形の悪いドーナツ
形の悪いドーナツ
登場人物
立花 廻 ♂ 18歳
ドーナツ屋の両親を持つ高校生。
親の手伝いと小遣い稼ぎがてらにと、
ドーナツを揚げる練習をしているがなかなかうまく行かない。
立花 賢介 ♂ 40歳
立花ドーナツの店主。廻の父親。
廻の事をいつもバカ息子と呼ぶが
ただの愛称であり、怒っているわけでも何でもない。
立花 紘乃 ♀ 38歳
廻の母親。立花ドーナツのアイデアは全てこの者から。
特に自店の商品のクリームドーナツが大好き。
立花 智 ♂ 16歳
サッカーが好きな少年だが、足を骨折してしまい
今は入院している。自店のドーナツをお見舞いに持ってきてくれる
廻を兄さんと呼び、慕っている。
前山 琥太郎 ♂ 17歳
廻の同級生。いつも廻とつるんでいて
廻のよき理解者。
市川 真宙 ♂ 17歳
同じく廻の同級生。頭が良く、
いつものメンツの1人。
中嶋 サヤ ♀ 18歳
廻の同級生の一人でいつものメンツの中で、一番真面目かつ
一番生真面目で、恋愛なんて破廉恥であるといつも言っている。
姫川 結 ♀ 16歳
現在の医療では治療ができないと言われた女の子。
病のせいで歩くことができず、いつも病院にいる。
廻:
賢介:
紘乃:
智:
琥太郎:
真宙:
サヤ:
結:
--------
廻 「あっ、やべっ……」
賢介 「このバカ息子がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
紘乃 「朝から元気な事で…どうかしたんですか?」
賢介 「こいつが卵を全て落としやがったんだ!」
廻 「悪ィって! ちゃんと揚げる練習もまたするからさ! んじゃ行ってきまーす!!」
紘乃 「揚げる練習って言いますと……?」
賢介 「あいつに揚げ方を教えているんだが、なかなか上達しなくってなぁ…」
真宙 「やぁ、立花。そんなに慌ててどうした?」
廻 「よっ、いやさぁ…親父に怒られちゃって…ハハハ……」
琥太郎 「おはよっす、卵でも割ったのかよ?」
廻 「あ…あたり…」
琥太郎 「当たってるのかよっ! ははっ、いつ聞いてもお前の家は楽しそうだな」
サヤ 「こら! ずっと駄弁っていると遅刻してしまいます!」
真宙 「サヤ、そんなにうるさく言わなくてもいいだろ?」
サヤ 「いいえ、いけません! もう9月ですよ? ここから大事な進路が決まるというのに……」
琥太郎 「な、先行こうぜ……」
廻 「そーだな……そうすっか」
サヤ 「将来の為にも今ここで努力を……ってあぁぁぁ! 待ってください! 置いてかないで!」
廻 「どうだ? 足の具合はよ」
智 「あぁ、大丈夫だよ兄さん。いつもありがと」
廻 「いいんだよ、ほらよ。ドーナツだ」
智 「まぁたドーナツ……。仕方ないかもだけどもうちょっと別のモノないの…? ははっ」
廻 「そう言うなよな、そうそう、それ。俺が揚げたドーナツなんだ」
智 「ぇぇっ……なにこの形……」
廻 「う、うるっせーな! 食ってみろよ!」
智 「……! 甘すぎる気がしないでもないけど…味は普通に美味いよ」
廻 「だぁろ? あとは形なんだよなぁ……」
智 「形はなんとかなるんじゃないの?」
廻 「中学高校共に美術の成績は3だぞ」
智 「いや……関係ないでしょ、美術」
廻 「んじゃ、またな。智」
智 「うん、ありがと。兄さん」
廻 「さて…帰るか……って……ん?」
結 「んしょっ……んっ……んっ……」
廻 「……大丈夫か…?」
結 「へっ!? あっ…はい! えと…大丈夫…じゃないです……」
廻 「車椅子から落ちちまったんだな………よし、じっとしてろよ…」
賢介 「おい、お前」
紘乃 「はい…? どうしましたか?」
賢介 「そろそろバカ息子も彼女というものができていいと俺は思うんだが…」
紘乃 「きゅ…急に来ますね……」
賢介 「うちのバカも18歳だというのに女っ気のない毎日を送っているように見える」
紘乃 「廻も何かに夢中になればいろいろと変わるのではありませんか…?」
結 「あっ……あの…ありがとうございます…!」
廻 「気にすんなって。その……なんだ……足…」
結 「小学2年の時に急に倒れて…、つぎ起きた時は病院で、足が動かなくなってたんです」
廻 「そう…なのか……なんか……悪いな…変なこと聞いて」
結 「いえ…年が近い人と話す事ってあまりなくて……すごくうれしかったです…。私、姫川 結って言います…! 16歳です。よかったら、名前を聞いても大丈夫ですか?」
廻 「あ、あぁ。もちろん…俺は立花 廻。そこの北山高校に通ってる3年だ」
結 「高校……楽しそうですよね、私も…通っていたら今は2年生だったと思います…」
廻 「……そっか、いつもここに居るんだな」
結 「……はい……。あの…!」
廻 「ん? どうした」
結 「よかったら、なんですけど…学校の話とか…聞かせてほしいです。お父さんもお母さんも仕事が忙しくて…ほとんど来れなくて……お出かけとかもできないですから……」
廻 「話すだけでいいのか? そんならお安い御用だ」
結 「はい、また…お時間あるときだとか…私いつでも205号の病室に居ますので…」
廻 「よし…。わかった、病室まで、送ってくよ」
サヤ 「ん……? あれは……立花君と……お…女の子……? ま…まさか……立花君はあの女の子と……!?」
賢介 「何やってたんだ、バカ息子」
廻 「わりぃわりぃ…病院でちょっとばかし話し込んじまってな」
紘乃 「遅くなるときは連絡するんですよ? お父さんほんとに心配性なんですから」
賢介 「フン! ほっておけ!」
紘乃 「そういえば、さっき連絡がありました。智、来週には退院できるそうですよ」
廻 「おっ、やったな!」
賢介 「智が帰ってきてもお前がしっかり揚げれるようになるまでは飯当番はお前だ」
廻 「マジかよぉぉぉぉぉぉ……んじゃ…作るわ…」
紘乃 「私も手伝いますよ、廻」
廻 「さんきゅな、母さん」
真宙 「やっと、昼休みだな……ん? なんだ、立花。それは」
廻 「これか? うちのドーナツだよ」
琥太郎 「立花ドーナツ、うちの母さんもよく買ってくるぜ?」
サヤ 「私もよく、買いに行きますが、とても美味しくてついもう一つ…となってしまいます」
真宙 「しっかし、飽きないのか? ドーナツばっか食べて」
廻 「そりゃ飽きそうにもなるけど…俺がしっかり揚げれるようになって、ちゃんとしたドーナツが作れるようになるまでは、ずっと弁当はドーナツだって…父さんが聞かねぇんだよ」
琥太郎 「ずいぶん変わった罰を与える親父さんだな、お前のとこ」
サヤ 「飽きそうなのであれば、もらってもよろしいでしょうか?」
廻 「あぁ…貰ってくれ…もう、食い飽きちまった……」
真宙 「俺もっと……なんだ…? この、形の悪いのは」
廻 「あっ、それ俺のだわ」
琥太郎 「おいおい……何だこりゃ…全然うまそうに見えねぇ…」
サヤ 「見かけで判断してはいけませんよ、食べてみると意外と……甘ッ!」
廻 「これ、お見舞いにな」
結 「あっ……ありがとうございます……! これ…ドーナツ…」
廻 「もしかして、嫌いだったか…?」
結 「いえ! そんなことは…。お母さんがたまにお見舞いに来てくれる時に買ってきてくれるんです…ここのドーナツ」
廻 「そっ…そうなのか」
結 「ここのドーナツ、すごくおいしいですよね…! 私、ここのドーナツが今まで食べてきた中で断トツで大好きです」
廻 「そりゃ、店の人も喜ぶな」
結 「そういえばこの前、すっごく形の変なドーナツが入ってたんです」
廻(M)「それ俺のです」
結 「なんか、すごく形の悪いドーナツでした」
廻 「そりゃ……はずれだったんじゃねぇの?」
結 「たしかに…形は悪かったですし…とっても甘くて…というか…甘すぎました…」
廻 「…だ…誰が作ったのかな? 失敗作だろそりゃ」
結 「でも…いつも食べてるドーナツよりも一層、丁寧に作ったんだなって、一生懸命作ったんだなって感じが凄くして…私は好きでした」
廻 「……!」
結 「私、職人とかじゃないですし…あんまりわからないですけど……とっても、元気の貰えるドーナツでした…」
廻 「そう……か……。きっと作ったやつも元気出すよ、それ聞いたら」
結 「どうして、わかるんですか?」
廻 「あぁぁぁいや、なんつーか…きっと元気出すだろうなって事だよ」
結 「はい…! 私も、身体が良くなったら……行ってみたいです、ここのドーナツ屋」
廻 「あぁ…来いよ……」
結 「えっ? 何か言いましたか?」
廻 「へっ!? いや? なんでも? 行って来いよ って」
結 「その時は、一緒に行きませんか? 立花さん、ふふっ」
琥太郎 「最近楽しそうだな、立花」
廻 「そうか? 別に普通だよ、普通」
サヤ 「………立花君、この前病院でだれか女の子と話してませんでしたか?」
真宙 「なっ…なん…」
琥太郎 「だとぉぉぉぉぉぉ」
廻 「いや……なんだよ、お前ら」
サヤ 「私を見てくれないのに……じゃなくて! 破廉恥な……」
真宙 「ほー、立花…やるな…!」
琥太郎 「お前……最近やけに速く帰ると思ったらそういう事なのか…!?」
廻 「いやそれは……違わないか」
サヤ 「い…いいいいい…いけません! そんな破廉恥な事!」
廻 「サヤ…お前、俺達の関係の7倍を想像してないか…普通に話す程度だよ」
真宙 「7倍…? 詳しく聞かせろ立花」
琥太郎 「さぁ、答えろ立花」
廻 「な…なんだっての……俺は帰るうううううううう!」
真宙 「あっ、おい待て立花!」
廻(M)「そうは言っても、はや3ヶ月。気づけば12月になっていた」
結 「ふふっ、楽しそうですね。立花さんのお友達は」
廻 「楽しそうなもんかよ、冷やかされまくってるんだぜ…」
結 「お友達は私と立花さんを…その……えっと…付き合ってるって……思ってるんですよね…」
廻 「まぁ……そういうことに……なるか」
結 「本当にそうだったら……なんて……」
廻 「俺と、お前がか?」
結 「はい……私も……普通の……ぐすっ……ふつうの高校生の女の子だったら……付き合うとか……そんなこと、できたのかなって……っ」
廻 「身体が悪くても、関係ないだろ?」
結 「えっ…?」
廻 「なんか、さ。俺もお前といたら…結といたら、落ち着くんだよな。それに、なんか……元気とか…口では説明できない何かをいつもくれる」
結 「い……いきなり名前で呼ばないでください……はっ…恥ずかしいです…」
廻 「なら、やめようか? 姫川」
結 「いや……やめないで…ください……その……廻君……」
廻 「………あぁ…好きだよ。結」
結 「……っ! ……私も……好きです…廻君……」
智 「兄さん、進路結局どうするの?」
賢介 「あいつは、うちで働くさ」
紘乃 「もちろん、しっかりと学びなおすために勉強はしてもらいますが…ね」
智 「そっか、兄さんが揚げるんだね。ドーナツ」
賢介 「相変わらずの形の悪さ、だがな…」
結 「私…夢が…あるんです」
廻 「夢…か……」
結 「………その………お嫁さんに……なり…たくて……」
廻 「なれるし、なればいい」
結 「でも…足も悪くて…学校も行けてなくて……頭も悪いし……男の人に迷惑ばかり…かけてしまいそうで……そんなこと願っちゃダメかなって…思うんです…」
廻 「俺が貰ってやるから、足が悪くて、頭が悪くて料理できなくても、結がいたら俺はそれでいい」
結 「! っ…うっ…ぐすっ……廻…君……」
廻 「あぁ…、もし本当に……結婚して……不安な思いとか…させたら…許してくれな」
結 「そんな……私が……言うわけないじゃないですかっ……もしそれが本当になるだけで…私も幸せです…」
サヤ 「はぁ……」
琥太郎 「もう、12月だな…ほんと。はええもんだ」
真宙 「だな……、おっす。おはよ、立花」
廻 「あぁ、おはよ」
琥太郎 「んじゃ、揃ったし、学校行くか」
サヤ 「あの…前山君と、市川君は先に行っていてくださいませんか…?」
真宙 「………? ………あぁ、わかったよ」
琥太郎 「あんまり、遅くなんねぇようにな」
廻 「どうしたんだよ、サヤ」
サヤ 「………立花君は……私の事をどう思っていますか?」
廻 「ど…どうって……何がだよ…?」
サヤ 「私は……私は…! 立花君のことが好き……なんです」
琥太郎 「あいつ、まさかこの時期に言うつもりだったとはな」
真宙 「もうすぐ卒業なんだ、仕方ないだろ」
琥太郎 「サヤが俺達の輪に入ってきたきっかけって、立花だったよな」
真宙 「そういえば、そうだったな」
(中2)
サヤ 「ぐすっ…ぐすっ……ひぐっ……眼鏡……どこ……?」
真宙(M)「頭のよかったサヤは意地悪されて体育の時間の間に眼鏡隠されたんだっけ?」
廻 「何探してんだ?」
サヤ 「だっ…だれですか? 私は…眼鏡を……」
廻 「眼鏡が無いのか…、よし! 俺も探してやるよ!」
サヤ 「あ……ありがとう……ございます…」
廻 「結局…見つからなかったな…」
サヤ 「探してくれて…ありがとうございます……」
廻 「悪いな、見つけられなくて」
サヤ 「いえ……意地悪される私が…悪いですから……? なんですか…これ」
廻 「ドーナツだよ、これ食って元気出せよ」
サヤ 「ドーナツ……? 形がひどいですが……」
廻 「父さんの見よう見まねでつくったら…こうなっちまったんだ…」
サヤ 「いただきます……甘っ………でも……なんか……優しい感じ…」
廻 「よかったよかった! お前も一人でいるから意地悪されるんだって、友達と一緒にいろよ!」
サヤ 「友達がいたら…そうしてます………手…? なんですか…?」
廻 「なら、俺が友達1号な! 俺は立花 廻、名前は?
サヤ 「えっ……あの……いいんですか…? お友達になっても…?」
廻 「ドーナツと同じ、輪になればいいんだよ! 友達になるのにいいもダメもねぇ!」
サヤ 「私は……中嶋 サヤです……よろしく…お願いします…立花君」
廻 「こっちが、前山で…こっちが市川だ」
真宙 「市川 真宙だ、よろしくな」
琥太郎 「前山 琥太郎、仲良くやろうぜ!」
サヤ 「中嶋 サヤです……えっと……」
廻 「仲間なんだから仲良くしようでいいんだぞ!」
サヤ 「なっ、仲良くしてください!」
(現代)
廻 「俺は……好きな人がいる」
サヤ 「……! やっぱり…そう…ですよね……」
廻 「たしかに、俺はサヤの事が好きだよ。だけど、それは友達として、仲間として好きって事だ」
サヤ 「っ……ぅっ……ぐすっ……」
廻 「悪い………それでもって、すげえ嬉しい。ありがと…、これからも…友達として、やってけねぇかな……」
サヤ 「ずるいです…立花君は……変に適当で、大事な時に居なくて…頼りがいもあまりないのに……どうしてそんなに……誰にでも優しくできるんですか……ひぐっ……ぐすっ…」
廻 「わっかんね……だけど……これが、俺の素だからじゃねぇかな…」
サヤ 「私……っ……立花君の事を……諦めるつもりは……ありません…から……」
廻 「…………あぁ……。ありがと」
サヤ 「うっ……ぐすっ……ぅ……」
琥太郎 「スッキリしたか?」
真宙 「罪な奴だよ、立花も」
琥太郎 「まぁ、頼りない俺達だけどよ。お前のため込んだ物吐き出すくらいの役はできっから」
真宙 「サヤ、ほんとは……そんなキャラじゃなくて、素になれそうな…立花が好きだったんだろ」
サヤ 「っ………うわぁぁぁぁぁぁぁん…! 立花君の馬鹿っ! 馬鹿っ! どうしてっ……ぐすっ……うわぁぁぁぁぁぁん」
琥太郎 「真宙、サヤと、俺とお前と。欠席連絡入れてくれ」
真宙 「………? わかった」
琥太郎 「たまには、立花抜きでも遊ぼうや」
廻 「外出許可が出て良かったな」
結 「こほっこほっ……はい、初詣…すごく楽しみです…その、押してもらってばかりで…ごめんなさい」
廻 「大丈夫か…!? ……気にすんじゃねぇって、いいんだよ……。よし、俺達の番だな」
結 「はい……何をお願いしようかな………! ……………よし……ふふっ」
廻 「何をお願いしたんだ?」
結 「廻君と一緒に居られますように…って、お祈りしました…!」
廻 「そっか、俺はお前の病気が良くなるように。って、祈ったよ…。治るといいな」
結 「はい! 廻君の隣を…私も歩きたいです」
廻(M)「だけど、そんなお祈りを裏切るかのようにそれは起こった。結の容態が急変した、と連絡が入ったんだ」
サヤ 「行ってください、結さんの所に」
廻 「サヤ………ほんと……悪いな…いつも」
サヤ 「……形の酷いドーナツで許すことにします」
琥太郎 「だってよ、またつくってやれよな」
真宙 「狙って作ってたらそれはそれで。だけど。行け、立花」
廻 「悪い、サンキュー。お前ら!」
琥太郎 「ったく、あいつの顔。ここ一番でいい顔じゃねぇか?」
真宙 「その結ちゃんってのが、よっぽど大事なんだよ」
廻 「はぁっ…はぁっ……はぁっ……結……今…行くぞ…! …えっ?」
賢介 「大変だ…! 廻が事故に遭ったそうだ!」
智 「!? 兄さんが!」
紘乃 「行きましょう、病院へ!」
賢介(M)「病院に着いた頃には、廻は脳死状態とされ。わかりやすく言ったところ、もう助からない状態だった」
智 「兄さん………」
紘乃 「廻………どう…して……ぐすっ…うわぁぁぁぁぁぁぁぁん」
賢介 「……廻の、廻の臓器が…今…今治療中の女の子に…使えるかもしれない…そうだ」
智 「ど……ドナー…ってこと……?」
賢介 「そういう事だ……、俺は廻の臓器で助かる人がいるなら…いいと思っている」
智 「………うん……兄さんなら…きっとそうしてる、そう願ってるはず…だよ…」
紘乃 「……えぇ……ぐすっ……廻にまだできることがあるなら……私たちも協力するべきです……」
サヤ 「………立花君……」
琥太郎 「クソッ……なんで……なんであいつが……」
真宙 「…………こんなのって無いよ………」
琥太郎 「あいつが居なきゃ…俺達どうしたらいいんだよ……」
サヤ 「……うっ……っ……ひぐっ……」
真宙 「………立花はきっと言うよ……輪なんだって、元気出せって…さ」
結(M)「私の容態が悪化したけど、ドナーによる臓器提供で奇跡的に治療ができたと聞いて感謝の気持ちがいっぱいになった。将来、もしかしたら歩けるようになるかもしれないって、言われて…すごく幸せな気持ちになれた。だけど、悪化した前日以来…廻君は来てくれない。どうしてなのかな…?」
紘乃 「廻が亡くなって、今日で1年ですね」
賢介 「そう…だな…………」
智 「……だれか、お客さん来てるみたいだよ。父さん」
結 「あの……ここで売ってらっしゃるドーナツで…変な形のやつ……ありませんか?」
賢介 「いらっしゃいませ………その…ドーナツは、形の悪いもん…ですよね?」
結 「はい……すっごく甘くて……優しい感じのやつです…」
賢介 「そいつは……1年前に売りきれちゃいまして………申し訳ありません…」
結 「……! まさ…か………あの………ここの立花ドーナツって……あ……あぁぁあ…」
智 「どうかしましたか…!?」
廻 「お前の病気も良くなって、俺もずっとお前と一緒に居れるんだ」
終
形の悪いドーナツ