世界的に有名でモテモテのエマさん!
道すがら、ナインくんにはいろんなことを話した。謎の少年と二人してもくもくと歩く、というのはなかなかに辛いものがあったからだ。
おばあちゃんに育てられたこと、だからたまに言い回しが古いことがあるけど気にしないでほしいこと、最近故郷の村から出てきたこと。それはスゴイ魔法使いの冒険者になりたいからだということ、憧れている魔法があること、だけど魔法使いのジョブ試験には落ちまくってること。
彼は言葉が完全にはわからないみたいだけど、真顔でマジメに聞いてくれた。
そいえば、私は冒険者としての仕事を誰かとやったことがない。駆け出しでジョブ無しで魔法がちゃんと使えない私が出来る仕事は限られていて、そんな私とパーティを組んでくれる人はいなかったのだ。や、今はね? 今だけね?
だから私は、人気のない森へ続く道を一緒に歩いてくれる人がいてちょっぴり嬉しかったんだと思う。
……それにしても、さっきいきなり崖から飛び降りようとしたナインくんにはホント驚いたけど。死んじゃうってば。
さっきからずっと周りをキョロキョロしてて落ち着かないし、ちょっと大丈夫なのかこの人、と思ってしまう。
そんなこんなでやっと採集の現場に到着。ここは丘陵地の低いところで、ここにしか育たない魔法薬の材料があるのだ。さて、採りましょう。目標は4キロだ。足場の悪い山道を速足でやってきたからかなり疲れてるし息も切れてるけど、しょうがないのである。
「はぁ……はぁっ……ふう……、な、ナインくんたちはちょっと休んでてくださいね。私はちょっと……」
なんとか呼吸を整え、採集にかかる。緑が濃いのを選んで摘み取っていく。それにしてもナインくんは汗一つかいてないし息も乱れていない。すごいなぁ、そういえばさっき自分は兵士である、って言ってたから、もしかしたらすっごく鍛えてる人なのかもね。
「リョウカイ。ココ、イル」
〈当機、了解、である〉
なんかどんどん言葉上達している気がするナインくん、とそのお供の金属犬。そしてそんな彼らの傍ら、私は薬草の採集を続けた。摘んで、籠に入れて、摘んで籠に入れて。
うーん。労働の喜び……。を感じなくはないけど、これは私が憧れた冒険者の仕事とはちょっと、かなり、違う。でも頑張る。
うわああっ!モンスターだ! 誰か助けて!
とうっ! 私がきたからにはもう安心です!!
ああっ! 貴女は! 正義の美少女大魔導士で世界的に有名でモテモテのエマさん!
いやいや、そんなことは……わたしなんてまだまだですよ☆
すげぇっ! この街一番のイケメン貴族で金持ちな俺と結婚してくれ!!
いやぁ、参ったなぁ、えへへ。
とか考えながら薬草を摘む。いいのだ。空想は人に許された無限の翼なのだ。頑張って摘むからいいのだ。
「コレ、デ、イイ、ノカ?」
ふと気が付くと、ナインくんは手に薬草を摘んできてくれていた。金属犬くんも口に薬草を咥えている。妄想が伝わるはずはないけど、ちょっと気まずい。でも、予想外だったからとても嬉しい。やっぱり、良い人だと思う。
「あ、ありがとうございます」
「……」
私は笑顔でお礼を言ったが、ナインくんは黙ったまま頷いた。そういえば、私はこの人が笑っているのをまだ見たことがない。いつも真顔で、ときどき、あ、そうそう今みたいにそれより険しい顔になる。あれ、なんで険しい顔に?
「……アレ、ハ、えまノ同胞、カ?」
ナインくんが顔を向けた方向に視線をやってみる。そこにいたのは、大柄で筋肉質で斧とか持ってて、言葉は通じず、豚に似た顔をしていて、人間を襲って殺したり、女の子だったら攫っていってイケないこともされちゃうという話のモンスターたち。
要するにオークだった。しかも複数いる。
「うえぇぇっ!?」
私は瞬間にいろんなことを考えた。
ええええええ? なんでこんなとこにオークがいるんだよう。そういえばギルドで近くの森にいるオークの討伐って依頼あったなぁ、そこから移動したのかな? え、オークってことは私攫われるの? 私の魔法だとまず勝てないよね? どうしよう。ナインくんはこの辺の状況もよくわかってないし、きっと私よりも弱いのに、守ることができるだろうか。
……やばい。しかしまず口から出た言葉これだった。
「どどど同胞じゃないですよ! いったいどう見たら同胞だと思うんですか!?」






