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16  再会

ロベリア.......。

いつも姉のように可愛がってくれ守ってくれた、かけがえのない存在が倒れている。正義感が人一倍強くて、曲がったことの嫌いな彼女は危険なことに常に足を突っ込み私の心配は絶えない。「もう危険なことはしないで!」っていくらお願いしても調子のいいことを言ってはぐらかされてしまうのだ。武器の使い手だからある程度は仕方がないと我慢をしてきたのに、今回ばかりは納得がいかない。正直、怒りすら感じる。


絶対に敵わないって分かっている相手に向かって行くなんて。

あんな魔物が存在しているなんて反則だっ!

逃げ帰ってくる女の子たちの尋常ではない様子を見れば、絶対に関わってはいけない相手だって簡単に分かるはずなのに、「ちょっと見てくる!」っていつもの調子で行ってしまったのだ。追いかけて行ってみれば、何故か逃げ惑う人たちを安全な場所へと誘導しているし...。で、その結果が『これ』なのだ.......。青ざめ、瞳を閉じて身動きもせず横になっている人物を見る。


「ロベリア.......」


ロベリアに癒やしを施し続けているダリアの表情がとても険しい...。止血には成功しているようだったけれど、傷口が塞がらない。顔色も悪くなるばっかりで...。そんな時、声が掛けられた。


「あの〜、大丈夫ですかぁ?もし手伝うことがあれば...」


淡いベージュの腰まである長い髪の女の子だった。

大きな瞳を見開きダリアを見ている。そして、ロベリアを見てその瞳が翳る。

どうしてここに居るのだろう?そんな疑問が湧いてきた。それで、失礼とは思ったけど凝視してしまった。パッチリとした大きな瞳に長いまつげ、鼻は少し低めだけど発色の良いぷっくりとした口唇が印象的なお人形さんみたいな顔立ちの可愛らしい子だった。そんな子が何故こんな危険極まりない場所に?とっても場違いな感じがした。


「一人よりも、二人ですよね〜?」


せっかく話しかけてくれたのに、応答しない私たちに不愉快な顔をするわけでもなく。

しかも、『癒やし』の能力を持っているのか、すごいなぁ。あ、お礼を言わなくちゃ。口を開きかけた時、彼女の両手が眩しいくらいに輝き始めた。これって!?もしかして?初めて目にする神々しい輝きに私は見入っていた。すごい人だったんだ...。集中の邪魔にならないようにスミレは心のなかで「ありがとう」と感謝した。



大きな傷口がみるみるうちに塞がっていく。

「おぉっ!」

ずっと両手を合わせていたオリーブの声が聞こえてきた。

ロベリアの顔色も少し良くなってきているような気もする。

「ありがとうございます!」

やっと言えた感謝の言葉に、ニコッと微笑んだお人形さんみたいな女の子はすぐに豪快に後ろへ倒れてしまった。それをムスカリと言われた人物がしっかりと受け止めている。女の子は眠ってしまったかのようにムスカリの腕の中に納まっている。



あの魔物の仕業なのか朱い嵐に巻き込まれたものは一瞬で消え去っていくのだ。この世の終わりを見ているような恐ろしい光景だった。そんな恐怖から守ってくれたのが、ムスカリだった。突然現れて、黒い霧みたいなものを掌から放出し防壁みたいのを作ってくれていたんだと思う。「動くなよ!?」って言われたけど、私たちは動けなかった、あの色彩に恐怖なのか、見惚れていたのか理由は分からないけれど。


このムスカリって人もかなりの美人だな〜、切れ長の憂いを帯びた瞳がなんとも悩ましい。色っぽくて、儚げな感じで何かしてあげなくちゃって思わせる。あの強さを目の当たりにしちゃうと必要なさそうだなって思うけれど...。



「やっと、動けるようになった...」

今度は不機嫌そうな低い声が後ろから聞こえてくる。

朱い髪と瞳の、この人もまた信じられないくらい整った顔立ちをしている...。

それに、珍しい色。この人たちは一体何者なの!?

外見といい能力といい、人間離れしている...。


朱い髪の人に、両脇に抱えられているふたりに目が行く。

鳶色の髪を後ろで結っている女の子と、もうひとりは......。



「...ス、ストックっ!?」


間違いない。すごく会いたくて会いたくて、来る日も来る日も無事であることを祈り続けてきた愛おしい弟の姿がそこにあった。動いていない...?ちゃんと生きているわよね...?心臓の鼓動が激しくなっていく。


「...ああ、心配無用だ」

私の気持ちを察してくれたのか、優しい眼差しが向けられる。正面から見れば見るほど端正な顔立ちなのが分かる。まじまじ見ていると、何か?と言わんばかりに顔を近づけてくる。朱い瞳に吸い込まれそうになる。すごく綺麗.......。


「きゃっぁ!」


「大丈夫、か?」


ふと気付いた時に異常なまでの朱い髪の人はとの顔の近さに驚き、バランスを崩し、倒れこんでしまった私に心配そうな声が降ってきた。いつの間にか抱えていた二人を床に置き、手を差し伸べてくれてくれる。


「大丈夫です...」

そう言ったつもりだったんだけど、朱い髪の人は手首を掴み身体を持ち上げてくれた。


「ありがとうございます...」

とお礼を言ったら、ニッコリと微笑まれる。まだ手、掴まれたままなんですが...。ストックを案じて激しくなった鼓動以上に、どんどん激しくなっていく心臓の鼓動にどう対処したらいいのか、スミレは分からなくなっていた。



「.......シュンノスケ〜!」


恨めしそうな、低い低い唸るような声が響いた。両腕を組み、ジト~っとシュンノスケを睨みつけている愛すべき弟、ストックだった。


「その手っ!その手はなんだよっ!?」


さっきまで、倒れていたのが嘘のように機敏に起き上がり、スミレの手を取り返して汚れを落とすかのようにパタパタと払う。


これは、珍しい...。

生意気なくらい大人な弟が、感情剥き出しに喚いている。十二歳っていう微妙な年齢だけれどやっぱり子供っぽいところが無くっちゃね。スミレは嬉しく久しぶりに再会した子供っぽく成長した弟を見守っていた。オリーブに言わせれば、ただのシスコンなだけじゃ、と言われそうなのだが...。



「俺の手が汚いと言いたいのかっ!?」


「汚いんじゃない、毒なんだっ!特に女性に対しては猛毒だっ!!」


「なんだそれ!倒れていたから起こしてあげただけだろ?なんで文句言われるんだ?」


「じゃあ、手を取って見つめてんじゃあ、なーーーーーいっ!!!」


肩でゼーゼー息をしている。全力で言い切ったらしい。

オリーブ、ダリアは冷静沈着と定評のあるストックの今までの振る舞いに目を丸くしている。


「そりゃあ、...なぁ」


シュンノスケが意味深に私を見る。なんだろう?何かあったかな?また心臓の鼓動がっ。ドキドキしてくる。顔も火照ってきている。何もされていないのに、ただこの人に見られただけで、それだけで調子が狂う。危険だ!、スミレは思っていた。


「ストックの反応が面白いからだろー」

「お、おいっ!おねぇちゃんをイヤラシイ目で見んなっ!!」


声が重なる。


「失礼なヤツだな、この俺のどこがイヤラシイんだ...!?」

「面白い...って....」


ストックは絶句している。

面白いなんて言われたのはきっと初めてだと思う。ずっと言う立場の方を担当していただけに驚いているのかもしれない。シュンノスケはニヤリと笑っている。こっちを見た?ストックの反応だけじゃ、ないんじゃないの?面白がっている標的は他にも居るでしょ!、と思えてならない。ストックの髪をくしゃくしゃにしながら意地の悪そうな笑みを浮かべているシュンノスケを見る。この人、相当捻じ曲がった性格の持ち主なんじゃ.......。


とはいえ。

シュンノスケが両手でストックの頭を抑えこみ。

ストックがバタバタ暴れる。


シュンノスケがストックを羽交い締めにして持ち上げる。

ストックがバタバタ暴れる。


シュンノスケがストックをくすぐる。

ストックが大笑いする。


.......ただのじゃれ合い、だ。

弟は、歳相応を通り越してやや幼稚になってしまったようだ...。

これで、いいのか、悪いのか本気で考えてしまうスミレだった。


「そろそろ、お別れの時間だな。元気でな!」


「えー」


シュンノスケの言葉にストックが不満そうな声を上げほっぺを膨らませている。

本当に、可愛くなって〜。思わず口元が綻ぶ。


「あれ?おかしい...。戻れない.......」


「じゃあさ、もう少しこっちに居ればいいじゃん」


嬉々としたストックの声も耳に入ってこないようだった。

訝しげに宙を仰いでいる。どこに戻るのか分からないけど、困っている様子。

いや、怒っている?端正な顔がどんどん顰められていく。



「アイツ...」



と、聞こえたような、気のせいのような...。





* * * * * * *





『...っ.......よ』


微かに女性の声が聞こえる。誰だろう...?

誰に話しかけているのかな?


さっきまで、篭っていた地下洞窟みたいな場所だ。

辺りは真っ暗で自分が何処にいるのか全く見当もつかない。

いつ、移動したんだっけ?


そうだ、そうだった。

あの、化獣は何処にいったんだろう?

もしかして、ここは死後の世界なんじゃ...!?

僕は、かなりの致命傷を負っていたはずだった。なのに、気が狂いそうになるほどの、身を焼きつくすほどの激しい痛みが消えていた。とうとう、元の世界に帰ること無く死んでしまったのか...!?悔いが残りすぎるんですが...。僕が現実逃避を図ろうとしていると。



『.......って!』


聞こえてくる声は、心なしか、強い口調になっているようだ。

に、しても......、どこかで聞いたことがあるような。

誰だったか?何処でだったっけ?


『こっち、だってばーっ!!!』


今度は、はっきり聞こえてきた。

誰かに叫んでいる。それも、かなりご立腹のご様子だ。

誰に.......?


『あなたに話しかけているんだけれど.......』


呆れ声に変わっていた。

あれ?その声って...。

『あなた、性格暗すぎっ!』という台詞を思い出した。

忘れもしない、僕をこの世界に跳ばした絶世の美女の声だ!


声のする方に行ってみよう。

そして気づく。体がフワフワしていて上手く前に進めない。

おまけに重力が無くなったみたいに軽い。跳んでいるみたいだった。


『で...、いつになったら返事をしてくれるのかしら...?』


また、言葉に怒りの文字がちらついている。


「僕、のことでしょうか...?」


『他に誰がこの場にいるというのかしら...?』


「すいません...」


相変わらずの迫力。

声に凄みがあるというか、逆らえないというか...。

思わず謝ってしまい、苦笑を浮かべる。


「あの〜、どうやってそちらに行けばいいのでしょう?」


少しの間の後。

『今のあなたには身体が無いし、もしこちらに行きたいというのであれば念じれば来れるわよ?今のあなたなら』


不思議な答えが返ってきた.......。

身体が無い、とは...?

確かに、足が無かった。歩こうにも歩けないわけだ...。

噂には聞いていたけど、これが『幽体離脱』!?

いやいやいや、僕は死んだはず!?

実は、霊感の全くない僕は密かに憧れていたりしていたのだ。

思いがけず、幽霊気分を味わえて、ぐっぐっとテンションがあがってくる。

スゴイ!!『念じる』っていうのは意外に簡単だった。

メートル単位で移動して遊んでいたら.......。


『ちょっとっ!!いつまで待たせるのかしらっ!?』


絶世の美女が怒気を含んだ声を発してきた。

マズいっ!すっかり忘れていた.......!

僕は、声の主へと意識を跳ばして行った。




そこには。

白銀色の髪の少女が居た。

きっと、そうだ。

瞳は閉じていて確認出来ないけど、あの、絶世の美女に間違いない。

白い天蓋の付いた、けれど何処かの城のお姫様が使うようなものではなく極普通のベットで横たわっている。ただ、透明なクリスタルみたいな石で造られているので、そこだけ普通では無いかもしれないが。

その姿はまるで眠り姫みたいだった。


天井、壁、床は白で統一されている。

柱などには装飾はなく、寂しいくらいに何も無い部屋だった。

あるのは、彼女が眠るベットと、宙に浮いている照明くらいか。

寝室と言うには、広すぎる。空間の無駄使いというべきか。

うちの学校の体育館くらいはある、と思う。

それに、女の子の部屋ってもっと可愛い感じのモノで溢れているんじゃないのかな?エリカの部屋をチラッと見たことがあるけど(入れてはくれなかった...)、花やら何かの実やらヌイグルミみたいなものやらで、ゴチャゴチャと飾っていて賑やかにしていたし。美的センスは別として...。


本当に、生きているのかな...?

表情は無く、透き通るような白い肌からは生気が感じられない。

間近で見れば見るほど現実離れしている美しさに見惚れてしまう。

街中ですれ違ったらすべての人が振り向いてもう一度見ておきたいって思うほどの超絶した美貌の持ち主だと。僕は息をしているのか確認するために近づいた。


『やっと、来てくれたみたいね』


声は直接、脳に入ってくる。

強い念みたいなもの、かな?

人に話し掛ける要領で無事に会話が出来ている。

それで、僕は言いたいことが山ほどあって、恨みもそこそこ溜まっているはずの人物と話をすることにした。


「どうして僕をこっちに連れてきたのか教えて欲しいんだけど...。何度も死にそうな思いをしたし、さ。っていうか、死んだし?それ相応の理由がないと納得できないというか.......」


文句を言ってやるって意気込んでいた割に、強気に出れないのが舜だった。

語尾は消え入ってしまいそうに小さくなっていく。


『あなた、相変わらずジメジメと』


『暗い』から『ジメジメ』になっている...。


『もっと、ハッキリ言ったらいいのにっ!』


どうやら、僕の態度にイライラしているらしい。

よく母親に言われていた。回りくどい言い方するな。男らしくズバッと言え。腹から声を出せ。とか...。そこが女子から持てない理由なのか?気づいた時は遅かった.......。


『あなたが必要だったの...。ようやく、こうして会えたんだし。...もっと早く会えると思っていたんだけれどね...立派な邪魔者がいたし、そこは仕方がないとして...、これからは、もう少し頑張ってくれなきゃ。言い忘れたけど、あなたは死んでないわよ?』


「ええええええっ!生きてるの、僕っ?で、何を頑張るって?意味がわからないんだけど.......」


『元の世界に戻りたかったら、頑張って?』


「そのために女神様目指して旅をしているんだけど、君がその女神様じゃないの?」


『う〜ん...。正解であって不正解でもあるかしら〜』


「えぇー!?どういうこと?」


笑ったような声が響いた。からかわれているのかな?


『あ〜ぁ、もう時間がないみたい』


もっと話したかったのに〜と、口惜しそうな声とともに足音が聞こえてきた。

強引に空間を移動させられる直前、白いドアを開けて入ってきた琥珀色の髪の女性が見えた。ふわふわしたこの髪、見覚えがあったような...。答えが思いつく前に僕の身体は思いっきり回転して遠くへ投げ出された。頭にガツンとくる衝撃といい、僕はデジャヴュを感じていた...。



僕は身体に戻る前に。


『許さねえ...。俺の許可無く会いに行きやがって.......』


恐ろしい言葉を耳にした。

それは、低くてドスの利いた声だった...。

この声は、まさか!?

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