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二光秒その5

 「おかしい。あれだけの回転からこんなに早く復旧し、態勢を立て直せるはずが無い。中の人間はミンチ状態のはずだ・・・」D・スパイダー号のコックピットでつぶやいているのは、ドブロクニクという男。ありとあらゆる宇宙の戦場をまたにかける傭兵で、ここ数年はD・スパイダー号のパイロットをしている。人付き合いの少ないドブロクニクにとって狙撃という任務の性格上、一人乗りであるこの船はお気に入りの仕事場だった。でも、このD・スパイダー号という名前はダサいと自分からは使うことは無い。

 ・・コココココココ・・・

 ドブロクニクの頭の中でMBHガンの弾が亜光速で掠めてゆく音が響いた。重力波で伝わる音は光速なので人間の耳では音源を特定することができない。大抵は頭に一番近い物体から発するように聞こえるか、頭蓋骨を直接揺さぶられて頭の中で音が響くことが多い。今回は頭の中で響いているようだ。

 「いやな音だ」

 ドブロクニクは思わず頭上を見ながら呟く。宇宙で音が聞こえるときは戦艦の爆発とか巨大なエネルギーが開放される時。もちろん死人もたくさん出る。だから死神の囁き声とも呼ばれているのだ。遠くから近づいて来て、また遠くへ去ってゆく方向が確定できない音。さすがの歴戦の勇士ドブロクニクでもこの音に慣れることは無かった。

 だが、今は気にしている時ではない。二発も撃ったのに敵を沈黙させることが出来なかった。いつもなら最低二発で止めを刺していたのに。何処をしくじった?最長狙撃距離の記録を更新しよう、などと奢った考えがあったのか?いや、こいつの性能なら十分可能だったはずだ。

 ドブロクニクの頭の中でさまざまな考えが交錯する。そして三発目を発射することに決めた。もしはずしたらさっさと撤収しよう。ここまでこちらの位置を知られてしまってはヤバイ。遅かれ早かれMBHガンの餌食になってしまうだろう。

 ドブロクニクは、モニターを見ながら最終調整を開始した。そのモニターの画面中央にはこちらに正面を向けた宇宙戦艦が映っていた。ドブロクニクはモニターの自動追尾モードをオフにしてみた。画面中央の宇宙戦艦が右に動いて行く。思った以上速い動きだ。一秒間に10ピクセルは移動している。コンピューターの解析に拠れば微妙に加減速を繰り返しているようだ。いくらレーザー砲でも2光秒の距離を進むのに2秒はかかる、その間に動く敵の位置は推測するしかない。コンピューターにいくつかの候補を出してもらってその中から人間が選ばなくてはならないのだ。ドブロクニクは今まで二発撃てば大抵の敵は落としてきた。しかし、今三発目を撃とうとしている。これは屈辱なのか、自問するドブロクニクはその考えを振り払うようにして、自らのカンを信じ砲撃のコースを選んだ。

 「さて」とドブロクニクは呟いた。 

 一瞬の沈黙の後、ドブロクニクはレーザー砲の発射ボタンにかかっていた指に力をこめた。と同時に撤収の準備をするために砲塔のワイヤーを巻き取りを始めた。

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