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3話 町の門番と家の食料について

 森を抜けて程なくして、

 俺と(ネイバー)は町の入り口まで到着した。

 いつのまにかあたりは夕暮れ時になっている。

 町を出た時と異なるのは犬を連れていることだけなのだが、単なる犬ではなく魔物だからか、なぜか町に入るのに緊張する。

「よし、入るか。」

 自分の行動を促すために自分に向けて言った言葉だが、ネイバーは律儀に「ワン。」と鳴いた。

 町の入り口まで行くと簡単な作りの門があり、門の前では兵士が1人門番をしていた。

 俺は門番に近づいて挨拶をした。

「こんにちは、コールさん。」

「ああ、こんにちは。」

 町に出入りする際には、門番に挨拶をすることが決まりになっているのだ。

 そして、俺が話しかけたのは門番をしている兵士の中でも年長のコールさんである。

 年齢はおそらく70歳を越えており、他の兵士達は門番や他の仕事を数年交代で行っているところ、コールさんは高齢のためか門番の仕事を専門でしている。

 笑顔の絶えない人であり、よく孫の話をしている。そして、タバコが好きで門番中もよくタバコを吸っている。もちろん今もだ。

「今日はどうしたんだい。随分あわてていたようだけど。」

「ええ、少し用事がありまして。」

「ほうほう。」

「そうなんですよ。あははは……」

「ふ~む。」

 コールさんはタバコの煙を少し吐いてからタバコを灰皿に押し付けて消し、俺の足元に目を向けた。

「その子を探してたのかい?」

 そう言うと、腰をかがめて俺の足元にいるネイバーに顔を近づけて、「よしよし。」とネイバーの頭を撫でた。

 ネイバーはお座りの姿勢をとり大人しくコールさんに頭を撫でられている。

「え~と、ええ、まあそんなところです。」

 実際にはそういうわけでもないのだけれど、コールさんに話を合わせておく。

「そうかそうか。」

 コールさんはこちらを見ることなくネイバーの頭を撫で続けている。

「犬はいいよなぁ。俺も昔犬を飼っててなぁ。かわいいよなぁ。」

「そ、そうですね。」

 普通の犬ならかわいいと思うのだが、ネイバーの人間の姿を知っているため、あまりかわいいという気持ちにはなれない。

「もう名前は付けてるのか?」

「いえ、まだです。」

「そうか。俺が付けてあげようか。」

 何を言い出すんだこの人は。

「い、いやいや。自分で付けたいので、せっかくのお話で申し訳ないんですけども。」

「そうか。いや、気持ちはわかる。やっぱり自分で名前付けたいよな。」

「はい。そうなんですよ〜。」

「そうか。」

 そう言いながらもコールさんはネイバーの頭やら首やらを撫で続けている。今まで知らなかったけれど、よほど犬が好きだったらしい。

「えっと、それじゃあ、俺はそろそろ家に帰ろうと思います。」

「ああ、そうか。」

 俺が話を終わらせようとすると、コールさんは名残惜しそうにネイバーから手を離して立ち上がる。

 それに合わせてネイバーもお座りをやめて立ち上がり俺の側をぐるぐると歩いた。

「まぁなんだ、犬の世話とかで困った事があったら言ってくれ。」

「はい、お世話になります。」

 去り際、「名前に困ったら俺に言うんだぞ。」というコールさんの声を苦笑いで躱して家に向かう。

 その後は、俺の家が町の入り口とそれほど離れていないこともあり、とくに誰に話しかけられることもなく家に着いた。

「ただいま~。」

 家には誰もいないが、なんとなく家に帰ると言ってしまう。

 ドアを開けて、ネイバーが俺の足元を横切り家の中に入ったことを確認してドアを閉める。

 ここまでくれば一安心だろう。何について安心なのかは自分でもわからないが。

「ワン。」

 ネイバーは部屋のリビング中央ほどのところで立ち止まりお座りの姿勢をとった。

 俺はとりあえずテーブルのイスに座り、手に持っていた魔法の本をテーブルの上に置いた。

「はぁ~~~。疲れた。」

 イスの上で大きく仰け反り天井を見上げる。

 そして、腕をだらりと下ろして、目を閉じてしばらく休憩する。

「ワン!ワン!」

 ネイバーが垂らした俺の手を前足で叩いてきた。

「あ~、わかったよ。少しくらい休ませてよ。」

 こちらは朝から動きっぱなしで疲れているのだ。ネイバーは魔物だから大して疲れてもいないだろうけど。手を叩いて急かさないでほしい。

「よいしょ、と。」

 仕方がない、まずはネイバーが着る服を持ってこよう。見た感じネイバーの人間時の体は俺より少し大きいくらいだったはず。とりあえず俺の服を渡しておけばいいだろう。

「少しここで待っててくれよ。」

 危険はなさそうだけれど、あまり家の中を荒らされたくないためネイバーにはリビングで待っていてもらう。

 俺はクローゼットから服を一式取り出して、脱衣所に向かった。

「ネイバー、服を用意したからこっちにきてくれ。」

 呼びかけるとネイバーがトコトコと脱衣所までやって来る。

「これが服ね。それとここが脱衣所だから、ここで服を着てね。」

 ネイバーの側に服を置くと、ネイバーは服と脱衣所を交互に見て、「ワン。」とおそらく肯定の返事をした。

「それじゃあ俺はリビングに戻ってるから、着替え終わったら来てよ。」

 そう言って俺はリビングに戻った。このままここで男の裸を見る趣味はない。

 バサバサと、脱衣所から物音が聞こえる。

 少し時間がかかるだろうし、今のうちに夕飯の準備でもしようか。家の中にある食材を見て今日の料理を考える。

 そういえば、ネイバーは何か食べるのだろうか。犬なら肉だけど、人間なら野菜でもいいだろうか。

 町では肉が高いので、とても毎日肉を買うことなどできない。一体魔物が食べるものって何なのだろうか。

 人肉とか言われたらどうしよう。せめて肉ではありませんように。

 そんな事を考えていると、人の歩く足音が聞こえ、人の姿になったネイバーがリビングに入ってきた。

「う〜ん、少しキツイなこの服は。」

「ブフッ。文句言わないでよ、それくらいしかないんだから。」

 大分パツパツな着こなしで部屋に入ってきたネイバーを見て、少し吹き出しながら答える。

「おい、今明らかに笑っただろ。」

「笑ってないし。全然笑ってないし。」

「ちっ、まあいいよ。」

 ネイバーは不満そうにテーブルに着いた。

 俺は2つのコップに水を注いでテーブルに置き、ネイバーの向かいの席に着いた。

「さて、それじゃあ話を始めようか。」

 ネイバーが話を始めようとする。

「あ、その前にちょっと待って。」

「あん?」

「ネイバーって肉食なの?それとも草食?」

 それだけは先に確認しておかなくてはなるまい。我が家に食料問題が襲来するかどうかの瀬戸際なのだ。

 ネイバーは呆れた顔をして、

「あ~、味覚はあるけど、別に食べ物が必須なわけじゃないよ。」

 と言った。

「よかった~。」

 本当によかった。これで安心して話ができる。

「それじゃあ、話を始めようか。」

 俺はコップの水を一口飲み笑顔でネイバーに話しかけた。

 ネイバーはやれやれ、とでも言うように肩をすくめて、コップの水を一口飲んだ。

「そうしよう。」

お読みいただきありがとうございます。

評価などいただけますとさらに幸いです。

もう少し書いてから投稿したかった気もしますが、明日から仕事が始まるためこの部分で1区切り投稿させていただきます。


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