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第2話 事前準備

ダンジョン組合第44支部 再世紀701年 初期 第1週 再生の日




 アルフレッドはその日の朝、寝過ごしかけてしまった。


 今日は期に一度の祝日、再生の日だ。再生の日はダンジョンに潜ることが出来ない。この日にダンジョンが成長するらしいからだ。それまで伐採した木なんかも再生している。そのため、何百年か前に再生の日は祝日に決められたらしい。アルフレッドはご多分に漏れず再生の日が来るのを心待ちにしていた。61日に一度しか訪れない再生の日を一日中部屋の中でゴロゴロし続けるのが、いつもの再生の日の過ごし方だった。


 その個人で好きなことを好きなように出来るはずの再生の日の今日だが、いつものように二度寝をしかけ今日がなんの日か思い出し急いで飛び起きる。5年に一度の再誕の日、この日はいつも以上に特別だった。新しいダンジョンが発生する日なのだ。普通の冒険者ならそれでも今日は休日だっただろう。だが、残念なことにアルフレッドはダンジョン組合の職員であった。


 ダンジョン組合は世界に存在する唯一の組織だ。世界に発生するダンジョン、その全てを管理している。ダンジョンの情報や攻略状況のみならず、現在潜っている冒険者は何組かなどダンジョン組合の名前に恥じぬ働きをしている組織だ。ダンジョン組合がなくなったら10年もしないうちに世界は滅びるだろうとまで言われている。そのダンジョン組合にはダンジョンの調査も業務内容に含まれていた。アルフレッドはそのダンジョンを調査する班に所属していた。ダンジョン組合に就職できれば危険な探索をしなくてもいいと思っていたのだが、現実は非情であった。アルフレッドは体格の良さと判断能力を評価され探索班に任命されたのである。


 今日の探索班の仕事は、明後日から冒険者が潜り資源を回収できるように、明日第一層の調査をする為の事前準備だ。未知のダンジョンに最初に潜り調査する役目。不幸にもアルフレッドは当初の目標とは正反対の道を歩まなければならなくなった。未知のダンジョンに最初に潜る職員の殉職率は脅威の20%。絶対に必要な役割とは言えやっぱり緊張してしまうのは、仕方のないことであろう。


 着替えを済ませ準備を整えると急いで部屋を飛び出す。遅れたりでもしたら班長に殴られるだけではすまされない。既に朝8時半は回っていて、集合時間の9時には急いでも間に合うかわからないぐらいの瀬戸際だった。寮の階段を駆け下り、管理人に届け出を出し、隣接して建てられている社屋に駆け込む。第4探索班に与えられた部屋まで急ぐ。これならギリギリ間に合うだろう。扉の前で呼吸を整え静かに開ける。良かったまだ上司は来ていない、間に合ったようだ。


 既に他のメンバーは集まっていたようでそこに合流すると、ブレインがニヤニヤ笑いながら話しかけてくる。


「よう、遅かったじゃねえか。遅刻まで後3分ってとこだったぞ。大方いつもの再生の日のように過ごしかけて慌ててきたんだろ。そんなんだからお前はだらしねえって班長に言われんだよ」


 少し口調の荒いブレインだがこんなんでも組合の職員だ。口調のせいで粗野な人間に見られがちだが俺はこいつが慎重で堅実なやつだと知っている。口調は慎重さを臆病だと思われないようにわざと粗野に見せているふしすらあった。


「その通りだよ。いやぁ、習慣ってのは怖いね。前日にあれほど確認してたのにこれだ」


「もう。アルフレッドさんは・・・・・・。それでちゃんと"ロールプレイ"出来るんですか?」


 この丁寧な口調で言ってきたのが、俺たちのパーティーでの紅一点キャシーだ。中々に気合が入っているらしく既に"作っている"ようだ。普段のキャシーは勝気な性格をしている。


「分かってるって、俺は"頼りになるけど規律にうるさいパーティーのリーダー"アルフレッド様だぜ?」


 本来の俺は"ガサツでルーズな一般組合職員"なんだが、ダンジョンに潜るときは、ロールプレイをしなくてはならないルールがはるか昔からある。


 なんでも、過去ダンジョンマスターから聞き出した情報により、ダンジョンマスターは"剣と魔法のファンタジー"を想像してダンジョンを作っているらしい。


 そう思って(そうぞうして)くれているなら、そう思わせて(ごかいさせて)しまえばいいと、昔の偉人は考えたのだとか。都合のいい情報を渡せば、都合のいいダンジョンを作ってくれる。この考え方が今なお人類を存続させる礎を作ったと言っても過言ではない。


 咄嗟の判断の時うっかりミスらないように、名前だけは本名を使っているがそれ以外は事前にキャラクターシートを作って、組合に提出することになっている。


 キャラクターシートは、職業レベルや取得スキルの他に、今後取得していきたいスキルやロールプレイの方向性などを記載している。


 組合職員ではない普通の冒険者は、このキャラクターシートを使って仮パーティを組んだり、追加人員を補充したりする。


 と、取るに足らない会話をしていた中、部屋のドアが開き一人の人物がはいってくる。


「よし、全員揃っているな。ミーティング始めるぞ」


 ギルド職員共通の制服を着用しているが、その下にある筋骨隆々な肉体がなんともいえない違和感を作り出していた。間違いなく班長だ。


「さて、朗報だ。うちの管轄になるダンジョンは全て"当たり"だ。どのダンジョンも階層数は五階層以上、属性も闇や無への偏重はなかった。トラップダンジョンは無いだろう」


「トラップダンジョンが無いのなら、中央から"潰し屋"を呼ぶ必要はなさそうですね」


 キャシーの言う潰し屋は、トラップダンジョンを攻略する専門の職員の総称で、全員高レベルのローグ系職業かつ、トラップを破壊するスキルや、不測の事態に対応するためのスキルを数多く所持しているらしい。聞いたところによると、水中呼吸のスキルなんかも持っているそうだ。

 トラップダンジョンはその性質上、他のダンジョンより危険が多く、更に得られる資源の量も少ないことが多い。だから確認され次第つぶすことになっている。最後に待ち受けるダンジョンマスターも特殊なスキルを持っていることも多い、いろいろ特殊なダンジョンなんだ。


「ああ。だが、その分お前らの仕事量が増えることになる。てことで、お前らが受け持つダンジョンについて、測定部から情報があがった。わかっている範囲で言うぞ」


 班長の言葉で俺たち三人は居住まいを正した。その為に三人は集められたのだから。


「よし、心の準備は出来たみたいだな。事前講習でやったことは覚えてるな? だが一応説明の途中で都度確認を挟むからな。担当することになる444番だが、ダンジョン名がついていた。以前講習で説明したが、ダンジョン名はそのままダンジョンの性質を表していることが多い。だからこそダンジョン名の無いダンジョンも多いわけだ。それで、444番のダンジョン名だが"陸の孤島"というダンジョンだった。ブレイン、少し難しいが孤島とはなんだ。言ってみろ」


「以前あったとされる海、その上に浮かぶ小さな陸地のこと、でしたかね?」


「惜しいな、それは島だ。孤島は周囲に何も無い一つの島のことをいう。つまりお前らはダンジョンに転移した後、海を見ることになるわけだ。ダンジョンマスターに世界の全容を知られないために、海を見た時のロールプレイを事前に打ち合わせしとけ。次行くぞ、ダンジョンの属性についてだ。主属性は土で副属性は水と出たそうだ。キャシー、このことからどのようなダンジョンだと予想できる?」


「統計的に土水に属性が寄っているダンジョンは、森林系ダンジョンが多いとされています。孤島とのことですので、森林などが多い自然豊かな島・・・・・・。いえ、それなら水の方が主属性になった方が自然。そうだ、もしかしたら山があるかもしれません。それなら土が主属性なのも納得できます」


「その通り、山があると思われる。これは専門的な話になるが、島というのは海の底にある土地が隆起したことで生まれるとされている。それ故に山があることが多いそうだ。最後だ、ダンジョンの階層数だが五階層で、攻略難易度はC-だった。初期ダンジョンの多くはDが多いから、少し難易度は高めだな。この場合推奨される最大攻略階層は何階層だ? アルフレッド、答えてみろ」


「五階層あるダンジョンは五階をボスエリアにすることが多く、四階層を最終防衛ラインにしていることが多い。その為三階層までの攻略すらてこずっているように見せることで、人類の戦力を過小評価させるのを推奨されていたはずです。攻略難易度はC-ってはなしですが、トラップダンジョンなどの初見殺しが多いダンジョンはA-以上がほとんどらしいんで、純粋に少し難しいダンジョンってだけなんじゃないでしょーか。なので今後の資源採集の為にも一階層を慎重に調査して、二階層の途中で引き返すのがいいんじゃないでしょーか」


「そうだ、お前らは冒険者のていでダンジョンに潜ることになるわけだが、あくまで目的は今後円滑に資源収集する為の情報収集だ。ダンジョンマスターに気取られないように、自然に情報を収集してこい。アルフレッド、Cランク資料室への鍵を渡しておく。海や島についての資料閲覧を許可する。三人でロールプレイの方向性を煮詰めておけ。出来次第報告に来い。合格したら今日の職務は終了だ。明日の為に英気を養え。わかったな?」


 そう言いながら班長は俺たち三人の顔を見回した。俺たち三人は息をそろえて返事をした。


「はい」


 班長が出て行った後、俺たちは姿勢を崩した。俺はすぐに話を切り出す。


「じゃー、とりあえず資料室行くかー」


「そうだな、ちゃっちゃと片付けて帰ろうぜ」


「班長からの合格が出なければ帰れないんですよ? やり直しさせられないように、きっちりすり合わせましょう」


 そうやり取りをしながら資料室に向かって三人で歩き出した。

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