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2話 森の中の2人

「……」

「……」

 俺は今、森の中で全裸の男と向かい合っている。

 周りに人気はない。

 普段なら全力で逃げ出しているところだろう。というか今すぐ逃げたいのだが、そうもいかない事情がある。

 この男は俺が召喚した犬が人間になった姿だからだ。

 そして驚くことに、この男は元は犬だったにもかかわらず、俺に向かって「おはよう」と挨拶までしてきたのである。

「お、おはよう。」

 とりあえず、男がしてきた挨拶に返事をしてみる。

 まずはこの男とコミュニケーションを取ることができるか確認する必要があるだろう。人間の言葉を話すことができて、姿形まで変えられるということは、もしかするとこの男はとてもすごい魔物なのかもしれない。それならばここで友好関係を築いておくのがいいに違いない。

「おう。よろしく。」

 男は変わらず笑顔で答えた。

「それで?お前はどうして俺を呼んだんだ?」

「えっ?」

「え?じゃないよ。何かあるから召喚術を使って俺を呼んだんだろう。」

「えっと、そう。そうなんですけど、その~……。」

 どうしよう、別にこの男を召喚しようとしたわけではないのだけれど。しかしそれを言ったら怒るだろうか。

 いや、こういう時は弱気を見せたら相手に主導権を渡すことになってしまうかもしれない。強気でいかなくては。それに、男の質問に答える前にこちらから言うことがある。

「そ、その前に、なんであんた裸なんだ。」

「うん?」

 俺の言葉に男は訝し気な様子になる。そして、しばらく自身の体を眺めてから、こちらに向き直った。

「それは服がないからだろう。お前が服をくれればいいんじゃないか?」

「いやいや、それはおかしいだろ。そしたら俺が裸になっちゃうじゃないか。」

「ふ〜ん。それなら他に服でも布でも、余分に持ってないの?」

「家に帰ればあるけど、今は持ってない。」

「……そっか。まぁいいや。とりあえず服はない、お前も持ってない。以上、何かあるか?」

「い、いや。ないけど。」

「そうか。じゃあとりあえず話を先に進めようぜ。気にしたってしょうがないんだからさ。」

「う、うん。」

 なんだか、すでに向こうに主導権が渡っている気がする。しかもこのまま裸の男と話さないといけないのか。いやしかし、話を進めないといつまでもこのままというのも確かだ。

「えっと、お前は誰なんだ?」

「俺か?俺はネイバー・バックヤード。俺は人間として生きていたこともあるが、その時俺はそう名乗っていた。ていうか知らずに召喚したのかよ。」

「うっ。」

 一瞬言葉に詰まるが、この男、ネイバーは気にした風もない。

「まぁいいや。それでお前は?」

「お、俺はライト・ニューポート。近くの町で暮らしてる。」

「町で暮らしてるライトだな。あらためてよろしく。」

 ネイバーが一歩足を踏み出して手を差し出してくる。

 俺は少し躊躇しながら、手を伸ばしてネイバーと短い握手を交わした。

「ああ、よろしく。それでえっと、ネイバー。名前はわかったけど、お前はどんな、えっと、そもそも人間なのか?それとも魔物なのか?」

「俺は魔物だろう。元は違かった気もするな。俺は犬だったこともあり、人間だったこともあり、鳥だったこともあり、気ままに姿を変えてすごしてきた。そうしているうちに、俺はいつのまにか魔物になっていたんだ。」

「そ、そうか。じゃあ、ここで召喚されるまでは何処かで犬としてすごしてたのか?」

「いや、最近は現世とは関わらずに寝ていたよ。こうして外の空気を吸うのは久しぶりだ。」

「お、おう。」

 元は魔物じゃないとか、現世がどうとか、わかるようなわからないような話だが、目の前で姿を変えるところを見ていたし、ネイバーが魔物であることはおそらく確かだろう。

 人間が魔法で犬になっていた可能性もあるけれど、魔法で姿を変えていたなら、人間に戻る時にもう少しスムーズに姿が変わる気がする。

 とにかく、俺は魔物の召喚に成功したわけだ。

「ネイバーは姿を変えて生きてきたと言ったけど、他にはどんなことができるんだ?」

「できること?」

「例えば力が強いとか。」

「力?」

 ネイバーは俺の質問に少し不思議そうな顔をした。

「まぁ強いよ。そうだな~。熊よりは強いな。」

「う、う~ん。そっか。強いな。」

 どうなんだろう?普通に考えれば、人間の姿のネイバーが熊より力が強いというのはすごいことだ。しかしながら、魔物としてはどれくらいなのだろうか。

 この町の周辺でも魔物は出現するが、大抵は犬かイノシシを少し凶暴にしたくらいの魔物しかいない。そして、おそらく熊とそれほど変わらないくらいの力を持っていると思える。

 これらの魔物が町の近くで出現すると、町の兵士や猟師に追い払われるか、狩られることになる。それもそれほど危険な行為として捉えられてはおらず、危険はあっても注意をきちんとしていれば命の危険はないものとして扱われている。

 このため、個人で考えればネイバーの力は確かに強いのだけれども、一方で、ここいらで出てくる魔物とそれほど力が変わらないと考えると、あまり強くない気もする。

 というか、それだと貴族のビジターや他の貴族たちと対峙するにはもの足りない気がする。

「おい、ずいぶん微妙そうな顔をしてるじゃないか。」

「えっ、そんなことないって。本当にすごいわ~。」

 顔に出てしまっていたらしい。あわてて精一杯の笑顔を作る。

「ふ~ん。それじゃあ、ちょっと見てろよ。」

 そう言うと、ネイバーは比較的近くに立っていた木に近づいて行った。

 木の高さは5メートルくらいだろうか。

 そして、木の前で少し右腕を振りかぶり、

「ふん!」

 木を殴りつけた。

 ミシャリ

 まるで木の枝をへし折ったときの音をさらに大きくしたような音がする。

 そして木は殴られた部分が大きくへこみ、ミシミシという音とともに、大きく折れ曲がってしまった。

「おお!すごい!!」

 今度は愛想ではなく、素直な俺の感想である。

 熊よりは力が強いとか言っていたが、熊どころではないだろう。

 たまに木を切り倒す手伝いをすることがあるが、斧で木を何回叩いても、なかなか木を切ることはできない。

 それを拳で一回殴っただけで木を折り曲げてしまうとは、とてつもない力だ。

「すごいだろう。まぁ、これくらいのことはできるということさ。」

 ネイバーは得意気だ。

「いやいや、これは本当にすごい。想像してたよりずっとすごいよ。」

「そうだろう、そうだろう。」

 うんうん、とネイバーが頷く。

 最初に魔法陣から犬が出てきたときはどうなることかと思ったけれど、これなら貴族の連中とも対峙できそうだ。

「力がそれほど強いということは、魔法についてもすごい魔法を使うことができるのか?」

「魔法?」

 ネイバーが再び不思議そうな顔をする。

「魔法は今は使えないな。」

「えっ、そうなの?」

 なぜだろうか、魔物でこれほど力が強くて、姿も変えられるなら当然、魔法も使えそうな気がするのだが。

「魔法を使うための魔力が足りてないんだな。」

「あ~、召喚したてだからとか?」

「いや、違う。」

「うん?ネイバーは魔力をあんまりもってない魔物っていうこと?」

「いや、俺が魔力を持ってないんじゃなくて、お前の魔力が足りてないってこと。」

「はぁ?どういうこと?」

 魔法を使うのは俺じゃなくてネイバーなのに、なんで俺の魔力が足りてないという話になるのか。

 ネイバーにさらに質問をしようと口を開こうとすると、ネイバーが手でこちらの質問を遮った。

「まぁ待て。お前が本当に魔法にも召喚にも詳しくないのはわかった。」

「ぐぬっ。」

 魔法初心者ということを見抜かれた。なんだ、召喚術を使う人には常識なのか?召喚されると魔物は魔法を使えなくなるとか、そういうことがあるのか?

「そうだな、一度お前の家に行かないか?お前のことに関して聞きたいこともあるし、ずっと立ち話を続けるのも疲れるしさ。」

 ネイバーが提案する。

「うっ。う~ん。そうか。そうかも。」

 あまり簡単に家に入れたくないのだけれど、仕方がないだろうか。とりあえず友好的な感じではあるし、説明もしてくれそうだし。どうせ、どんな魔物が召喚された場合でも町に連れていく予定ではあったわけだし。一応、予定通りの展開と言えなくもないはずだ。

「じゃあ、家まで行くか。あ!けどその恰好じゃだめだからな、裸なんだから。町に入るときは犬の姿じゃないとだめだぞ。」

「わかったよ。家に着いたら余ってる服でもくれればいいや。あと、犬の姿だと人の声は出せないからそこのところよろしく。」

 そう言うとネイバーは人間の姿から犬の姿に変身した。俺の傍に近寄り、ハッハッと犬らしい吐息を出してこちらを見上げている。

 俺は歩き出す前に少し深呼吸を行い、そして犬を連れて町へと歩き出した。

お読みいただきありがとうございます。

今後とも、来年におきましてもどうぞよろしくお願い申し上げます。

寒さに負けず頑張りたいところです。

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