20過ぎても天才だけど回りのインフレについていけない
頑張って書いたのが全部消える事件が1話書くだけで七回くらい起きてます。
カツ、カツ、と青年の革靴が一定のリズムを保ちながらグレナリク連邦軍統括本部の廊下を鳴らす。
青年の容貌は、左手が根本からいかれていたり、額に大きな切り傷の痕が残っていることから、身に纏うオーラも相まって余程の半生を送ってきたことが予想されるが、足早なはずの足取りは少し重くも感じられる。
服装も、それなりに地位のある人間が着るような耐寒性の黒い厚手のコートに特別な刺繍が施されたものだ。
「ひっ、あれまさか……」
「見るんじゃねえバカ……あの人多分気が立ってる。
肩でもぶつけようもんなら首から上が吹き飛ぶぞ」
「まぁな……いくら救国の英雄ったって今は戦場にすら出させて貰えねえって話だし……奇跡の凱旋を成し遂げた選等兵団も今じゃただの飾りよ」
「所詮人間、戦傀儡には叶わねえって……」
戦傀儡、グレナリク連邦が敗戦直後に完成させた自動式戦闘人形。
製造方法は秘匿されているが、材料は戦時兵士が使っていた武具だけ済むと開示されている。
性能に至っては軍人が1000人束になっても敵わないほどのもの、もしも戦時中にこれを開発できてさえいれば、恐らくグレナリクが負けることはなかったと言い切れるであろう。
圧倒的な性能と武器ひとつ作るより安く済む低コスト、端的に言ってしまえばもう軍人は必要ない、人間が戦う必要のない時代になったのだ。
「言いてえこたァそれだけか?」
瞬間、本部職員達のヘラヘラとした顔から一切の表情が消え去る。
「ひっ、あっ……えと」
いつの間にか彼らの後ろに陣取っていた青年は、四人居た中の一人を捕まえて肩に手を置く。
「聞ーてんだよ、なぁ?
どうなんだ?」
「痛い痛い痛い痛い!!」
少しずつ力を加えていった万力のように、青年の掌がみしみしと音を立てて肩に食い込む。
「す、すみませんでした!
ちょ、ちょっとした冗談で……」
「そ、そうなんですよ!
バカにしたかった訳では……」
見かねた回りがフォローを入れると、青年は少し鼻で笑ったように口許を綻ばせた。
「あのさァ、気使わなくていいから正直に言ってみ。
一人ずつぶん殴ってやるから」
残虐さを含んだ無垢な笑み、とでも表現するのが適切か。
彼のそんな表情に萎縮してしまった四人は、だらだらと冷や汗を垂らすことしかできない。
そんな時だった。
『選等兵団長ナガラ・セイゲン、至急本部長室まで来てください』
場の緊張が一気に緩んだ気がした。
「チッ、命拾いしたな」
選等兵団兵団長、ナガラ・セイゲン。
転生者で何年もの時を経て生物最強になった青年。
これはそんな男が連邦を救う物語、にピリオドがついてから10年後の物語。