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5  要

ここが.......?

知らない人は通り過ぎてしまいそうな何の変哲も無いただの袋小路だ。大きな舗装された道の右側にある小さな小路が入り口だった。どう見ても、やっぱりただの小部屋。封印場所には見えないんだけどな。


「えっ〜!?」

エリカも驚いている様子。

通りすぎてしまっても気づかないような横に反れた小部屋。見る限り何も無いんだけど。



「眼帯を外しておいてもらえますか?」

顔を見ること無く、ムスカリは岩壁から目を離すことなく口を開いた。

僕に言ったんだよね。

何も無いはずの行き止まりの壁に両手を翳して、何か呪文のような言葉を唱えている。

信用してよかったのか、どうなのか。いい人なのは間違いないが。

引返す事を提案しようとしたけど、手遅れだった。

壁一面に不思議な文字のような文様が浮かび上がって消えた直後、目前にあったはずの壁は消失し僕らは広い場所へと移動していたから。あの小部屋を広大にしたような岩壁に囲まれている空間だった。不思議なのは照明がないのにもかかわらず街灯の下に居るように明るかったことだ。


「ど、どうなってるのぉ〜!?」

傍らで、エリカがパニックを起こしている。そりゃあ、驚くよね。

だって、やたら大きな犬みたいな化獣が僕らを見下ろしているんだから。目・鼻・口はあるのに、穴が無い。のっぺらぼう、みたいな顔に、やたら長い毛で覆われた身体。不気味な唸り声で、僕の身体は恐怖に支配されていった。これは全く動ける自信がないっ!怖い怖い怖い!見たくないのに瞳は化獣から逸らせない。



辺りを見渡しても居るのは、二人だけ。ムスカリの姿はここには無かった。

エリカが疑っていたように悪い人で僕たちは騙されてしまったんだろうか?

物凄く美人でいい人そうだったのに。


すぐ横にはエリカが居る。

僕を恨んでいるのかな?簡単に人を信用してしまった僕を。

こんな化獣を目の前にしても落ち着き払った様子でいられる彼女はやっぱり頼もしい。

何か、呪文みたいのをブツブツ言ってから手を大きく振り上げる。守ってくれているのかな?いやいやいや、本当に男女逆だって!



『眼帯外せって言われなかったか?』


頭に直接、声が降ってきた。低くて、ガラの悪そうな声だった。簡単に耳を貸していいのかな?これも罠じゃないのかな?僕があれこれ思案していると。


『おい、何も考えるな!言われたとおりに動け!』


ドスの利いた声が頭中を駆け巡る。これって、脅迫なんじゃ...。

だがしかし、恐怖で固まってしまった身体はなかなか言うことを聞いてくれそうにない。

身体の震えが止まらない。腰も抜けている。

「動けーーー!右手っ!!」念じてみたけど、状態は変わらない。

その間も、ガラの悪い罵声が頭中に鳴り響く。

そんなに言わなくても、分かってるって!


僕の中に、怒りのような感情が芽生えたのは確かだった。

その感情の後押しもあってか、僕は左目を覆っている眼帯に手を伸ばす事に成功した。






* * * * * * *






エリカは考える。

こんな怪物とどうやって戦えばいいのかしらぁ?

こんな巨大な見たこともない恐ろしい風貌の怪物と、どうやって...。

逃げてしまいたい気持ちを抑えて舜の隣を陣取ってしまったけれど。

気が狂ってしまいそうな、恐怖で叫んでしまいそうな、壊れてしまうそうな心を必死で抑え込む。舜は身動き一つせず、焦点も定まっていない様子。このままでは駄目。ワタシが何とかしなくっちゃ、だよねぇ...。舜の周囲に防壁を張ってみたものの、本当に攻撃を防いでくれるのかすら分からない。無いよりはマシ、気休め状態だ。


「また会ったなー」


周囲の空気がガラッと変わる。

眩い朱色の光に包まれる。ま、まさかっ!?


「...あなたねぇ〜」

どこからともなく、怒りがこみ上げてきた。目の前のアイツとの出会いはほんとに最悪だった。出会いというか別れ際がと言うべきか...。

「よ、よくも、触ったり、ほっぺを舐めたりしてくれたわねぇ...」

相手は、ニヤリと笑っただけだった。

ほんとに、嫌なやつ!

だけど、不覚にもシュンノスケを見て安堵してしまった。この状況での再会、やっぱり誰もが安堵するわよね〜、アイツは恐ろしいほど強いし。何よりも嬉しいのは、今のワタシにアイツを恋焦がれる気持ちは無いことだ。今回は微塵も湧いてこなかった。そうよねぇ〜、それが普通っ!

だったらあの時の気持ちはぁ?

何が起きていたのかなぁ〜?

って、今考えることじゃあないよねぇ。

頭を切り替えることにする。



緊張を解したかったとか、訳の分からない言い訳をしている人物を見上げる。

ほっぺを舐められたあの後、頭にきて鳩尾目掛けて拳を入れようとしたんだけど残念ながら未遂に終わっていた。だって、突然舜に入れ替わってこちらに倒れてこんできたから。逃げたのよねぇ...。瀕死の子供に拳なんて、って焦ったけど舜ってワタシと同い年なんだよね〜、実は。ほんとに信じられない。同い年って、ねぇ...。では早速、気を取り直してあの時出来なかった報復をっ!

拳を作り、相手の懐に入ろうと大きく一歩を踏み出す。


「また、触ってやろうか?」


真上から低い声が降ってきた。

見上げるとバッチリ目が合う。

反射的に両胸を手で覆い隠してしまった。

自分の咄嗟の行動にも腹が立つけど、アイツの自信満々な態度にも腹が立つ。

うううっ。だけど、睨むことが精一杯だった...。くそ〜、悔しいぃぃぃ。


だけど。

皮肉の一言二言が帰ってくると思っていたら、優しい笑みだった。

そして頭をポンポンと叩かれる。

だから、子供じゃ...調子狂うなぁ〜。もうっ!



「俺のこと、そんなに好き?」


朱い瞳に少年のような光が宿った、気がする。いたずら好きな少年のような。

ニヤリと笑って、シュンノスケは駆け出していった。

「好き?」って!?

ええぇっ!この、ワタシがぁっ!?

そして、この動悸はなんだろう...。またぁっ!?自分の意志で抗うことも出来ずに瞳はシュンノスケだけを追う。エリカは胸に手を当てて思う。これはワタシの感情なんかじゃあないっ!

だったら今現在ワタシの中に居るのは誰なのかしらぁ?



大きな爆発音が響く。

眩しいまでの朱い光に辺りが包まれ、朱い大きな塊と化した怪物が燃えている。燃えてしまったのか長かった毛は短くなっており大人しく頭を垂れてシュンノスケに跪いている。戦闘というよりも遊んでいるようにも見えるんだけど、アイツは一体何をしているのかしらぁ?愛しくなんて無い!そんなこと微塵も思ってない!言い聞かせはするのだけれど...。


ううぅっ.......。

胸が締め付けられるように苦しい。

どれだけ、アイツの事が好きなのよぉ。

このままじゃあ、ワタシまで本当に.......。




「よーし、よーしー」

微かに、シュンノスケの声が聞こえる。

う〜ん...。

調教?

今も轟々と燃えている怪物の長い尻尾が嬉しそうに左右に揺れている。

ええとぉ...。

やっぱり飼うつもり?


「あっ!」

怪獣に対しての圧倒的な恐怖心が薄れてきているのは自覚していた。でも何故そう思うのかは分からなくてもやもやしていた心がやっと晴れた。小さくなっているのだ。


「おいでー」


ゆっくりだけど、確実にシュンノスケの方に向かっていく怪物。

しっかり手懐けている...。力ずくで服従させているようでは無い。ほんとに、飼う気なのだろうか...。

可愛いといったら微妙だけど。


「いい子だー」


怪物を抱き寄せる。驚くことに怪物の大きさはセイリュウー大陸の家で育てていた馬くらいの大きさになっていた。やっぱり飼う気なんだなぁ〜。移動手段に便利、とか思ったなぁ〜。

疑問が確信に変わっていた時、その恐ろしい怪物は一瞬で人の姿になっていた。纏っていた炎は跡形もなく霧散していた。


その人は、見知った顔だった。

黒い艶やかな髪に白く透き通った肌。切れ長だけど大きめな瞳に、形の良いふっくらした唇。少し印象が違うきもするけれど、間違いないと思う。

ムスカリ、だ。

だったら、あの怪物がムスカリだったのぉ?

そうなのかなぁ?

いくら考えても答えは出るわけがないし聞いてみるかぁ...。



二人の元へ駆け寄って行こうとした時。

ムスカリが動いた。それは、自然ですごく色っぽく優美な所作だった。

腕を首の後に絡ませて、唇を重ねる。

シュンノスケは何かを言いかけたようだったけど諦めたようにも見えた。

相手の肩を力強く抱き寄せ、一度離れた唇は今度はシュンノスケから再び重ね合わされた。



「っ...!」

激しく打ち付ける鼓動に、押し寄せてくる荒ぶる感情にエリカは飲まれそうになっていた。自分を埋め尽くしていくこの思いは何だろう?恋しさもしっかりある。でも、暴れているのは強い独占欲。

「この気持をどうやって沈めればいいのよぉ.......」

エリカはシュンノスケを見つめながら呟いた。






* * * * * * *






もう少しで地面に膝を付いてしまいそうだった。

その寸前、身体を受け止められ未然に終わったんだけど。

同時に柔らかい感触に包まれ、息苦しくなる。


「大丈夫ですか?舜サマ」


近くで声がする。

でも、近すぎるような気もする。

また、サマって言ってるし。


「うん、大丈夫」


体勢を整えて見上げると驚くほど近くに、ムスカリの顔があった。

相変わらず美人だ、でも、あれ?何かが違う。暫く、ムスカリを観察する。

あああああああああ!髪だ。

結われていた長い髪がバッサリと短くなっていた。耳が見えるほど短く。その髪型も似合っていてなかなかいい!だけど、いつの間に髪を切ったのだろうか?

僕たちが化獣と対面している間に髪を切りに行ったとか...?

流石にそれはない、か。


「あ、あの...。顔が、顔が近過ぎじゃない、ですか...?」

「うふふふ。ですね。でもこうやって支えていないと舜サマが倒れてしまいますから」


ああ、なるほど!

納得してしまったけれど。

だけれども...、かなりの至近距離。僕にどうしろとっ!?どうしろっていうか、ムスカリはただ心配してくれているだけだろうけど...。



はて。ここは、何処だっけ?

彼女の近くに居て安全だったっけ?

何か見落としがあるような気もする。これまでの状況が把握できていないし、記憶が途切れている。取り敢えず距離を取ろうと動く、つもりだったけど体がついてきてくれなかった。身体がふらつく。弾力のある柔らかいモノの間に再び顔が埋もれた。すごくふわふわしているのに、ハリがあって気持ちがいい。なんていうか、安心感が半端ない。

丸くて、大きくて、柔らかい、それが二つあって...、こっ、これはっ!

僕はやっとその正体に辿り着く。


「わっ、あ、えっと、ごめんなさい...」


咄嗟に口から出た言葉は謝罪だった。

ムスカリはにっこりと妖艶に微笑む。それって、許してくれたんだよね...?

突っつかなくて本当に良かった。頭は左右に動かしちゃったけど.......。



周辺は、平和そのもので静かだ。破壊されている箇所も見当たらない。

なら、あの化獣は夢だったのかな?

ムスカリが案内してくれた封印の場所という入口、あの小部屋に僕たちは居た。

もう一人足りないな...、僕はエリカの姿を探した。



「あなた、は何者なのっ!?」


右手には、短剣、それには淡い光が発せられている。

「えええっ!?...エリカ?」

目に鋭い光を宿した旅の相棒が僕を庇うようにしてムスカリと対峙している。

冗談ではなく本気、だ。

それにしても、今まで何処に居たんだろうか?



「私は、セイリュウー大陸の要の存在です......」


敵意剥き出しのエリカに気を止めること無く、ムスカリは口を開く。予想外の応えだったのか、エリカが片手剣を落としそうになっている。お手玉状態になっている...。遊んでいるみたいだ...。


「どっ、どういうこと〜?」

素っ頓狂な声が響く。


「もう少し説明をするべきでしたね...。あなた方を騙すつもりは全く無くて、ただ魔物が出てくるって聞くとみんな逃げてしまうので...」

ムスカリは寂しそうな表情を浮かべた。

長い間、助けてくれそうな人を見つけては封印の間へ連れて行く作業を繰り返していたという。

勇敢にも戦い敗れた人や、逃げてしまった人。

男だったら、絶対助けようとするはず。

そう思わせる風貌の持ち主のことだ、何回チャレンジしたんだろう......。

想像しただけで怖くて聞けなかった。

先が見えず途方に暮れたところに都合よく僕たちがやってきたらしい。

封印場所に行く予定だったんだから、封印を解けるムスカリに辿り着く前に出会えて僕たちも運が良かったんだと思う。ただ、僕の心は複雑だけど...、僕に向けられていた好意は目的地に連れていくための嘘だったからで...。本気で困ってしまった自分に恥ずかしさを感じる。考えてみれば一目瞭然、モテない僕が美女から想いを寄せられるのはおかしいよな...。



「ここに封印されている魔物は、私の半身で大切な存在なのです」


「ええぇっ!?あの怪物がぁ〜?」

またまた、素っ頓狂な声を出している。

何度か落としそうになっていた短剣は今は鞘に収められている。

どうやら戦う気は失せたらしい。


「外見は強面かも知れないですが、思いやるのある優しい子ですよ」

ムスカリは愛しそうに何処かを見ている。

強面って.......。

その言葉だけで片付けるにはちょっと無理があると思うんですが...。心臓が止まりそうになった衝撃を思い出し胸を抑える。


『ムー、ムー』

動物の鳴き声みたいのが聞こえる。以前も何処かで聞いたことのある声だった。何処だったっけ...?早く思い出したほうがいいと思っているのに出てこない。


「私はこの子の元に戻るつもりだったのですが、あの方が勿体無いと言うものですから。それにこの子もその方がいいって言ってくれたから、残ることに決めました」


何のことを言っているのかよく分からないけど、言葉には感情は無く淡々とした口調で話していた。ムスカリが抱えて頬ずりをしている茶色の短めの毛並みの、これは犬かな?何処からか紛れ込んできたのかな?

顔を覗きこんで見ようとして、エリカの顔が間近にあったのに気づく。一瞬、気まずい雰囲気になったけど犬を見たい気持ちは抑えられず一緒に覗きこんだ。

「うわぁっ」

「きゃぁー!」

同時に声をあげ、後ずさる。


「ねぇっ!これって、さっきの怪物じゃぁ...」

「そうだよ、化獣だ...」


「ええ、そうです。私達は独立した二つの存在として自由に過ごせるようになりましたから」



四大陸にある封印の意味は、世界を脅かす魔物を封じるためともう一つ、人とモンスターそれぞれの行動範囲を侵さないために張り巡らされている結界の維持のためと言われている。凶悪な魔物の力を結界維持のために拝借しているのが侮れない。世界を脅かす魔物が、子犬みたいに僕の目の前で駆け回っている.......。信じ難い現実に僕は目眩を覚えた。結界の功労者が居なくなったら人とモンスターとの諍いが絶えなくなるんじゃ...?今回も登場したシュンノスケはムスカリの髪と化獣の毛を新たに封印して代役を立てたようだ。髪には命が宿るとは昔から言われているけど、流石に荷が重いんじゃないの!?そんな僕の心配を他所に余裕で与えられた役割を果たしている髪や毛たち.......。僕よりも有能なんじゃないのっ!?



シュンノスケ...。

またまた登場したらしいもう一人の僕みたいな存在。

低くて勇ましい声音で、ガラが悪かったなー。

あ、そうだ!もしかしたらっ!?突然、思い立った可能性を僕は、試してみた。


『もしもーし!』


『......』


『聞こえたら、返事してくれませんかーーー?』


『......』


だよね、そんな訳ないか...。

もし返答が来たら来たで驚いていたと思うけど...。

あの時は、たまたま会話が出来たのかな?こちらからは声が届かないのに、あちらからは可能なだけとか?えこひいき、だっ!僕は無意識に左目を覆う眼帯に手を伸ばしていた。



「コントン、です」


化獣だの、怪物だの、と呼ばれるのを不憫に思ったのかムスカリがぼそりと呟いた。コントンを僕たちに見えるように向かい合わせに抱きかかえている。のっぺらぼうみたいな顔だけど、小さくなって一見はヨークシャテリアみたいになっている。ぴょこぴょこ跳ねながら動く姿もなんとも愛らしい。何と言っても、その鳴き声だ...。


『ムー、ムム〜』


か、可愛くないか...?

僕がおかしくなっているのか!?

あんなに恐怖で死ぬ思いをさせられた相手を可愛いと断言してしまう僕は、おかしいのだろうか.......?


「じゃあ、コンちゃんって呼ぼう〜!」

単純なニックネームを付け、エリカは「コンちゃんよろしくね〜」と小さな両前足を握った。コンちゃんもまんざらでもない様子で『ム〜』と一言だけ鳴いてみせた。

「決まりだね〜」

僕が感じた戸惑いはエリカには微塵も無かったらしい...。つまらないことで悩んでしまった自分に悔いた。エリカの安易な思いつきでコントンの愛称はコンちゃんになっていた。


ムスカリは長い時間をかけて叶わずにいた目的を達成して、その呪縛からやっと解放された彼女を僕のためだけに付きあわせてしまっていいのだろうか?危険な目に遭うかもしれないのに。エリカが一緒に付いてきてくれると言ってくれた時にも感じたことだけど僕にそんな価値があるのだろうか?その人の人生を左右するかもしれないのに。『要』が人だとは夢にも思わなかった。



「では、行きましょうか」

ムスカリが僕の腕を取りぴったりと身を寄せてきた。柔らかい感触が腕を支配する。離れがたいが、ここは理性を大切にして腕からムスカリを引き離した。


「ムスカリは、本当にいいの?目的を果たしたんでしょう?だったら僕たちに付いてくることに得があるとは思えない」


「ちょっとぉ!舜くん何を言ってるのぉっ!?」


驚き半分、呆れ半分な表情で腕を組みながら僕を見るのはエリカだ。確かに、そんなこと言っていては僕たちが今こうしている意味が無くなる。でも、僕は聞いてみたくなったんだ。


「いいえ、私には得はあっても損はないです。言いませんでしたか?あなたの側に居たいって」

「へっ?もう目的は果たしたんでしょう?」

「ええ、あなた方のお蔭で。すごく感謝をしていますが?」

それが何か?と言いたげに僕に視線が投げかけられる。

「.......。えっ?えええ!?」

「うふふふ。舜サマは可愛いですね」

耳元で囁かれ僕は信じられない高さの跳躍を披露することとなった。


「でっ!いつまで戯れ合っているのかしらぁ〜?」

冷たいエリカの視線が飛んでくる。


「では、行きましょうか」

僕の腕に身を寄せてきたのは、勿論(?)ムスカリだ。

「え?あ、うん」

「舜が、嫌がってるじゃないのっ!」

いや、嬉しいけど。

「ムスカリさん、それにエリカさんも。僕は一人でも大丈夫だから。その...、いつでも、嫌になったら遠慮なく言ってね」

やっぱり、犠牲にしているように思えて仕方がない。

僕は一緒に居てくれて心強く思う、だけど彼女たちはどうなのだろうか?


「舜くん...。しつこいっ!」

「しつこい男性は嫌いじゃないですけど」

『ムムムー!』


コンちゃんにまで、何かを言われている...。

後悔しても知らないからね!僕は心の中で舌を出した。

口に出せなかったのは僕が根性無しだからだ。

二人と一匹。

見知らぬ世界で出来た僕の仲間だ。

『仲間』、その響きが照れくさくって眩しくって、すごく嬉しかった。



「今度こそっ!行きましょっか」


僕を先頭に二人と一匹が歩き出す。

地下トンネルを抜け、久しぶりに拝めるであろう太陽を楽しみにしていた。空気の澱んだじめじめした地下から早く出たかった。ある程度の広さと松明という明かりがあったからマシだったけど、物心つく頃から暗いところが苦手で苦手で...。早く地下から脱出したいと願う思いが一番強かったのは僕だと胸を張って断言できる!そんな僕は明かり目掛けて全速力で駆けて行った。そしてすぐに後悔することになった...。


暑い。

暑い・暑い・暑い。

辺り一面砂だらけ。広大な砂漠だった。

セイリュウー大陸は緑に囲まれていて草原や森が多かったから、スザーク大陸もてっきり長閑な景色を想像していただけにこの現実は正直認めたくない。


「スザーク大陸って、いつもこんな感じなの?」

かなり抽象的な質問だったけど、分かってくれたらしい。

「うん、いつも暑いよ〜」

「砂ばっかりで何もないって、聞いたことがあります」


僕は無言で歩き始める。

コンちゃんは、毛に覆われているけど平気なのだろうか?

僕の隣を跳ねるように歩くコンちゃん、すごく元気そうだ.......。

さすが、獣!!


目を凝らしても変わらず、砂しか見えない風景に僕は溜め息をついた。

日陰くらいあってもいいじゃないか.......。

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