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第12話 トラブル発生(結)

 

「皆さんの態度を見ると、ステータスの高い者を優遇し、逆に低ステータスの人を露骨に冷遇しているように見えます」

 慈はきっぱりと宣言した。

 あなたたちを信用できないと。


「それはつまり、もしも女神様の手違いで通常より劣るステータスで召喚されていた場合、俺のいる場所には他の誰かがいたかもしれないということだ。なぁ天城、もしも俺とお前のステータスが事故か何かのトラブルで入れ替わっていた場合、そのままそっくり俺とお前の立ち位置は入れ替わっていたかもしれないぜ」

 実にいやらしい言い方だ。和成がねちっこく絡みつくような見解を述べる。

「なぁみんな聞いただろうぅ!ステータスの低い俺とそうじゃないみんなとの間には扱いに差があるんだと!そんなのは当たり前なんだと!」

 そして、クラスメイトたちの空気が疑いに傾いていく。


「・・・・・っ!申し訳ございません、平賀屋様!貴方様のお怒りはごもっともです!私は、伝説の天職である『勇者』様と『聖女』様の降臨に、少しばかり浮かれすぎていたようです・・・・。ですが、民の為を思う私の心は決して偽りではありません・・・・」

 アンドレが涙を堪えながらする演説は、見る限り嘘を吐いているようには見えない。


「でしょうね。その王女様が抱いている心情を嘘だなんて言ったりしませんよ。寧ろ、本当の事なんでしょう。

私が言いたいのは、結局のところ貴女方が、「自分たちが上、お前たちは下」と、自覚が有るにせよ無いにせよそう思っていることが態度に出ていることです。「やんごとなき立場にいる王女様が何の能力もない非力な凡夫を無意識に見下す」なんて「辿ってきた人生が全く違う以上容易に起こりうる」と予測できることを否定するような狭量なことはしませんが、それで結局は貴女方の都合のいいようにしか事態が進んでいないにもかかわらず、上から目線で情けをかけられて話を大団円でまとめられようとされるのはーーー()()()()()()()()()()


 最後のその言葉には、感情がこもっていることを有無を言わさず実感させられた。


「戦争が近づき、その焦りから召喚を行ったというある種のやむを得ない事情があったことを考慮して敢えて口をつぐみましたが、その自覚が無いのなら言いましょう。

 ()()()()()()!!

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!

 それをはっきりさせるのが、筋というものではないでしょうか」


「ーーーですから、わが国最高峰のステータスを持つ者たちを護衛にーーー」

「理由その一、【こちらを見下している人を信用できない】。

 理由その二、【そもそも魔王軍に対抗するために召喚を行ったということは、元々劣勢であるということ。その状況で確実に俺の命を守れる存在がいるとは信じられない】。

 理由その三、【守られるのなら、信じている友達たちに守られたい】。

 理由その四、【その程度で責任を果たしていると思わないで欲しい】。

 総括すると、貴女のことが信用できないので嫌です」


 和成を睨みつけるアンドレの護衛騎士たちの目が、どんどん恐ろしいことになっていく。

 貴族に冒険者といったクラスメイト以外の人々の顔も、どんどん険悪なものになっていく。

 そして対面するアンドレは、はっきりそう言い切られて言葉に詰まる。この時点で、議論や譲歩は打ち切られたも同然だ。


「ーーーーただ、これはあくまで俺の意見。ですので改めて、他の人の意見も聞いてみましょう」

 そう言って和成は、慈の背中を押して前に出す。


「え、えっと・・・・もう一度言いますけど、友達を無下に扱う人と同じパーティにはなれません。執事長さんの提案でヒラに護衛をつけることを思い付いたということは、私たちに話しかけた段階では和成君のことを全く考えていなかったということだと思いますし・・・・」


「僕も、ヒラの側に付かせてもらう。敢えて辛辣に表現するなら、王女の行動は建前や大義名分を盾にお願いという名目で行動を強制させられているのに等しい。自分の目で現状を見る機会ぐらいは欲しかった」


「アタシは親切(彼氏)が付く方に付く」


「ーーー私も、今回は友達(和成君)の味方をさせてもらいます」


「・・・・・・そもそも、天城たちが慈さんと親切に交渉を持ちかけたこの状況が、既に公平とはいえない。・・・・この様な大勢が見守る衆人環境はその大半が王女側であるために、大変断り辛い不利な状況となっている。・・・・つまりこれは、事実上脅迫に近いと言える」


「しかも明確な理由と共に否定しているにも関わらず、しつこく何度も組むことをせがみ続けた。慈は既に譲歩していた以上、貴女方も譲歩し、潔く諦めて歩み寄る努力をするべきではないか?貴女方は何度断わった所で了承するまで要求し続けたのだろうが、そんな強引な勧誘方法は戴けない。もっと自由意志に任せるべきだと、このパーティーが始まる前に王が忠告していたではないか」


 上から順に、慈、親切、化野、姫宮、裁、剣藤。


「信用可能か否かを見極めるためとは言え、少々過度に挑発ととられるような行動をしたことについては謝罪します。が、ハッキリ言えば俺は皆さんを信用できません。これ以上の勧誘はすっぱり諦めてください。ーーーーあなた方は先に、もっと時間をかけて信頼関係を構築するべきだった」


 最後にそう、和成によって纏められる。


 

「ーーーー()()()()()()()()()()()()



 そして話を終えたとき、対立する二つのグループを取り囲む観衆の壁の向こう側から、場全体に響き渡るように空気を統べるかのような重みのある荘厳な声が、和成へとかけられた。


「申し訳ありません。各国首脳陣に召喚成功の報告をしておりまして、席を外しておりました」


 誰あろう、エルドランド王国『国王』キングスその人である。


「話は既に、秘書から聞いております。異界の勇者様方、同様に平賀屋和成様。

 不快な思いをさせて、誠に申し訳御座いませんでしたーーーー」


 そう言ってそのまま、キングス王は土下座した。


☆☆☆☆☆






 (ン、ンン、ン、ン、ンンーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!)

 それを見た和成の心の中で、声にならない声が暴れだす。口を開けば飛び出しそうな絶叫を無理に抑え込んだために、横隔膜がひっくり返りそうな感覚に襲われた。

 (やっべぇぇぇぇぇぇ!!やぁりすぎたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!)

「ゲホッ、ゴホッ、いや失礼」

 思わずせき込んでしまうも、心臓と胃腸が入れ替わりそうな感覚をなんとか億尾にも出さずに誤魔化した。


 ここまでくれば(やってしまえば)後にはもう引けず、押し通すしかない。下手に引けば、その隙を突かれる。


「それではキングス王、これ以上の勧誘はすっぱり諦めてくださるということで宜しいでしょうか」

 (流石にここまでさせるつもりは無かったんだがな・・・・うぇっぷ、吐きそう)

 声が裏返らないよう細心の注意を払いながら、内臓が裏返りそうなプレッシャーの中で、何とか言葉を繋いでいく。周りからは違和感を感じられないように。

 まるでガラスで出来た糸の上を綱渡りしている気分だ。

 というか飄々とした態度で隠していたが、アンドレと向き合っている時も和成は概ねこのような心境であった。

  傲岸不遜で慇懃無礼な態度を取っていたのは、それ以外の態度では王族に対して意見を述べられないからだ。

 丁寧に腰を低くして向き合って、自分の意見を伝えられる気がしないからだ。

 和成は飄々とした態度ほど飄々とした人間ではない。


「はい。娘の失礼は父親である私の責任。申し訳ございません」

「い、いえ、確かに多少腹は立ちましたが、別に土下座されるほどでは・・・・」

 ただ、アンドレと向き合って居るときはもう少し気が楽だった。彼女が自分のことを意図的かどうかはともかく下に設定していたのは何となく伝わったが、キングス王からはそれがない。

 その土下座は清廉で、自分の行いに一片の恥もないというような威風堂々な姿だ。

 腹に抱えた覚悟の色が、顔にも表れている。

 その姿に怯むと同時に、貴方に土下座されても状況は改善されないとも思ったが。


 (というか、なんでこの人は俺のことを対等な相手として扱えるんだ?アンドレ王女みたいに無意識のうちに見下したりしないのか?)

 和成は、王女に対等と見られなかったこと自体にムカついてはいたが、そこまで怒り心頭だった訳ではなかった。口で言った通り、辿ってきた人生が全く違う以上やんごとなき立場にいる王女様が何の能力もない自分を無意識に見下すなんて当たり前に起こりうることで、多少は苛立ち思うところがあっても、そこまで目くじらを立てはしない。

 一言謝罪されれば間違いなく許していたし、謝罪されなくても許していた。

 この国の歴史の外にいる俺が、この国の制度に口をはさんでどうする。

 和成はそう考えている。



「しかし平賀屋様、同時に娘の言葉が民を思ってのものであることを、どうか覚えていておいてくだされば・・・・」

「ーーーー分かってますよ。だから俺も、強引な勧誘をせず個人の意思を尊重してくれるなら何も文句はありません。みんなが自分の意志で他の人とパーティを組むのなら、俺はそれを尊重しますよ、友人ですので」



「ーーーーではこの話は、これで決着ということで」



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