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17  予備軍

何はともあれ。


『元の世界に戻るぞ!』という目標はトントン拍子で進んでいる。


最大の近道である、天空の大陸に通じる長い橋が塞がってしまった時は小さな絶望を味わったものだが、既に四大陸のうち二大陸は完了しているし。思ったよりも早く帰って来れるんじゃないか、と期待が膨らむ。エリカは世直しの旅を終わらせ、ムスカリとコンちゃんやアザミは晴れて自由の身に、ってことですべてが上手く回ってハッピーエンドになるのも時間の問題だろう。コンちゃんを目にした時は、何年掛けようと僕には絶対無理だと本気で諦めてしまおうかと考えた。しかし、僕は折り返しポイントまできている。どうにかなるんじゃないか?と思い始めていた。命の危機に晒されたが、その分時間が短縮できていると前向きに解釈する。さあ、次行こうー!ってな感じで僕は調子に乗って乗って乗りまくっていた。「余裕」の二文字が頭のなかで踊っている。


無事に身体に戻ることが出来て、実感したことは身体の重さ。あとは、頭がスッキリしていること、だ。頭のなかの靄が晴れたような清々しい気分になっていた。今まで、こんなに重い何かが頭の中に入っていたのか?と思うくらいにガラリと変わった。慣れ親しんだ身体に帰ってきた時、僕は偉そうに仁王立ちをしていた。あまり経験のない体勢にシュンノスケってスゴイな、って素直に感嘆した。僕には不似合いな「漢」な感じがとってもいい、ないものねだりみたいなものだろうか。


「!?」


突然、人が入れ替わってるんだからそれなりに驚かれるだろうとは思っていたが...。見慣れているだろうストックまでが食い入るように見つめてくる。


「なんか雰囲気が違うぞ?年上に見える」


「失礼だな...、言われなくても年上だっ!どこも変わってないと思うけど?」


「両目が朱くなっているっ!」


「ええええええええっ!!」


驚いた。今度は両目か、隠せないじゃん.......!眼帯は両目にしたらただの目隠しに...。指をビシッと自慢気な顔をして指しているのは、短い髪の女性だった。あの人は、あの時、瞳が会っただけで危険を顧みず動いてくれた人だ。僕が巻き込んだのに、頼んで安心してすっかりフォローすることを忘れてしまったがために、命の危機に陥れてしまった人だ。よかった、無事だったんだ!僕は早速感謝と謝罪をしようとしたけど、本人はそれどころじゃないらしい...。すべての視線を掻っ攫い注目を浴びていた。


「ロベリアっ!?」

「いつから、意識が戻ってたの、か、し、ら?」

「いつも心配ばかりかけて...」


ツインテールの子が驚き、ストレートの子が怒り、ふわふわした髪の子が啜り泣いた。


「今回は心配かけてごめん.......起き上がるタイミングを逃してた、あははっ!」


「あははって...。取り敢えず、無事でよかったよー」

「今回は、じゃないでしょ!?毎度でしょっ!?もう胃に穴が空きそうだよー!」

「もう、危険なことに飛び込むのは、やめてね?」


今度は背中をバシバシ叩かれ、肩を揺さぶられ、両手で顔を固定され視線を合わせながらお願い(?)をされている。


「...そ、そうだね。考慮してみるよ...あははっ!」


コイツはまた危険に喜んで飛び込むに違いない、遠い目になった三人だった。


彼女たちの他に助かった女性は十六名。

この数字を多いと見るか少ないと見るか、どっちだろう.......。半数以上が犠牲になってしまったのならば...、違う、人数じゃない。会ったことはないけど、みんな同様に尊い命なのだから、そういう考えが頭にある事自体間違っているのかもしれない。


この十六名を無事に送り届ける役目を買って出てくれたのは、ストックだった。エリカがまだ動けない状態にあるということと、僕がこれから休息が必要になってくるってことから判断してくれたらしい。任せてしまっていいものか悩んでいると。


「勿論、うちらも一緒だからご心配なく〜」


ロベリアが腕の筋肉を披露してくれている。

鍛えあげられている腕に舜は負けた、と正直思った...。

で、あっさり、お任せしてしまった。


今回はオアシスの要塞があった地底深くを封印場所としたらしい。何を封印しているのかは不明だが各大陸の封印が人と魔物を隔てるための結果の構成に関係しているのだとすれば設置しなければならない。きっと、シュンノスケがやってくれたのだろう。そんな訳でこの大陸は以前のように安全になっているようだ。



でもでも。

本当にいいのかな...?


「弟がお世話になりまして本当にありがとうございました」

可憐なイメージの女の子のだった。髪はストレートで優しそうな美人だ。こんなキレイなお姉さんが家にいてくれたら寄り道しないで速攻帰ってくるだろうな、と思う。じっーと見過ぎたか、ストックが割り込んできた...。睨んでいる?いやいや、邪な気持ちは抱いてないって、本当だって!


「いえいえ、こちらこそストックくんには助けてもらってばかりで。あのー、彼女たちを街まで送るのを本当にお任せしちゃっていいのかな?」

「お任せ下さいっ!」

胸を叩き、ふわりと笑う。

柔らかい身のこなしに、女っぽさを感じる。いいなー、すごくいい!

「舜.......」

「違うよ?いや、見惚れてないって!」

うわっ、余計なことを言った!?言ったな、うん確かに言ってしまった.......。

「顔に出すぎ.......」

ストックは呆れ顔だった。そんなに顔に出てた?ストックのお姉さん、スミレを見る。お互い見たので、自然と見つめ合うかたちになる。それでも、見る。以前の舜だったらすぐに視線を逸らしてしまうところなのだが、女性に対する免疫がバッチリついてくれているらしい。

「あの、そんなに見ないで欲しいんですが...」

困惑されてしまった...。

「あ、ゴメンナサイ。可愛いなーって思って...」

「えっ!?」

もっと困惑させてしまった...。いや、顔が赤くなってる?

「え、えーと...。もしかして、口説いていたり、する?」

ストックまで困惑している。

顔が真っ赤になってくる、口説くって...。

「違くてっ!ただ、可愛いと思っだけで」

「そう、なんだ...」

ストックの姉を守るためのブラックリスト予備軍にこっそり追加されてしまった舜だった。




エリカが目を覚ましたら、ストックとのお別れをすることにしていた。寝ている間に居なくなっていたら絶対に怒り狂うこと間違いだろう、ということで。ストックもロベリアも命の恩人には会いたいだろうし。


「んんっー!」

大きな伸びをしてエリカが起き上がってきた。

近くで待機していたムスカリとコンちゃんも一緒だ。

「ありがとう。君が私を助けてくれたんだってね」

どこかの城の貴公子みたいだ。爽やかに微笑んでいる。

エリカはロベリアに両手をガシッと掴まれ、手を握られている。

まだ寝ぼけているのかな?反応がない。

「.......」

「大丈夫かい!?」

ロベリアは、藍色のタイトなベトナムの民族衣装で有名なアオザイにパンツを合わせたような格好をしている。今は藍色だか、茶色だか分からなくなってしまっているが...。それでいて、背も高い。まさかとは思うんだけど勘違いしてないかな...?

「私のために無理しちゃったのかな...、ごめんね」

ロベリアが言を継いでエリカにがばっと抱きついた。

「.......きゃぁっ!」

「おお!話せるようだね、よかった...」

またエリカは再び、がばっと抱きしめられる。

「...に.......ですかっー!!」

慌てふためくエリカにロベリアは困ったような顔を近づける。

これはマズい。エリカの顔が引き攣りはじめ、拳を握っている。

「逃げてっーー!」

叫んじゃったけど、杞憂だったらしい。ロベリアは凄腕の戦士そのものの動きで拳を片手で掴みニヤリと笑った。

「忘れちゃったかい?私は、助けてもらったお礼を言いたかったんだけどな」

その言動は、どこまでも貴公子だった...。

「え!?あっ!ごっ、ごめんなさい〜」

やっと状況を理解したらしく思いっきり頭を下げている。

「おっちょこちょいだな...。俺は今更驚かないけど、なっ!」

ストックはニヤリと笑った直後に、見事に頭に拳を見舞われていた。痛そうだ...、エリカは加減を知らないからな...。まだ子供だっていうのにな...。舜も何度か鉄拳を食らっているからその威力は保証済みだ。スミレはその様子を影から嬉しそうに見守っている。心配はしないんだ、なんか僕には新鮮だった。



そんなこんなで、バタバタしていたけど無事にストックとの別れを完了した。

もう会えないと思うとすごく寂しい。ずっと一緒に居れないのは最初から分かっていたけど、それでもまだ一緒に居たいと願ってしまうのはストックを大切だと思ったからだ。そう思える人物との出会いは僕の世界では無かった。家族さえも疎ましく思っていたし、友人も一緒にいる時は楽しいけどそれだけの存在だった。いつの間にか命を預けてもいいと思える仲間に恵まれて、こっちの世界のほうが僕にとっては幸せなのかもしれない。本当のところは、まだよく分からないけど。何となくそんな気がした。



僕は眼帯を外すことにした。

つける必要が無くなっていたからだ。左目だけだったのに、今度は右目も朱くなり隠せなくなったから。両目を隠すわけもいかず、だったら外してもいいかってことで。こちらの世界にもカラコンがあれば良かったんだけど、植物から採った染め粉しかないようだ。目を染めるなんて想像しただけで恐ろしい...。


恐ろしい、といえば.......。

『許さねえ...。俺の許可無く会いに行きやがって.......』

突然降ってきた、あの声。

間違いない。あれは、シュンノスケの声だった。

ということは、あの絶世の美女は恋人とか?それとも、切ない片思い中とか?

片思いだったら...、親近感が湧いてくるんだけどな。


宮嶋百合。

この人にはやっぱり、会いたい。もちろん、もっと先の欲求もある。

それに、色んな物から逃げたままってのも引っかかっている。それらが僕の原動力になっているんだろうけど、無くなる時が来るのかな?無くなった時は、ここに居ることを選ぶのかもしれない。こっちの世界にも大切な人が居るから。



現在、僕は調子に乗っていた分、痛い目に遭っていた。

はっきり言えば、金、だ。


いままでセイリュウー・スザーク両大陸で実感がなかったのは貨幣の普及が乏しいからだった。一昔前のどこかの国のようにこの二つの大陸では等価交換が日常的に行われている。貨幣など無くても生活する上では十分ということで必要とされなかったようだ。セイリュウー大陸は温厚な気候を活かして、主に農作物や木材が多く生産され酪農が盛んだ、一方スザーク大陸では鉱物や金属に、意外だけど、塩だ。塩はよく熱中症対策に必要不可欠なものって言われているしこの土地柄に合っているかも?とか、何となく納得してしまう。塩の砂漠が至るところにあるらしいのだ。まだ、見たことはないけど。


ビャッコー大陸に入るのに、金が必要らしい。

それも相当な額だと思う、エリカが倒れそうになっていたから。


「では取ってきましょうか」


「いやいやいや、待って待って待ってっ!」


平然と言い放ち歩き出すムスカリに「どこに?」と尋ねようとしたけどやめた。取り敢えず、考え直してもらおう!ついでに、キッパリとお断りしておいた。きっと良くないことをしようとしているに決っている。特にエリカは必死で止めていた。「人から黙ってものを取ってくるのはいけないことで、取られた人は悲しい思いをするからやめてほしい」と。何度お願いしても罪を重ねるムスカリにエリカは懇懇と心に訴えかける。今回は時間が長そうだ。ムスカリは黙って説法を聞いているようだったが、果たして改心できるのか!?

うーん...、どうだろう.......。



ロベルタール。

ビャッコー大陸に渡るためのスザーク大陸側にある唯一の港街である。

緑色の海に白い岩でできた建築物が建ち並ぶ。まるで、アテネのアクロポリスみたいな美しい街だ。ビャッコー大陸は海に囲まれているらしく船で移動しなければ行けないらしい。今現在、僕らはその街の宿屋に宿泊をしてる、そのためエリカが持参していた金をすべて使い果たし立派な無一文になってしまっていた。こうして僕は初めて通貨という存在を再認識し、この世界の通貨単位が『ラルド』だということを知った.......。

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