9話 Have A Dreamily Dream
春が近付いてきた、始業式の日。山鹿夜牙は悩んでいた。
この3年年間海神水途と共に、たくさんの事件を解決してきたのだか、
ここ最近の水途はどうも落ち込みがちであるのだ。
水途は頭が良くきれて、賢い。
なのに、自分の存在をどこか心の奥で憎んでいるような気さえしてしまう。
そんな水途を見ていると悲しくなって来るのだった。
同好会として、活動しているDASももうすぐ、3年目を迎えようとしていた。
暖かな日差しが空から降り注ぎ、辺りはほんのりと暖かな陽気となっている。
夜牙は元々、ものを考えるのがあまり好きではなかった。
しかし、この3年間で、良くものを考えるように成っていた。
水途は悩んでいた。
自分の力が目に見えて減少して行ったからである。
爽やかな風が窓の縁を触っていく。
その瞬間に水途の髪もなびく。
「はぁ。俺はどうしたのだろう。」
水途は歩きだす。
ある日、夜牙に宛先もない手紙が送られてきた。
「山鹿夜牙様。」
その手紙はそれで始まったいた。
「お元気でしょうか。
お体は壊されていませんか・・・
まだ、夕焼けは綺麗ですか?
そしてあなたは綺麗ですか?
この前の年末は大活躍で良かったですね!
それとも悔しいですか?
自分の不甲斐なさに・・
生活は、充実していますか?
水途くんとは仲良くやっていますか?
そして、今何で泣いているんですか?
あの傷は今でも残っていますか?
僕の付けた傷・・・
僕の証し。」
この一文で分は終わっていた。
「近いうちに会いに行きます。」
私は、鳥肌を抑えながらふるえていた。
昔心の奥底にしまった思い出を無理矢理
誰かに引きずり出された気がした。
俺は何気なく窓の外を眺めていた。
夕日に染まろうとしているその海は、何とも言えない色になっていた。
久しぶりにDASの部室を訪れた。
何も変わっていない部室に夜牙が座っていた。
「どうした?」
顔が真っ青になった夜牙をみて不安になった。
「何でも・・・ない」
そう彼女は言った。けれどその目は俺に何かを伝えようとしていた。
「何があったんだ。」
しかし、彼女はうつむいたまま話そうとはしなかった。
ただ、その時の瞳が忘れられないぐらい印象的だった。
帰宅した俺に一本の電話がかかってきた。
「・・・はい、もしもし。」
「海神水途くんですか。」
「はい、そうですが・・・」
「至急、市立病院に来てください。」
「なぜですか?」
「来たら解ります。」
その声は焦りもなくただ淡々と俺を誘っていた。
俺は背筋に寒気を感じて家を飛び出した。
市立病院は走って10分もかからない距離に立っていた。
俺がそこに付くと親父が立っていた。
「親父、何があったんだ。」
「・・・・・」
親父は断固して無言である。
「なぁ。」
俺は不安に追いやられて動揺していた。
「・・・・水途、良く聞くんだ。」
親父は俺の目を見てゆっくりと話し出した。
「・・・山鹿夜牙くんが・・・」
まず出てきた名前にビックリした。
「夜牙がどうしたんだ!!」
俺の不安はどんどんと深まっていく。
「・・・自殺しようとした・・・」
「!!」
親父の言葉に笑いが込み上げてくる。
「はっはっは・・・親父何言ってるんだよ。
冗談だろ。下手な冗談はやめろよ・・・
夜牙が自殺なんてあり得ないだろ・・・・」
俺がそう言っている間も親父は首を振り続けている。
「何でなんだよ!!」
俺は叫ぶ。
「そんなことないって言えよ。」
親父は首をまだ振る。
「夜牙が・・・夜牙がそんな事するはずねえだろ!」
「水途・・・現状を受け止めるんだ。
まだ、彼女は死んでいないんだぞ。」
「ほんとか!!」
俺は動揺しっぱなしだったその心を落ち着かせた。
「じゃあ何所にいるんだ?」
「病室だよ。だが、まだ会うことが出来ない・・・
集中治療室に入っているからな。」
俺の不安がまた同様に変わっていった。
「どうして・・・そんなことを・・・」
「それを調べるのはお前の仕事だろ。」
親父はそう言って俺の背中を押すように車へ乗せた。
俺は、冷静になって夜牙の行動を振り返ってみた。
そう言えば今日の放課後、夜牙が顔を真っ青にしていた。
何か嫌なことがあったような・・・
そんな表情だった。
もしかしたら何か悩んでいたのかも知れない。
しかし、それに気づけなかった俺は自分の不甲斐なさに腹が立つ。
『夜牙。本当に何が夜牙を追いつめたんだ!』
夜牙が自分から命を絶とうとすることはないはずだ。
『なぁ、夜牙何でなんだ。』
ピンポーン。
チャイムが鳴った、私はそっとドア・スコープをのぞく。
あの手紙の送り主が来たと思ったがそこには宅配業者のお兄さんが立っていた。
「はい、」
「お届け物です。はんこをお願いします。」
「これでいいですか・・・」
「はい結構です。ありがとうございました。」
私の手の中には私宛の小さな小包が残されていた。
送り主は父からだったが父が小包を送るとは思わないので
不思議に思う。
誰だろうこんないたずらをするのは・・・
だけど開けないわけにはいかなかった。
ビリビリ。
ガムテープをはがし中をそっとのぞく。
中には沢山の写真と、無くしたと思っていた大切にしていたモノ
そして一通の手紙が入れられていた。
「山鹿夜牙様」
「お元気ですか。これで2回目の手紙です。
僕のことちゃんと思いだしてくれましたか?
もう、近くまで来ました。
あなたの通っている学校を見ました。
明るくて僕とはまるで違う生徒達ばかりでしたよ。
水途くんは僕のように暗くないようですね。
先日水途くんを見ましたよ。
彼の瞳は澄んでいました、
君の瞳とは全然違いましたよ。
あの怯えた瞳、僕だけの瞳。
早く会いたい。
同封した写真は君と僕の思い出。
彼とは決着を付けさせてもらいます。」
あいつの声が聞こえた気がした。
もう何年と聞いてないあの嫌な声。
ごく普通な毎日を送ってきたはずの、私に降りかかった数少ない災難の一つ。
あの最悪な出来事が私の脳を浸食していった。
夜牙の部屋に入った俺は沢山の写真がベッドの上に散らばっているのを見た。
普段の生活ではあまり写真を見ない方だが
この枚数は異常だと思った。
数百枚と表現しても良いような沢山の写真
その一枚一枚が夜牙を撮った物だった。
小さい頃のモノと思われる可愛い女の子の写真、
体操服でピースをしている写真、
そして、ショートカットになった現在の夜牙の写真もあった。
「誰がこんな事を・・・」
つい独り言が漏れてしまう。
沢山の写真の下からは、
かわいらしい花柄のボールペンやハンカチ、
くまのキーホルダー、鏡など大切にしそうなモノが沢山埋まっていた。
「これも夜牙が大切にしていたモノなのか・・・」
またもや独り言が口から無意識に漏れ出す。
手紙のような紙切れが写真の下からでてきた。
そこにかかれていた内容は俺の予想を超えたモノだった。
夜牙の姉に以前聞いたことがあった。
夜牙の腹部には大きな傷跡が残されていると言うこと。
それを付けた奴は夜牙の小学生の頃の同級生で、
今では少年院から解放され普通の高校生として生活していると言うこと。
夜牙は、腹部に負った傷と共に心にも深い闇をおったこと。
しかし、その闇をビンに押し詰め心の奥に封印しているのだという。
そしてそのビンを無理矢理に開けたのがこの小包を送ってきた奴だと思った。
しかし、送り主は夜牙の父親の名前になっている。
「さてこれからどうした物か・・・」
夜牙に事情を聞くことさえ出来ない不利な条件だ。
けれど夜牙が首を自ら吊ったとは思えない。
「そうか!現場へ行こう。」
山元 静は普通のクラスメイトだった。
目立つこともなければ特に悪いというわけでもなく
ただ、普通に学校へ来ては放課後になると気付かない間に帰っている
そんなクラスメイトだった。
私は大して山元には興味を注いでいたわけでもなく
一言も話したことのない間柄だったことは言うまでもない。
しかし、山元は良く私の前に現れてはニッカリと笑って去っていった。
当時の私にはよく解らなかった。
しかし、山元のうわさ話を良く耳にするようになってから
私の興味は山元の物となった。
よくよく考えてみれば噂という物は大して信憑性のない物だったと思う。
“山元くん家のお母さんお父さんに殴られているんだって。”
そんなたわいもない噂。
それを私は信じてしまった。
まだ小学生だった私は薄い知識だけで行動に移していた。
そんな時山元が笑って私の前に近づいてきた物だから
ついついその噂の話しを本人に直接聞いてしまった。
山元はにっこりと笑ったまま話していたがある言葉を聞くと顔つきが変わるのだった。
“死”
そう、この言葉が山元を狂わせていたのかも知れない。
そして今の私も苦しめているのかも知れない。
人には絶対的に死が付きまとう。
しかし、死がないと生もない。
そんな簡単なことでさえ小学生だった私と山元は解っていなかった。
俺は夜牙が自殺いや、殺され掛けた現場にいた。
「ここだな。」
薄暗い何かの物置のような場所だった。
誰かに発見されたのが奇跡的だろうと思う。
山田運送が所持している倉庫らしい。
“コツッコツン”
足音が辺りに響く。
「夜牙何でなんだ。」
そんな独り言がついつい漏れてしまう。
鉄骨にくくり付けられたロープが揺れていた。
「現場の保存状況は良いみたいだな。」
踏み台にしたと思われる椅子も倒れたままにしてあった。
「椅子?なんで倉庫なんかに椅子が?」
疑問は絶えなかった。
夜牙は鍵を内側からかけ、自殺を図ったようだ。
しかし、そうなると始めに夜牙を発見した人はどうやって中に入ったのかということだ。
鍵を持っていれば簡単かもしれない。
しかし、夜牙は内側に付いているはずのない鍵を自らが掛けたことになる。
自殺をする奴がどうやって内側から外側の鍵を掛けたのだろうか。
答えは簡単である。
夜牙を殺そうと考えた奴が首吊りに見せかける為にやったとしか思えない。
椅子もそのために運んできたのであろう。
俺は一つの仮定にたどり着いた。
夜牙が大切にしていたもの。
そして小さい頃からの写真。
密室と見せかけた殺人未遂。
小学校の頃の闇。
腹部の傷。
そして一本にわざと繋がりを持たせた犯人。
そう。
これは俺に対する挑戦状だ。
夜牙待ってろよ、お前を殺しかけた犯人を懲らしめてやる。
第9話になりました。
ここまで長かったと思います。
そして次回が区切りの10話
さて、もう解っているとは思いますが・・・
水途と、夜牙を殺そうとした犯人との最後の決戦があります。
次話もお楽しみに!