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3  判定者

身体が全く動いてくれない。

手足が鉛のように重い。

周辺を見渡しても真っ暗闇で何も情報が入ってこない。

これはもう嫌な予感しかしない...。


僕の周りにキラキラ光るものがたくさん集まってきているようだし、見ている間にもその数は確実に増えていっている。その光るモノは、動くモノなのは間違いない。かと言って綺麗ではない。むしろ、禍々しささえ感じる。存在感が半端ない...。


「はぁ〜〜〜」


こんな時なのに、余裕なんて無いのに、僕の心は麻痺してしまっているのか「またか!」とか「やっぱりなぁ」とか思っている。「今度こそ、殺されるんだろうな...」とも。重いと感じていた僕の手足には無数の手で力強く押さえつけられている。爪が肌に食い込んでいるのか痛みも感じる。肩を抑える手は毛むくじゃらでゴワゴワしていて肌触りは最悪だった。暗闇だったのが救いだったのかもしれない。見えないから平静を保っているんだろうと思う。


『キッ、キッ、ギィ!』


その鳴き声を合図にヤツらは動き出した。動きを封じている幾つもの手が力強く身体を締めつけていく。尖った長い爪が身体中に突き刺さる、首に回された手が容赦なく締め上げる。体一つ動かせず、声も出せず、涙だけが次々に溢れ出てきていた。




「うぐっ...、はぁっ、はぁっ.......っ!」


息が出来る。

身体は痛いけど、動くはず!

もう、痛いのは嫌だ。苦しいのも嫌だ。


今のうちに、逃げる!絶対逃げ切る!

僕は力任せに身体を動かした。


プチン。


何かが切れた音がした。

身体が少し軽くなる。

そしてまた暴れるとプチンという音とともに思い通りに体が動くようになっていた。


「よしっ!」


ドスーーーーンっ!!

凄まじい音とともに僕は、落下してしまったらしい...。


「いた、いたたたたた.......」


自由になったと思っていた体は実はまだ拘束されていたらしい。右足だけが引っ張られ、頭は勢いよく地面に叩きつけられてしまった。気を失いそうなくらい痛い.......。頭のなかでキラキラした星も飛んでいる。本当に飛ぶんだ〜とは思ったのは一瞬で本気で痛い.......。


「うっ...うぅっ、.......」


恨めしげに地面を見るが。

土じゃない?

草もなかった。

森に居るのではなくそこは、木製の床だった。

何故に床?

誰の床?

ここは何処の床?

錯乱している中、間延びした舌足らずな声音が聞こえた。


「どうしたぁー!?」


やたら髪の長い女の子が僕を見下ろしている。この女の子が僕を拘束したのか?ヤツらの仲間とか?可愛いし悪い人には見えないけど...。取りあえず、この体勢をどうにかしたいかな...。片足吊られたまま床に倒れている状態は流石に、ちょっと...。


「あ、あの。起こして欲しいんですが...」


言うことを聞いてくれるか分からないけど、自分の力ではどうにもならないんだから頼むしか無かった。


「まったく〜!油断も隙もないんだからぁっ」


腕を組みながら睨まれた...。何で?

女の子は僕を軽々持ち上げると手足を拘束し始める。

えええっ!?何でっ!?


「何で手足を縛ってる!?」


僕の当然と言える質問に女の子は、深い溜息を吐いて白い目を向ける。聞いてはいけない事を聞いてしまったのか眼つきが急に険しくなる。顔が近づいてくる。怖い...。可愛い顔をしていても、やっぱり怖い...。


「だってぇ、あなたを縛らなかったら何をするか分からないじゃないのぉ!」

「.......」


えっと...。それは一体どういう意味で...?

僕があなたに何かするとでも?

自慢じゃないけど、僕はそんなに野獣ではないし。見境無くは無いし。見かけも弱そうなはずだし。

...何で?

まじまじと目の前の女の子を見る。



「だってぇ、あなた自殺志願者でしょっ!?うちで死なれたら気分悪いものっ」


「はぁっ?そっちっ!?」


弱く見えるのは、自覚している。

でも...。それでも自殺志願者、って.......。何でまた、自殺志願者?


「そっちぃっ?...ええとぉ。あなた、死ぬためにリューイの森に入ったんでしょうっ?思わず助けちゃったけど〜」


「いやいやいやっ、志願してないしっ!僕は死にたくなんてないしっ!」


疑わしげな視線がずっと僕に向けられている。


「そうなのぉ...?」


何度も頷きつつ、女の子の言葉が頭に浮かんだ。「助けちゃった」って言ってたな。

捕まっていたわけではなくて、ただ自害しないように保護されていただけで。確かに獣人は周囲にはいない様子、目の前の女の子はどう見ても人であり物騒な武器を所持していない。クローゼットに小さな机、必要最低限の家具がある小奇麗な部屋に僕は居た。それもベットの上に居る。何箇所なのか自分では把握しきれていない傷口にはしっかり白い布が巻き付かれていて手当されている。助けてくれたのは本当らしい。


「助けてくれて、ありがとうございます」


僕は深々頭を下げた。本当に助かった事が奇跡だと思う。人気のない森の一郭で、よく人に出会えたと思う。これはもう一生分の幸運を使いきってしまっているかも知れない.......。


「べっ、別にいいわよぉ〜、お礼なんて...、もうぉっ!」


顔を真っ赤にして外方を向いてしまった。どうやら照れているらしい。でも、睨まれている。にっこり微笑んだら余計に睨めれる。お礼を言っただけなのに僕はどう言えば良かったんだろう...?

沈黙が続く...。

沈黙に耐え切れず何か話題を振ろうとエリカの顔を見るとまだ真っ赤だった。手で顔を覆う姿に可愛いかもとか思いつつ、更にじっーと眺めていたら頭をべチンっと殴られてしまった。

まだ、怪我人なんですけど...。



「...あなたに聞きたいことがあるんだけどっ!」

僕を指さしながら鋭い視線がこちらに向けられる。


「はい、何でしょう?」


急な話の転換に驚きつつ僕は頑張って付いて行くことにした。でも、聞きたいことの内容に僕は付いて行くことが出来なかった。

『シュンノスケって誰なの〜?』

いやいやいや、僕が聞きたいくらいで。何故僕に聞くのかな?

その名前は僕の知り合いには居ない。うん、確かに居ない。舜とシュンノスケ、名前は少し似ているけれど。

正直に知らないと答えたらすごい剣幕で「知ってるはずでしょっ!!」って返ってきた。

もう、何が何やら分からない......。

しばらくの間があって、「本当に知らないの?」って質問に、僕は縋るように頷いた。


「じゃあ、ワタシのことはぁ〜?」


「以前に会ったことありましたっけ......?」


「う〜ん...」


考え込んでしまった女の子、エリカは僕にシュンノスケという人物に会った時の話をしてくれた。

シュンノスケは僕の中に居て、家のように出入り出来るらしいと.......。

家って表現がすごいけど.......。ヤドカリみたいなんですが...。

で、シュンノスケが外に出ている時は僕は居なくなるらしい。


それはそれで嫌な予感がして仕方がない。

これから僕とシュンノスケで体の争奪戦とか始めたりして?

それとも、僕のモノだと信じて疑わなかったこの体は実はシュンノスケのモノで、体を取り返すためにこっちの世界に僕を呼びつけたとか?


う〜ん。

考えても、分かるわけが無いか...。

僕の体、返したくないなー。背が低いとはいえ、ずっと一緒に生活してきた仲間みたいなもの(?)だしなー。僕が瀕死状態にさせられたヤツらを手を触れずに瞬殺したというシュンノスケに敵う訳がないのは悲しい現実だけど。戦う前に敗北してしまった僕はどうしたらいいのだろう.......。




「ねぇ、君は、えぇ〜と〜舜くんは」

エリカは、難しい顔をしている。


「違う世界から来たのよね......で、朱い瞳で白銀の髪の女性に会ってから、だったわよね......」

さっき、僕が言った内容の確認をしているようだ。

僕は、ゆっくりと頷いた。


「そ、それって......女神様だと思うの、この世界の均衡を維持している唯一の存在の」


女神っていうか、その人物に性格が暗いって言われたんだけど...。

僕の持つ、可憐な女神のイメージは早くも崩れ始めていた。

その、女神様が僕をここに呼んだってことなのか?

暗い性格の、この僕をっ!

明るい性格のヤツを呼べばいいのに、とか思っていたら。



「舜くんは、女神様の血族なの〜?」


とても突拍子もないことを聞かれたような。

舌足らずの声音が、真剣味にかけるのかな?

「僕は、違います!」

ここは、キッパリと言って置かなければ。


「じゃあ、その色はぁ?」

彼女は、僕を指していた。

性格には、左目を。


う、嘘だ......。

僕は産まれてからずっと黒い瞳に黒い髪だった、はずだ。

なのに、なんで、こんなことになるんだ。

「な、なんなんだ。これ......」

手鏡を持たされ僕は、驚愕することになった。


それは、あの女神様と同じ色の。

朱い色だった。

それも、左の瞳だけが......。



古来、朱い色は女神様の象徴とされてきたそうだ。

だから、朱い色の動物、植物すら存在しないらしい。

朱を使うことを許されているものは、女神様に会うための塔のみだという。



そんな、色を僕が持っていて大丈夫なのだろうか...。

シュンノスケは、髪と瞳の両方って聞いたけど。

かなり、派手だな。



「じゃあ、おじいちゃん呼んでくるね〜」

一言残して、部屋から出て行ってしまった。






* * * * * * *






遠慮がちにドアを二回叩く音が聞こえた。


「エリカの祖父のカンボクだ」


白髪に顎鬚、まさにお爺さんの代表みたいな姿だった。木の杖を持っていれば完璧だったのに足は不自由していないらしい。ここの、アルス村の長老であり判定者でもあるらしい。

『判定者』ってなんだろう?


真正面からまじまじと見られている。

恐らく僕の左目を見ているんだよね。珍しい色だみたいだから。

にしても、見過ぎ...。無言だし...。すごく居心地が悪くなって居た堪れなくなってきたところでやっと眼力から解放された。



ここは。

セイリュウー大陸にあるアルス村だ、そうだ。

この世界には、四つの大陸があって。

その他には。

ゲーンブ。

スザーク。

ビャッコー。


なんか、何処かで聞いたような名前に親近感が湧いた。



ここ数日。

可怪しいことが起きているらしい。

四つの大陸に幾つもの大掛かりな結界が張り巡らされていて棲み分けされているはずらしいのだが、獣人などのモンスターが村や街に頻繁に入ってくる事件が起きているらしい。

加えて、モンスターの力が強力になってきているとも。


他にも何かあるのだろうか。

カンボクは、それ意外は口を噤んだまま遠い目をしていた。

僕がこっちに来たことと何か関係があるのだろうか?



エリカは何処にいるんだろう。

長老のカンボクと一緒に部屋に入ってきたようだったけど今は居なかった。

寡黙な長老と、口下手な僕。組み合わせが悪い気がする。会話が途切れて途切れて、カンボクは気にしていないようだけど僕は気にする。沈黙が苦手なのだ。





がやがや。

きゃっきゃっ、きゃっきゃっ。



何やら外が騒がしい。

「はいはい〜、みんなこっちで待っててねぇ〜」

小さな子供の声が聞こえてきた。

加えて、エリカの声も。



「おじいちゃん〜、来たよぉ〜」

「あいよ」

では、また後で。

カンボクはドアの先へと消えて行った。悪いとは思いつつ僕は少しホッとした。





「今日はね、おじいちゃんが村の子供たちを集めて判定をする日なの〜」


代わりに、ノックもせずにいきなりエリカが部屋に入ってきた。

『判定』とは楽しいことなのか、エリカはとてもニコニコしている。手慣れた手つきでベットの脇のサイドテーブルにコップを置いて水を注ぎはじめる。隣には、パンとスープがあった。


「気づかなくて、ごめんねぇっ」


僕は、どうやら三日間寝続けていたらしい。

そりゃあ、体の動きも悪いわけだ。

おまけに、傷口も痛むし。


ぐぅ~。

腹が催促してきたようだ。

そうだった。お昼食べ損ねているんだった!って思い出しただけで大きく腹が鳴った。エリカはくすって笑った。その音の大きさに今度は僕が赤面する番だった。


「おかわりもあるから、遠慮しないでねぇ〜」

お礼を言ってから、パンを一口噛じった。

あまりの美味しさに無心で食べ続けていた。


『生きてるって素晴らしい!』が今の僕の座右の銘になっていた。



「そういえばー」

一気に完食した後、疑問に思っていたことを口にする。

「『判定者』って何、ですか?」


「うちのおじいちゃんが『判定者』なのは知っているよねぇ〜」

頷く間も与えずに、エリカは言い継いだ。

「特殊な能力が備わっているかを見定めて、その能力を導くのが『判定者』の仕事なの」

口をポカーンと開けている僕にエリカは苦笑していた。


稀に、武器使い・魔法使いの能力を持っている人が産まれてくるそうで。

その能力を持っていれば開花する三歳になるの年に、『判定者』がチェックをして、素質のある子にはその能力を引き出してあげることをしているようだ。

今、カンボクはその『判定者』のお仕事をしているようだ。


「エリカさんは、武器使いってことかな?」

腰にある短剣を指さした。

「まぁ、そんなとこかなぁ〜」

曖昧に流された感はあるけど、短剣使いなのは間違いないようだ。


「さっきね、おじいちゃんが舜くんを見たんだけど〜」

言い辛いのか、少しの間があった。

「能力は見つからなかったみたい」

あぁ、そんなことか、とか思った。

それって、恥ずかしいことなのかな?

能力ゼロの人っていうのは。


「僕には、もともとそんな特殊な能力はないので」

自分でも分からないけど、申し訳ない気持ちになってしまった。

期待させちゃったのかな?左だけとはいえ朱いし。

胸がチクリと傷んだ。

突然、両親の顔が頭に浮かんだので強引に消し去った。



何の能力もないのにどうして僕はここに来たのだろうか.....。

思ったのは一瞬だけだった。

必要とされていたのは、僕の方じゃないんだろうな。

見たことはないけど近くにいるはずの青年のことを思った。


じゃあ、僕はここで何をしたらいいのかな?


「そうねぇ。やることは、決まっていると思うけど〜」


「へ!?」


頭の中で考えていたつもりが、口から言葉になって出てきたらしい。

人の心を読む能力なんてものがあるのかと思ってしまった...。



「そうなの?」

聞き返したつもりだったんだけど、返答はなかった。


「どうだったぁ?」

僕が聞いていなかったっけ?

どぎまぎしながら長い髪の女の子を見る。



「風の魔法使いと大剣の武器使いの子が居たよ」

僕に言ってた訳ではないのか、ホッとしつつ、何やら恥ずかしい気持ちもあって目を逸らすようにドア付近に立っているカンボクに見た。

「わぁ!今年はすごいねぇ〜」

「......あと。『癒やし』が一人いたな」

「そぉ、かぁ〜」



「それは、悲しいことなの?」

エリカの表情を見て、何となく聞いてしまって後悔した。

周りの空気がガラッと変わったから。

「え、えぇ、と。エリカさんが寂しそうに見えたので...」

気まずさは増す一方だ.......。


「寂しいといえば、そうなんだけどぉ...」

エリカの代わりにカンボクが口を開いた。


「『癒やし』の能力を持っているのは各都市や集落に一人ってことになっていてな、古来その例外は聞いたことがない。このアルス村も、だ。今日、二人目の『癒やし』の使い手が誕生した、ってことはきっと意味があるんだ」


「だから、一緒に行かせてもらうね〜」

エリカは僕を見ている。


「何処に?」

話が読めずに口を開く。そんな僕にエリカはにっこりと微笑む。


「ワタシね〜、短剣使いだけど『癒やし』使いでもあるの。だから舜くんと同行するね、世直しの旅に。おっと、舜くんは女神様に会いに、かなぁ〜。元の世界に戻りたいんでしょ〜?」



確かに、帰りたい!

自分を知っている人が居ない世界に行きたい、なんて思った時期もあったけどやっぱり帰りたい。投げ出したまま逃げるのはやっぱり嫌だ。


それに好きな子だって。

僕と同じくらいの背丈の、可愛い女の子の笑顔が頭に浮かんできた。

もう、会いたいよ。


帰ったら、絶対告白する!


今、決めた。

人生、何が起きるか分からないし。

告白したい相手はこっちの世界には居ないのが悲しいところだけど。


「戻りたいです!」


僕は、キッパリ言い切った。

でも、エリカは、行きたくないのかも。

チラッと見るとエリカは複雑な顔をしていた。


「僕は、一人でも大丈夫だから。無理しないでね」


思わず言ってしまったけど、完全な強がりだった。

特殊な能力は無いし、無一文だし、丸腰だし。こちらの世界に来た早々、死にそうになっているし。ここまで揃うと笑いたい衝動に駆られる。実際にニヤけていたかもしれない。二人の眼差しが痛い。


「だからぁ!行くってぇっ!」


また睨まれた?何で?

狼狽えまくっていたら背中を思いっきり叩かれた。

「おじいちゃんと離れるのは寂しいけど、旅行はしてみたかったからぁ。もうっ!いいのっ!」

「旅行......」


「不束者だけど、道案内兼救急箱みたいな感じで、な。うちの孫をよろしく頼みます」

カンボクに頭を下げられ、急いで立ち上がった。

当然、倒れるようにベットに逆戻りしてしまった、怪我も体調もまだ完治していなかったっけ。


「こちらこそ、よろしくお願いします」

僕は、ベットの上で深々と頭を下げた。

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