20過ぎても天才だけどイキり腐ってたら取り返しのつかないことになった
ドゴッ!!
「おうクソジジイ、やっと選等兵団への出撃命令か?」
本部長室の頑丈な鉄扉を思い切り蹴り飛ばし、中に入ったナガラの第一声はそれであった。
「……」
それに無言で返すのは、しわでくしゃくしゃになった顔を歪めて更にしわを増やす老年の男性。
名前はダーデ・ホイール、本部長仕様の幾ばくか豪華な軍服を見にまとい、最高級の椅子のクッションに腰を沈めている。
隣には、茶髪のストレートヘアーを肩の下まで伸ばした美女がまるで人形のように佇んでいるが、ナガラはこれを気にした様子もない。
「相変わらず散らかってんなぁ……埃舞ってんじゃねえか」
重々しげな表情を見せるダーデに気付かずに、書類の束で足の踏み場もない本部長室を物色するナガラに、今まで黙って立っていた美女が我慢ならないと言った風に声を上げた。
「おい、セイゲン。
いい加減にしろ、貴様が読んでいい書類などここにはない」
「はぁ?
自国最強の兵士ですら読んじゃいけねえ書類がなんでこんな乱雑におっぴろげられちゃってんの?
お人形さん、あんたの上司はボケてんのか?」
「貴様……!
育ての親にその口振りとは……クズだクズだとは思っていたが……どこまで行けば気が済むのだ!」
「あ?
クズだろうがなんだろうが僕は救国の英雄なんだ。
救った人間の数じゃどんな善人であろうとも僕には及ばねえっての」
「貴様というやつは……!」
顔を真っ赤にした美女が遂に手を上げるかというところまでくると、ダーデがそれを右手を出して制止した。
「ほ、本部長……!」
「少し黙れ、カザリ」
「は、はい……申し訳ございません」
カザリと呼ばれた美女が一歩下がると、ダーデは大きくため息をついて胸元から取り出した煙草に火をつける。
「……ふぅ」
「……」
「……」
どうにもいつもと違う様子の彼に二人はやっと違和感を覚えたらしく、双方先ほどまでとでは表情が違った。
「ナガラ・セイゲンに命ずる」
「おっ、やっぱ出撃命令だったか」
目を細くして真剣な表情で言ったダーデに対して、ナガラは緊張を解く。
何故なら、いつも重大な作戦を任す時にダーデは肘をついて手を組むからだ。
ナガラも彼とは長い付き合い、癖についてもある程度は把握している。
勿論それもあるのだが……
「クビだ」
「は?」
「えっ?」
彼がこの仕草をするときは決まって言いずらいことを言い出す時。
というところまでナガラは理解できていなかった。
この口調で一人称が僕っていうミスマッチがね……すこいんです。