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あなたのお名前はなんですか?

  い、いったいなんだったんだよう……。

 

 私はとりあえず体を拭き、外出用の中古のローブを纏った状態で浴室から顔だけだしてみた。


やっぱり、いる。謎のイケメンだ。工場こうばの作業台の横で座り込んでいた。

どうしよう。なんか言葉通じないみたいだし、ほんと困った。


でも、不思議と嫌悪感はなかった。さっきは突然脱ぎだして跪くから、ついチカン!! って叫んじゃったけど、思い返してみると、彼は終始何かを訴えかけていたし、私が裸であったことをどうとも思っていないようだった。うん、少なくとも、えっちな気持ちで突入してきたわけじゃない……、と思う。


そして、今遠くからみる横顔は、まるで寂しそうな子犬みたいにみえた。困っているんだな、ということがわかる。そんな彼の横でお座りをしている金属製の犬の置物もどこか困っている様に…… !? っていうか今あの置物動かなかった!? ってかなんか喋ってない?


私は少し考えて、それからちょっぴり勇気を出して、彼の傍まで寄って声をかけることにした。


※※



性的倒錯者、というイッヌの言語解析が正しいとすれば、予想だにしなかった結論が導き出される。あの人物は、『女』であるということだ。少年はそういうものが存在することは知ってはいたが、記憶にある限りその目で見たことはない。


異性に裸体を見られることは恥ずかしいことである、という価値観があるらしい。そして思い返してみればあの人物、いや『彼女』の反応は憤怒というよりは羞恥に近いものではなかっただろうか。つまり自分は、彼女の……。


「なんてことだ……」


 深く溜息をつく。これでは平和的な交渉が遠ざかってしまったといわざるを得ない。裸を見られることがなぜそれほどの問題なのかはわからないが、少なくとも彼女はそれに羞恥と危機感を覚えたということであり、それはこちらとしても望まず、申し訳ないことだ。


「〇……▽♡……?」

 そんな少年に、彼女は声をかけてきた。どこか怖がりながら、という感情が読み取れる。


「……すまなかった」

「▽?☆☆……」


 やはり言葉は通じないようだが、少年はひとまず頭を下げ、謝意を表すことにした。彼女もそれを感じてくれたのか、しきりに手を横に振り何事か話している。


「しかし、どうしたものかな……。言語の習得にはまだ少しかかりそうだ」

「☆?」


 少年はこうした会話の間にも彼女の発した言葉やこの部屋にあるいくつかの文字情報によって言語解析を進めている。いくつかの単語くらいは意味が分かるようになっていた。これはひとえにイッヌのデータ分析機能および少年自身の知的能力によるものだ。まずはもう少し語彙のデータがほしい。とりあえずはわかる言葉だけでコミュニケーションを試みてみるとしよう。

 

※※


「俺、ココ、知リ、タイ」

「えっ」


 不意に、座り込んでいた謎少年がわかる言葉を発した。たどたどしくて片言だけど意味はわかる。


「なんですか? ここがどこか、知りたい、そう言ったんですか?」

 わたしは膝をついて彼の目を見つめた。彼はこくり、と頷いて見せる。


「ここはー……なんて言ったいいんだろ? どこから……うーん」


「センダン、なんばーハ?」


「船団? ここは船じゃないですよ。フロマージュ大陸の南の方にあるサントモール王国の王都……の外れにあるザック魔導工房です」


「……? タイリク? タイリク……▽××、〇××〇?」


〈××。〇◇〇××〉


 うお、びっくりした。やっぱりこの犬の置物、なんか喋ってる。今もしかして男の子の質問に答えた? もしかして使い魔とか? じゃあこの男の子、外国からきた魔導士!? ほんとに何者なんだろう。そういえば一応用心のために縛っておいたんだけど外れたのかな。


 どうしよう。うーん。うーん、うーん……。

 私が考え込んでいると、彼もまた困り果てた顔をして考え込んでいる。

 でも、二人していつまでもこうしていても、まあ、仕方ない。


「えっと……、あ、そうだ。私はエマっていいます。あなたのお名前を教えてください」


 人とのおつきあいはまずは自己紹介から。おばあちゃんがいつもそう言っていた。なので、私は自分を指さし、なんどか、エマ、エマと声に出してみる。それから男の子のほうに手を差し伸べてみる。


「ジブン、ハ、ないん、ないんすりーつーふぉー、デアル」


 後半がよく聞き取れなかった。


「ナイン……? ナインくん、でいいですか?」


「ソレデ、イイ」


「で、ですね。ナインくん。もし困っているなら、王都の冒険者ギルドか、衛兵さんに相談するといいと思います」


「ぎるど……? エイヘイ、ヘイシノ、コトカ?」

「そうですそうですそんな感じです! きっと言葉が通じる人だっていますよ」


 サントモール王国は外国人に優しい国だし、冒険者ギルドにはいろんな情報が集まる。彼がどういった事情なのかはわからないけど、彼の国の言葉が話せる人が見つかればだいぶ助かるだろうと思う。


「ワカタ。ジブン、ヘイシデアル。ダカラ、ソコニ、イク」


 ナインくんはフラフラと立ち上がり、壁のほうに向かった。どうやらドアがどこなのかすぐわからなかったみたいで、あちこち触ってからようやくドアノブを発見するありさまだ。うーん。これは、ちょっと危なっかしいなぁ……。


 ええい。こうなったら乗りかかった船だ。うん。困ってる人には優しく、っていうのが私の故郷の村では決まりなのだ。


「ナインくん、私はこれからお仕事に行くんですけど、良ければ一緒に行きませんか。終わったら街まで一緒に行きますから」


 ちなみに今日の私の冒険者としてのお仕事は近くの森での薬草採取だ。駆け出しなうえにランクも低く、ジョブ無しなのでそんな仕事くらいしかできない。だからそんなに時間はかからないだろうし、薬草を取ったらギルドに持っていくわけだからついでにもなる。


 ナインくんはそんな私の発言を理解したのかどうか、とても不思議そうな。訝し気な顔で私を見つめた。


 あ、あれ? なんか変なこと言ったかな。っていうか、ナインくんホント美少年だな。言動がちょっとアレだし、どこの田舎者なんだろうとも思うけど、サラサラの銀髪も青い瞳も、……まるで王子様みたいだ……。そして私は風呂上りとは言え、化粧もしてないし、いまだ田舎娘っぽさが残ってるとかたまーーーーーに言われるし……。がっつり見つめられると、ちょっと、恥ずかしいぞ。



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