なんなの?
結局、昨日は工房に泊まった。あの落下少年を抱えて街の中心まで行ける気がしなかったし、かといって残して帰るわけにもいかないからだ。
そして朝、私は気分よくお風呂に入っていた。親方は入浴が好きで、この工房にはわざわざ魔導具まで使ってお湯を沸かす設備と浴室があるのだ。私も時々使わせてもらってて、今朝なんかは鼻歌なんかも歌ったりしていたわけだ。
そんなとき、あれ、なんか冷たい空気入ってきたなぁ、と思ってドアの方に振り返ってみた。
「♪~♪~……あれ? ……………」
そこにはですね。いたわけですよ。
昨日空から落ちてきた男の子が。いたわけですよ。
全裸の私。なんか変な服を着て、なにか筒状の物体を私に向けている彼。
「ど、どわああああっ!!!」
気が付くと変な叫び声をあげていた。どうやらいきなりこんな事態に遭遇すると、きゃー! なんて可愛らしい叫び声あげられるものではないらしい。きっとこれはあれだ。生まれた時から都会育ちの洗練されたレディでも同じはずだ。
「ななな、なんですか!? いきなり!!」
タオルや両腕で色々まずいところを隠し、とりあえず聞いてみる。
「ちょ、ちょっと、閉めてくださいよー!」
「〇▽、×、▽〇〇□」
彼の方は私とは違って落ち着いているようだった。でも澄んだ声で発せられた言葉は何言ってるのかさっぱりわからない。どこの国の言葉だろう。っていうかホントこの人何者なんだろう。
仮にも全裸の女の子を目の前にしているというのに、ちっとも照れたりしてないし、嬉しそうにもしてないし、興奮しているようにもみえない。しかしじっと、見つめてくる。私の全身および顔を。超クールな視線でだ。
えー、なんなの?
いや別にね? ハァハァしてほしいわけではないけど、こうもガッツリ裸を見られている状況なのに少しも動じられないと、こう、女の子としてどうなのかなぁ、とかちょっと思わなくもない。おかしいな、故郷の村ではおばあちゃんや近所のオジサンたちには別嬪さんだと言われてたもんなんだけどな。
あ、っていうかそんな場合ではない。彼があまりにも冷静なので私も釣られてしまったけど、これは普通キャー!! な場面である。
「〇▽、××〇□?」
「何言ってるかわかんないんですって! っていうか、いい加減にしてくださいよ!!」
まるで新種のモンスターでも観察するような視線でうら若き乙女の柔肌を見つめる彼。私は、体を洗う用の軽石を手に取った。ぶ、ぶつけちゃうぞ。いくらイケメンだからってこんなご無体は許されないんだぞ。