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15  嵐のあと

怪物が咆哮しているのか?

それとも、世界の変化についていけず空間が悲鳴をあげているのか?

轟音に包まれ、『朱』に飲み込まれていく.......。



「終わったの.......?」



突然訪れた静寂にエリカは辺りを見渡した。

...朱い嵐は、終わったのかなぁ?

暗黒ムスカリの大剣にガッチリ守られていたお陰でストックもアザミも無傷だ。強化バージョンの防壁を造り保持、その上、アザミの『癒やし』を施して疲労困憊だ。アザミの負傷が思ったよりも酷かったため、力配分を若干ミスってしまった結果なのだが...。隣で横になっているアザミを見つめる。もう大丈夫、気を失っているだけだ。あと、ストックも。子供にはあの怪物は刺激が強すぎる。大人でさえ充分すぎるほどの刺激があるのだから...。コンちゃんの本体を事前に見ていてよかったよ〜、絶大な恐怖も少しは慣れるものだと、何でも経験しといて損はない!とエリカはしみじみ実感していた。


漆黒の大剣はコンちゃんの姿に戻り、ぴょこぴょこと跳ねるように何処かへ行ってしまった。キュウキの姿は消えていた。あんな大きな怪物が何処に消えたのだろう...。見上げると、桃色の空が広がっていた。強い日差しが差し込んでくる。今まであったはずの天井が跡形もなく消し去られていた。天井だけじゃ、ない。舜を中心にあらゆるものが円形状に消し去られていた。舜は砂の上にうつ伏せで倒れている。それは、無力だ、役立たずだ、が口癖の彼が引き起こしたことだった。それにしても、この力は.......。


残っているのはエリカの周りの床と、ムスカリが佇んでいた玉座の周辺。要の存在しか開けることの出来ない空間まるまる、消滅してしまったのか?今現在、エリカは誰にでも行くことが可能な、ただの砂地にいた。そこに繰り抜かれたような円い床やら玉座とそれに続く一部の灰色の建物が立っている。すごく異様な光景だ。もしかして、下手するとワタシたちも消滅していたんじゃ.......!?言うことを聞いていてよかったかも知れない.......。無視して、暴走しなくてよかった.......。エリカは間違いなく生きているだろう彼女をみようとしてはたと気づく。



「あっ!いけない〜」

ワタシは舜の元に駆け出した。




静寂は束の間だった。

あの人物の登場で思いっきり、破られる。


朱い嵐は消え、元通りの色彩に戻り落ち着きを取り戻した。その矢先だった...。



「なんだっ、こりゃっーーーーーーーーーー!!!」



またまた、朱い。今度は眩しいくらいの光の爆発が起こる。

突風とともに現れたのは、シュンノスケだった。

とても、不機嫌な表情で仁王立ちしていたが.......。


現れ、第一声叫んだ後、バッタリ倒れた。

だって、瀕死だもんね.......。


「大丈夫ぅ.......?」


「...だと思っているのかっ!?本気でっ!?」


眉間にシワが入り、右の頬がピクピクと引き攣っている.......。

整っている顔でそんな表情を作られるとおっかないんですが、かなり...。


「ですよね〜」

ワタシの顔も引き攣ってしまう。


機嫌が物凄く悪い。

そして口数も多い.......。



「戻ってきたら何だこの有り様はっ!?」

「なんなんだ、この仕打はっ?」

「死ぬぞ?いくら俺でも死ぬぞ!!」

「アイツっ!どんだけマヌケなんだっ!?」

「この無様なヤラれっぷりはなんだっ!?」

「それも、仕組んだのかっ!?」

「これが、狙いだったのかっ!?」

「もう、助けないぞ?助けてやらないぞっ!?」


「あ”っーーーーーーーーーーーーー!!!」



一頻り発狂し、どうやら落ち着いたらしい。


「俺の事はいいから、あっちの娘たちの手当を」


細かな切り傷、擦り傷等々はキレイに完治、していた。

瀕死の箇所は取り敢えず死なないくらいには治っている。

す、すごい.......。

あの発狂中に、同時に傷を癒していたのか...。

ほんとに神業だなぁ.......。


酷い傷口はペロペロと舐めている。

みるみるうちに、傷口は消えていく。

なるほどぉ〜。もしかして舐めたらワタシにも出来るのかっ!?あの高度な技がっ!?途端、シュンノスケは呆れた表情を向けてきた。


「お前には無理だっ!俺様だから出来るんだっ!」


「そっかぁ。出来たらよかったのになぁ〜.......」


今、心を読んだよねっ!?

ストックが言ってたっけぇ?

シュンノスケが心を読むって...。

なるほど、ね。ワタシの、あの時のあんな動揺とかこんな感情とか、諸々分かっているのか、コイツは...。質が悪いなぁ〜。...うん、大丈夫。今は落ち着いている。心拍数だって正常だ。誰かの激情に飲み込まれるのは、もう遠慮したいものだ。シュンノスケに会う度に、心が、自分のものか、誰かのものになっていないか、確認するようになってしまっていたエリカだった。


手で翳す方法でしか『癒やし』を施せないワタシに対して、シュンノスケは翳すこと無くだったり、舐めたりして傷を癒やせる。格が違うな〜、悔しいけどっ。舐める、といえば。そういえば、ワタシの頬を舐めたのって...、初めてシュンノスケに会った時のことを思い出す。弓矢で負傷したと思っていた傷が無かったんだよなぁ。気のせいだろうと思ってそんなに気にも留めていなかったけど、きっと彼が治してくれていたんだろう。言ってくれればよかったのに...。そしたらワタシの対応だって変わってきたはず、...だよね?シュンノスケをまじまじ見る。無意識に左の頬を擦っていた。そんな恩人の鳩尾に拳を入れようとしたのか、ワタシってば.......。


「あははははは.......」


もう、笑うしかなかった。


「不気味な笑いはいいから。早く行って来い!」


埃でも叩くかのような手の動き付きで、シュンノスケが口を開いた。

さすがに瀕死状態。シュンノスケは未だに刳れている傷口と格闘しているようだった。肩は舐めれるけどお腹は届かないもんね。それなりに時間が掛かってしまうのかも知れない。


「あっ、あのっ。あの時、傷を治してくれてありがとう...」


何時のことか分かるかな?って心配は無用だった。流石は心を読む天才。瞬時に、状況を察したらしい。


「...ああ。どれだけ前のことだよっ!?」


突っ込みが返ってきた。

不機嫌でいっぱいだった顔から照れたような笑顔が現れる。

この人の笑顔って...。思わず絶句してしまう。

乱暴な言葉遣いに、整いすぎる顔立ちのせいか近寄りがたい雰囲気全開の彼が、まさか、するわけがない!という人好きのする表情を向けてきたのだ。その意外性に胸がキュンとした、気がした。そして、迂闊にも(!?)ワタシの顔は見る見る朱に染まっていく。...この人、危険だわっ!本能で察し、大人しく「娘たち」の元に走りだした。



二十段、在るのか無いかの黒い絨毯が敷いてある階段を駆け上がる。と、信じられないくらい大きくて豪華な椅子が見えてきた。え、ぇっ!?目を覆いたくなるほどの悲惨な情景が広がる。ここで、何があったのだろうか?辺り一面がどす黒くて、真っ赤な色に染まっていた.......。よく見ると何か小さな塊が幾つか転がっている。まぁ、想像はついちゃうけど、確かアザミが言ってたっけ、キュウキは人を食べるとか.......。エリカは手を合わせた。


「娘たち」はすぐに発見できた、だけどムスカリの姿が見えない。ここで黒い煙を出していたと思ったんだけどなぁ〜。何処に行ってしまったのかなぁ?玉座の後方に固まっている「娘たち」の方へと視線を戻す。仰向けで寝ている短い髪の女性を他の三人が取り囲むように座っていた。


「あの〜、大丈夫ですかぁ?もし手伝うことがあれば...」


やりましょうか?、と言いかけて、同業者を発見した。腹部にぽっかりと穴が三箇所ほど開いている。これは、また...酷い傷を........。


「一人よりも、二人ですよね〜?」


頼まれていないけど勝手に『癒やし』を施し始める。負傷している女性の周りにいる三人が驚いた表情でワタシを見上げた。言いたいことは承知してますとも、そんな能力の持ち主に見えないってことだよねぇ。どこにでも居るような至って普通な人間には不釣り合いだって。舜が聞けば、「普通、なのっ!?」と聞き返し、ストックならば、「その破天荒な性格のどこが.......」と呆れるだろうが、エリカは真剣に思っていた。


ほんとに、酷い.......。

エリカはパワー全開で癒やすことに決めた。

それほどまでに倒れている人は危険な状態だった。持ち堪えているのが信じられないくらいのものだった。ゆっくりと瞳を閉じて、光の精霊を呼び掛ける。そうして力を借りる。掌が暖かい光に包まれていく。輝く光に強さが増していく。


「ムスカリ〜。これやっちゃうと倒れちゃうからぁ〜、介抱よろしくねぇっ?」


「ええ」


暗黒モードじゃないムスカリの口調だ。実は暗黒ムスカリは怖くて苦手だったりするのだ...、よかったぁ。返事があってよかった...、居てよかった...。虚しい独り言にならなくて本当によかった...。流石に、初対面の人に面倒を掛けるのはちょっとねぇ...。


息を飲む三人組の視線を思いっきり浴びているようだ。

こう見えても癒やしの使い手の中でも稀な光の精霊と契約をしているんです。


大切な人を救えなくてなにが『癒しの使い手』だっ!自分の無力さに自暴自棄になっていたワタシは光の精霊のことを知り、おじいちゃんの静止を振り切って跳びだして行った。山に登ったり、谷に落ちそうになったり、川に流されそうになったり、魔物に襲われたり、大変だったなぁ...。あの時のワタシには、すべてを犠牲にしてでも光の精霊との契約する必要があった。急いで家に帰り着いた時には既に手遅れで、助けたい人は息を引き取っていた。せめてもの救いはワタシが外見だけでもキレイにしてあげれたこと。見た目は傷一つ無い肌に見せかけることが出来たことだった。あの時は守れなかったけど、これからは誰一人として死なせたりはしない。今はこの髪の短い女性のことを考えよう。エリカは意識を手元へと集中していった。

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