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14  覚醒

後方でカラカラと小石が落ちる音がした。次に舜と思われる低い喚き声が響いた。その後には、ドスンっ!と大きな音が響く。


もしかして舜が落ちたのかしらぁ?


エリカは下を覗き込む。暗くてよく見えない...。

先ほどまですぐ下を登っていたはずのアザミの姿がない。


「ねぇ〜、大丈夫ぅ...?」



返事がない...。

前を進むストックと目が合う。

「舜が落ちたのかな?落ちるとしたら舜しかいないもんね」

そうかもしれないけれど、ヒドイなぁ...。思わず苦笑する。

年下の子にここまで言わせるのはある意味すごいな...。


綱を登るのを中断し、岩壁の凹凸に足を置き、目を凝らして下を覗き込む。

やっぱり、見えない。

やっぱり、見に行くしかないかぁ。

ストックにはそのまま登るように言い聞かせ、今まで登ってきた綱を降りかけると声が降ってきた。


「...ここにはもう居ないようですね。先を急ぎましょう」


先頭を進んでいたムスカリだ。

ムスカリの谷間で居心地がとっても良さそうなコンちゃんも同意見なのか『ムームー!』とワタシに言っている。先を急ぐって...。舜にサマを付けて慕っている人が普通見捨てる〜?ムスカリの顔を見ると、無表情。やっぱり何を考えているのか読めない...。


「そ、そうなのぉ?...まぁ、確かに人の気配はしないけれど〜」


ムスカリが言うなら、従っておこう。『ムスカリに付いて行けば間違いなし!』エリカは暗黙の了解の言葉を心のなかで呟いた。


「じゃあ、現地集合ってことよねっ?」


確認すると、ムスカリが頷きコンちゃんは「ムー!」と鳴いた。薄っすらと見えていた明かりが、どんどん直視できないほどに眩しさを増していく。目の前には砂漠地帯とは思えないほどの花畑が広がっていた。咲き誇る花の種類は違えども、アルス村を思い出す。

おじいちゃんは元気にしているかなぁ...。


「おいって!聞いてんのかよっ!?エリカー!」


腕をぐいっと引っ張られる。

いつの間にか、可愛い可愛い健気な子供から生意気でやたらしっかりしているガキに豹変してしまったストックを見て首を傾げた。冷ややかな視線を投げ、腕を組んでいる。指をさす先には、ムスカリが居た。かなり距離が離れている。樹木が多く生い茂っている森の中へ消えていったところだった。


「置いてかれてんの!分かるっ!?」

「あっ、ああ、ごめんっ...」


「花に見とれている場合じゃないっての!それとも花と話でもしていたのかよっ!?」

「まぁ、日常会話くらいならぁ?」

「はぁっ!?」


あらら〜、その眼は信じてないな...。

機嫌の悪いストックの後を黙って付いて行くことにした。

ほんとなのになぁ...。


樹木の先に、灰色の大きな建物があった。獣人がよく好んで掲げている旗が見える。獣人のくせに、随分好立地な場所に随分立派な建物を.......。思わず口をポカーンと開けて見上げていたら、ストックが呆れ顔で見ていた。命の恩人なのに、この扱いは...。



何故か先を急いでいるムスカリは、巨大な岩で出来た信じられないくらい大きな門をどうやったのかいつの間にか全開に開けてスタスタ歩いていた。


「歩くの早いよぉ〜、もう少しゆっくり、、、」

言葉が消えた。門の周りにはたくさんの獣人が息絶えて転がっている。首もあちこちに転がっている。その獣人の息絶える際の形相を見てしまった...。大きな黒目がちの眼がこちらを見てる!?ちょっと、今日は安眠出来そうにない。


「いつの間に...」


ワタシの呟きに、ストックは無言で頷く。

そして、置いて行かれないように駆け出していった。



「ねねっ!なにか知っているでしょうっ?今、何が起きているのぉ〜?」


やっと追いつきムスカリの前に立ちはだかる。

聞き出すまでは、絶対に動かないぞっ!決意を固めた。


「うわわぁっ!」


よろめき、地面にしゃがみ込む。

決意が、音をたてて崩れていった...。



ゴゴゴゴゴゴゴゴッ.......。

地面が激しく揺れ、地響きがした。

さっき通ったばかりの巨大な門がけたたましい音とともに倒壊していた。


「.......」

「.......」


ワタシとストックは見つめ合い頷く。

ムスカリに何が何でも付いていこうっ!今度は改心した。

右腕にしがみつく。

左腕はストックががっちりと腕を抱きしめている。思いは同じようだ。


「封印が解けたようですね。急ぎましょうか」



三人で腕を組んだまま横になって歩き出した。

マヌケに見えるだろうが、この際どうだっていい。命は大切!ってことでっ。


今度は、どこからか若い女性の悲鳴が...。

もう、どうなっているんだか.......。

嫌な予感が、胸騒ぎやらでワタシはムスカリを掴む手に力を込めた。


ムスカリが歩みを止めた。

どうやら敵の本拠地にこれから侵入していくらしい。

それも正々堂々、正面から、だ。ムスカリを握る手にもっと力が入る。


「あの、動けないんですが.......」


「そ、そうだよねぇ〜、ごめんねぇ...」

「あはは...」


慌ててムスカリから離れるワタシとストック。

ムスカリはコンちゃんを胸元から取り出し、ブツブツ何かを唱えた後コンちゃんを一振りする。正確には大剣に形を変えたコンちゃんを、だが。コンちゃんは禍々しい黒く畝るような光を発している。刹那、そびえ立っていた頑丈そうな扉が黒い煙に包まれて消失した。


「このまま、行くぞ?」


不敵な笑みを湛え、ワタシ達を振り返ったムスカリは豹変していた。何だろう、あの黒いオーラは.......。性格は勿論、言葉使い、立ち振舞まで変わっている。人格が入れ替わったみたいだ。豹変したムスカリは付いて来い!と言わんばかりに大剣を片手にガンガン進んでいく。


「あのムスカリは、まさか...?」

「だな...。暗黒ムスカリだ」

「暗黒って...」


言えてるかもぉ?とか思いつつストックと大人しく暗黒ムスカリに付いて行くことにした。手には短剣を持ち、戦闘に備える。


だけど、必要は無いようだった.......。

暗黒ムスカリの通った後には無残な残骸が広がっていた。

敵とはいえ、同情してしまいそうになるほどに容赦無い有り様だった。


念には念を入れて、防壁を作っていたけど必要無かったかな...。

独りごちていたら、カツンと何処からか放たれた弓が防壁に当たって落ちた。おおっ!役に立ったぁ〜!とか喜んでいたら、何処かに居るであろう敵は黒い靄に取り込まれて瞬殺された。


「ひぃぃっ!」

後退ったストックをワタシは受け止めた。後方全域にかけて、焼け野原のようになっている.......。駄目よっ、後ろを見てはっ!ストックの方を抱きワタシは前だけを向いて歩き出した。そんなワタシ達に暗黒ムスカリは親指で大きな箱みたいな塊を指し示す。


「これは何するもの?」


コンコンと叩きながらストックは暗黒ムスカリに話しかけている。

勇気がある子だな...、ちょっと感心してしまう。


「ああ、これは移動装置ってやつ、だな」


四角い箱の上に乗るように促される。

何の変哲もないただの、白い四角い箱だ...。これが、装置?隅に階段が三段程設けられているが、余裕で使わずに登れる高さだった。獣人ってそんなに短足だっけ〜?近くで転がっている獣人を見た。これは、必要だぁ...。ちょっとだけ、ほんのちょっとだけだが獣人に対して親しみが湧いた。暗黒ムスカリは最後に箱に登り、前方に手を翳した。何処かの地図みたいな紋章が浮かび上がり、見たこともない光る文字が並び始めた。器用にその文字を移動させ選んでは、文字が代わり、また選んで、という動作を何度か繰り返している。ストックは興味深げに覗き込み感嘆の声を上げたり、驚いていたりしている。その辺は、子供だなっ!


「行くぞ?」


低い声が響く。前方に合ったはずの紋章が淡い光を発し、箱の上に、ワタシたちの足元に移動してくる。


「えっ?」

「うわぁっ!!」


驚き騒ぎだし、足を上げたワタシ達に。


「動くな!迷子になりたいのか!?身体半分無くなっても責任は取らんぞ?」


腹黒ムスカリは、思いっきり不機嫌そうに睨みつけた。


「ごめんなさい.......」

「ヤダ.......」


暗黒ムスカリの方が、数倍、いや数万倍怖いので、直立不動の姿勢を取る。

足元にあった紋章はゆっくりと上昇し頭上に着いたところで装置が作動したらしかった。身体がふわりと浮かび背筋がゾゾゾっとする。紋章は消え、辺りを見渡したが移動したとは思えなかった。


「あらぁ?同じ場所〜?」


ワタシの質問には誰も答えてくれない。代わりに呆れ顔のストックが前方を指差しお手上げのポーズを取った。全く、小生意気なっ!見るとそこには、豪華な装飾の施された扉があった。さっきの場所には無かった、かな?両手剣を肩に担ぎ、暗黒ムスカリはスタスタとその豪華な扉へと歩いていく。


着いたってことか.......。

気を引き締め、暗黒ムスカリの横に並んだ。

待っていたかのように、ゆっくりと扉が音もなく開いていった.......。




そこは、すごく広いだけの何もない部屋だった。

中央付近にキュウキっぽいのが居る。覚悟はしていたけれど恐怖で息が詰まりそうになる。黒い翼を広げ、血まみれの口元を歪め笑っているようにも見える。それに対峙している影がふたつ。両膝をついているアザミに、真横で倒れているのは...?舜、だった.......。ふたりともボロボロになっている、舜なんか特に。シュンノスケは出てきてくれなかったのかぁ。もしかしたら扉の向こうでは全て解決していて、いつもの様にシュンノスケが偉そうな態度でふんぞり返って居るんじゃないかって思ってたりもしていたのに。考えが甘すぎた...。この状況は、かなり危険だ......。心臓の鼓動が激しさを増していく。逸る気持ちを抑えられずふたりの元へ駆け出そうとして暗黒ムスカリの腕に止められた。


「なっ!なんでよぉっー!!!」


大剣を勢いよく地面に突き刺す。黒い光が出現し、半月形を描く。


「ここに、居ろ!!」


暗黒ムスカリが言い放つ。


「ストックとアザミを頼む、ここから出るなよ?あと、可能であれば防壁を作っておいたほうがいい、強力な方のヤツを」


言い捨て、暗黒ムスカリは何処かへ行ってしまった。


「どう...しろと、いうの、よ......」


状況が把握できていない分、暗黒ムスカリに言いたいことは山ほどあったが、ここは自分が引くしかなさそうだ。


「言うことを聞くしかないのよねぇ、やっぱり...」


漆黒の剥き出しになっている刀身を見る。幾つもの渦のような波紋が神秘的な風情を醸し出している。あんなに獣人を薙ぎ倒してきたのに汚れひとつ無い。怖いけど綺麗な...。おっと、見惚れている場合じゃなかった!その場で立ち尽くしてるストックを黒い光の中へ突っ込み座らせる。いつの間にか隣に居るアザミの癒やしに取りかかる。そして、防壁の強化バージョンを張り巡らせる。準備オッケ〜!そして、舜を助けていると思っていた暗黒ムスカリの姿が舜の近くになかった。ウソっ!?どういうこと〜??一段高くなっている台の上で何やら、黒いモクモクを出している。何してんの、よ、あの人.......。サマ付けてるでしょ?大切なんじゃないのっ!?あの様子じゃあ、死んじゃうかもよ!?見捨てちゃうのっ!?訳が分からず、混乱状態に陥りそうになっていた時、だった。


人影がゆらりと動いた。起き上がろうとしているようにも見える。舜だ。かなりの数の攻撃を食らったんだろう、無数の赤い線が身体にある。中でも右の肩から斜めに裂けた傷口が酷い、傷口が開き刳れている。再び鮮血が溢れ出す。もう瀕死状態だってのに〜。これ以上、動いたら.......。動かないでぇっーーーー!!言うはずの声は掻き消された。



「うわぁあああああああああああああああああーーーーー!!!!!」



地面に両手を付きペタリと座り込んだままの姿勢で上を見上げている舜の声が広大な部屋中に響き渡った。



「!!」



それは、朱。

朱の塗料を誰かが至る所に塗りつぶしたような、朱の世界が広がる。

次に、嵐。

朱の色が渦巻きすべてを消し去るかのようにうごめいている。

そして、崩壊が始まった。

すべてのものを無に返す。

次々に飲み込まれていく.......。



「これは...。何が、おきているのぉ.......?」


そして、静寂が訪れた.......。

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