20越えても天才だけど無職無財産無教養
コンパ○たのちい
「はぁぁ……」
連邦軍統括本部のお膝元、ライント地区。
街には軍部関係者とその家族が多く住んでいる。
軍の基地の近くと言えばそこまで発展しているイメージはないかもしれないが、グレナリク連邦は十年前異常なほど過酷な戦争に一国ごと身を投じて……
「あーあ……」
文化、食、工業、の中心が一番安全なこの場所に集まってしまっていた。
その名残は今も続いていて、連邦最大の都市と言えばここ、ライント地区を置いて他に……
「あぁ……」
……さて、ここはそんなライント地区の中でも割と閑静な部類に入る住宅街のど真ん中にある連邦立公園。
敷地面積も広大で公園の中にいくつかの公園が含まれているという仕組みである。
昼は軍部関係者の妻やその子供の笑顔で溢れているのだが、夕も暮れれば様相は一変。
戦傀儡のためにクビにされた軍人のため息がそこかしこから聞こえてくる。
「はぁ……」
そんな中の一人に、ナガラの姿はあった。
ナガラは目の前に設置された噴水を死んだような目で眺めながら、隣に置いた彼の体くらいの大きさはありそうなリュックサックに寄りかかって先程より何回目かのため息を溢す。
「これ……どうすっかなぁ……
なーんでクビって言われた直後に荷物全部纏めちゃったんだろ……
重くて仕方ねえや」
彼のリュックサックには、先の大戦で得た星の数ほどの勲章や褒章から歯ブラシなどの日用品まで、全て乱雑に詰め込まれている。
「勲章……売りゃいくらになんだろ?
つかこんな大荷物で宿屋泊まれんのか?
それ以前にここ宿屋ってあったっけ……
家に帰れりゃいいんだが……家は……なぁ」
そこで彼は苦々しげに口許を歪ませながらかぶりを振った。
「……もうなんか考えるだけで疲れるわぁって……え?」
そう愚痴りながら彼が背もたれに大きく体を仰け反らせた瞬間、彼の視界から一切の光が消える。
「だーれだ?」
と同時に聞こえてくるのは少し興奮気味にも聞こえるそんな声。
ナガラは瞳の上から覆い被さるひんやりした手を優しく取り払うと、先程とは一変して穏やかな声色で言う。
「はぁ、モモだろ。
お前さんあまりにも暇すぎやせんか?
毎日じゃねえか」
「うるさいなぁ、ナガラだってそうじゃん!
流石の私もそろそろ心配になってきたよ?」
少し眉を曲げて心配するようにナガラのことを見る彼女は、宝石のような赤い瞳と、炎のような橙のショートボブを輝かせる快活な印象の美女。
八重歯を見せてニカリと笑う姿は幼い少女に見えなくもないが、成熟した女性らしいスタイルの良さと、たまにする妖艶な仕草もあってこの女性を少女扱いする男など居ないだろう。
「大丈夫に決まってんだろ、僕を誰だと心得やがる!
子供が大人の心配してんじゃねえよ」
訂正、ナガラ以外はモモを少女扱いするやつなどいない。
「じゃあその大荷物どうしたんだよ?」
「げっ」
じとりと睨まれたナガラは、思わず蛙が潰れたような声を出す。
「いやこれは……はぁ」
必死に言い訳を考えようとして目を泳がせるが、モモの瞳はまっすぐナガラを見つめてきていて、流石のナガラも遂に観念したようにため息を一つ。
「分かったからそんなぶっさいくな顔すんじゃねえよ……」
「誤魔化さないで」
「っだぁ!るっせえなぁクビになったんだよどうすんだよどうしようどうにもなんねえ!」
「やっぱり……で、大丈夫……なの?
これから」
「大丈夫、とは言えねえだろうなぁ……
まず金がねえ
十年前の大戦で貰った褒賞金ももうとっくに使い尽くしちまったし、何より戦場に出ない兵士に渡す金なんてこの国にはないんだろうよ……
普通に考えりゃ働きもしない人間が今まで衣食住付きの環境で暮らせてたことに感謝すべきなんだよな。
加えてこの不景気だ、働き口がどこで見つかるかもわかんねえ……
挙げ句の果てには録な教養すらない、ずっと戦ってばっかだったから、なんて言い訳になるかどうかもわかんねえけどさ」
「ナガラ……」
「はっ、お前がなんで俺より辛気臭い顔してんだよ……
僕は少なくともお前に話せて楽になったぞ、こんなこと話せる奴他にいねえからさ」
あまりにも辛そうな顔をしていたモモに耐えかねて、ナガラの方が軽快に笑い飛ばして慰める。
「そう、そうだよね。
ごめん、気の利いたこと言えなくて。
私に出来ることがあったら何でも言って、最大限協力するよ!」
「ありがとな、でもまぁ気持ちだけで十分だ、自分でなんとかできる。
なんたって僕は選等兵団兵団長、奇跡の凱旋を成し遂げた救国の英雄だからな!」
「すぐそうやって無理言う!
やばくなったらちゃんと頼ってよね!」
「分かってるっつの、んじゃ僕はそろそろうちの兵団員共のクビ切ってくるわ。
またガタガタ文句言われんだろうなぁ……」
「うん!じゃあね!」
そう言って立ち上がり歩き出したナガラを、モモは姿が見えなくなるまで見送っていた。
---------------
完全に日が落ちて公園内には元軍人すら見なくなった頃、辺りを魔力式街灯が冷たく照らす中、一人の女性が噴水の前のベンチで身を悶えさせていた。
「こんなこと話せる奴他にいない、かぁ……
……今日、ちゃんと寝られるかなぁ。
……
……ああもうっ!
もぉおおおおお!もおおお!」
牛かよ。
かんこ○アーケードたのちい