5話 木の実を巡る2人の話
モグモグモグモグ
俺は今、話の休憩に皿に入れた木の実を食べている。
聞き慣れない話で脳みそが疲れているのか。木の実の甘さが体に染み渡る感じがする。甘い。
モグモグモグモグ
黙々と俺が木の実を食べていると、その様子を見ていたネイバーが口を開いた。
「それってどうなの?」
「どうって?」
「味とか。」
「ああ、木の実の話か。う〜んと、甘い、かな。」
「ふ〜ん。」
興味なさげにネイバーが返事をするが、目線はずっと皿の木の実に釘付けになっている。
そして俺が再び木の実を皿から取るのと同時に、ネイバーも皿に手を伸ばし、
「俺にも食わせてよ。」
と言って3粒ほど木の実を取って1つずつ口に入れた。
モグモグと口を動かし、
「ふむふむ、なるほど。」と何やら真顔で呟いている。
そしてまた3粒ほど木の実を取ると1粒ずつ口に入れた。
「ふむふむ、なるほどなるほど。」
「そのさっきから言ってる、なるほどは何なの?」
「ん。ああ、何かを食べることが久しぶりだったからさ。そういえば物の味ってこういう感じだったな〜って思い出してたのさ。」
「ふ〜ん。」
そう言いながら、ネイバーがさらに木の実に手を伸ばす。
「そんなに美味しい?」
そう聞くと、ピタリ、とネイバーの手が止まった。
絶え間なく食べているので、木の実が好きなのかと思い気になっただけなのだが、ネイバーは何か衝撃を受けたような顔をしている。そして怪訝な顔で、
「ううん・・・・・・うん。美味しい。と、思う。」
と答えた。
「そう?」
「ああ・・・・・・美味しい。美味しいなぁ。」
そう言うと突然ネイバーは笑顔になり、再び木の実を取って口に入れた。
そして「美味しい美味しい」と言いながら木の実を食べ出した。
「どうした突然。」
いきなりの行動に若干引き気味になりながら尋ねる。
「いや〜、すっかり忘れてたけど、美味しいっていうのはいい事だな。」
「お、おう。」
「ちょっと侮ってたよ。久しぶりにこっちに出てきて、木の実なんてそんな大した物でもないだろうと。そう思って食べてみたら、こんなに美味しいんだもんな。食べてみるもんだよ実際。」
そしてまたネイバーは1粒木の実を手に取る。
「これはライトが採ってきたのか?」
「う、うん。近くの山で採ってきたやつだよ。」
「本当か!ライトお前見る目あるよ。」
「そ、そう?」
「そうそう。美味しいもん。」
「そうか〜。」
山で木の実を採っている人は他にもいるし、それほど特別な事はしていないのだが、褒められて悪い気はしない。
「そしたら、皿に残ってる分は全部食べていいよ。」
「えっ、本当に?お前良いやつだな。」
「お、おう。」
なんだか照れ臭い。
ネイバーは嬉しそうに木の実を食べていく。
そういえば夜に、誰かと何かを食べながら話をするのは久しぶりだ。子供の頃、親がいた時以来だろうか。
なんとなく家がいつもより明るい気がする。
惜しむらくは、一緒にいる相手が男ということだろうか。これで相手が女性で、さらには彼女とかだったら最高なのだけど。
「そういえばさ、ネイバーは食べ物を食べる必要はないんだよね?本当に何も食べなくても生きていけるものなの?魔物だから?」
「おう、そうだよ。魔物だから食べ物がいらないってわけじゃないけどね。」
「そうなの?」
「ああ。これも何て言ったらいいか、世界には現世と異界があるんだよな。現世っていうのはライトが生きているこの場所のことでね。」
「うん。」
「で、異界っていうのは、俺の認識では物理的な概念の無い世界なんだよな。う〜ん、存在はあるし、それぞれの個性もあると思うけど、たとえば、一つ一つの雲のようなものがそれぞれ漂っているような感覚な気がする。ちょっと感覚でしか言えないわ。」
「うん。」
「それでまあ、現世で生まれた魔物は食べ物を食べないと生きていけないんだけど、異界で生まれた魔物は食べ物を食べなくても生きていけるんだよな。多分、現世の理というか、この世のルールとか法則から外れた存在だからなんだろう。」
「うんうん。」
「そう。で、俺の場合は元は現世にいたわけだけど、いつの間にか魔物になっていて、いつの間にか現世と異界を行き来できるようになっていたんだわ。おそらくそこで俺も、何か現世の理のようなものから外れたんだろうな。そう思う。」
「う〜ん、異界っていうのがあって、そこには物を食べなくても生きていける奴らがいるわけか。けど、なんだか大変そうなところだな。」
「慣れればどうということもないけどな、食べ物を食べないと生きていけないほうがよっぽど大変だと思うよ。」
「う〜ん、それもそうかも。」
「けどまぁ食べる必要がなくても、美味しいものは食べたほうがいいな。久しぶりに生きた感覚を味わったというか、これは本当に盲点だったよ。」
ネイバーはそう言って木の実を1粒食べた。
「俺も1つ食べよ。」
先ほど木の実を全てあげると言ったばかりだが、ネイバーが美味しそうに食べているので俺も一緒に木の実を食べることにする。
「けどネイバーがうらやましいよ。食べても食べなくてもいいし、生きていくのにもそんなに苦労しないなんて。」
「そうだな、そういえばライトのこともいろいろ聞かないとな。」
「う、うん。」
「けどその前に、俺が魔法を使えない理由を話すんだったか。」
「ああ、そうだった。」
「これについてはまぁ、召喚において何か制約のようなものがあるんだろうな。」
「制約。」
「ああ、召喚された魔物が魔法を使う場合には、召喚した人の魔力を消費することになる、っていう制約がね。」
「よくわからないけど、なんでそんなことになってるんだろう。
どう考えても、魔物が魔法を使うなら魔物が魔力を消費するのが普通であって、召喚した人とは繋らないと思うのだが。
「なぜそうなっているのかは俺にもわからないな。とにかくそうなっている。まぁ、召喚したなら、何でも自由にその魔物の力を使うことが出来る、っていうのもそれはそれでおかしい話だろう。そんなことができたら今頃、みんな魔物を好き放題に召喚して戦争が起きているだろうな。」
「そういうもんかな。」
「そういうもんだ。実際にはそうした制約を受けない、抜け道のような方法があるかもしれないけどな。」
「う〜ん。とりあえずつまり、俺に魔力がない限りネイバーは魔法が使えないんだよな。」
「そうだな。」
「そうか〜。」
「まぁ、俺を召喚したんだから魔力が無いことはないし、後は魔力を増やしていけば俺も魔法を使えるようになるさ。」
「そうか〜。ちなみに、無理に魔法を使おうとするとどうなるんだ?」
「さあ?死にはしないと思うけど、試してみる?」
ネイバーが少し意地悪そうな顔をする。
どうしようか。いや、何かを試すなら早いうちに試したほうが良いはずだ。
「よし。やってみよう。魔法を使ってみてよ。」
「わかった。」
ネイバーが右手をゆっくりと開き、手の平を上に向ける。
「あ、その前に、気を失っても怪我しないようにしておいたほうがいいぞ。頭を打たないようにテーブルにクッションを置いとくとか。」
「そ、そうか、ちょっとまってて。」
テーブルから離れて寝室に行き、ベッドから枕を持ってくる。そして、
「このあたりかな。」
テーブルに戻り、気を失ったらこのあたりに頭がきそうというところに枕を置いた。
「準備はいい?」
「お、おう。」
ネイバーの確認に返事をする。覚悟はできているぞ。
「じゃあ、やってみよう。」
再びネイバーが右手の平を上に向けた。
そして、数秒ほどすると、
スッ
と微かな音を立てて、ネイバーの手の平より少し上空に、マッチほどの火が出た。
「おお!すごい!」
疑っていたわけではないが、本当にネイバーが魔法を使えるとは。ネイバーも得意気だ。
「いちおう、この程度の魔法なら今のライトの魔力でも使えるみたいだな。」
「おお〜。」
「そうしたら、もう少し火を大きくしてみるか。」
「うん。」
ネイバーの出した火が少しずつ大きくなっていく。
「おお〜。」
そして、人の頭ほどの大きさになったところで、
ガクン
俺の意識は飛んだ。
ドスッ、体が前に倒れ頭から枕に突っ込む。少し痛いが枕を置いておいて良かった。
そういえばまだ、木の実は食べだけど夕食を食べてない。
眠れないときはむしろこの手を使うのもありか。
火の大きさは今どれくらいなのだろうか。
という事がとりとめもなく頭に浮かんだが、考える前に俺の意識は途切れていた。
お読みいただきありがとうございます。
評価などいただけますと幸いです。
なぜ私は喫茶店に入りカップルや親子連れの隣で男2人の話を書いているのか。これがわからない。