こいつは何を言っている?
少年は極めて平和的に話しかけたのだが、かの人物はそれを聴いていないようで、威嚇の姿勢を見せた。少年の目にはたんなる石にしか見えないが、なんらかの兵装である可能性もある。
「♡♡◇◇!! 〇〇▽!!!」
妙に高く、弾んだ声。だがやはり意味がわからない言語だ。
「イッヌ、こいつは何を言っている?」
背後に付き従っているサポートAIに尋ねてみるが。
〈不明です。当機のデータベースに類似言語無し〉
「そんなわけがあるか、仮に別銀河の船団民だったとしても、言語は一程度共通のはずだ」
「♡♡〇〇!! ▽×!!!」
「くっ……」
何を言っているのかはわからない。だが伝えたいことは推測可能である。この人物は怒りの反応をしめしている。なるほど、考えてみれば無防備に近いところを襲撃されたと判断しているのかもしれない。ゆえに少年は、銃をホルスターに収めた。
さらにパイロットスーツのジッパーをあけ、上半身の裸をさらす。連合のパイロットスーツはそれ自体が武装でありアーマーなのだから、平和的な交渉を行うのならばこうする必要があるだろう。
もちろん、素手の白兵戦でも筋量・体重に劣るこの個体には負けることはないという判断にもよるものだ。
少年は上半身を裸にした状態で両手を頭の腕で組み、その場にひざまずいて見せた。
「危害を加えるつもりはない。俺は、現状は知りたいだけだ。速やかな情報提供および平和的な対話を望む」
非戦闘態勢を取り、そのうえで理知的に語り掛ける。
「!? ♡♡××!!▽! ◇!! ◇!!」
だが、かの人物の混乱はさらに強まった。何故か自身の目を両手で多い、しかし指の隙間からは視線を向けてきて、血圧の上昇からか顔面が紅潮反応を示している。
いったいなんだというんだ? こちらがここまで譲歩しているというのに。何者かは知らないが、俺を拾って縛っておいたのはおそらくそちらだろう。なのに対話を拒否するとはどういうことだ。
「おい、少し落ち着け。メンタルメディシンを服用していないのか? こちらに敵意は……」
一歩近づいてみる。
「◇〇×!! ▽▽~~!! ♡っ!!」
ついに、かの人物は木製の容器に入ったH2O、つまりは水を浴びせてきた。
だが少年は極めて優れた反射速度と運動能力を持っているため、素早くバックステップをすることでわずかな飛沫以外は浴びずに済んだ。
バックステップしたため、部屋を出てしまった。瞬間、ドアが大きな音を立てて占められてしまった。
いったい、なんなんだ……? 少年はわずかに濡れてしまった髪をかき上げ、雫を落としつつ呆然としてしまう。そこにイッヌだ。
〈マスター、未知の言語について、状況からいくつかの単語についての解析が終了しました。発言の推測が可能です〉
「あ、ああ。アイツはなんて言っていた?」
〈退出せよ。性的倒錯者〉
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