第一話
ある朝、目覚めた俺は、周囲の異変に気付く。
いつもと違う布団の感触を肌で感じながら、
見慣れぬ天井を仰ぎ見る。
「ここは一体どこだ?」
昨夜は、いつものように自分の部屋で、
眠りについたはずなのだが・・・。
ぼんやりとした頭で考えながら、体を起こそうとする。
だが、なぜか起き上がることが出来ない。
体がおかしい。どうしたんだ?
思うように動かない体を、無理やり起こし、
周囲を見渡す。
フカフカとした綿の布団に、
すっぽりとくるまれた俺。
見慣れぬ形状の家具。
「あれはなんだ?・・・うわっ!」
近くで見ようと、足を進めるが、
フカフカの綿の布団に、無様に頭から転がってしまう。
「なんだ、足元が安定しないな。」
ふっと足元を見る。
「ぎゃあああああ」
思わず大声をあげてしまう。
なんと俺の手足に、柔らかそうな毛が
生えているではないか!
いや、それだけではない。
手のひらや、指が異様に小さくなっており、足もやけに短い。
「なんだこれはーーーー!!!」
パニックになりながら、もう一度周りを見渡す。
さっきはただの家具だと思っていた、
大きな円状のものに、じっくりと目を凝らす。
これは・・・。
「まわし車?」
そう、どこをどう見ても、まわし車だ。
ハムスターが、カラカラとまわす、
人間で言うところの、ルームランナー。
その直径15cmほどの小さなまわし車が、
いまや3mほどの大きさで、目の前にそびえ立っている。
「俺は夢を見てるのか・・・。」
よろよろと、よろけ、ちょうどつかまりやすい位置にある、
大きな鉄棒に、手をつく。
「うわっ!つめて!」
びっくりして、思わず手を離す。
大きな鉄棒の先から、水が滴り落ちた。
「・・・なんだこれ?」
改めて見てみると、鉄棒は管状になっていて、
その先端に、大きな球が入っているようだ。
そして、もう一つの先端は、冷蔵庫ほどの大きさの
透明なボトルに繋がっている。
「これは・・・・」
まさかとは思うが、そっと管の先の球を押してみる。
ちょろちょろと水が滴り落ちる。
「給水機?!」
しかも、ハムスターの給水機だ。
ハムスターが、ウォーターボトルに繋がった
鉄のストローの先の球を押すと、水が出て来るというアレだ。
「夢だよな・・・ハハッ」
思いっきりつねれば、目が覚めるかと思い、
ほっぺに指をあてがう。
柔らかい毛に覆われた顔を、ぎゅっとつねってみる。
「いてててて!」
どうもこれは夢ではないらしい。
「俺・・・俺は・・・ハムスターになっちまったーーー!!!」