最強のステータスはこれだ。


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 名前「天城 正義・あまぎ まさよし」

 年齢 17歳

 Lv 1

 種族「異界の者」

 職業 勇者

 ボーナス・ポイント 150p

 HP : 394+100

 MP : 200+50

 SP : 500+100

 ST : 400+100

 ATK : 210+150

 DEF : 176+80

 MATK : 193+80

 MDEF : 169+80

 SPEED : 182+120


 ーー省略ーー


 次のLvUPに必要な経験値

 8p

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


『勇者』専用装備の補正により、えげつないことになっている。



 ☆☆☆☆☆


 そして、出発の時が来た。


「面舵いっぱ〜いっ!」


 そう掛け声をあげながら『空飛ぶ海賊船』を操縦するのは、日焼けしたたくましい体と分厚い胸板が漢らしい坊主頭の少年だ。

 原田はらだ海斗かいと。『職業』は『大海賊』。

 野球部所属。

 性格は大雑把でお調子者。すぐに調子に乗ってその場のノリで動く少年。

 クラスに一人はいる、体育祭などで女装して踊り出すことの出来る盛り上げ役。

 現在も、雰囲気作りの海賊帽子と髑髏が描かれた眼帯に、オプションでステータス画面から得られたおもちゃのかぎ針を装着している。

 ピーター・パンのフック船長のコスプレにしか見えない。


 さらにその隣に浮かぶ『飛空艇』を運転するのは、打って変わって先の細い色白の優男である。全体的にひょろ長い印象を受ける「うらなり」と呼ばれそうな少年。

 空宮そらみやあお。『職業』は『飛空艇船長』。

 卓球部所属。

 外見同様性格も原田とは対照的で、内気で基本的にテンションが低い。

 コスプレをして上機嫌な原田を見てドン引きしているところを見つかり、悪乗りした原田に無理やり「船長っぽい」格好をさせられて辟易していた。

 ちなみにその格好は、『海賊』原田がステータス画面から購入した『装備』品である。

 折角のボーナスポイントをポンポン使う例外が彼だった。

 何事にも例外というものは存在する。


 そしてこの現状を作り出したのが、希少職業レアジョブ『大海賊』と『飛空艇船長』の2つだけが持つ固有技能『操縦』だ。

 この技能によって二人はステータス画面から登録した乗り物を亜空間に収納し任意で呼び出せ、その乗り物を自由自在に操縦できる(ただし、ステータス上の『船』のカテゴリに入る乗り物限定)。

 2人はこの技能を最大限に生かすために、ステータス画面から召喚の際にもらったボーナス・ポイントでそれぞれ『空飛ぶ海賊船』と『飛空艇』を購入。FMSと同じように、クラスメイトたちはボーナス・ポイントを消費することでレアな武器や強力なアイテムをステータス画面から購入できる。さらに、女神の力により通常のプレイでは手に入らないアイテムも購入可能となっていた。


 その壮大な二つの乗り物が出航するために、王都全体を覆う女神の結界の一部が解除される。

 眼下に見える街並みは王城を中心に大道路が八つ放射状に広がり、結界に添えられて作られた城壁の東西南北、南東南西北東北西の八つの門とつながっている。

 その八つの大道路を基準に、碁盤の目のような規則的な街並み築かれていた。


 目的地は『はじまりの森』。

 ゲームに於いて最初に挑む、『はじまりの~』系列のフィールドだ。


 ☆☆☆☆☆


「和成君、ちょっといい?」

 『はじまりの森』へ向かう道中。

 気前よく原田が各自に分配した海賊船の一室で、慈は和成へ話しかけた。

 黒縁メガネと艶のある黒い長髪はいつも通りだが、彼女は現在、歓迎パーティーの際に着用していた召喚特典の『聖女の衣』を装備している。白を基調とした装飾も模様も殆どない極めて簡素な服だが、その服の白は光をよく反射して、着ているだけで輝いて見える。

 その輝きには奥ゆかしさと気品があり、地味ではなく上品といった感じだ。育ちの良さが溢れていた。


 尚、和成と慈を二人きりにしてあげた親切と化野は、現在甲板でいちゃついている。


「なーに?」

 ステータス画面から『道具袋』の内容を確認していた和成は、目線だけを上げて応じた。

 『道具袋』とはFMSに存在するゲームシステムであり、ステータス画面の端にあるアイコンから取り出せる掌サイズの巾着袋だ。

 容量と収納可能アイテムに限界はあるが、その上限と収納可能範囲があまりに大きいため実質無限に収納可能だ。ゲームのように体積や重量を無視していくつものアイテムを入れて持ち歩くことができる。

 スマホを持たず、当然スマホゲームのFMSも持たなかった和成だが、その召喚された日本人の特権とも言える『道具袋』は所持していた。


「別に、・・・・大したことじゃないんだけどね・・・・ただ話が出来そうな機会が、あんまりなかったから・・・・」


 周りに人がいない状況が、今しかなかった。

 特に異世界人たちが。


「それで?今何をしてるの?」

親切オダが使わないからってくれたアイテムの確認。大半は装備できない、しても意味がない武器ばかりだが、有用そうなアイテムも多い。回復薬(ポーション)なんかはこれが生命線になる訳だし」

「ふーん」

 ゲームをやりこんでいた親切は様々なアイテムを大量に所有しており、自分にとって必要であると判断した全体の約半分以外を和成に渡してくれた。

 中には何の役に立つのかまるで分らない、「これは単にガラクタを押し付けられたんじゃねぇか?」と思ってしまう様な物も結構あったが、それでもありがたいものはありがたい。


 尚、天城たちは現在、和成たちが乗る『空飛ぶ海賊船』とは別の『飛空艇』にいる。

 不要なトラブルを避けるために組み分けした結果だ。

 そしてそんな天城たちのお目付役として、姫宮が『飛空艇』に乗っている。


「なにか言いたそうだね」

 視線をステータス画面に戻した和成は、部屋に備え付けの椅子に座った慈の微妙な声色からそう返した。


「・・・・私は、和成君に戦って欲しくない」


「そりゃ俺だって戦いたくない。慈さんにも戦ってほしくない。みんなにも戦ってほしくない。戦いなんて馬鹿馬鹿しい。争いなんて嫌いだ。けど、俺達は戦ってもらうために召喚されたんだ。何もない内から戦線離脱は出来ない許してくれないだろ。よっぽどのことがない限り、俺たちは戦わなくちゃいけない」


「・・・・城で待機しておくとか・・・・」


「俺は昨日のゴタゴタで王女様の護衛騎士団の恨みを買っている。それと同じくらい多方面から怒りも買っている。表向きはみんなと同等の扱いを受けてはいるが、皆んなが出払った王城に一人でいるのは危ない。まぁ、俺に何か起きれば、昨日俺に味方してくれた人達は勿論それ以外のクラスメイトからも不信感を持たれるだろうから、頭に血が上って悪手を売ってしまう人がいるかもしれないが・・・滅多な事が起きる可能性は低いと思う。多分。クラスメイトの内、天城達に考えが近いのは半分と少しぐらいで、「取り敢えず静観」していた層は一定数いる印象だった。潜在的な俺の味方は、まだいると思う。

 そして、例外は常に存在する。王城にも潜在的な味方がいる可能性が高い。

 ならこれ以上の好感度ダウンは避けたいし、戦わないにしても「どうしようもなく戦えない」ことを示しておく必要がある」


「・・・・私達が味方なだけじゃ足りないってこと?」


「そりゃそうだろ。慈さん達は世界最高峰の実力者ではあるけれど、それは将来の話。今の段階では、クラス最高のステータスを持つ天城ですら中堅一歩手前クラス。上には上がうじゃうじゃいる。それに、超常的な力を待つとは言え俺達はあくまで普通の高校生だ。俺達より頭が切れる奴も権謀術数に長ける奴も絶対に大勢いる。

 そして、この世界は異世界で、つまりは未知の世界だ。この世界の常識を知らない。文化を知らない。根本的な物理法則そのものが全く違う。この世界で生き抜くことを考えるなら、この世界の味方は絶対に必要なんだ。

 だから、ここでのイメージダウンは避けておきたい。やることはやったと言えるだけのことはしておけるうちにしておきたい。逃げられるなら逃げるけど、今ここでは逃げれない。逃げる訳にはいかない」


「ーーー・・・・分かった」


 瞳を閉じて、渋々といった調子で、慈は嫌そうに頷いた。

 本当に嫌そうだった。


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