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プロローグ 問い六「何のために戦う?」


 某日。学術都市エウレカ、その民間街にて。


 巨大な『空飛ぶ海賊船』が飛来した。


 そして、その圧倒的な大きさと備え付けられた砲門の物々しさを、民衆は大手を振って歓迎する。味方であると確信しているからだ。

 しかし『空飛ぶ海賊船』の中で特に目立つのは、そのはためく帆でもなく、魔除けの船首飾りでもない。


 甲板に立つ少年少女たちだ。

 一様に立派な『装備』に身を包み、各々の武器を携えている。


 その甲板から、二匹のモンスターが飛び立った。

 竜種ドラゴンである。力の象徴であり、強さの象徴であり、権威の象徴だ。

 背中の翼を振るう赤き鱗の竜。その長い胴と尾をくねらせる青い龍。

 両者が空を悠々と飛んでいる。しかし、そこに恐ろしさはない。

 何故ならその二匹の背に、それぞれ異界より召喚されし救世の存在がまたがっているためだ。

 つまり明確な主従関係の主張である。

 それと同時に、彼らの力量を示すためのパフォーマンスである。


 凛々しいレッドドラゴンの背に乗るのは、女神の寵愛を最も受けていると語られる『勇者』天城正義だ。彼が持つ武勇伝の1つに、『竜騎士』が捨てたレッドドラゴンを鍛え上げ、友情を育み、鉄鋼竜メタルドラゴンを屠ったというものがある。

 その内容を小耳にはさんでいた者には、群衆へ自慢気に語っている者もいた。

 更にその後、そんな彼らに向けて公式に大々的に、それ以上に硬い鱗を持つ超越鉄鋼竜ハイパーメタルドラゴンを仕留めたという事実が、証拠の討伐品と共に発表された。

 一同の歓声には狂乱の響きすら混じる。


 青龍の背に乗るのは、次いで女神の寵愛を受けているとされる『姫騎士』姫宮未来であった。彼女もまた、地底のダンジョンから湧き出た地獄狼ケルベロス率いる双頭狼オルトロスの大群を全滅させたという存在。戦闘能力を持たない庶民からしてみれば、天上の力量を持つ正に英雄である。


 2人が空にて並び立ち、太陽光を反射して煌めく剣を掲げ、交差させる。

 観衆の歓声は、面白いほどに何度でも湧いた。


 ☆☆☆☆☆


「――すごいな2人とも。あの高さが怖くないのか」

 そして民間街の、とある料理店のテラスにて。

 それを食事と共に眺めながら、和成は自分に置き換えた台詞を呟いた。


「かずやんにとっては、あの2人はあくまで対等なんやな。或いは同列っちゅうた方が近いかもしれんけど」

 自分と、天上のステータスを誇るかの存在を置き換えて語る。

 それが出来ない者は湧き立つ民衆の中には多いだろう。

 おそらく大半はそうだ。


「そりゃあ、あくまでクラスメイトですし。友人ですし」

「カカッ。言うなぁ」

 そんなことを話しながら、そのテラスから救世の存在の凱旋を一望できる高級店を予約し、和成を食事会に誘ったジェニー・モウカリマッカが、けらけらと笑いながら金属グラスのワインを煽った。少々物足りなさそうである。矢張り酒は、瓶ごと飲み干すに限るとでも考えていそうな表情だ。


「まぁ怖くはないだろうな。ステータスが高いと万能感というか、凄まじい自信が湧いてくる感じがあるしな!」

 そう答えるのは、『ヒーロー』雄山である。先日、エウレカの民間街で偶々再会した際、彼は和成にクラスメイトの雄姿を一望できる場所を尋ねた。そこで和成がこの場所を教えると、彼らはパーティごとこの店を予約したのだ。

 そしてそれが丁度隣室だったこともあって、ついでとばかりに一緒に食事をとることになった。

 彼の態度を見る限り、完全に観光気分である。


「その自信、少し捨ててきて欲しい」

 そんな『ヒーロー』雄山の隣席で、パーティリーダー(お目付け役)の『弓使い』矢田が溜息を吐いた。更にその隣では『魔法少女』法華院が優雅に食事を楽しんでいる。

 ジェニーと出会って開口一番、

「「おっぱいデカッ!」」

 と言ってのけた自由人2人を抑えるためである。心労が積み重なっているのか、食事のペースが誰よりも遅い。


「……あの、このお肉、半分食べますか…?」

 そして和成からしてみれば初対面な、見知らぬ少女がひとり、おずおずと矢田に持ちかけた。何でも、縁あって、舎弟と後輩を足して割ったようなパーティができたというのだ。そのパーティメンバー6人も、本日の食事の場にいた。

 和成からしてみれば、先輩の観光に付き合わされる後輩にしか見えないが。

 全員高級店の雰囲気にのまれ緊張している。

 まともに味わえているのかすら怪しい。

 矢田はその少女に癒された表情をしながら抱き着いているが、単に少女は肉を食べきれないと判断しただけではなかろうかと思う。


 (……まぁいっか。癒されてるのならそれで)


 友人の『最上級魔導士』親切と、師である超『賢者』スペルの合同魔法が撃ちあがったのは、丁度そのタイミングであった。

「あの人が君の師匠か……すごい人に教えてもらってるんだね」

「そのペンダントも、その人から貰ったんだったか」

 その光景に『吟遊詩人』音羽と『狩人』永井の男子2人も、少しづつコメントを残した。なお、『祈祷師』戸村井は食べるためにのみ口を開き一切喋らない。


「――まぁね」

 高級店ということで、召喚された組は全員礼服である学校指定の学生服とセーラー服を着用していた。

 普段は学生服の裏に隠しているが、和成の胸元には魔力増量のアクセサリーが『装備』されている。師から弟子へ送るマジックアイテム、という形で送られた高級品である。和成が貯めた金銭で買ってもらったものを、そういう体で渡してもらえればそれでよかったのだが、最終的にはスペル自身が直々に送ってくれることとなった。

 いくつかの呪歌とひとつの魔法を習得ことによる、師から弟子への贈り物だ。

 嬉しくないと言えば嘘になる。普通に嬉しい。


 それがスペルの魔法言語説に関する研究のためという側面を知っていても、寧ろ彼の研究に貢献できたことが誇らしい。

 そう思える程に、和成はスペルを尊敬していた。

 ちなみに、魔導舞踊は習得できなかった。『ミームワード』が身振り手振り(ボディランゲージ)には作用しないからだろう。あくまで『ミームワード』は、言葉に情報を込める能力ということだ。

 その結果もまた、スペルの魔法言語説に関わる研究に貢献したが。


 閑話休題。

 一方その頃、凱旋のパフォーマンスでは『聖女』慈が空をかける白虎のモンスターの背に乗って、民衆へ手を振っていた。そして、人面獅子マンティコアを裏で生み出していた魔王軍の先兵『猛毒龍デスヴェノム』を討伐した極大の『浄化技』――1日限定の『スペシャル技』を放つ。


「豪勢だな。1日1発限定の切り札を、ここでわざわざ消費するは」

 和成からしてみれば、もし24時間以内に何か起きたらと思うと、心配で仕方ないのだが。

「別に問題ないやろ。救世の存在の凱旋がある以上、この都市には護衛のための戦闘員が仰山ぎょうさん集まっとるはずや。それにここは学術都市エウレカ。研究員の大半が魔法使いで、その中には『賢者』や『最上級魔導士アークウィザード』も混じっとる。魔法使いの軍に突っ込んでくとか自殺行為やしな」


 上位の魔法使いとは、当然習得している魔法と内在魔力量にもよるが、戦場において極めて有用な存在である。なにせ魔力さえあれば水や燃料に困らず、土木工事を人力の何倍どころではない早さで行え、結界魔法で緊急の安全圏を作ることも、召喚魔法で距離を無視して物資を運ぶことも、しまいには遠距離攻撃で敵をそもそも寄せ付けないことも出来る。


 その際に必要な『装備』――物資といってもいい――は、杖一本・魔法使い用の衣服・各種魔法能力を高めるアクセサリー数個など、である。

 

 魔力量を増やすアクセサリーの所有者=『魔法使い』には、戦争への参加義務がある。それは当然のことであった。そもそも有事の際に協力すると明言しない者に、戦闘力を増強させるアイテムを所有させる国家などない。

 反逆の芽を摘み取れない国から滅んでいくものだ。

 和成が高スペック装備を所有し、その上で徴兵されずとも文句を言われない理由は、超賢者スペルが「この者が反逆者になることはない」とその信頼を担保しているからに他ならない。(超賢者の弟子への扱いに文句を言える者は、まずいないということもあるが)

 だからこそ和成は、スペル・デル・ワードマンに頭が上がらないのだ。


「かずやんの即興魔法もかなり凶悪なんやけどな。魔力さえあれば好き勝手に現象を起こせるとか、その時点で能力として完成の域にあるやん」

「実際のところは制限も多いんですけどね。発動はしても、必ずしも結果に結びつくとは限りませんし。そもそもどれだけの魔力があれば発動してくれるのかは、使おうとしてみるまで分かりませんから」

 その辺りを考察する際に有用なのが、サファイアとの研究で築いたステータス学の知識と経験になる。


「けど、女神様でもその能力を量産は出来ないんだよね」

 音羽が尋ねる。

「たぶん。だってできるなら初めからやってるだろうからな。何故か『ヒーロー』とか『魔法少女』みたいな『特殊天職ユニークジョブ』が生まれたり、ゲームの時にあった道具袋まで付いてきたのに『収納』のスキルが与えられたりとか、ゲームの逆輸入も起きてるしな。その辺りのコントロールが出来ない――というか、何故そうなったのかが女神様自身が分かっていないのかもしれない」

 (――そう、スペル先生の話を聞く限り、女神とこの世界のステータスという法則は別物だ。この世の埒外から彼女はステータスへ干渉できるが、自在に操れるわけではないと先生もおっしゃっていた)


 だとすれば、和成がずっと危惧していた「クラスメイトの能力剥奪の危険」という可能性は低い――のかもしれなかった。


「フハハハハ! しかし、これは中々見事だ」


 そんな和成の割と重要な考察は、嫌な予感がする雄山の笑い声で中断され、現実に引き戻される。

 彼は既にピカッと光って変身を終え、とっくのとうに席を立っていた。


「どーれ、俺も少し派手に決めてこよう!」


「馬鹿かテメェは! 国事行為に乱入するとか戦争吹っ掛けるのと同じだぞ!」

「単にお前が目立ちたいだけだろアホ!」

「つーか街中で『スペシャル技』使うとか、許可がねーと犯罪だっての!」

「やらかすなコラ!」

「私もやる私もやる!」

「頼むから大人しくしててくれ!」

「ワテを巻き込まんといてくれや!?」


 そんな彼ら彼女らの阿鼻叫喚な迫真の声は、すでにその超身体能力により飛び跳ねていた彼の耳には届かなかった。


☆☆☆☆☆


「うわーお」

 そして同時刻。

 某場所にて誰かが一人、呟いた。

 その視線の先では『ヒーロー』の拳から放たれる爆炎が、天空を彩っている。


「中々にイレギュラーなパワー。……ま、問題ないっか。『作戦は続行で』」

 誰かが魔道具に話しかける。

 『通信』の魔導具が握られた手に向かって。


「雑魚を十把一絡げに吹き飛ばす一騎当千の個。を、飲み込む圧倒的なまでの数の暴力。を、生み出す最強の個。後者2つがコチラにある以上、作戦失敗なんて、十中八九起こんないよ」

 その後、誰かはそのまま然るべき行動をとり、作戦に備えた準備を整える。

 当然のことであるが、ことが起きる前にその内通が表に出ることは、終ぞなかった。


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