二光秒その6
二秒後、ドーミエの右舷をレーザーが掠めて行った。船体表面がまばゆく輝く。装甲自体にはたいした被害は無かったものの二基のカメラが破壊された。しかしその破壊される寸前、カメラは急に輝きを増した点を写し出していた。
ドブロクニクはしくじった。この中途半端な攻撃が自分の居場所を敵に知らせることになってしまったのである。本来なら、D・スパイダー号の機能から砲の位置が特定されても本体は無事なのだが、ドーミエのMBHガンは本調子でない。
約六秒後、MBHガンの弾がD・スパイダー号のレーザー砲の一つを直撃した。あと200メートルぐらいでレーザー砲を巻き取りきり回避行動をおこす筈だった。爆発の衝撃を感じたドブロクニクはすぐに自分の敗北を感じ取った。そして躊躇せずに残った砲台を切り離しコックピットに衝撃吸収用の泡を充填した。後はコンピューター任せで回避行動をするだけだ。
爆発が近すぎるため、その爆炎を背景にデススパイダー号の本体が黒く浮きあがり敵に察知されるまでに二秒、敵のMBHガンが新しい攻撃目標にねらいをつけるまで一秒、そして六秒後、こちらの本体に向けて弾が嵐のように到達するだろう。
それがドブロクニクの考えだった。あわよくば逃げられる。
しかし、願いもむなしくMBHガンの弾がD・スパイダー号の本体を直撃した。
あれから何日たったろう。ドブロクニクはベッドの上にくくり付けられていた。十箇所近い骨折と全身打撲。D・スパイダー号をこなごなに粉砕したあの爆発でよく死ななかったものだ。衝撃吸収用の発泡剤のおかげだった。
「お目覚めですか」
寝ているドブロクニクの顔を汎用ロボットが覗き込んだ。
「元気そうですね、いや元気が何より。それにしてもなんて回復力なんでしょう。だてに半分近く私達の仲間じゃ無いってことでしょうね。あ、そうそう。いよいよギプスがとれて上半身を起こすことが出来るようになります。えーとドブロクニク・・・」
そう、ドブロクニクはサイボーグなのだ。
「何度言ったら判るんだ、俺は一匹狼の傭兵だ、階級なんて関係ない」
「しかし、捕虜になった以上そういったことはチキンとしておかないと」
「傭兵は捕虜にならないんじゃなかったかな」
「いやその辺は人道的見地といいますか・・・。そうそう将軍が伝説の傭兵であるあなたにお目にかかるのをたいそう心待ちになさっております。そういった意味ではお客様として対応させてもらっています」
なにを言ってやがる。敵の情報を知りたいだけだろうが。にしても毎日同じ話ばかりしやがって、この凹み頭野郎が!ドブロクニクは心の中で呟いた。
「それでは、何か用事が有ったらいつでもお呼びください。あ、そうそうこの船は無人で与圧してある部屋は此処だけですのでくれぐれも逃げ出そうとしないでくださいね」
一通りの世話を終えて汎用ロボットは出て行った。その気配が消えるのを待ってドブロクニクはベッドから降りて立ち上がり背伸びをした。
「何が上半身を起こすことが出来るだと。なめるんじゃないよ」
その部屋に監視カメラが無い筈がないのだがどこかおかしいこの対応。自分の攻撃が、このドーミエの機能をおかしくしているらしいことは判る。付け込むとしたらその点なのだが、ドブロクニクはまだ逃げ出す方法を考え付いてはいなかった。
「ま、時間はまだあるか・・」
歴戦の勇者は気楽そうにそう言って再びベッドに横になった。
窓の外には、かすかな瞬きすら許されない星々の光が、静寂に包まれた空間の中に充満していた。